日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
Print ISSN : 1345-2843
ISSN-L : 1345-2843
81 巻, 8 号
選択された号の論文の40件中1~40を表示しています
原著
  • 板倉 弘明, 山田 晃正, 古妻 康之, 松山 仁, 遠藤 俊治, 池永 雅一
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1445-1451
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    目的:われわれは,皮下埋没型中心静脈ポートをエコーガイド下に鎖骨下静脈または腋窩静脈を穿刺して留置してきたが,カテーテルの筋間断裂を経験し,小胸筋経由が一因と推察した.そこで,筋間断裂例の臨床的特徴を明らかにするために検討を行った.方法: 2013~2017年にCVポートを造設した269例(鎖骨下静脈または腋窩静脈穿刺)のうち,留置後にCTを撮像した199例を対象とした.筋間断裂群(4例)と非断裂群(195例)で患者背景因子と小胸筋経由の有無,刺入点,血管描出法などについて検討した.結果:単変量解析において,小胸筋経由例(P =0.002)と,穿刺部の皮下脂肪が厚い症例(P =0.002)が有意差をもって筋間断裂を多く認めた.考察:カテーテルの筋間断裂への小胸筋と皮下脂肪厚の関与が示唆された.小胸筋経由の回避には,橈側皮静脈の腋窩静脈への合流部より中枢側での穿刺が有用である.結論:カテーテル穿刺前の解剖把握が重要である.

臨床経験
  • 恒松 雅, 石山 哲, 髙𣘺 澄加, 吉田 生馬, 大木 隆生
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1452-1460
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    背景:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が日本国内で拡大し救急要請が増える一方,院内感染を恐れ発熱患者の搬送を断る病院が相次いだ.

    目的:感染症専門医が在籍していない病床数112の市中病院におけるCOVID-19診療の目的と,消化器外科医で行った診療体制の確立について報告する.

    方法:4月6日に発熱外来を設置し,4月12日よりCOVID-19患者の受け入れを開始した.4月6日から5月15日までの診療実績を検討した.

    結果:発熱外来受診者は136人,発熱患者の救急搬入受け入れ件数は178件であった.SARS-CoV-2核酸検出検査は67件に施行し,陽性は9例であった.COVID-19専用病棟には25人が入院した.院内感染はなかった.

    結論:患者を救い,地域の医療体制を維持し,職員・家族を守り,院内感染を防ぐため,感染の動向に応じてCOVID-19診療体制を整えておくことが肝要である.

  • 吉岡 遼, 小笠原 豊
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1461-1466
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    術後補助療法としてアロマターゼ阻害剤(AI剤)を5年間投与した閉経後乳癌患者87名を対象とし,骨密度低下に対する支持療法の効果について検討した.AI剤開始前に腰椎と大腿骨頸部の2箇所で骨密度を測定し,低い方のTスコアが-1.0以下には活性型ビタミンD3製剤(D3)を併用し,-2.5以下にはビスホスホネート製剤(Bis)またはデノスマブを併用し,1年毎に再評価し支持療法を変更した.AI剤開始時に支持療法を行わなかった症例(42例),D3を併用した症例(34例),Bisを併用した症例(11例)の5年後の骨密度変化率はそれぞれ-6.11%,-3.11%,+5.04%であり,AI剤投与下においてもBisの投与により骨密度は改善していた.また,骨密度低下の臨床的危険因子を検討したところ,60歳未満でAI剤を開始した患者において有意に骨密度の低下が大きく,閉経直後の患者にAI剤を投与する場合,より配慮が必要である.

  • 井 祐樹, 関根 悠貴, 川満 健太郎, 宮野 省三, 渡野邉 郁雄, 須郷 広之
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1467-1470
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    Hartmann's手術は,縫合不全のリスクが高い場合に汎用される術式であり,二期的に直腸再吻合と人工肛門閉鎖術を行う,いわゆるHartmann's reversal手術の機会は少ない.Hartmann's reversalを施行した6例を報告する.

    6例全例が結腸穿孔に対する緊急手術例で,再手術までの平均期間は1.4年であった.6例中4例で肛門側腸管の癒着や屈曲のため自動吻合器のシャフトの挿入が困難であり,手縫い吻合を必要とした.術後,重篤な合併症はなく経過は良好であった.今回の経験から将来,Hartmann's reversal手術の可能性が考えられる症例では,遺残直腸の屈曲·癒着軽減に努めることが,手術の良好な結果につながるものと思われた.本術式は患者QOLの向上のための有用なオプションであり,今後,鏡視下手術の導入と普及により,適応拡大と成績向上が期待されるものと思われた.

