ヤママユガ科 (
Saturniidae) に属するテン蚕 (
Antheraea yamamai), シナサク蚕 (
Antheraea pernyi), インドサク蚕 (
Antheraea mylitta), ムガ蚕 (
Antheraea assama) およびエリ蚕 (
Philosamia cynthia ricini) の繭層セリシンを熱水抽出してアミノ酸分析を行ない, そのアミノ酸組成を家蚕 (
Bombyx mori) のそれと比較するとともに, 野蚕繭層セリシンの熱水やアルカリに対する難溶性の原因についても考察した。その結果は, 次のように要約することができる。
1. Antheraea に属するテン蚕, シナサク蚕, インドサク蚕, ムガ蚕のセリシンにはアミノ酸組成に共通の点が多く, 家蚕セリシンに比べてGly, Pro, Thr, Tyr, Glu, Arg, Hisは多いがAla, Val, Ser, Lysは少ないことが指摘された。
2.
Philosamia に属するエリ蚕のセリシンには, 家蚕セリシンに比べてPro, Glu, Arg, His, Lysが多くVal, Serが少ない特徴はみられたが, 全体を通じて
Antheraea 4種野蚕のセリシンよりも家蚕セリシンに近い点が多かった。
3. 生物学的種属を異にする蚕のセリシンには極性側鎖をもつアミノ酸群に若干の相違があり, 野蚕セリシンにはオキシアミノ酸群が少なく酸性, 塩基性アミノ酸群が多い特徴が認められるがその差は僅少で, 主要な構成アミノ酸はいずれもGly, Ser, Thr, Aspでアミノ酸パターンに著しい相違はないとみられた。
4. したがって, セリシンのアミノ酸組成には蚕の生物学的種属により化学構造, 高次構造を特徴づけるような著しい特異性はなく, 溶解性を支配する大きな要因とは考えられなかった。
5. 野蚕繭層セリシンが家蚕繭層セリシンに比べて熱水やアルカリに溶解し難い原因は, 繭糸ロウ, 無機成分, タンニンなどの二次的成分の存在および繭層構造の相違によるところが大きいと考察された。
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