日本臨床外科学会雑誌
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67 巻, 5 号
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  • 栗原 英子
    2006 年 67 巻 5 号 p. 955-961
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    慢性腎不全による透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症手術における,術中アレグロライト® PTH (1-84) 測定の臨床的意義と迅速測定の有用性を検討した.(対象と方法) 2002年4月から2005年3月に経験した初回手術症例83例を対象とした.摘出前と肉眼的に確認可能な副甲状腺を全腺摘出後5分, 10分, 30分の計4回PTH (1-84) を測定した.術中迅速測定は18例に行った.(結果)病的副甲状腺全摘が行われた症例は摘出後30分値が17.3±9.7pg/mlであり,全例とも45pg/ml未満であった.特に,摘出腺数が3腺で術中PTH (1-84) が45pg/ml以上の症例は病的副甲状腺が頸部に遺残している危険性が高かった.(結語)摘出後30分のPTH (1-84) 値が45pg/ml未満であることは,全病的副甲状腺切除の良い指標であった. 3腺しか確認できなかった症例では, 3腺摘出後30分値の迅速PTH (1-84) 測定が頸部検索の続行あるいは手術の終了を決定する有用な指標であると考えられた.
  • 座波 久光, 川上 浩司, 稲嶺 進, 當山 鉄男, 与那覇 俊美, 大城 直人, 武島 正則, 平安山 英義, 宮田 道夫
    2006 年 67 巻 5 号 p. 962-966
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    はじめに:待機的結腸右半切除術における,機械的腸管前処置省略の安全性を確認することを目的に検討を行った.方法: 2002年4月より2005年4月までに同一術者が施行した待機的結腸右半切除術施行例で,術前の機械的腸管前処置と経口抗生剤投与を省略した, 23例を対象 (Study群)とした.同一期間中に術前の腸管洗浄を施行した待機的結腸右半切除術40例をControl群として,患者背景, SSIの発生率,その他の合併症発生率,入院期間などについて比較検討を行った.結果: Study群のSSI発生率は13.0%で,縫合不全,腹腔内膿瘍などの重篤な合併症は発生しなかった.一方Control群のSSI発生率も15.0%とほぼ同様であったが,この群で偽膜性腸炎が2例 (5%) 発生した.術後平均入院期間はStudy群が10日間で, Control群16日間であった.考察:待機的結腸右半切除術における機械的腸管前処置の省略は安全であり,大腸手術における術前の画一的腸管前処置に関しては再検討を要すると思われる.
  • 久保 義郎, 棚田 稔, 栗田 啓, 高嶋 成光
    2006 年 67 巻 5 号 p. 967-972
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    当院では2004年12月までに254例の大腸癌に対して腹腔鏡補助下大腸切除術 (LAC) を施行した.治癒切除が行われた246例中, 2005年9月までに再発を認めた12例について検討した.性別は男性6例,女性6例,原発巣の占居部位はCが2例, Aが1例, Dが2例, Sが2例, Rsが3例, Raが2例で,組織学的病期はstageIが3例, stage IIが3例, stage IIIaが5例, stage IIIbが1例であった.初再発臓器は,肝が6例,肺が2例,腹膜が2例,リンパ節が1例,局所が1例であった.腹膜再発の2例はいずれもmp癌で,リンパ節再発はsm癌であった. Port site recurrenceはみられなかった. 12例中5例は術後1年以内の再発であった.予後は,手術を施行した8例中6例が再手術後14~63カ月無病生存中, 1例が化学療法を施行中であり, 5例が癌死した.術後早期の再発や鏡視下操作との関連が疑われる腹膜再発例もみられた. LACでは術中の注意深い腹腔内観察とともに,進行癌の場合には高度な手技の習得および慎重な手術操作が必要と思われた.
  • 尾山 佳永子, 野澤 寛, 原 拓央, 中田 浩一, 平能 康充, 平野 誠
    2006 年 67 巻 5 号 p. 973-975
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    左腋窩副乳癌の1例を経験したので報告する.症例は65歳の女性. 10年前から自覚していた左腋窩の腫瘤が増大してきたため平成16年11月11日当科受診した.左腋窩に直径10mm大の皮下腫瘤を触れ,マンモグラフィーでは左腋窩にカテゴリー4の腫瘤影を認めた.吸引細胞診は陰性であったため局所麻酔下に切除生検を施行した.病理学的検索で副乳癌と診断し,全身麻酔下に局所の広範囲切除と腋窩リンパ節郭清 (level I) を施行した.切除標本に癌の遺残はなく,腋窩リンパ節転移も認めなかった.現在外来にてexemestane内服し経過観察中である.
  • 伊東 博史, 美甘 章仁, 榎 忠彦, 野島 真治, 濱野 公一
    2006 年 67 巻 5 号 p. 976-980
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,女性.労作時の呼吸困難で近医を受診し,急性心不全を伴う感染性心内膜炎と診断された.心臓エコー検査で僧帽弁にvegitationの付着と高度の僧帽弁逆流を認め,血液培養検査でStreptococcus bovis (S. bovis) IIが検出された.同菌による感染性心内膜炎と診断し,緊急手術を行った.僧帽弁には両尖にわたる粟粒状のvegitationの付着と検索の断裂を認めたため,僧帽弁置換術が行われた.感染性心内膜炎の起因菌がS. bovisであることより消化管の精査を行ったところ,上行結腸に2型の癌が認められた.僧帽弁置換術後1カ月後に結腸右半切除術, D2郭清を行った.術後経過は良好で,僧帽弁置換術後2カ月後に軽快退院した. S. bovisによる感染性心内膜炎患者では消化管の腫瘍を合併していることがあるが,多くはS. bovis Iと言われている.本症例では起因菌が比較的稀なS. bovis IIであり,上行結腸癌が感染性心内膜炎の原因であると考えられた.