症例
  • 魚谷 倫史, 松井 恒志, 星野 由維, 三輪 武史, 長田 拓哉, 藤井 努
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1471-1475
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    今回われわれは,乳頭乳輪温存乳房切除術およびインプラント乳房再建術施行後にPaget病を発症した,極めてまれな症例を経験したので報告する.症例は62歳,女性.当院で右乳癌(T2N0M0 Stage II A)に対し,右乳頭乳輪温存乳房切除術,センチネルリンパ節生検およびティッシュエキスパンダー挿入術を施行され,術後2年目にインプラントへの入れ替えが行われた.術後6年間ホルモン療法(アナストロゾール)が行われ,その後は当科定期外来受診で経過観察となっていた.術後9年目に右乳頭周囲に発赤とびらんが出現し,皮膚生検を受けたところPaget病と診断された.右乳頭乳輪切除およびセンチネルリンパ節生検が施行され,現在経過観察となっている.Paget病は比較的まれな病態であるが,乳頭乳輪を温存する場合はPaget病発症の可能性も念頭に置き,慎重に適応を検討し,術後も長期にフォローアップしていく必要があると考えられる.

  • 小野寺 雄二, 松嵜 正實, 多田 寛, 平井 一郎, 川村 博司, 仁科 盛之
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1476-1481
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は50歳,女性.左乳房腫瘤の増大を主訴に近医を受診した.左DC区域に最大径25mmの腫瘤を認め,精査の結果,T2N0M0,Stage IIAの乳癌と診断した.また,患側の大胸筋,小胸筋の欠損を認め,先天性胸筋欠損症を伴っていた.術前薬物療法を先行し,画像上腫瘍の縮小を認め,左乳房切除術とセンチネルリンパ節生検術を施行した.乳房を切除すると大胸筋(胸肋部,腹部),小胸筋はなく,肋骨,肋間筋,前鋸筋が露出したが,通常通り安全に手術を終え,経過も問題なく第6病日に退院となった.病理学的に癌の遺残は見られなかった.

    先天性胸筋欠損症は約20,000人に1例の割合で発症すると言われている.今回われわれは,その患側に乳癌が発症した極めて稀な症例を経験したので報告する.

  • 吉江 玲子, 白 英, 川本 久紀, 福田 護, 岡田 幸法, 小池 淳樹
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1482-1488
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は50歳,女性.両側乳癌(右:cStage IIIB,Luminal-HER2-,左:cStage IIA,Luminal-HER2+)の診断で術前抗癌剤治療終了後,両側乳房切除+右腋窩リンパ節郭清術+左センチネルリンパ節生検を施行した.術後治療は右胸壁鎖骨上リンパ節に放射線照射(50Gy/25回)後,Trastuzumab+TS-1投与した.術後1年で右上腕皮膚・腋窩皮膚再発(Luminal-HER2-)しLetrozoleへ変更したが,投与1年で肝転移(Luminal-HER2-)を認め,Fulvestrant+Palbociclibに変更した.開始3カ月で肝転移が進行し,肺転移も認めEverolimus+Exemestaneへ変更した.術後2年10カ月で頭頂葉に2cm程度の脳転移を認めたため,weekly Paclitaxel(wPTX)+定位放射線治療(40Gy/5回)を計画した.照射2回目にwPTX投与(2回目)を併用し,計4回照射を行った翌日,左上下肢の脱力感を自覚した.頭部造影CTで脳転移部位の腫瘍内出血を疑い即日脳神経外科コンサルトし,緊急開頭腫瘍摘出・血腫除去術を施行した.定位放射線治療中に腫瘍内出血を認めた報告例は希少であり,今回われわれは若干の文献学的考察を加えて報告する.

  • 吉川 健太郎, 城野 晃一, 神谷 紀之, 北村 創
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1489-1496
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は49歳,女性.虫垂切除術と腸閉塞の治療歴がある.嘔気を主訴に受診し,腹部CTで腸閉塞と診断し保存的治療を開始した.しかし改善が認められず,CTを再評価したところ小腸に2カ所および横行結腸に造影効果を伴う壁肥厚を認め,下部内視鏡による生検で乳癌(浸潤性小葉癌)転移と診断した.乳房診察では,左乳房が腫瘍により変形していた.針生検にて横行結腸病変と同様の病理所見であったため,乳癌小腸・大腸転移と診断した.通過障害解除目的に腹腔鏡下小腸・結腸部分切除術を施行し,術後7日で退院となった.

