中国内蒙古, 赤峰市鳥蘭敖都村のカルチン沙地において, 沙漠化した土地を保護, 保全した場合の回復過程における植物群落の発達と土壌肥沃度の向上との関係を明かにするため, 移動砂丘および緩平沙地において植生と土壌との調査を行った。移動沙丘を草方格法でCaragana microphylla(アオムレスズメ)の播種と禁牧を実施してから14年, 17年, 19年後および無処理の場合の植生, 土壌を比較した。保護の年数が長いほどアオムレスズメが大きくなり, 下草群落が若干であるが発達していた。また,0-1cmの表層土壌の有機物が増加し, 可給態のN, P, Kが多くなっていた。しかし, 植生の発達, 12cm以下の下層土の肥沃度の向上は緩慢で, 19年を経過してもまだ不安定な状態にあると考えられた。半乾燥地帯では草地としての利用が安全で, 耕地とするのは沙漠化を来すので危険とされている。14年間耕作-1年間軽放牧区(A), 5年間耕作-10年間軽放牧区(B)および無耕作-15年間軽放牧区(C)の3区の植生, 土壌を比較した。優占種はA区は一年生植物, B区は根茎植物, C区は株型植物で, 被度, 草高からも植生の状態はC>B>Aの順で, 多年放牧利用を継続したC区が最も優れていた。長期間耕作のA区は土壌の有機質, 可給態のN, Kが少なく, 瘠薄であるのに対し, 10年間の保全的な放牧利用のB区は表層に有機質, 無機養分が多く蓄積していた。植生, 土壌とも良好な状態になっていた。しかし, 多年軽放牧利用の草地には及ばない。これらの結果から, 退化草地の回復過程において植生が発達した草地は土壌の肥沃度が高く, 植生と土壌とは一つの生態系として相伴って発達していること, 沙漢化した草地の遷移の進行は遅く, 特に沙丘は生態系の回復に長年月を要するので, 退化の軽い段階に対策を実施することの重要性などを考察した。
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