1) 越年卵を産むように催青された蚕の雄または不越年卵を産む多化蚕の雄に卵巣を移植して, 被植蚕の雄蛾体内に発育した卵の越年, 不越年性をEHRLICHの Diazo 反応によつて調査した結果, 移植された卵巣からはそれぞれ越年性卵または不越年性卵が生産された。したがつて雄も雌と同樣に化性を決定する能力があることを実証した。
2) 前胸腺の前枝を含んだ前胸腺幹部の上半部も, 後枝を含んだ前胸腺幹部の下半部もともに羽化ホルモンを産出する。蛹体前部を除去した遊離腹部内に移植されている前胸腺の作用だけで発育した卵は, 受精すれば発生できる完全卵である。したがつて遊離腹部内で移植された前胸腺及び種々の器官の作用をうけて発育した卵の越年, 不越年性をEHRLICHの Diazo 反応によつて調査しても差支えないことが判つた。
3) 不越年卵を産む蚕を前蛹期に断頭すれば, 化性変化が起り越年卵が産下される場合がある。第2報の越年卵を産む蛹を化蛹直後に断頭すれば化性変化が起ることと相俟つて, 化性を支配する器官は頭部あるいはその附近に存在することがさらに明らかになつた。
4) 催青條件の如何にかかわらず抑制質または不活性な化性決定素, あるいはその前駆体ともいうべきものが蚕体内に生産されていると推論した。
5) 遊離腹部を用いて化性決定器官を調べた結果, 前胸腺, 脳, 咽喉側腺, 唾腺, 食道下腺は化性決定には与らない。越年卵を産む蛹の遊離腹部を用いた場合には越年性傾向のある卵が発現する場合がある。これは卵の越年性を決定する物質が化蛹の始めから分泌されるのでないかと思われる。
6) 越年卵を産む蚕の喉下神経球, 第1胸節神経球及び前胸腺とを移植すると, 多くの遊離腹部内に発育した卵は越年性傾向となるが, 前胸腺に分布する神経纎維をなるべくつけて前胸腺を移植しても, あるいはまた喉下神経球を除いて第1胸節神経球と前胸腺とを移植しても化性変化は認められなかつた。したがつて遊離腹部内で発育する卵の越年性決定には喉下神経球. が決定的な作用をもつている。
7) 越年卵を産む蚕の喉下神経球, 第1胸節神経球及び前胸腺を不越年卵を産む蚕に移植してそのまま放置して産卵させた結果, 多くの個性に化性変化が起つて多数の越年卵が産下された。
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