    乳癌の遠隔転移として消化管転移,特に小腸・大腸同時転移は発生頻度が低いと言われている.今回われわれは,乳癌小腸・大腸転移に対し腹腔鏡手術にて切除しえた症例を経験した.本症例を若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 金 敬徳, 上野 彩子, 髙松 友里, 伊藤 充矢, 川崎 賢祐, 大谷 彰一郎
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1497-1501
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    オラパリブは2018年に本邦で承認されたが,適格症例が多くはないため,その症例報告はいまだ少ない.当院で著効している2例について報告する.症例①:44歳,女性.右乳癌 T2N2aM0 stage IIIA,luminal typeで,術後2年で肺転移にて再発した.ホルモン療法,経口抗癌剤を施行後,BRCA2変異を認め,三次治療としてオラパリブを投与し,8カ月間PRを維持している.症例②:69歳,女性.両側乳癌術後で,左はT2N0M0 stage II A,luminal typeであった(右詳細不明).術後13年4カ月で腹部傍大動脈リンパ節(生検でtriple negative type),右卵巣,腹膜転移にて再発した.経口抗癌剤を施行後BRCA1変異を認め,二次治療としてオラパリブを投与し,4カ月間PRを維持している.本症例2例ともOlympiAD試験と同様にearly lineでオラパリブを投与し,良好な腫瘍縮小効果を示している.

  • 五来 厚生, 禹 哲漢, 益田 宗孝
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1502-1507
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は83歳,男性.2003年3月に前縦隔腫瘍に対して当院で手術を施行し,胸腺原発の扁平上皮癌と診断された.術後5年間無再発で経過し,終診となった.2012年10月に他院で施行されたCTで左側の胸膜肥厚を指摘され,当院紹介.CTガイド下生検で胸腺癌の胸膜播種と診断され,放射線治療を施行した.2013年12月の精査で左腋窩リンパ節,上腹部正中リンパ節,左肺上葉,小脳に転移を指摘.小脳病変に対して放射線治療を施行した後,化学療法を施行し,CRの効果を得た.しかし,2017年3月に左胸膜播種,左下葉肺転移,小脳転移を認めた.小脳病変,胸膜播種に対して放射線治療を施行し,肺転移に対して左肺下葉部分切除を施行した.2018年9月に左腋窩リンパ節再発に対して摘出術を施行.2019年7月に左側に複数の胸膜播種を認め,現在化学療法を施行中である.今回,集学的治療により長期生存を得られている胸腺癌の1例を報告する.

  • 伊藤 雅典, 野中 泰幸, 横山 翔平, 岡田 剛, 篠浦 先, 繁光 薫
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1508-1512
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は83歳,男性.発熱と歩行困難を主訴に当院へ救急搬送された.CTにて上行結腸壁肥厚と周囲腸間膜側優位にfree airが認められたため上行結腸癌穿孔と診断し,緊急手術となった.手術は右結腸切除とし,小腸横行結腸の状態も比較的良好で吻合も可能であった.術後経過は良好であったが,手術前の血液培養からグラム陽性桿菌が検出されたためClostridium属も念頭に置いて2週間の抗菌薬治療を行った.CT上も腹腔内膿瘍など指摘できず,炎症反応も低下を認めたが術後20日目に炎症再燃を認め,CTにて大動脈弓部の炎症と周囲free airを指摘され,菌血症に起因する感染性大動脈炎の診断となり,その後同部位の瘤化を認めた.血液培養は最終的にClostridium septicum (C. septicum)が検出された.C. septicumはガス壊疽などの原因となる菌であり,回盲部にも生息すると報告されている.大腸癌に起因するC. septicum菌血症の報告はあるが,これに起因する感染性大動脈瘤形成の報告は無く,稀な病態であると考えられる.

  • 永野 晃史, 丁 奎光, 花田 庄司, 宮本 光, 松田 由美, 米田 玄一郎
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1513-1518
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は75歳,男性.腹部疾患で精査中に左肺下葉の結節を指摘された.胸部CTを施行し,左肺S9に3.4×3.0cmの腫瘤を,左肺S6に1.8×1.4cm,左肺S1+2に1.2×0.8cmの結節を認めた.左肺S9の腫瘤は気管支鏡検査で扁平上皮癌と診断しえた.他の結節が同側他肺葉転移と仮定してもcT4N0M0 Stage IIIAであり,手術適応とした.術後病理検査結果で,S9は扁平上皮癌,S6は腺癌,S1+2は腺扁平上皮癌と診断された.

