本稿は,アメリカ合衆国の冬小麦地帯の中央にあるカンザス州を事例として,エレベーター社の競合と系列化に注目しながら,グレインエレベーターの地域的展開の様相を時間・空間的に明らかにした.カンザス州では,鉄道の西進に伴って19世紀後半からグレインエレベーターが建設された.エレベーター社は穀物を購入するだけでなく,農業資材や日用品を販売することによって,農家との密接な関係を保った.しかし,農協や製粉会社など,郡域の農家から穀物を集荷する地方のエレベーター社は,吸収・合併を繰り返したたあ,現在に至るまで同じ社名で存続しているのはわずかである. 1950年代後半以降,フリントヒルズ西端の旧チザムトレイルに沿った,鉄道路線の集まる都市で,ターミナルエレベーターが建設された.これは,地方のカントリーエレベーターから穀物を集荷し,国内外に出荷するための巨大エレベーターである.コーリンウッド社やガーヴェイ社は,ターミナルエレベーターを建設したり,地方のエレベーターを購入したりすることで,広域的な集荷圏を持っエレベーター社に発展した.しかし, 1980年代以降,これらのターミナルエレベーターは,カーギル社やADM社などの穀物メジャーによって次々と買収された.このように,世界の穀物市場を支配している合衆国の穀物メジャーは,郡レベルで始まったエレベーター社の競合の結果,広域的に展開したエレベーター社を系列下に収めることによって,最終的に穀物の集荷地盤を垂直的に統合 したのである.
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