家蚕幼虫の2種多角体病の組織学的研究, 特に多角体形成過程と核酸との関係について組織化学的研究を行い, 次の事実を明らかにした。
1. 体腔型多角体病蚕では, すでに報告されている組織細胞以外に, 幼虫のエノサイト, 筋肉, 中腸基底膜及び中腸細胞等の核もウイルスに侵され, 多角体が形成される場合がある。
2. 中腸型多角体は初め円筒細胞の核周辺細胞質及び先端側細胞質内の一局部に球状の初期多角体の集塊となつて現われ, 細胞質の fibril pattern に沿う如く線状に列び, 先端側細胞質より漸次基底側へと増殖発達するが, 稀に基底側細胞質より形成されることもある。
3. 中腸型多角体は稀に盃状細胞の細胞質にも形成される。
4. 再生細胞から新に発達した中腸の円筒細胞の細胞質に多角体の初期形成が認められた。
5. 1令幼虫の中腸皮膜細胞で核型と細胞質型との混合感染の状態を見た。
6. 中腸型ウイルスの感染により, 中腸の円筒細胞は一時異常な活性を呈し, 初期には核に病変が見られず, 細胞質中に多角体が見られるようになる時期でも, 核はかなりの活性を示す。しかしウイルス感染により本来の中腸機能は漸次失われてゆくと考えられる。
7. 体腔型多角体はフォイルゲン陽性であり, 中腸型多角体は陰性である。
8. 多角体の染色法についてオレンジG-アニリン青染色法を考案し, 中腸型多角体と体腔型多角体の染色性の差異を明らかにした。
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