  • 上田 翔, 前田 賢人, 高柳 智保, 川守田 啓介, 小林 敏樹, 橋本 洋右
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1519-1522
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    Adachi分類は腹腔動脈の分岐様式の分類で,VI型28群に分類される.Adachi III型は左胃動脈が大動脈から直接分岐し,総肝動脈と脾動脈が上腸間膜動脈と共通幹を形成している型で,頻度は1.2%と報告されている.症例は70歳の女性,乳癌術後で経過観察中に軽度貧血を認め精査したところ,早期胃癌を発見した.術前multidetector-row computed tomography(MDCT)による3D-angiographyにてAdachi III型の動脈走行異常を認めた.手術は腹腔鏡下幽門側胃切除術D1+郭清を施行した.術中所見では左胃動脈は総肝動脈と脾動脈の共通幹より左側に位置していた.早期胃癌であったため左胃動脈を大動脈から分岐する根部までは追い求めず,膵上縁で露出した部位で切離し,そこから横隔膜脚までの組織をNo.9リンパ節として郭清した.経過は良好で術後9日目に退院した.Adachi III型をはじめとする血管走行異常は少なからず存在し,術前に診断することで,郭清範囲を決定し術中合併症を回避できる可能性がある.診断にはMDCTによる3D-angiographyが有用と考えられた.

  • 砂河 由理子, 金高 賢悟, 丸屋 安広, 米田 晃, 伊藤 信一郎, 江口 晋
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1523-1527
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    Kounis症候群は造影剤に対するアレルギーにて急性冠症候群を呈するものである.胃全摘後縫合不全をきたし,Kounis症候群のために治療選択に難渋した症例を経験した.症例は69歳,男性.胸部下行大動脈人工血管置換術の胃癌に対し胃全摘術を施行した.6日目に縫合不全にて緊急手術となり,食道空腸吻合部の完全離開を認めた.しかし,感染による組織の脆弱化と,食道と人工血管の癒着のため,食道断端の縫合閉鎖や経裂孔的な再吻合は困難でありドレナージのみで終了した.縫合不全部の感染コントロールが不十分であるため,再手術後食道瘻造設を検討したが,人工血管置換術,胃全摘術にて胸腹部からの血管が処理されており,頸部からの血流のみで胸部食道が栄養されている可能性があった.食道離断による遺残食道の壊死を危惧したが,Kounis症候群のために造影による評価ができず,治療方針決定に難渋した.右開胸にて食道抜去後,頸部食道瘻造設を行い重篤な感染症に至らず,遊離空腸による再建が可能であった.

  • 蒲池 厚志, 飯沼 伸佳, 北川 敬之, 秋田 眞吾, 三輪 史郎
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1528-1532
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は71歳の女性で,突然の腹痛を主訴に当院へ救急搬送された.腹部造影CTでは右側結腸間膜背側に嚢状構造と,その内部に鬱血主体の血流障害を伴った回腸を認め,絞扼性腸閉塞の診断にて緊急手術を施行した.絞扼を解除すると回盲部左側,右側結腸間膜下縁に3cmのヘルニア門を認め,同部位より空腸が起始していた.ヘルニア嚢内を観察すると,ヘルニア嚢腹側は右側結腸間膜で,背側は壁側腹膜で構成されていた.ヘルニア嚢内の十二指腸は水平脚を形成せず,ヘルニア嚢内側を下行脚から尾側に走行し空腸へ移行していた.十二指腸空回腸脚不完全回転型の腸回転異常を背景とした右傍十二指腸ヘルニアによる絞扼性腸閉塞と診断し,ヘルニア門を大きく開放し腸閉塞の再発予防を行った.嚢状構造を伴った内ヘルニアを認める場合には,腸回転異常症が背景にある可能性を念頭に置き,その病型に応じた術式選択が望ましい.

  • 高城 伸平, 牧角 良二, 福岡 麻子, 朝野 隆之, 芦川 和広, 大坪 毅人
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1533-1537
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は81歳,男性.受診3日前から左側腹部痛が出現し,消化管穿孔が疑われ当院紹介となった.左側腹部に圧痛を認め,腹部造影CTで左側腹部に周囲造影効果のある低吸収域とその内部に高吸収な線状構造物が認められた.また,3年前にも腹腔内膿瘍保存的加療の既往があり,当時のCTでも同様の箇所に低吸収域と線状構造物が存在した.3年の経過を経た腸管外遺残魚骨による腹腔内膿瘍再燃の診断となった.まずは保存的加療で,炎症の改善後に手術の予定とし,入院15日目に手術となった.手術所見では小腸近傍に膿瘍腔と思われる硬結を認め,開放すると酒粕様の内容物と長さ2cmの魚骨を認めた.癒着が高度であり,膿瘍腔を含めた前後約20cmの小腸を切離・吻合し手術を終了した.術後経過は良好で第9病日に退院となった.今回,魚骨による消化管穿孔を起こし3年の経過を経て手術を行った比較的稀な症例を経験したので,若干の文献的考察を含めて報告する.

