日本臨床麻酔学会誌
Online ISSN : 1349-9149
Print ISSN : 0285-4945
ISSN-L : 0285-4945
25 巻, 5 号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
—日本臨床麻酔学会第24回大会 特別講演—
—日本臨床麻酔学会第24回大会 教育講演—
  • 奥田 弘美
    2005 年 25 巻 5 号 p. 441-446
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
      コーチングは, 自主性と行動力を引き出し, 目標達成をサポートするためのコミュニケーション法である. 近年, おもにビジネス領域を中心として, 欧米や日本で導入・活用されている.
      メディカルサポートコーチング法は, 一般向けコーチング法を医療現場で使用可能なように, カウンセリングテクニック等を加え, 27のスキルにアレンジ・体系付けし直したものである. 医師患者間, スタッフ間の医療コミュニケーションや, 医学教育指導法として活用が可能である.
      本稿では, 基本的な3つのコアスキルである 「聴くこと」 「質問すること」 「伝えること」 に基づき, それぞれに分類された実践的で即戦力となるコーチングスキルを解説する.
  • 小田 裕
    2005 年 25 巻 5 号 p. 447-454
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
      薬物動態に最も大きな影響を及ぼすのは代謝である. したがって, 薬物動態を考慮する際には, 代謝が肝血流量依存性か, 肝代謝酵素活性依存性かの判断が重要である. 前者の場合は, 肝血流量の減少によって薬物の血中からの排泄が遅延する. 後者の場合は, 肝代謝酵素活性 (とくにチトクロームP450, 以下P450) を阻害する薬物の併用に注意すべきである. またP450活性には人種差や個体差が存在し, 特定の人種や個体では一部のP450分子種の含量がとくに少なく, そのP450で代謝される薬物の効果が著しく遷延したり, 副作用が生ずる可能性がある. さらに, 薬物動態から肝臓の酵素活性を推定することが可能で, 薬物療法におけるテーラーメイド治療に向けた臨床応用が期待される.
  • 今村 知明, 康永 秀生
    2005 年 25 巻 5 号 p. 455-465
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
      保険医療制度の政策のトレンドは医療費削減の方向に向かっている. これは, 単に医療保険の財政危機という問題だけでなく, 高齢化, 少子化, 核家族化という, 日本の国の構造そのものに問題が出てきていることに起因する.
      この流れのなかで, 2003年より特定機能病院に包括支払制度が導入された. 本制度において入院患者の在院日数が短縮した場合, 「手術」 ありの診断群においては, おおむね在院日数短縮は増益をもたらすが, 利益は大変低く抑えられる. また 「手術」 なしの診断群においては, 増益・減益の分岐点となる材料費率の限界値は低いレベルであり, 材料費率が限界値を超える場合, 在院日数短縮は減益を招く.
—日本臨床麻酔学会第24回大会 シンポジウム—
女性医師の生産性
  • 信友 浩一
    2005 年 25 巻 5 号 p. 466
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
  • 大河内 二郎
    2005 年 25 巻 5 号 p. 467-472
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
    目的: 先進諸国における医師数政策のあり方を明らかにする.
    方法: アメリカ, ケベック (カナダ) , イギリス, フランス, ドイツの医師数政策決定者に対するアンケートおよびインタビュー.
    結果: 医師数統計はおもに非政府・中立組織が作成していた. 医師数政策は, 現状の医師数の認識が過剰とされているか, 不足とされているかで異なっており, 医師が不足している国では, 診療報酬の設定等さまざまな方法により, 医師不足地域や不足診療科への誘導がなされていた.
    考察: 歴史的経緯の異なる各国の政策をそのまま日本に適応するのは困難であるが, 的確な医師数政策を行うためには, 医師数の現状の正確な把握が不可欠であると考えられた.
  • 林 行雄
    2005 年 25 巻 5 号 p. 473-481
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
      麻酔科医の不足が深刻となるなかで, とくに出産を契機に第一線から退く女性麻酔科医を現場に留めることは医局運営の立場から重要な課題である. 大阪大学麻酔科では保育所等に子供を預けて勤務する女性麻酔科医をママ麻酔科医と称し, 医局主導で彼女らが勤務を続けられるようなサポートシステムを導入したが, さまざまな問題に直面し医局単位の試みとしては限界に至っている. ママ麻酔科医を現場に留めるためにはより広範囲な組織の結集が望まれる.
  • 平川 奈緒美
    2005 年 25 巻 5 号 p. 482-486
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
      女性医師に関して, これまでの学会において討議され, 提起された問題点を検討し, 具体的な形として実現していくことが今後の課題となる. 実際に医局や学会単位で, 委員会を設置し, 女性医師の人権を最大限に尊重するシステムの構築を図っているところも認められる. 麻酔科医不足が問題となっているなか, 資格をもった働けない女性医師の労働力を求めることは必要であるが, 女性医師の就労状況について完全に把握できないのが現状である. そのためには, 学会で麻酔科医師全体の生き方に対応した雇用・勤務体系のデータベースを作成し, 麻酔科医を支援していくような常設のワーキンググループを設立することが望まれる.
