本稿では,流通構造の変容の過程で進展してきた卸売業者の集散地問屋化と,それに伴う地場産業の再編成とを明らかにした.事例としては新潟県三条市における金物卸売業と作業工具工業を取り上げ,実態調査に基づいて分析した.
1970年代半ばまで,三条作業工具工業の主たる市場は貿易商社を介した北米への輸出であった.ところが,石油危機後の円高によって輸出が著しく減少し,作業工具メーカー(元請)は内需転換の一つとして,同じ地域に立地しながらそれまで取引の少なかった金物卸売業者への販売を増加させた.メーカーは,金物卸売業者を介してのDIY市場への参入によって,輸出の落ち込みを補うことができた.金物卸売業者にとっても,作業工具の取引は流通構造変化の中で拡大を続けるDIY市場に参入するために重要であった.
金物卸売業者がDIY市場に対応するためには,豊富な品揃え・在庫管理・販売単価の削減といった能力を高めなければならない.これに柔軟に対処するには,他産地からの仕入以上に多様な域内金属製品メーカーとの取引が重要である.しかし,作業工具に関しては,メーカーによる代理店制度が柔軟な対処を難しくしており,利益率も低かった.そこで, DIY市場に参入し,一層の集散地簡屋化を進める上層の金物卸売業者は,メーカーに対してリベートの獲得やPB商品の発注などの戦略的対応をとり,代理店制度を事実上形骸化させていった.メーカーも,輸出減を埋め合わせるDIY市場を獲得するたあ,取引の再編成に従わざるを得なかった.
金物卸売業者とめ取引関係の変容は,作業工具工業の生産構造にも新たな再編を迫った.メーカーと下請との分業関係は,一層のコスト削減のためにさらに強化され,加えて在庫や柔軟な納入などの新たな負担がメーカー・下請にのしかかっている.
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