  • 森藤 清彦, 平井 伸司, 三井 法真, 上神 慎之介, 濱中 喜晴
    2006 年 67 巻 5 号 p. 981-983
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    われわれは,大動脈弁原発の乳頭状弾性線維腫の1例を経験したので報告する.症例は71歳,女性.畑仕事中に倒れ当院へ緊急搬送され脳梗塞の診断で入院加療されていたが,心エコーにて大動脈弁左冠尖に3×10mm大の疣贅エコーあり,当科紹介となった.全身状態の改善を待ち手術を施行.人工心肺下に手術を行った.左冠尖弁尖に約10mm大の茎を有するイソギンキャク様の腫瘍を認めた.腫瘍切除のみ行い大動脈は温存した.病理組織学的に乳頭状弾性線維腫と診断された.術後は合併症なく順調に経過した.心臓原発の腫瘍は稀であり,その7割は良性腫瘍である.しかし乳頭状弾性線維腫は脳梗塞や心筋梗塞といった重大な合併症をきたしうるため,発見次第早期に摘出をすることが推奨されている.
  • 八木 健之, 倉田 悟, 縄田 純彦, 善甫 宣哉, 江里 健輔
    2006 年 67 巻 5 号 p. 984-989
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は54歳,女性,右下腹部痛と腰背部痛を主訴に近医を受診し,超音波検査にて下大静脈腫瘍を疑われ紹介となった.腹部CT, MRI, 下大静脈造影にて,最大径約5cmの下大静脈腫瘍が認められた.手術は左腎静脈を含む下大静脈左側壁を約5cm切除して腫瘍を摘出し, 20mmリング付きePTFEグラフト5cmを用いて下大静脈をパッチ形成した.病理組織検査にて平滑筋肉腫と診断された.術後4カ月目のCTで4cm大の局所再発を認め,放射線化学療法を施行したが,術後225日目に死亡した.下大静脈原発平滑筋肉腫は,放射線化学療法に抵抗性を示し再発率も高いため外科的治療が第一選択であるが,切除不能例や再発例に対する新たな治療方法が望まれる.
  • 島田 順一, 西村 元宏, 伊藤 和弘, 柳田 正志, 寺内 邦彦, 下村 雅律
    2006 年 67 巻 5 号 p. 990-993
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は49歳,女性で30歳時に神経性食思不振症の診断を受けた.咳・疾を主訴に受診し,胸部レントゲンにて左上肺野に浸潤影を伴う3.5×4.5cmの空洞性病変を指摘された. 2年前の胸部レントゲンでは空洞性病変は認めなかった.抗真菌剤投与を受け浸潤影は消失したものの病変は縮小せず,手術目的に当科紹介となった.自動縫合器を用いて病変を部分切除したが,癒着剥離時に空洞の内腔が一部開放されたため, micafungin sodium入り生食にて胸腔内を洗浄し閉胸した.術中出血量は20gであった.空洞内容物の培養および鏡検ではアスペルギルスは同定されなかったが,空洞壁のHE染色およびグロコット染色にて空洞壁に浸潤したアスペルギルスの菌体を確認し,慢性壊死性肺アスペルギルス症と診断した.術後経過は良好で術後第25病日に退院となった.慢性的な低栄養状態が引き起こした免疫低下が原因と考えられた.
  • 妻鹿 成治, 糸井 和美
    2006 年 67 巻 5 号 p. 994-997
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,女性. 45歳時に結核性胸膜炎にて左胸郭形成術が成されたが,以後経過に異常は認めなかった.胸郭形成術後32年を経過し,突然左側胸部皮下腫瘤が出現,徐々に増大傾向を認め,加療目的にて当科入院となった.左側胸部に手拳大の皮下腫瘤を認め,精査にて出血性胸膜炎と診断,手術を施行した.腫瘤は胸郭形成術後の遺残腔より連続する最大径約15cmの皮下腫瘤で,内部には陳旧性出血,凝血塊の貯留を認めた.術後経過は良好,術後第14病日に退院,以降再発は認めていない.出血性胸膜炎は結核治療後の慢性膿胸症例などで認められる非常に稀な晩期合併症である.治療に難渋する場合も多く,本症が疑われる場合では,遺残腔との連続性および流入血管の状況などを的確に把握することが重要で,遺残腔に感染を認めない胸壁外進展型では過大手術は避け得ると考える.
  • 中村 徹, 豊田 太
    2006 年 67 巻 5 号 p. 998-1000
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,女性. 41歳時に右乳癌手術既往あり.不正性器出血を主訴に初診し,子宮頸癌と診断され婦人科入院.胸部X線上左胸水貯留を認め,画像上癌性胸膜炎を疑った.胸水穿刺細胞診で確定診断に至らず,胸腔鏡検査施行.肥厚した壁側胸膜より組織採取を行い,病理診断の結果,乳癌再発と判明.子宮癌に対して放射線化学療法,乳癌に対して内分泌療法を開始した.複数の原発巣を持つ悪性胸水症例の診断において,局所麻酔下胸腔鏡検査は有用である.
  • 岡田 晋一郎, 石田 博徳, 山田 典子, 小西 文雄
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1001-1004
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は40歳,女性.人間ドックの腹部超音波検査で右副腎腫瘍を疑われ,腹部CT検査では右胸腔内に発生した径35×25mm大の充実性腫瘍を指摘され,当院呼吸器外科を紹介された.腫瘍マーカーは正常だった.手術は胸腔鏡補助下に施行し,術中所見は右横隔膜内に弾性軟の3cmの腫瘤を認めた.主に超音波凝固切開装置 (LCS) を用いて壁側胸膜と横隔膜筋線維を切開剥離し,腫瘤を摘出した.術中に被膜の損傷があり,内部からクリーム状の混濁した内容液が流出し,嚢胞であると判明した.病理組織所見では嚢胞壁は気管支上皮で覆われ,軟骨や気管支腺も含むため,気管支原性嚢胞と診断された.気管支原性嚢胞は主に縦隔や肺内に発生する先天性嚢胞で,横隔膜に発生することは稀で,本邦では9例の報告をみるのみである.今回われわれは,腹部超音波スクリーニング検査で発見し,胸腔鏡補助下に切除した右横隔膜気管支原性嚢胞を経験したので文献的考察を含め報告する.
