本研究は,宇部鉱工業地域を対象に,「本社の性格」(主力事業所が企業の本社)における内部構造の解明,これと日立の比較から,鉱工業地域社会の内部構造とその発達過程,および鉱工業地域社会形成の内的要因を究明した.
鉱工業地域社会は,地場的産業から大企業に成長するのに伴って,諸発達段階を経る.
鉱工業地域社会の内部構造は,基本的に,企業地域社会と関連地域社会から構成される.まず企業地域社会は,企業の資本主義的生産形態が確立するにつれて,中枢管理機能を有する主力事業所(本社)の事務所を中心に,生産機能地域,商業・サービス機能地域,居住機能地域の3つからなる一極型の圏構造を形づくる.次に企業地域社会の周辺に,商店街,公共施設,関連・下請工場,住宅地などからなる関連地域社会が形成される.
鉱工業地域社会の内部構造は,一極型圏構造から,多極型圏構造,一核心型圏構造への発達過程を歩む.強い自己完結性の性質をもつ鉱業においては,企業地域社会と関連地域社会は隣接して展開する.しかし,この既存鉱業地域社会が工業地域社会に変質(再生)する場合,通勤時間などにおいて制約が小さい工業にあっては,職住が分離し,居住と関連する機能も移動する.つまり,生産機能を残して,商業・サービス機能居住機能が関連地域社会に移り市域を拡大させる.その結果,工業地域社会においては,主力事業所の事務所を中心に生産地域商店街,住宅地域からなる一核心型圏構造を形成する.
事業所が「本社の性格」をもつ場合,鉱工業地域社会形成の内的要因は経営者と管理・技術集団である.彼らは圏構造の中央に位置する主力事業所の事務所で,生産のみならず企業地域社会,関連地域社会の全般にわたる諸業務を直接・間接に経営・運営している.本社が中央に移って「準本社の性格」に変化した場合は,そこから経営者が抜け,管理・技術集団中心の運営となる.
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