植物群落の環境要因に対する生理的反応を知るために北海道十勝国河東郡上士幌町字ナイタイのクマイザサ型草地における生産構造の季節的変化および土壌条件による推移を調査した。この結果は以下のとうりである。1.植物群落における葉面積は各葉の生長並びに全葉の生長にしたがい複合的に生長増大する。一方植物群落のなかでは,植被層内の照度はおもに葉の相互遮蔽によって弱められているので葉面積生長がその最大生長率を示す時期における垂直的最大累積面積層による光の減衰は[numerical formula]によって表わされる。ここでIは最大生長率を示す時点における垂直的最大累積葉面層に透過される光の強さ,I_0は入射光の強さ,Kは吸光係数,Fは最大生長率を示す時点における垂直的最大累積葉面積指数,Lは最大生長葉面積指数である。上記の理論のもとにクマイザサ型草地を対象として調査した結果,最大生長率を示す時点における垂直的最大累積面積層の相対照度は45.4〜24.9%あり,したがって,葉の光吸収範囲は54.6〜75.1%と推定される。この群落がその物質生産を維持するには最低55%の相対照度が必要であると考えられる。3.毛根の生産量と各土壌層の置換性水素,置換性塩基,塩基置換能,塩基飽和度,pH,N,P,K,Ca,Mg,Na,Fe,Mn,Zn,Cu,Co並びにNiを分析しそれらと毛根の生産量との関係を検討した結果大部分のN,P,K,CaおよびMgはほぼL,F,HおよびA_0層から分解によって還元され,植物に利用されるが,徴量元素の場合には表層および深層土壌両方から吸収されることが推定される。いずれも毛根の動きは肥沃度の高い表層に向かって発達することが認められた。4.葉については粗蛋白質,粗脂肪,粗灰分,N,P,Ca,Mgが多く含有され,その中で粗蛋白質,Nは生育期間を通じて次第に減少する傾向がある。しかし粗繊維,可溶無窒素化合物,Kは茎の方が多く含有され,成熟により粗繊維,Kは増加する。毛根では粗脂肪をのぞいて葉とほぼ同じ傾向にある。地下茎では粗繊維,可溶無窒素化合物がより多く含有されているが,時聞経過に伴って粗繊維が一時増加するが9月初旬から減少し,可溶無窒素化合物は増加する傾向で茎とは逆である。Na,Fe,Mn,Zn,Cu,Co,Niは毛根の方が他の器官より極めて多く含有され,また,その変動もやや大きい。5.層別刈取り法をもちいて,クマイザサの現存量を季節的に測定した結果,年生産量(最大現存量)はそれぞれ地上部では9月に,2895.29/m^2,地下部では10月に3711.39/m^2,両者を含めた全生産量では9月に6363.9g/m^2であった。また生産構造を検討すると地上部では葉の生産量と光の透過量の間に極めて密接な関係があり,地下部では無機養分の含有量と毛根の生産量の間には平行関係が明らかで,養分がより多い部分に高い毛根の生産収量が認められた。いずれにしても,生産量は季節的および層を異にするに従い明らかに異なっている。
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