  • 桂田 純二郎, 河村 正敏, 坂本 信之, 町田 健, 菅野 壮太郎
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1005-1009
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,男性.突然気分不快,冷汗出現したが軽快せず,救急車にて来院.来院時収縮期血圧70mmHgまで低下し,ショック症状を呈していた.胸腹部CT施行にて,腹水の貯留,胃角部背側に動脈瘤を認め,また腹腔穿刺にて血性腹水を確認し,動脈瘤破裂による出血性ショックと診断した.昇圧剤使用後も血圧は上昇せず,緊急手術に踏み切った.開腹時,腹腔内には約3,000mlの血液がみられ,凝血塊が左胃動脈瘤を中心に腹腔内に広がっていた.動脈瘤を切除し,手術を終了した.術後は順調に回復,第17病日に限院となった.摘出標本の病理組織所見では, Segmental arterial mediolysis (SAM)による左胃動脈瘤破裂と診断された.腹部内臓動脈瘤は比較的稀な疾患であり,近年この成因にSAMという概念が提唱されている.今回,われわれはSAMによる左胃動脈瘤破裂の1例を経験したので報告した.
  • 下地 克正, 國吉 幸男
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1010-1013
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は77歳の男性で, 2001年10月下旬,飲酒後転倒し,頭部打撲.意識障害で近医へ救急搬送となった.脳挫傷,急性硬膜外血腫で緊急手術を行ったが,術後,意識障害は改善しなかった. 2002年1月にリハビリ目的で当院へ転院.嚥下障害の改善は認めなかったため,同年5月に経皮内視鏡的胃瘻造設術 (PEG) を施行した.術後経過は良好であった. 2002年9月に胃瘻より経管栄養の注入が不能となった.胃瘻挿入部位に発赤を認め,周囲が軽度隆起していた.上部消化管内視鏡検査を施行したところ,内部バンパーは認めず,胃瘻造設部位に浅い潰瘍を伴った隆起性病変を認めたため,バンパー埋没症候群と診断.胃瘻を抜去し,胃内視鏡で確認しながら腹腔外より胃瘻チューブを挿入した.交換後の経過は良好であった.今回われわれは, PEGの合併症のバンパー埋没症候群を経験した. PEG後は,バンパー埋没症候群の可能性を念頭に置き胃瘻チューブの十分な管理,観察を行うことが重要と考えた.
  • 楳田 祐三, 田中屋 宏爾, 竹内 仁司, 村上 一郎
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1014-1017
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胃形質細胞腫は本邦でも報告が増えつつあるが,術前に病理組織診断までがなされることは稀である.今回,術前診断しえた胃形質細胞腫を経験したので報告する.症例は71歳,男性,検診の胃造影検査で指摘された異常陰影の精査を目的に当科を受診した.胃内視鏡検査では,前庭部大彎にイモムシ状隆起を,胃角部大彎に周囲が浮腫状に隆起したびらんを認めた.胃角部病変の超音波内視鏡検査では第二層の肥厚および第三層との融合像を認め,粘膜深層に向かって発育する深達度SMの腫瘍性病変を考えた.それぞれにstrip-biopsyを施行し,粘膜層から粘膜下層にかけてRussel body, Dutcher bodyを伴う形質細胞の増生を認めた.生検組織の免疫染色ではIgA (λ鎖)のグロブリン産生性を示していた.胃形質細胞腫と術前診断し,幽門側胃切除術を施行した.最終病理診断は術前同様胃形質細胞腫と診断された.現在,術後13年目になるが再発なく生存中である.
  • 飯塚 一郎, 平石 守
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1018-1022
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.平成2年7月,前庭部の2型進行胃癌に対して幽門側胃切除術を施行した(高分化腺癌, ss, n2). CTによる経過観察で大動脈周囲にリンパ節転移がつぎつぎに出現した.これらは領域が限局しており,増大が緩徐であり,リンパ節以外の転移がみられなかったため切除を行った.計4回の転移リンパ節に対する手術の時期は,それぞれ胃切除術の2年2月, 3年4月, 4年6月, 7年4月後であり,切除領域はそれぞれ16 b1 lat, 16a2 lat, 16b1+b2 lat, 16b1+b2 intであった.いずれの手術後も患者の回復は良好であった.患者は,最終的には縦隔,頸部のリンパ節再発のため胃切除術後12年4月後に死亡したが,この長期生存に再発リンパ節に対する手術が寄与したと考えられた.胃癌のリンパ節再発に対して,外科的切除が有効であった稀な例として報告し,その理由について考察した.
  • 茶谷 成, 前田 佳之, 布袋 裕士, 田原 浩, 三好 信和
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1023-1027
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性.虫垂切除術,胃全摘術の開腹既往あり. 5年前から腹痛を訴えるも,原因不明にて加療されていた.腹痛を主訴に当院を受診. CTにて腸間膜の血管を中心として小腸が渦巻き状に巻き込まれるwhirl signが認められ,小腸軸捻転症と診断された,保存的に加療され,症状軽快し一旦退院するも,その後腹痛を訴えて来院し, CTにて再度小腸軸捻転症と診断された.捻転解除のために開腹手術を施行したところ,回腸が反時計回りに180度捻転していた.小腸に血行障害はなかった.軸捻転は癒着や異常索状物,腸回転異常などに起因せず,原発性小腸軸捻転症と診断された.捻転を解除し,小腸同士を縫合固定した後,腸間膜の固定のために腸間膜にバルーンカテーテルを通し,カテーテル末端を腹壁から出し,閉腹して手術を終了した.術後経過は良好で,退院後に外来にてバルーンカテーテルを抜去し,その後再発を認めていない.
