前報の続篇として,39の地方集団に属する約290の栄養系から,一定の條件下で採種したシバ種子について,発芽性の変異を調査した。発芽反応の潜在変異を顕在化させるため,予備実験の結果に基づき,あえて不完全な前処理(NaOH単用)と,適温よりやや低い温度(30℃)を発芽條件として採用した。結果の表示にはCZABATORの発芽価(Germination value, GV)を用いた。それぞれ前年度産の種子を用いて行った2実験から,発芽価には供試集団間にも,集団内(栄養系間)にも有意な差の存在が認められた。分散分析からの示唆に基づいて,39の供試集団をQ,BおよびCの3群に分類した。A群(8集団)は平均発芽価が71.3で易発芽,B群(19集団)は17.8で中間,そしてC群(12集団)は2.2で難発芽群として特徴づけられた。これらの群を構成する地方集団は,その分布地域がそれぞれ南部,中部及び北部日本にほぼ対応したことから,この植物の種子の発芽性には,概略的にみて,生態勾配的は変異パターンが存在するものと考えられた。しかし細部についてみた場合には,集団内の変異も含め,集団の原産地とそれらの集団に由来する種子の発芽性との関係は単純ではなかった。年次の異なる2実験間にr=0.83の高い相関が見られた。このことは,この植物の種子の発芽性がかなりの程度まで遺伝的支配下にあることを示唆するものと考えられた。一方,稔実生産数と発芽率との間には,r=-0.50の有意な負の相関がみられた。この相関の意義について,生態学的ならびに農学的見地から考察した。
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