Trifolium属の種における再分化系を確立するため,65種の保存系統についてカルス培養を行い,植物体再分化能を検討した。供試したTrifolium属の種はその大半をアメリカ農務省から導入したものである。これらの種子を滅菌した後,0.8%寒天上に播種し,発芽後5日目の実生を双葉,胚軸及び根の各部分に切取り,B5を基本培地とする0.8%寒天培地上に置床し培養を行った。カルス誘導培地として,3%しょ糖,0.2%カゼイン加水分解物,3mg/12,4-D,0.5mg/1カイネチンを加えた培地を用いた。2%しょ糖,0.2%カゼイン加水分解物,0.5mg/12,4-D,0.5mg/1カイネチンを含む培地で3週間間隔で2度の継代培養後,再分化培地にカルスを置床した。再分化培地は2%しょ糖,0.2%カゼイン加水分解物,O.2mg/1IAA,2mg/12ipを加えたものである。形成された胚様体をWhiteの培地に置床し植物体に育成した。なお,培養はすべて25℃,14/10時間(明/暗)の条件下で行った。2度の継代培養後にそれぞれの種におけるカルスの形状,生育速度を調査した。種間でカルスの形状,生育速度に変異がみられた。外植片による違いは小さかった。植物体の生育速度の速い種はそうでない種に比べ,また,一年生の種は多年生のものに比べ,概してカルスの生育速度が大きい傾向が認められた。再分化培地に置床1ヵ月後に,カルスの反応を調査した。一部の種でカルスに緑色斑点,胚様体が観察された。胚様体をWhiteの培地へ移したが,その一部は途中で枯死し,植物体に再分化したのは,65種のうち10種である。そのなかで,T.alpestre,T.amabile,T.apertum,T.cacucasicum,T.cherleri,T.heldreichianum及びT.montanumの7種においては,カルスから植物体再分化の最初の報告である。これらの種における再分化は不定胚形成経由と考えられたが,組織学的に,さらに検討する必要がある。本研究では,多くのマメ科植物で植物体再分化に成功している0.2mg/11AAと2mg/12ipのホルモン組合せを使用したが,これまで再分化の報告がない数種で再分化に成功したことから,この植物ホルモンの組合せはマメ科植物に有効であると考えられた。今後残りの再分化できなかった種について再分化させるには,各種毎に供試系統・個体数を増やし再分化能を有する遺伝子型のスクリーニングを行うとともに他の植物ホルモンの組合せ及び濃度などについて検討することが必要である。
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