  • 益澤 徹, 福崎 孝幸, 柴田 邦隆, 富永 修盛, 立石 秀郎, 小林 哲郎
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1028-1032
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    今回われわれは診断治療に難渋した腸結核の1例を経験したので,これを報告する.症例は57歳,男性で,平成17年2月より食欲不振が出現し,胃潰瘍の診断にて当院内科外来に通院していた. 4月28日に下血を認め,下部消化管内視鏡を施行したところ,回盲部に全周性病変を認め,大腸癌と診断した.同部より出血を認め,内視鏡的に止血を行った.下血が続くため,腹部血管造影を施行すると,回腸に別の出血点を認め, 5月8日緊急手術となった.病変は盲腸と終末回腸2箇所の合計3箇所に認めた.リンパ節も腫大しており,悪性リンパ腫を疑ったが,術後病理にてリンパ節に乾酪壊死とLanghans型巨細胞を認め,腸結核と判明した.腸結核は多くは肺結核からの感染といわれている.近年結核罹患率は減少傾向ではあるが,肺結核を伴わない原発性腸結核の報告もしばしばみられ,腸結核の存在を念頭においた診療が必要である.
  • 近藤 成, 坂下 吉弘, 高村 通生, 小倉 良夫, 繁本 憲文, 金 啓志
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1033-1037
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは空腸脂肪腫による成人腸重積の1症例を経験したので,報告する.症例は71歳の女性で,主訴は心窩部痛と嘔吐.造影CTにて左上腹部空腸にmultiple concentric ring signを認め,脂肪腫による腸重積と診断し,緊急手術を施行した.術中整復が不可能であり,重積腸管も壊死に陥っていたため腸切除術を行った.切除標本にて先進部に5×3×3cmの柔らかい腫瘍を認めた.病理組織検査にて脂肪腫と診断された.脂肪腫による成人腸重積報告例47例のうち,空腸に腫瘍を認めたのは7例であり, Treitz靱帯から50cm以内に脂肪腫を認めるものが多かった.本症例のようにTreitz靱帯から90cmの空腸での腸重積は稀であった.脂肪腫の術前診断が可能であったすべての症例においてCTが行われていた.整復が可能な症例は切除腸管が短い傾向にあり,整復を行うことで手術侵襲の軽減につながると考えられた.
  • 丸岡 保博, 新山 秀昭, 中原 千尋, 小川 芳明, 明石 良夫, 今村 公一
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1038-1041
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は28歳,女性.強い右下腹部痛と発熱を主訴に急性腹症の診断で当院紹介となった.右下腹部に限局する圧痛と高度炎症反応を認め,緊急CT検査にて回盲部近傍に内部に気泡と液体貯留を認める直径約8cm大の病変が認められた.虫垂炎穿孔による腹腔内膿瘍と診断し緊急手術を施行したところ,腹腔内膿瘍は認めず,回腸末端から240cm口側の小腸に嚢胞性腫瘤を認めた.嚢胞壁には膿が付着し周囲組織と癒着していた.腫瘤を含め小腸を部分切除した.病理組織検査にて腫瘤は小腸原発GISTと診断された.今回われわれは急性腹症によって発症し,術前に虫垂炎穿孔による腹腔内膿瘍と診断され緊急手術を施行した小腸原発GISTの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 岩崎 純治, 須崎 真, 安積 良紀, 高橋 宏明, 梅田 一清
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1042-1046
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    成人の腸回転異常症は通常無症状のため,他の消化器疾患の精査や開腹時に偶然発見されることが多い.今回われわれは術前に診断しえた腸回転異常症患者における急性虫垂炎の1例を経験したので報告する.症例は63歳,女性.左下腹部痛を主訴に来院.血液検査にて白血球数・CRPの軽度上昇を認め,腹部単純X線写真・CTにて右側腹部に盲腸・上行結腸を認めず,腸回転異常症が疑われた.腹痛の原因が特定できなかったため保存的治療を行ったが腹部症状・血液検査所見に改善なく,翌日のCTにて腫大した虫垂と思われる構造物と周囲の炎症性変化を認めたため,腸回転異常症に併発した虫垂炎の診断で手術を行った.
    急性腹症の診断に際しては,成人では稀であるが腸回転異常症を念頭に置くことが必要である.
  • 池田 政宣, 小野 栄治, 嶋谷 邦彦, 吉川 雅文, 宮坂 健司
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1047-1052
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    転移性卵巣腫瘍より発見された,虫垂原発杯細胞カルチノイドの1例を経験したので報告する.症例は41歳,女性.骨盤内腫瘍の診断で,当院産婦人科で両側卵巣摘出術を施行された.病理組織学的に転移性の粘液産生性腺癌であり,原発巣の検索を行った.その結果,腹部超音波検査およびCT検査で, 5cm程度の長さで虫垂の壁肥厚が認められた.虫垂腫瘍の疑いで外科紹介となり,回盲部切除術を施行した.病理組織学的には,杯細胞を含む上皮細胞が小塊状に配列し,免疫組織化学的には神経内分泌マーカーであるsynaptophysin, chromogranin Aに陽性となる細胞を認めたため,虫垂原発杯細胞カルチノイドと診断した.術後化学療法としてTS-180mg/m2, CPT-1180mg/m2の併用療法を行っているが,再発なく経過良好である.
