本稿は,自動車産業を事例として,企業間連関における近接の重要性について,取引と物流の両面から考察した.浅沼の提起した「関係特殊的技能」という概念や,貸与図部品,承認図部品,市販品タイプの部品という分類を空間的観点から検討し,部品調達の空間的範囲の仮説を提示した.完成車メーカーや一次部品メーカーが資材や部品を調達するに際し,貸与図部品は地域レベルで,承認図部品は国内レベルで,市販品タイプの部品はグローバルなレベルで調達を行うと考えられる.これは取引プ白セスにおける相互作用の質と量,信頼や「文化的距離」の重要性,物流プロセスにおける輸送リードタイム削減の必要性,輸送費の割合といった,取引と物流の両方の理由による.
さらに,国際競争の激化で企業の戦略が製品の多様化から低コスト化へとシフトしていることや政治的な要因のため,近年では連関における物理的・文化的近接の重要性は相対的に低下し,連関の空間的範囲は徐々に拡大しつつある.
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