自然の光条件下で蛹を保護したカイコ無交尾蛾を供試し, 数種の人為的光条件を設定し, その産卵行動の周期性を7~8日間にわたり, 連続的に追跡した。
1.
LD 12: 12と
DL, 12: 12の明暗サイクル下では産卵は明から暗への切替えの数時間前から始まり, 暗から明への切替えと共に終わる周期性を示した。しかも, その産卵には2つのピークがあり, 第1は明から暗への切替時刻に, 第2は暗期の中央ないし暗から明への切替数時間前に見られた。
羽化以前に経験した明暗サイクルの位相を逆転させた
DL 12: 12の条件下では, 産卵リズムの位相の変化が起った。
2.
DDの下では, 羽化以前に経験していた明暗サイクルの暗期に相当する時間帯に集中する産卵周期を5~6日間持続し, 以後は周期性が崩れる傾向を示した。
3.
LLの下では, ほとんど周期的な産卵が認あられなかった。
4.
LD 6: 6では設定した明暗サイクルの暗期に集中した産卵リズムが5~6日間維持され, 以後は周期性が崩れた。
5.
LD 24: 24では, 羽化以前に経験した明暗サイクルと, 羽化後に新しく与えた明暗サイクルの両者に関連した産卵リズムが認められた。
6. 用いた6実験区の産卵率を比較すると,
LD 12: 12,
LD 6: 6,
LD 24: 24のグループが90~100%,
DL 12: 12と
DDが50%台,
LLが20%台であった。
7. 連続的光条件である
LLと
DDを除く4実験区における明期と暗期別の産卵数を統計的に比較すると,
LD 24: 24以外の区では, 明期間中より暗期間中の方が産卵数が多く, その差は有意であった。
以上の結果から, 無交尾蛾の産卵行動は外界の明暗サイクルを同調因子とする体内時計の支配下で日周リズムを示すことが明らかとなった。この体内時計は新たな明暗サイクルを少なくも1回経験すればリセットでき, 位相が決定されると同調因子を除去しても少なくも5~6日間はそのリズムを維持できるものと推定された。
抄録全体を表示