  • 寺岡 均, 竹内 一浩, 櫻井 克宣, 竹村 哲, 新田 敦範, 筑後 孝章
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1053-1056
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は70歳の女性,右下腹部痛を主訴に当院を受診した.諸検査の結果,急性虫垂炎と診断し,腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.術後病理学的検査にて虫垂杯細胞カルチノイドと診断された.腫瘍細胞の固有筋層への浸潤を認めたため,初回手術後43日目に腹腔鏡補助下回盲部切除術を施行した.追加切除標本に腫瘍細胞の遺残は認めなかった.術後約3年経過した現在も再発の徴候は認めていない.杯細胞カルチノイドは稀な腫瘍で,腺癌と同様な悪性度を示し予後が悪いとされ,治療法,予後に関する一定の見解は定まっていない.本腫瘍に対し腹腔鏡下に手術を施行した報告例は少なく,貴重な症例であると考えられたので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 佐野 佳彦, 山川 知洋, 佐々木 学
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1057-1061
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    今回われわれは横隔膜弛緩症と胃軸捻転症を伴った巨大結腸症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.症例は62歳の男性で重度身体障害者.呼吸困難,腹痛,腹満感で入院した.胸部単純X線検査では左横隔膜陰影が不明瞭で胸腔側に挙上した消化管ガスを認めた.上部消化管造影では胃が軸捻転を伴って胸腔側に挙上していた.腹部単純X線検査でイレウス像を認めたためイレウス管を挿入したが,造影で直腸が著明に拡張しているのが認められた.以上より横隔膜ヘルニアの疑い,胃軸捻転症,巨大結腸症と診断し,入院9日目に手術を施行した.直腸・S状結腸切除術,下行結腸人工肛門造設術を行った.横隔膜にヘルニア嚢はなく横隔膜弛緩症と診断した.切除腸管は全周長さ17.5cmと拡張していたが器質的病変は認めなかった.病理組織学的所見ではMeissnerおよびAuerbach神経叢に異常を認めなかった.
  • 金澤 卓, 谷崎 裕志
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1062-1068
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は86歳,女性.直腸腫瘍を指摘され, 2005年5月16日にEMR施行した.その際,切除部において深い切開となったため,腸穿孔を疑い,絶食とし,点滴を行い,抗生剤を投与した. EMR後は腹痛はなく, vital signには著変は認められなかったが,血液検査にて白血球およびCRPの上昇が認められた.翌日の腹部・胸部CTにおいて,骨盤内,後腹膜,縦隔と腹部~頸部の皮下気腫症が認められ,内視鏡治療による直腸穿孔で生じた広範囲気腫症と診断した.本症例は高齢で心疾患を合併しており,今後の全身状態悪化・気腫の悪化の可能性が否定できないことを考慮し, 5月19日,緊急手術を施行した.手術所見では,便性の腹水は認めず, S状結腸間膜に気腫性の変化を認めた.穿孔部は,腹膜反転部やや肛門側左壁に認められ,反転部の直腸左壁から前面にかけて炎症が広がっていた.穿孔部周囲を剥離し,直腸切除術を施行した.術後,全身皮下気腫はすぐに消失した.術後34日目に退院し,現在元気に外来通院中である.
  • 遠山 信幸, 野田 弘志, 小西 文雄, 山田 茂樹
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1069-1072
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    重複胆嚢との鑑別を要した孤立性嚢胞状肝内胆管拡張症の1例を報告する.症例は63歳,男性.腹部検診目的で行った超音波検査で胆嚢頸部に接する嚢胞状腫瘤性病変を指摘された.腹部CTでは肝S5に18mm大の低吸収域と内部石灰化陰影を認め, ERCPでB5分枝の嚢胞状拡張と内部結節影を認めた.他の肝内・肝外胆管や胆嚢に異常なく,合流異常も認めなかった.嚢胞内細胞診で悪性所見はなく,結石を伴う重複胆嚢 (Gross分類のCtype) または孤立性肝内胆管拡張症の術前診断で手術を行った.胆嚢摘出後,肝S5の表面に半球状の病変を確認し,嚢胞に沿って肝実質を剥離, B5合流部まで追及後摘出した.内部に黒色石が多数存在したが,腫瘤像は認めなかった.病理検査では腫瘍性変化はなく,嚢胞壁に筋層構造は認めず,胆管系の腺管構造を伴うことから最終的には良性肝内胆管拡張症と診断した.
  • 丸山 浩高, 関谷 正徳, 呉 成浩, 高木 大志, 中山 裕史
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1073-1078
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性. 2002年6月, 4kgの体重減少を主訴に近医より当院紹介入院.左腹部に10cmの腫瘤を触れ, USにて高低エコー入り混じった腫瘤を, CTでは不均一に造影される腫瘤を示した.血管造影では空腸動脈枝に腫瘍濃染像を認めた.入院2週間後,大量下血しショックに陥り手術施行.上部空腸を左半結腸とともに切除し,腫瘍を摘出した.切除標本肉眼所見では空腸間膜に12cmの腫瘍を認め,空腸と下行結腸に浸潤していた.腫瘍の空腸浸潤部から消化管出血をきたしたと診断した.病理学的に免疫染色を用いてGISTと診断した.その後2003年6月, CTにて肝両葉に最大径70mmの多発病変を認めた.肝再発と診断し,イマチニブの内服を開始した. 2003年9月のCTでは病変は縮小し内部にfluidlevelを示した. 2004年9月のCTでは転移巣はさらに縮小,嚢胞状に変化し,最大径は35mmであった. 2005年4月のCTで造影効果を有する腫瘍を肝内に2個認め,肝転移再燃と診断しTAEを施行. TAE後,良好なリピオドールの貯留を認めた.現在のところ,良好なQOLにて生存中である.
