遺伝的な変異を除き均一な材料によって信頼性の高いデータをえるために,オーチャードグラスの1栄養系を増殖しておき,これを前年秋に移植して草地を作った。このような草地で栽植密度,窒素施肥量および刈取り回数がその密度に及ぼす影響ならびにこれと収量との関係を試験した。栽植密度は,密植区400個体/m^2,粗植区100個体/m^2の2区,窒素施用量は多窒素区(HN:40kgN/10a),標準窒素区(MN:20kgN/10a),少窒素区(LN:10kgN/10a)の3区,刈取り回数は出穂始めに一番草を刈る4回刈り区と,成熟期に一番草を刈る3回刈り区の2区である。個体ごとに草丈,分けつ数の消長を1〜2週間おきに調査するとともに,刈取りごとの乾物収量,その窒素および炭水化物成分の化学分析を行なった。1.多窒素ほど草丈,草高ともに高かったが,高温乾燥時期の刈取り後には多窒素区は伸長がにぶった。また密植多窒素区では出穂開始ごろから伸長がにぶり,成熟期の草丈は最低であった(Fig.1)。個体重は常に粗植区が大きいが,処理の如何をとわず多窒素ほど大きかった(Fig.2)。2.年間の個体の枯死率は窒素の施用量が多いほど,個体密度の高い場合,1番草の刈取り時期が遅れた場合(3回刈り区)にそれぞれの対応区より多くなった(Fig.3)。3.5月の出穂始めにおける,葉身の窒素濃度は7月,9月の刈取り時より目立って高く,葉身および刈り株の窒素濃度は多窒素ほど高かった。刈り株のfructosan濃度は逆に5月に低く,7月,9月に高く,また多窒素区ほど低い。可溶性糖においても同様の傾向はあったが区間の差は小さい(Figs.13,14)。4.個体あたりの分けつ発生数は春の穂孕期前,開花期以降夏の高温時期まで,および9月以降の低温短日期の3時期に急速に増加した。一方分けつの枯死が著しい時期は出穂始期ごろから開花盛期にかけてと,刈取り後に高温・乾燥に遭遇した時期の二つであり(Fig.4),前者の場合は4月から5月にかけて発生した若い分けつが過繁茂の遮蔽下に枯死するのである(Table 1)。年間を通じて個体あたりの発生および枯死分けつの総本数は粗植区が密植区より多かった。発生数は密植区では3回刈りが4回刈りより,粗植区では逆に4回刈りの方が多い傾向があった(Table2)。一般には多窒素ほど分けつ発生数は多いが粗植3回刈り区では多窒素区はむしろ標準窒素区より少なかった。一方枯死茎も多窒素ほど多く発生した。少窒素区では発生数も枯死茎もともに少ない。一般には多窒素ほど枯死茎の割合は高い傾向があるが必ずしもそうではなかった(Table 2)。したがって個体あたりの生存茎数は粗植3回刈り区では5月末の出穂盛期と,一番草後の8月中旬および秋に山があり,4番刈り区では第1回の山だけは1旬遅れるが,他の2つの山はほぼ同時期にきている。密植の場合には第1回の山だけ粗植区より1旬早いが他の2つの山はほぼ同時期である。しかし茎数の変化は粗植区に比べて僅かである(Fig.6)。5.単位面積あたりの生存分けつ数は個体の比較的小さい5月中旬までの期間には,栽植密度の高い方が著しく多く,かつ早くピークに達したが,枯死するものが多くて早く下降する。粗植区はこの間の茎数は少ないが増加の期間が長く,4回刈りでは密植区より1ケ月遅く,3回刈りでは半目遅くピークに達している。しかしその後は粗植区も密植区も個体或いは分けつの枯死が起こって,夏を終る間に両者の差異は縮少した。しかし4回刈りの少窒素区を除いて8月以降の秋には再び密植区が粗植区を凌駕した。6月〜8月の夏期には窒素の施用量と分けっ数との関係は変動がはげしく一定の傾向を示さなかったが,春と秋には多窒素ほど茎数が多い傾向にあった(Figs.7,8)。一般に栽植密度の高い場合,窒素施肥の多い場合に年間の茎数変動の幅が大きい傾向が見られた。6.乾物収量および粗蛋白収量は常に多窒素ほど多く,ことに後者においてその差が大きかった。窒素施用量が多い場合は4回刈りの方が多収を示したが,少ない場合は3回刈りの方がいくぶん多収の傾向にあった。また窒素施用量が同じ場合には栽植密度の高い方が多収を示した。したがって窒素を多く与える場合には密度維持と収量(乾物,蛋白)の点で1番草を早めに刈った年4回刈りがよかったが,窒素施用の少ない場合には3回刈り,4回刈りの違いはあまり現われない(Figs.10.A,B)。7.面積あたりの分けつ数と収量との関係は,各刈取り時期別に見ると正の相関があるが,特に5月,10月の刈取り時においては高い相関がある。平均一茎重は,一般に粗植区の方が密植区より高く,また多窒素ほど高い傾向があったが,季節による変動があり,7月および9月には一茎重と収量との相関は有意性が認められた。したがって春と秋は面積あたり茎数と収量との相関がより強く,夏の間には一茎重の方が収量との相関がより強く,窒素施肥は前者では茎数を増すことにより,後者では一茎重を増すことによって収量を高めるといえる(Figs.11,12)。8.前報とほぼ同様に,本試験においても,個体あるいは分けつの枯死が,(1)過繁茂にもとづく競争,(2)刈取り後の,fructosan不足或いは残留葉身の欠除による再生不能,(3)"夏枯れ"の3つの要因が主因となって起こったように思われる。終りに本試験の実施にあたりいろいろと便宜を与えられた川渡農場,ならびに終始熱心に調査に努力された大場義昭,遠藤全二両君,および本研究の費用を第1報からひきつづき援助されたロックフェラー財団に対し心から感謝の意を表します。
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