大気腐食は,電解質水溶液膜下でのみ進行する電気化学的プロセスである.雨は,ぬれ時間を引き起こし,大気中の化学種を金属表面に輸送することで腐食を促進する,主要な因子である.本研究では,降雨と化学種の影響を受けた場合の大気腐食挙動を明らかにすることを目的として,人工降雨装置が開発された.センサ出力と腐食速度(CR)との関係を通して降雨水溶液の腐食性を調べるために,Fe―Ag 対からなるAtmospheric Corrosion Monitoring(ACM) センサが使われた.降雨速度とその分布が制御可能であるため,腐食挙動への降雨の影響を調べることが容易であった.センサ出力とCR との関係から大気の腐食性を推定できる.したがって,開発された人工降雨装置は,雨の影響のもとでの腐食挙動を研究するために,本質的で信頼性の高い装置であると言える.
海水及び/又は淡水が注入された東京電力福島第一原子力発電所の使用済燃料プールのpH,Cl-濃度及び電気伝導率κの測定結果から,炭素鋼などの腐食に影響するSO42-及びHCO3-の濃度を解析により推定した.
淡水が注入された1F1において,Cl-濃度の測定値とSO42-濃度並びにHCO3-の濃度の推定値から電気伝導率κが精度よく推定された.海水が注入された2号機から4号機においてpH測定値が推定値を上回った.Feの溶解反応,H4N2の解離,及びH4N2の分解によるNH3の生成のいずれの要因も単独では高pHの原因となり得ないと評価された.
コンクリートがれきが混入した3号機の使用済燃料プール水には,浄化処理期間中がれきからCa2+濃度が継続的に供給されていたと推定された.
解析結果から推定した水質を自己不働態化指数SPIにより評価した結果,1号機及び浄化処理終了後の2号機から4号機についていずれの水質も炭素鋼の自己不働態化が達成される環境にあると評価された.