  • 本山 一夫, 兼子 順, 安藤 正幸, 伊藤 雅史, 関根 毅, 前島 静顕
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1079-1084
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は51歳の男性で,発熱と右季肋部痛を主訴に当院外来を受診し,急性胆嚢炎を伴う胆石症の診断で入院となった.抗生剤を投与したが,解熱せず,入院時腹部CTで認めた多発性肝腫瘤が急速に増大し肝膿瘍の急性憎悪と診断した.超音波ガイド下経皮経肝膿瘍ドレナージ (PTAD) を施行したが,ドレナージは効果的でなかった.膿汁の細菌培養とアメーバ原虫の検鏡を行ったが,いずれも陰性,アメーバ血清抗体も陰性,HIV陰性であった.膿瘍は増大し全身状態が悪化したため,緊急手術(肝膿瘍ドレナージ)を施行した.術中,採取した膿よりアメーバ栄養体が発見されたためアメーバ性肝膿瘍と診断した.肝膿瘍においては,アメーバ性肝膿瘍を念頭において,抗生剤の投与が有効でない時点で,早期に血清学的検査を行い,メトロニダゾールを予防的に投与することも重要であると考えられた.
  • 金澤 寛之, 菰方 輝夫, 中村 登, 島元 裕一, 坂田 隆造
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1085-1089
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    総肝管レベルにまで達する腫瘍栓を伴った肝硬変合併胆管内発育型肝細胞癌に対して,根治切除が可能であった症例を報告する.症例は59歳,男性. B型慢性肝炎を背景肝としたS8の肝細胞癌(以下HCC) に対して数回の局所治療歴があった.今回,総肝管内の腫瘤を指摘され精査中に黄疸が出現し,内視鏡的胆道ドレナージ(以下ENBD) および経皮経肝胆道ドレナージ(以下PTCD) を併せて行った.胆管炎の制御と減黄を得た後,経回結腸静脈による門脈右枝塞栓術(以下TIPE) を行い,拡大右葉切除および肝外胆管切除術を施行した.腫瘍はS8の局所治療痕からの再発で,末梢胆管および門脈枝に直接浸潤し,胆管内腫瘍栓は胆嚢管合流部近傍にまで達していた.病理組織学的には,中分化型肝細胞癌で,非癌部は肝硬変であった.胆管内発育型肝細胞癌は広範囲肝切除を要することが多く,本症例では門脈右枝塞栓術の併施で拡大右葉切除が可能であった.
  • 福富 聡, 中川 宏治, 石塚 満, 宮崎 勝
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1090-1094
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は53歳,男性.自殺企図により刃渡り20cmの刺身包丁で腹部を刺し当院に緊急搬送された.腹部CT検査では,胆嚢内腔の高吸収域と腹腔内液体貯留が認められ,胆嚢損傷,腹腔内出血と診断した.全身状態が安定していたため保存的治療を選択した.第5病日の血液検査でT. Bil, CRP値が増加傾向を示し,腹部CT検査で胆嚢周囲の液体貯留の増加を認めたため,経皮経肝胆嚢造影により損傷部位を確認しPTGBDチューブを留置した.以後,腹腔内における液体貯留は減少し,全身状態および肝機能の増悪もみられず,第24病日に退院となった.
    腹部鋭的外傷による胆嚢損傷は極めて稀である.本邦では全例に開腹手術が行われており,合併症なく保存的に治癒したのは自験例が初めてであった.胆嚢損傷例に対しPTGBDは有効な手段であり,症例を選んで適切な管理を行えば,開腹手術は必須ではないと考えられた.
  • 前田 賢人, 伊藤 忠弘, 宮下 正
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1095-1099
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性. 9年前に当院で左上腹部に嚢胞性病変を指摘され経過観察となっていたが,しばらくして通院が途絶えていた.今回,再び嚢胞性病変を指摘され,精査目的で入院となった.脾静脈に接して膵体部上縁に位置し,周囲との境界が明瞭な多房性の嚢胞性腫瘤で,その内部にはCT上,弱く造影効果を受ける隔壁様構造を有していたが充実性部分は認めなかった.浸潤性の画像所見は認めないものの, 9年前に比べて明らかな増大を認め,粘液性膵嚢胞腺腫の術前診断の下,膵体尾部切除術を施行した.腫瘤は膵頸部から体部に基部を有し,膵外性に膨張性に発育しており,膵原発の嚢胞状リンパ管腫と組織診断された.これまで膵嚢胞状リンパ管腫の本邦報告例は自験例も含めて22例で,特に本例はたまたま9年の間隔を置いて,その緩徐な発育過程を画像上追跡しえた貴重な症例と思われたので報告する.
  • 吉岡 宏, 金治 新悟, 倉吉 和夫, 河野 菊弘, 金山 博友, 井上 淳
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1100-1105
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    稀な膵体尾部の脂肪置換を伴う膵内分泌腫瘍の2例を経験したので,本邦報告39例の文献的考察を加えて報告する.症例1は59歳,女性.検診の腹部超音波検査で膵頭部に8cmの腫瘤を指摘され入院した.腹部造影CTと血管造影で膵頭部の腫瘤は著明な腫瘍濃染像を呈し膵頭部の内分泌腫瘍と診断され,膵全摘が施行された.免疫組織学的検査ではソマトスタチンが強陽性であった.症例2は52歳,男性.体重減少と血糖コントロール不良のため入院した.膵体部の腫瘤は,造影CTと血管造影で著明な腫瘍濃染像を呈し血中グルカゴンが高値であることより内分泌腫瘍の診断にて膵体尾部切除が施行された.膵体部に約3cmの腫瘍を認め,免疫組織学的検査にてグルカゴンが強陽性であった.症例1では血管造影で膵体尾部の血管が描出され,症例2は造影CTで膵体尾部が描出された. 2症例ともERCPにて膵体部で主膵管が途絶し,脂肪に置換された膵体尾部内にラ島は残存していた.