  • 長瀬 啓介
    2005 年 25 巻 5 号 p. 487-493
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
      医師・歯科医師・薬剤師調査のデータに基づき, 年齢, 性別ごとに診療科別医師数の変化を分析した. この結果, 同一世代の医師であっても標榜診療科は年齢, 性別により変化することが明らかとなった. この手法は, 診療科別の医師需給予測に利用可能であると考えられた.
      また, この変化の傾向は, 医師が年齢・性別に応じて生じる動機に適合する診療科を選択するためにみられるものと考察され, 麻酔科においては, 中途からの麻酔科への標榜変更や, 一時臨床を離れた医師の診療復帰が困難である可能性が示唆された. 以上を踏まえて, 女性麻酔科医の雇用の促進に関して提言した.
  • 野崎 京子
    2005 年 25 巻 5 号 p. 494-506
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
      ここ数年, 女性医師の増加傾向が著しい. 平成16年度の新臨床研修医制度導入により, 従来の大学医局を中心とした労働供給システムが変化し, 病院現場における労働力不足が深刻になってきた. そのため, 病院の管理的立場での対策が取り上げられるようになった. 日本臨床麻酔学会第24回大会におけるシンポジウム 「女性医師の生産性」 が設けられたのもその意味があったと思われる. そもそも, 女性の労働生産性について考えるとき, 単なる生物学的な差をもって男性との差を論ずることはできない. 文化的・社会的背景からくる性別役割分担意識が大きく影響している. まず, 労働基準法など母性保護・育児支援に関する現行の法律の尊重が重要である. また, 文明国として男女共同参画社会の実現に向けての社会的・個人的努力が必要であり, そのためには医療現場におけるさまざまな工夫が期待される. そのような施策により, 女性医師の生産性は現在より高くなっていくと予想されるので, 現時点で女性医師に特有の社会システムを構築するのは時期尚早であろう.
講座
  • 梅垣 裕
    2005 年 25 巻 5 号 p. 507-517
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
      2002年現在, わが国では推定約312万件以上の麻酔が行われ, そのうち約188万件以上が全身麻酔により行われている. しかしそれに対応する, 手術室で麻酔業務に携わる麻酔科医数は, 2002年時点でわずか6,087人に過ぎない. 従来の主たる業務を手術室の麻酔とし, これを保険医療制度下で行う麻酔科開業は事実上困難であった. 近年, 厚生労働省は麻酔科開業医の出張麻酔を保険医療における対診と認め始めた. しかし, 自治体によってはいまだ出張麻酔を主たる業務とする麻酔科診療所開設に門戸が閉ざされており, 出張麻酔開業医はまだまだ少数にすぎない. 現在, 麻酔科医の就業には多様な形態がみられる. そのなかで保険医療機関としての麻酔科開業は, 唯一麻酔科医が病院との間で雇用関係ではなく, 対等の立場で業務を行えるものである. 出張麻酔を主とした麻酔科開業は, 現在の麻酔科のマンパワー不足をただちに解消に結びつけるものとは思われない. しかし長期的展望からみると, 麻酔科医の将来設計の一選択肢となり, 麻酔科を志す医師を増やし, かつ手術室の麻酔業務からの離脱を食い止める一つの方策であると考える.
  • 斎藤 祐司
    2005 年 25 巻 5 号 p. 518-525
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
      通常, 筋弛緩モニターの目的では, 拇指の反応を評価する. しかし, 腹臥位で行われる手術に際しても, 患者の大腿下部内側に刺激電極を装着すれば, 加速度トランスデューサを使用して容易に筋弛緩効果をモニターできる.
      ベクロニウムを投与された糖尿病患者では, 筋力の回復が遅延する. しかし, 全静脈麻酔下では筋力の回復は遅延しない. 術後, 残存筋弛緩効果をネオスチグミンによって拮抗させる場合, 糖尿病患者では筋弛緩効果が残存してしまう可能性が高い.
      ウリナスタチン, メシル酸ガベキサート, ニコランジル, ミルリノン, アミノ酸輸液を投与すれば, ベクロニウム投与後の筋力の回復を速めることができる.
  • 下山 直人, 中田 稚子, 村上 敏史, 高橋 秀徳, 中山 理加, 首藤 真理子, 下山 恵美
    2005 年 25 巻 5 号 p. 526-532
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
      WHO方式に従ったモルヒネによるがん性疼痛治療は, オキシコンチン® , フェンタニルパッチが発売されている現在でもスタンダードになっている. その理由の一つにモルヒネ以外の速放製剤がないことがあげられる. 速放製剤は, 疼痛時のレスキューとしてだけでなく, オピオイド反応性の疼痛かどうかを判断するための有用な方法である. オピオイドの変更による副作用の軽減は, モルヒネの副作用対策を十分に行った後に検討すべきと考える. また, モルヒネの副作用対策が十分に行えるようになれば, その他の副作用対策はそれほど困難ではない.
