東北山地を対象に主要な6樹種,ハイマツ,オオシラビソ,コメツガ,ダケカンバ,ミヤマナラ,および,ブナの上限,下限の温度領域を求め,各樹種の示す現在の温度領域が過去の気温を推定するための適切な基準値であるかどうかについて検討した.各樹種の上限,下限の温度領域は温量指数年平均気温,冬季平均気温,夏季平均気温のいずれによっても代表させることができるが,これらの中で,標準偏差がもっとも小さいという点で,夏季平均気温が優れている。東北山地は“偽高山帯”のあることが一つの特徴であるが,オオシラビソ林が欠落した場合,ハイマツはオオシラビソ林の占めるべき温度領域全域にわたって置き換わることができる.しかし,ミヤマナラは独自の温度領域をもち,オオシラビソ林の占めるべき高度範囲の下半部においてのみ置き換わり得る、上記の検討と各樹種の温度領域に対する山頂現象の影響の強・弱の検討とから,ブナ,ミヤマナラの上限,下限,および,ダケカンバ,オオシラビソ,コメツガの下限の温度領域が古気温推定の基準値として適用し得ると判断された.
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