本稿の目的は,昭和初期における千住青果物市場の特牲と同市場に所属する投師集団の行動空間および業者的性格について考察し,その形成と発展を支えた諸条件を解明することである.
青果物市場の地域分化と再編成が進行する中で,千住市場は新興市街地市場の性格を維持しつつ,旧市内の中核市場と東京西郊の零細市場群に対して中継市場的機能を果たしていた.中継市場的機能を反映して早暁開市,独特の業者集団の発生と商慣行の成立がみられた.投師の業者的性格は多分に投機的・差益商人的性格が強く,一般仲買人の手数料商人的性格とは明らかに異なっていた.なお,千住市場における投師集団の成立・発展要因は,地域分化した市場間を中継する業務が必要とされていたこと,沖積低地の特産物(葛西物)が伝統的・集中的に千住市場に出荷され投師の集中を促したこと,葛西物をめぐる有力業者の集積や投師集団の機能分化と専門化が千住市場の集荷能力を高め,結果的にこのことが投師集団の発展に貢献したことの3点に集約できる。
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