本研究では,九州玄界灘の離島,佐賀県鎮西町馬渡島の空間の意味を社会的コンテクストと関連させて解釈し,主体による立場の差異と時系列変化を考慮した動態的な記号論を展開することを試みた.理論的基礎として社会記号論的アプローチを採用し,村落空間を物的記号とみなした上で,その記号の内容実質を空間に関するイデオロギーやイメージと措定した.解釈したテクストは村落空間に関する住民と外部者の言説であり,そのコンテクストは村落内部の歴史的な社会過程および日常生活である.はじめに,馬渡島住民と外部者の空間認識を島スケールと村スケールに分け,各空間に関する言説を解釈し,空間の意味を抽出した.次に,馬渡島の江戸末期から現在までの社会過程を四つの時期に分けて記述し,言説との相関を分析した.最後に,馬渡島で得られた知見と社会記号論の理論的枠組を照合した.従来,理論が先行していた社会記号論の枠組は,馬渡島で得られた知見から村落空間研究におけるその妥当性・有効性がほぼ検証された.
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