  • 斉藤 洋茂, 杉政 征夫, 菅野 伸洋, 森永 聡一郎, 塩澤 学, 赤池 信
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1106-1110
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は49歳,男性.左側腹部痛を主訴に前医受診.画像上脾腫瘍を認め,精査加療目的で当院紹介された.腹部CT検査では脾臓内に境界やや不明瞭で不整形の腫瘍を認めた.内部濃度は不均一,一部嚢胞状で隔壁様構造を伴っていた.腫瘍の一部は膵尾部末端と接しているが膵実質に腫瘍を疑わせる腫瘤像を認めなかった. ERP検査では主膵管末梢まで変位,狭窄,途絶などの異常所見を認めなかった. FDG-PET検査では脾に強い集積を認めた.原発性脾悪性腫瘍を疑ったが,膵尾部癌の脾浸潤も否定できず膵尾部切除,脾摘出術を施行した.摘出標本の病理組織検査結果は膵尾部に発生し,脾臓へ広範に浸潤する中分化型管状腺癌だった.画像上,膵に異常を認めない場合でも脾腫瘍の鑑別診断に膵尾部腫瘍の脾浸潤を念頭におくことが必要と考えられた.
  • 須藤 泰裕, 永山 淳造, 笹田 大敬, 境 雄大, 長谷川 善枝, 佐藤 浩一
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1111-1115
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    直腸癌術後の遠隔転移検索中に発見し,腹腔鏡下脾臓摘出術を施行した脾過誤腫の1例を経験した.症例は67歳,男性で,造影USでは脾腫瘤への明瞭な血流と造影効果の遷延を認めた.超常磁性酸化鉄(以下SPIO)造影MRIでは, T2強調像で低信号を示し,周囲脾組織のみならず腫瘤内にもSPIOの取り込みを認めた.画像所見より転移性腫瘍は否定されたが, CEAの軽度高値など悪性疾患を否定できず脾臓摘出の方針となった.手術は小開腹創からの直視下操作を有効に利用し,広範な癒着があったものの鏡視下操作を完遂しえた.摘出脾の重量は110g,下極寄りに直径3cmの腫瘤を認め,組織診断は赤脾髄型の脾過誤腫であった.本症は組織型の多様性もあり,特異的な画像所見に乏しく術前診断は困難とされる.本症例も術前には診断しえなかったが,造影US検査やSPIO-MRIといった画像診断が,今後本症の診断に有用となる可能性が示唆された.
  • 藤田 繁雄, 井上 善文, 野村 昌哉, 阪尾 淳, 廣田 昌紀, 吉川 幸伸
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1116-1119
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    大腸癌の卵巣転移は比較的稀な転移形式であるが,予後不良とされている.今回異時性・同時性に卵巣転移をきたした大腸癌症例を経験したので報告する.症例1は66歳,女性.平成10年盲腸癌に対し結腸右半切除術を施行された.平成15年12月腹部膨満を自覚し,精査にて右卵巣腫瘍と診断した.単純子宮全摘,両側付属器切除術を施行した.症例2は55歳,女性.平成15年11月婦人科検診で右卵巣嚢腫を指摘された.精査にてS状結腸癌を認め, S状結腸切除,単純子宮全摘,両側付属器切除術を施行した. 2症例とも術後病理検査にてサイトケラチン20染色強陽性,サイトケラチン7染色陰性であり,大腸癌卵巣転移と診断した.症例1は術後13カ月で骨盤内再発を,症例2は術後25カ月で肺転移再発をきたし,化学療法施行中である.腫瘍の完全切除ができれば,良好な予後が期待できる症例もあるので,積極的な外科治療を行うべきであると思われる.
  • 藤岡 憲, 石榑 清, 岡村 行泰, 平井 敦, 堀場 隆雄, 伊藤 洋一
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1120-1124
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例1は67歳,男性.平成13年6月,小腸腸間膜腫瘍を切除し, gastrointestinal stromal tumor (以下GIST) と診断された.平成15年8月腹膜播種再発をきたし,同部の切除とイマチニブ治療を開始した.症例2は70歳,男性.平成16年6月,肝外側区域へ浸潤する胃体上部のGISTを認め,胃全摘,肝部分切除を行った.平成16年11月肝転移を認め,イマチニブ治療を開始した.症例3は72歳,男性.平成15年2月,穿孔性腹膜炎に対し緊急手術を行った.回腸GISTの穿孔で回腸部分切除術を行った.平成17年3月肝転移を認め,イマチニブ治療を開始した.それぞれ副作用のため200~300mgに減量したが,症例1では腫瘍の消失 (CR), 症例2では転移巣の縮小 (PR), 症例3では転移巣の嚢胞化 (PR) がみられ,いずれもイマチニブが奏効した.
  • 野島 広之, 知久 毅, 佐野 渉, 岡本 佳昭, 橋場 隆裕, 田代 亜彦
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1125-1128
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    術前にWinslow孔ヘルニアの診断にて,腹腔鏡にて整復を試みるも整復困難であり開復に移行した1例を経験したので報告する.症例は,46歳,女性,腹痛と腹部膨満を主訴に来院した.腸閉塞の診断にて入院となり,同日施行したCTにて網嚢内に腸管の存在が疑われた.イレウス管を留置するも改善せず, CTを施行したところ,回腸がWinslow孔を通して網嚢内に逸脱するWinslow孔ヘルニアとの診断が得られた.保存的治療は困難と考え,腹腔鏡下にて整復を試みるも困難であり,開腹に移行した.回腸末端から30~52cmの小腸が22cmに渡りWinslow孔を通して網嚢内に陥入していた. Winslow孔は2横指であり縫縮を施行しなかった.また,腸管の走行異常は認めなかった.腸管の壊死は認めず,腸切除を行わず用手整復を施行した.
  • 富安 真二朗, 林 尚子, 大島 茂樹, 箕田 誠司, 志垣 信行
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1129-1132
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性で,虚血性腸炎の既往があり,突然の腹痛のため,近医入院した.発症から11時間後,ショック状態となりCTにて腹腔内遊離ガスを認めたため,当院紹介入院となった.汎発性腹膜炎の診断で緊急手術施行した.回腸から直腸まで散在性に血色不良を認め, S状結腸が穿孔し,急性上・下腸間膜動脈閉塞症と診断した.直腸からTreitz靱帯より約1.6mの空腸まで切除し,人工肛門を造設した.その後,異時性の空腸穿孔が2回あり,それぞれ緊急手術施行した.残存空腸は80cmで短腸症候群となり,紹介元転院となった.