  • 麻生 喜祥, 吉敷 智和, 小嶋 幸一郎, 正木 忠彦, 阿部 展次, 須並 英二
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1538-1543
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は盲腸癌のため開腹結腸右半切除術を施行された既往のある,73歳の男性.2カ月前に焼肉摂取後に腹痛,下痢が出現し,他院にてカンピロバクター腸炎の診断で抗菌薬治療が行われた.その後,下痢の改善を認めたものの腹痛が持続し,臍上部の皮膚に発赤を伴うようになった.CTにて消化管異物による消化管腹壁穿通の診断となり,当院を紹介受診した.開腹手術が施行されたが,術中所見では吻合部を中心に腹壁に強固な癒着が形成され,膿瘍はその口側に直径4cm程度の硬結として認識された.切開して膿瘍内を観察すると,吻合部から約5cm口側の回腸を爪楊枝が穿通し膿瘍内を通過,腹壁に到達していた.異物除去後に小腸楔状切除術を施行した.術後経過は良好で,術後8日目に退院した.消化管異物が腸管を穿通し,腹壁にまで貫通して診断された報告例は比較的稀であり報告する.

  • 前田 杏梨, 高橋 広城, 田中 達也, 松尾 洋一, 瀧口 修司
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1544-1549
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    骨髄性肉腫(myeloid sarcoma;MS)は,急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)を背景に,白血病細胞が髄外に腫瘤を形成する疾患である.われわれは虫垂に発生した非常に稀なMSの症例を経験した.自験例は診断・治療の判断が難しく,貴重な症例と思われたため報告する.症例は64歳の男性.2年前にAMLに対して化学療法を行った後,二次性骨髄異形成症候群を発症し,再度化学療法を行った.数日前からの発熱,CTで末端優位の虫垂腫大を認め,急性虫垂炎と診断した.汎血球減少,化学療法に伴う間質性肺炎に対し抗菌薬およびステロイド加療中であり,保存的加療への反応性が懸念されたため,腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.切除標本では虫垂は末端優位に腫大し,病理組織学的には同部位に大型の芽球様細胞が集簇しており,MSの診断を得た.急性骨髄性白血病患者が腹痛,発熱を呈し,画像上虫垂の腫大を認めた場合,診断かつ治療目的に早期手術の検討が必要である.

  • 須浪 毅, 北山 紀州, 中澤 一憲, 坂下 克也, 雪本 清隆, 澤田 隆吾
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1550-1555
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は80歳の男性.臍周囲の腹痛にて近医を受診し,精査目的で当院を紹介された.下部消化管内視鏡検査にて盲腸から上行結腸に2型腫瘍を2個認め,生検にて腺癌であった.盲腸癌,上行結腸癌の診断にて腹腔鏡下結腸右半切除術,D3郭清を施行した.病理所見は,盲腸癌:tub2,pT3,Ly0,V1,pN0(0/17),上行結腸癌:tub2>por2,pT3,Ly3,V0,pN0(0/17)であり,上行結腸癌の浸潤先進部にmicropapillary carcinoma成分(以下,MPCと略記)を認めた.リンパ節転移は認めず,Stage II aであったため補助化学療法は施行しなかった.術後19カ月目に肝転移を認め,その後多発性骨転移も認め,手術後2年で死亡した.MPCは高率にリンパ節転移を伴い,予後不良の組織型として乳腺のほか,膀胱,肺などで報告されている.大腸癌での症例はまれであり,文献的考察を加えて報告する.

  • 白川 賢司, 小林 弘典, 平原 慧, 久原 佑太, 久保田 晴菜, 豊田 和宏
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1556-1562
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,女性.主訴は右下腹部痛であった.腹部造影CTで上行結腸に進行癌を認め,紹介となった.下部消化管内視鏡検査を施行したところ,上行結腸肝彎曲部に内視鏡が通過困難な2型進行癌を認めた.横行結腸にポリープを6病変認め,EMRを施行した.横行結腸のポリープは,2病変は高分化管状腺癌の増生を認める粘膜内癌であり,鋸歯状腺腫が混在していた.残り4病変は鋸歯状腺腫であった.進行癌に対しては腹腔鏡補助下右半結腸切除術(D3郭清)を施行した.切除標本には8病変認め,いずれも大腸癌であった.術前のEMRの病変と合わせて,4多発鋸歯状腺腫,10多発大腸癌であった.大腸癌の10病変のうち6病変は鋸歯状腺腫が混在しており,鋸歯状腺腫が発生母地となったserrated pathwayの発生経路が考えられた.残りの4病変も同様の発生経路が推測された.以上から,自験例は大腸鋸歯状腺腫症による同時性多発大腸癌の1例であった.大腸鋸歯状腺腫症は高率に大腸癌を合併するので,今後も慎重なサーベイランスが必要である.

