本稿では,東京都中野区における保育所への時間的・空間的アクセスの可能性を,GIS支援による時間地理学的シミュレーション手法を用いて分析した.その結果,保育所へのアクセス可能性には,(1)ミクロ・スケールでの地域差と,(2)預ける子どもの年齢に基づく格差,があることが明らかになった.とくに後者は,育児期に0歳児を保育所に預けて働く場合の選択肢を,保育所に比較的近い職場でのパートタイム就業へと,時間的・空間的に強く制約していた.実際に中野区では,子どもが0歳時の保育所の利用環境に影響されて,パートタイム職を選択する送迎者も少なくないと判断される.このことは,主に母親が子どもの送迎者である現状では,女性の「産後休業」明けの現職復帰を困難にする.本稿の分析結果は,保育所からの柔軟性を欠いたサービス供給が,出産・育児期における女性のライフコース選択の幅を狭めてしまう危険性を持っていることを示唆している.
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