  • 繁本 憲文, 坂下 吉弘, 高村 通生, 小倉 良夫, 近藤 成, 金 啓志
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1133-1137
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,女性.平成17年3月28日より右下腹部痛,全身倦怠感を自覚していた.軽快しないため4月1日近医受診し,急性虫垂炎を疑われ当科紹介受診となった.来院時右下腹部に自発痛,圧痛,筋性防御,反跳痛を認め,鶏卵大で弾性硬の腫瘤を触知した. CT検査にて腫瘤は回盲部腸間膜に位置し,腫瘤内部にガス像を認め,膿瘍を強く示唆する所見であった.注腸造影検査にて上行結腸に明らかな腫瘍や憩室を認めず,虫垂は造影され,腫瘤とは位置が異なっていた.回盲部が膿瘍と一塊となっており,結腸右半切除術を施行した.摘出標本では回腸,上行結腸と癒着した回盲部腸間膜膿瘍を認め,回腸の末端より約3cm口側の腸間膜側に膿瘍と交通する瘻孔を認めた.肉眼,病理組織学的に,瘻孔周囲に粘膜の陥凹を認め,回腸憩室の腸間膜穿通と診断した.術後第11病日で退院となった.
  • 緒方 健一, 菊池 暢之, 土居 浩一, 石本 崇胤, 古橋 聡, 大地 哲史
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1138-1142
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    結腸間膜より発生したと思われる粘液性嚢胞腺腫で,長期にわたり経過し,多発性骨転移をおこし,急速に進行した症例を経験したので報告する.症例は62歳の女性で, 8年前より右側腹部腫瘍を自覚していたが放置.平成14年8月下旬頃より腰痛出現し, MRIにて胸椎に腫瘍を認め,さらに左胸壁に腫瘤を認めた.当科にて開腹による腫瘤摘除術,および胸壁の腫瘤摘除術を施行した.切除標本にて境界悪性型の粘液性嚢胞腺腫と診断された.術後,胸腰椎転移が増大進展し,肝転移も認めた.疼痛コントロール不良となり,モルヒネを増量するも全身状態悪化し,永眠された.本邦では,腸間膜発生の粘液性嚢胞腺腫は1例のみしか報告例がなく,海外でも数例しかない.
  • 下村 雅律, 荒金 英樹, 片野 智子, 安井 仁, 閑 啓太郎, 清水 正啓, 安川 覚
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1143-1147
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    小腸腸間膜に発生した限局性悪性腹膜中皮腫の1切除例を報告する.症例は80歳,女性.腹痛を主訴に救急受診.術後癒着性腸閉塞と診断し,保存的治療にて改善した.入院時の腹部CTで径3cmの腫瘤像を腹腔内に認め,精査施行するが確定診断に至らず,開腹生検を施行した.腫瘍は小腸腸間膜より発生した有茎性の球形の腫瘤で,茎部で切離して手術を経了した.病理組織学的所見は核小体が明瞭で核異形のみられる細胞が索状,敷石状に増生していた.免疫染色では中皮マーカーに陽性で,腺癌マーカーに陰性であった. Ki67染色ではびまん性に陽性細胞を認めた.以上より限局性悪性腹膜中皮腫と診断した.手術後1年6カ月経過した現在,再発や転移を認めていない.一般的に悪性腹膜中皮腫は予後不良であり切除可能となる報告は少ないが,本症例のように限局性であれば切除可能であり,良好な予後が期待されると考えられた.
  • 東 皓雄, 葦沢 龍人, 関根 秀樹, 橋本 大定
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1148-1152
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は88歳,女性.発熱,左下腹部痛を主訴として内科入院.入院3日目には白血球数・CRP値が低下するも,下腹部の反跳痛が出現してきた. CTにて左側結腸壁の肥厚および左前傍腎腔に遊離ガス像を認め,左側結腸後腹膜腔穿孔の術前診断により緊急開腹術を施行した. S状結腸腸間膜内から後腹膜腔に膿瘍を認め, S状結腸切除術および人工肛門造設術を施行した.切除標本では腸間膜付着部に径8mmの穿孔を認めたが,周囲粘膜には壊死性変化・憩室・潰瘍性病変などはみられなかった.また病理組織学的には腸管壁の急峻な断裂像と急性炎症所見のみを認め,特発性S状結腸穿孔と診断した.術後後腹膜腔に遺残膿瘍を認めたが,保存的治療により治癒し第54病日に退院となった.特発性S状結腸穿孔の中でも後腹膜腔への穿孔は極めて稀な病態である.しかし,自験例はCTにより後腹膜腔の遊離ガス像を証明することにより,その術前診断が可能となった.
  • 大和田 愛, 林 祐司, 安江 敦
    2006 年 67 巻 5 号 p. 1153-1156
    発行日: 2006/05/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,男性.背部の激しい疼痛を主訴に当院へ搬送された.著明な局所炎症所見,血液生化学検査結果, CT所見,切開時に認めた筋膜を含む皮下組織の広範な壊死像などから壊死性筋膜炎と診断した.未治療の糖尿病,高齢,体幹部を発症とすることなど重症化する要因を備えていたが,早期の広範囲デブリードマンによって救命できた.術後は背部に深いポケットを伴う皮膚欠損が生じたため,局所陰圧療法を行った.大きなポケットは完全に閉鎖され,わずかな植皮のみで皮膚欠損を再建できた.
    本症は早期診断,早期デブリードマンによって救命した後も,ポケットを伴う広範な皮膚欠損の創管理,再建に難渋することが多い.術後は開放創として管理することが原則となっているが,急性炎症期を乗り切った後は,局所陰圧療法によって閉鎖創として管理することも有用と思われた.
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