生命現象は,物質・エネルギー・情報の流れを伴った開放系における,一種の散逸構造として理解される.しかし同時に忘れてはならないことは,現存する生物システムが生命の誕生以来数十億年におよぶ進化過程を経た歴史的産物である,という事実である.どんなに些細に見える生命現象であっても,その生物的意味を十分に吟味することが必要である.この点が,これまでの物理学・化学・工学等において行なわれてきた無生物システムにおける散逸構造の研究との大きな違いである.本稿の目的は,機械的に屈曲運動する真核生物の鞭毛・繊毛を,「機械」としてではなく「生き物」として捉えてモデル化することである.そのために特定の現象にだけ着目して,それを定量的に再現するモデルを模索することは行なわない.むしろ,様々な現象に秘められた真理をモデルの構築を通して追求し,その生物的意味づけを行なうことが狙いである.
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