  • 川人 伸次, 北畑 洋
    2005 年 25 巻 5 号 p. 533-542
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
      経食道心エコーは今や心臓血管手術に必要不可欠なモニターとなった. しかし, 小児においてはプローブのサイズ, 合併症の危険性, 解剖学的理解の困難等が普及の障害となってきた. 近年, 小児用プローブの開発とともに新生児を含む多くの小児症例に経食道心エコーが用いられるようになってきた. しかし, 本邦においては麻酔科医が経食道心エコーを駆使して小児先天性心疾患の周術期管理を行っている施設はいまだ少ないと思われる. 小児先天性心疾患の術中経食道心エコー診断はなお修練期にあり, 今後さらに高い診断能力をもつ装置の開発とともに, ソフトウエアとしての診断知識の蓄積が図られなければならない.
原著論文
  • 宇治 満喜子, 中橋 一喜, 長井 安沙美, 井上 聡己, 北口 勝康, 古家 仁
    2005 年 25 巻 5 号 p. 543-548
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
      1999年1月から2003年12月までの5年間の小児待機手術症例 (12歳以下, 812例) を対象として, 術後麻酔科外来での問診により得られた結果から, 麻酔の満足度や周術期苦痛因子について検討した.
      麻酔に対する満足率は60.8%で, 不満率は2.3%であった. 周術期の苦痛因子は32.0%に訴えがあり, 点滴注射, 術後創部痛, 麻酔前投薬, 尿道カテーテル, 術後嘔気・嘔吐の順に多かった. また手術決定時の麻酔説明を追加することにより不満率は減少し, 入院後の手術延期症例は有意に減少した.
      小児待機手術においては, 麻酔の安全性と上記の問題点を考慮した麻酔の説明や麻酔管理が必要であり, 親の理解を得るためには, 手術決定時の麻酔説明と説明機会を増やすことが有用と考えられた.
症例報告
  • 間中 哲, 永納 和子, 赤坂 徳子, 舘田 武志
    2005 年 25 巻 5 号 p. 549-553
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
      本態性血小板血症を合併した患者の腹部大動脈瘤人工血管置換術で, ヘパリンの抗凝固作用に抵抗を示した症例を経験した. 症例は75歳, 男性. ヘパリンを計10,000単位投与したが十分な活性凝固時間 (ACT) の延長が得られなかったため, アルガトロバンを使用して抗凝固を維持した. 本態性血小板血症では, 血小板第4因子 (PF4) の著明な増加を認めることが多く, さらにヘパリンが投与されたことにより, 多量のPF4が遊離され, PF4がヘパリンの作用を中和したと考えられる. 一方, アルガトロバンはPF4の中和作用を受けることなく抗凝固作用を発揮するので, 本態性血小板血症患者に対して有用な抗凝固薬といえる.
  • 松山 博之, 車 武丸, 山本 有紀, 田平 暢恵, 泉 薫, 尾崎 実展, 小畑 勝義
    2005 年 25 巻 5 号 p. 554-559
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
      Automatic Implantable Cardioverter Defibrillator (AICD) 植え込みを必要とした非心臓手術2症例の周術期管理を経験した. 1例はBrugada症候群で, AICD植え込み術後33日目に腹腔鏡下胆嚢摘出術を行った. もう1例は拡張型心筋症に併発した心室細動の既往のある腸閉塞患者で, 小腸切除術後20日目にAICD植え込みを行った. 症例1ではAICDの頻拍治療機能を解除とし, 体外式除細動器を装着して手術を行った. 症例2では, 体外式除細動器を準備するとともに一時的ペーシングカテーテルを留置して手術を行った. いずれも周術期に致死性不整脈を起こすことなく管理できた. 2症例の周術期管理および, 外科手術とAICD植え込みの順序, その時期について考察した.
  • 山本 由香, 川井 康嗣, 又吉 宏昭, 大竹 孝尚, 山下 敦生, 森 由香, 坂部 武史
    2005 年 25 巻 5 号 p. 560-563
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/09/28
    ジャーナル フリー
      69歳, 男性. 16年前発症の脳梗塞のため, 右片麻痺と運動性失語があり, 中枢性疼痛を伴っていた. 約3ヵ月前より右半身の疼痛が増強し, 当院ペインクリニック外来に紹介された. 患者は運動性失語症のため, 痛みの性状などを明確に表現できなかった. ドラッグチャレンジテストではモルヒネ, バルビツレート (チオペンタール) ともに陰性で, 診断・治療法の決定が困難であった. そこで, 選択肢を提示して回答させる問診法に変えて診察や検査を行ったところ, L5神経根症の合併が判明した. 以後, 右L5神経根ブロックとケタミン少量点滴で疼痛はほぼ軽快した. 中枢性疼痛患者に神経根症などの末梢性疼痛が合併している可能性を考えることは重要である. また, 失語症を伴う症例では表現の制約があるため, 痛みについての問診には工夫が必要である.
コラム
feedback
Top