本稿では,早くから過疎化の進んだ中国山地西部の1山村・広島県加計町を対象に,その集落システムの変動を,人口変化,中心機能の集積,地域労働市場の展開の3つの側面から検討した.その結果,この約30年間にその集落システムは大きく変化したことが明らかとなった.集落別の人口変化(1960~1990年)では標高の重要性が確認され,過疎化は近接性に欠ける高位集落でとくに激しく進行したことが判明した.人口の分布はしだいに低位集落に収斂する傾向にある.中心機能からみた現在の集落システムの構成は,中心部が商業機能,公的機関の面で集積が著しく,その卓越性は,公共施設の配置,学校の統廃合を通じてさらに強化されている.その一方で支流部低位集落や高位集落では明瞭な中心集落を欠く.地域労働市場の面では,中心部集落が公的機関の統廃合による労働市場縮小の影響を受け,他方,高度経済成長期以降町内に分散立地した工場は,周辺部集落のそれを中心に今や海外や国内他地域との競争や労働力の高齢化によって岐路に立っている.今後の山村政策は,こうした集落レベルの変動に対応することが大きな課題となろう.
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