  • 安川 紘矢, 中田 伸司, 佐野 周生, 草間 啓, 西尾 秋人, 袖山 治嗣
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1563-1569
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は76歳の女性で,貧血の精査で撮像されたCTでの異常を指摘され当科を受診した.血液検査所見では血中HCG 194,000mIU/mlと高値を示し,腹部造影CTでは上行結腸に巨大腫瘤と十二指腸への浸潤を認め,肝臓に不整形腫瘤を認めた.上行結腸病変部からの生検では絨毛癌を認め,婦人科臓器には異常を認めなかったため,大腸原発の絨毛癌と診断した.腫瘍摘出は上腸間膜動脈への浸潤を認めたため困難であり,消化管の狭窄所見のため胃空腸吻合術,回腸横行結腸吻合術のみを施行した.術後,絨毛癌に基づいた化学療法,メトトレキサート,エトポシド,アクチノマイシンDを施行したが,癌は進行し,全身状態の急激な低下をきたし,術後約半年で緩和医療の方針となった.結腸・直腸原発の絨毛癌は非常にまれで,現在世界で22例の報告を認めるのみである.治療法の確立は無く,初診時に遠隔転移を有している場合が多く,予後は非常に不良である.

  • 藤原 玄, 橋本 瑞生, 水谷 哲之, 臼井 弘明, 西村 元伸, 坂口 憲史
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1570-1574
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は特に既往歴,内服のない68歳の男性.1週間前からの腹痛と嘔吐を主訴に受診し,造影CTにて下行結腸癌イレウスを疑い緊急で結腸左半切除術を行った.術後4日目より発熱,血圧低下を認め,精査にて縫合不全と診断し保存的治療を行った.術後21日目に縫合不全は治癒したが,発熱,低血圧は改善しなかった.また,血液検査にて低Na血症,好酸球の上昇を認めたため副腎不全を疑い調べたところ,コルチゾールは正常値であったが,ACTH:6.8pg/mlと低値であったため下垂体機能不全を疑い4種負荷試験を施行した.その結果,ACTHのみ反応不全を認めACTH単独欠損症と診断し,ステロイド投与を開始した.その後,速やかに血圧は回復し解熱を認め,血液検査でも血清Na,好酸球の改善を認めた.現在,外来にてステロイドは漸減中である.後天性のACTH単独欠損症は多くは特発性だが,術後に診断された報告は稀であるため文献的考察を加えて報告する.

  • 西村 元伸, 橋本 瑞生, 水谷 哲之, 臼井 弘明, 藤原 玄, 坂口 憲史
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1575-1582
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    直腸癌壁内転移の報告は散見されるが,結腸癌壁内転移はまれである.また,肝細胞癌や腎細胞癌は,門脈や下大静脈内に腫瘍栓をしばしば形成するが,大腸癌はまれである.結腸癌壁内転移と静脈腫瘍栓を併発した症例を経験したので報告する.症例は74歳,男性.糖尿病,高血圧にて近医に通院中であった.糖尿病増悪のため当院を紹介受診し,全身造影CTを施行された.脾弯曲部の結腸壁肥厚,下腸間膜静脈(IMV)から脾静脈(SpV)へ連なる腫瘍性病変,肝S5のSOLを認めた.下部消化管内視鏡検査にて横行結腸癌1箇所,下行結腸癌2箇所を認め,それぞれ近接していた.大腸癌3箇所,IMVからSpVへ連なる静脈腫瘍栓,大腸癌肝転移と診断し,術前化学療法を施行した.化学療法後にCT再検しcPRと判断し,結腸左半切除,膵体尾部切除,脾摘,肝S5部分切除を施行した.病理組織検査では下行結腸癌が原発巣で,他の2病変は壁内転移と診断した.IMVからSpVに腫瘍は浸潤していた.

  • 豊福 篤志, 藤本 勝士, 伊波 悠吾, 黒田 宏昭, 日暮 愛一郎, 笹栗 毅和, 永田 直幹
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1583-1591
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例1は73歳,男性.S状結腸癌の診断で腹腔鏡下切除術を施行.術後10カ月目に,転移性肺癌,肝癌に加え,右下腹部のポート挿入部腹壁に再発を認めた.全身化学療法を開始したが,腹壁再発部は増大,疼痛コントロール不良となった.術後18カ月目に姑息的手術としてポートサイト再発部の切除術を施行.全身化学療法を再開したが,状態は悪化,ポートサイト再発部切除術20カ月後に永眠した.

    症例2は42歳,女性.下行結腸癌の診断にて腹腔鏡下切除術を施行.術後36カ月目に,吻合部再発に加え,右季肋部のポート挿入部腹壁に再発を認めた.他臓器転移なく,根治的手術として再発吻合部切除術,腹壁再発部切除術施行.ポートサイト再発部切除術3カ月後であるが,無再発生存中である.

    ポートサイト再発は腹腔鏡下大腸癌切除術の稀な再発形式であり,機序に関して仮説が唱えられるが明確なエビデンスはない.今回,当施設でポートサイト再発を2例経験し,報告する.

  • 坂下 克也, 澤田 隆吾, 三浦 光太郎, 高橋 諒, 文元 雄一, 雪本 清隆
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1592-1596
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    近年新しい術中胆道造影法として,インドシアニングリーン(indocyanine green;以下ICG)蛍光法の有用性が報告されている.今回われわれは胆管と交通を有する巨大肝嚢胞自然破裂による腹膜炎症例に対し,ICG蛍光法が有用であった腹腔鏡下肝嚢胞天蓋切除術(laparoscopic deroofing;以下LD)の1例を経験したので報告する.

    症例は89歳の女性,突然の右季肋部痛のため当科に紹介受診となった.腹部単純CTで肝右葉に15cm径の肝嚢胞とともに下腹部に液体の貯留を認めた.Drip infusion CT cholangiography(以下DIC-CT)では嚢胞内への胆汁漏出を認めた.腹部打撲の既往がないため,肝嚢胞自然破裂による胆汁性腹膜炎と診断し,緊急的にLDを施行した.ICG蛍光法を用いて肝嚢胞底部の胆汁漏出部を同定しえたので,鏡視下に縫合閉鎖した.術後胆汁漏の合併は見られず,術後13日目に退院となった.

  • 吉崎 雄飛, 高林 直記, 菊池 亮佑, 小野田 貴信, 石原 行雄, 平松 毅幸
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1597-1603
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は39歳,女性.持続する右季肋部痛,嘔気を主訴に受診した.胆石性膵炎の診断にて妊娠27週4日目に消化器内科に入院となった.保存的加療にて改善を認めたが,膵炎の再燃予防のため妊娠28週0日に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.トロッカー配置を工夫し,気腹圧は通常通りの気腹圧で行い,手術は問題なく終了した.術後一時的な血清アミラーゼ値上昇,薬剤性と思われる肝逸脱酵素上昇を認めるも,術後14日目に退院した.その後,妊娠35週4日目に帝王切開にて健児を出産した.妊婦に対する腹腔鏡下手術は視野の確保,トロッカー造設の位置など工夫を要すことが多い.妊娠後期で腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した報告は本邦では少ないが,各種工夫を行うことで安全に手術を施行し得る可能性が示唆された.

  • 三頭 啓明, 西村 隆一, 宮城 重人, 元井 冬彦, 亀井 尚, 海野 倫明
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1604-1610
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,男性.5年前に他院で食道癌に対して胸腔鏡下食道切除,後縦隔経路胃管再建術を施行され,術後再発なく経過していた.食道癌術前より膵頭部に膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)を指摘されていた.嚢胞の増大を契機に精査が行われ,混合型IPMNの診断となり,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(pylorus preserving pancreaticoduodenectomy:PPPD)を施行した.胃管血流保持のため右胃動静脈,右胃大網動静脈を温存し,術中indocyanine green(ICG)蛍光法で胃管血流が十分であることを確認し,手術終了とした.食道癌術後の膵頭部腫瘍に対してPPPDを施行するにあたり,術中に画像検査で胃管血流評価を行った報告は極めて稀であり,残存胃管の血流評価に術中ICG蛍光法が有用であると考えられた.

  • 秋谷 雅之, 松木 亮太, 小暮 正晴, 鈴木 裕, 森 俊幸, 阪本 良弘
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1611-1615
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    脾動脈周囲に高度炎症を認める膵頭体部癌に対し,脾動脈合併切除を伴う膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy with splenic artery resection: PD-SAR)を行った.Indocyanine green(ICG)蛍光法を用いた脾臓と残膵の血流評価を行うと,脾臓の発光は良好であったが,残膵は断端より1cmの範囲で発光が不良であった.膵空腸吻合に伴う重大な膵液瘻を回避するために,残膵は非再建で縫合閉鎖した.術後の脾梗塞や膵液瘻を認めず,血糖コントロールも良好に経過した.PD-SARにおける残膵および脾臓の血流評価に,術中ICG蛍光法は有用と考える.

  • 佐々木 晋, 高見 裕子, 和田 幸之, 龍 知記, 嬉野 浩樹, 今村 一歩
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1616-1623
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は44歳,女性.生来健康で通院歴は無かった.2カ月前より腹満感・食欲不振を認め,呼吸苦を主訴に当院へ救急搬送となった.血液生化学検査にてHb:1.9g/dlと著明な貧血を認めた.造影CTでは膵尾部に13cm大の多房嚢胞性腫瘤が存在し,胃を圧排していた.上部消化管内視鏡検査にて膵尾部病変の胃壁への浸潤が疑われたが,胃病変の生検では悪性所見は認めなかった.超音波内視鏡検査では嚢胞内に壁在結節なく,膵粘液性嚢胞腫瘍(MCN)の胃壁穿破による上部消化管出血と診断し,貧血改善後に待機的手術を行った.腫瘤は胃壁と広範・強固に癒着しており,脾合併膵体尾部切除+胃全摘術を行った.病理組織診断では標本の一部に高度異型を呈する領域を認め,非浸潤型膵粘液性嚢胞腺癌の診断となった.腫瘍と接する胃壁には腫瘍浸潤は認めなかった.非浸潤型膵粘液性嚢胞腺癌が胃壁に穿破し貧血をきたす症例は非常に稀であり,文献的考察を加え報告する.

  • 乘松 裕, 伊藤 橋司, 竹村 信行, 三原 史規, 宮崎 秀幹, 猪狩 亨, 國土 典宏
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1624-1630
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,男性.発熱,全身倦怠感,体重減少を主訴に受診.腹部CTにて脾腫を認めた.血液検査所見および血球貪食症候群と播種性血管内凝固をきたしたことから悪性リンパ腫や血管内リンパ腫が疑われ,骨髄生検および皮膚ランダム生検を施行するも確定診断に至らず,全身状態の悪化認めた.PETにて脾臓に限局したFDG高集積を認め,脾臓原発リンパ腫を疑い,診断治療目的に開腹脾臓摘出術を施行した.術直後より全身状態の著明な改善が認められ,病理にて脾臓原発末梢性T細胞リンパ腫の診断となった.現在,化学療法を行っており,術後5カ月生存中である.脾臓原発悪性リンパ腫は,稀な疾患であり,脾臓以外に生検可能な組織を伴いにくいという点から診断に難渋することが多い.今回,血球貪食症候群と播種性血管内凝固を併発した脾臓原発悪性リンパ腫に対して脾臓摘出術が有効であった症例について,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 平井 公也, 本間 祐樹, 清水 康博, 熊本 宜文, 松山 隆生, 山中 正二, 遠藤 格
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1631-1636
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    患者は53歳,女性.尿崩症の精査時に施行したCTで偶然脾腫瘍を認めたため,当科へ紹介となった.腹部造影CTで脾臓内に不均一な造影効果を伴う最大径7.7cm大の腫瘤を認め,PET-CTで同部位に異常集積を認めた.MRIを施行したが画像所見では確定診断に至らず,悪性を否定し得ないことから診断的治療のため腹腔鏡下脾臓摘出術を施行した.病理組織学的検査で高度な炎症性細胞浸潤と紡錘形細胞の増生を認め,免疫染色ではCD21・CD35・CD23・EBER陽性を示した.以上から,脾原発のEBV関連炎症性偽腫瘍様濾胞樹状細胞性腫瘍と診断した.EBV関連炎症性偽腫瘍様濾胞樹状細胞性腫瘍は炎症性偽腫瘍と濾胞樹状細胞肉腫の特徴を持ち,EBV感染を認める稀な腫瘍である.鑑別困難な脾腫瘍においては,EBV関連炎症性偽腫瘍様濾胞樹状細胞性腫瘍も稀ながら念頭に置くべきであり,腹腔鏡下脾臓摘出術は適切な治療選択肢と考える.

  • 大西 敏雄, 米井 彰洋, 菊池 剛史, 土田 裕一, 冨永 邦彦
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1637-1642
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例1:46歳,女性.外陰部腫瘤を自覚し近医を受診し,画像検査で壁内子宮筋腫と血管筋線維芽細胞腫疑いとされ,外科的な切除を必要と判断され紹介された.壁内子宮筋腫に対しては婦人科で切除を行い,外陰部腫瘤対しては外科で腫瘍摘出術を施行した.外陰部腫瘤は病理組織学的にangiomyofibroblastoma(AMFB)と診断された.術後は合併症なく退院し,術後2年目で再発なく経過している.症例2:52歳,女性.右外陰部の腫脹を主訴に婦人科を受診.画像上は血管筋線維芽細胞腫疑いとされ,外科的な切除を必要と判断され紹介となった.原発切除を行い,病理組織学的にAMFBと診断された.術後は合併症なく退院し,術後3カ月目で再発なく経過している.今回,AMFBの2例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

  • 林 浩三, 諸星 直輝, 川原 洋一郎, 松毛 眞一, 細川 誉至雄
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1643-1647
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は66歳,女性.自己免疫性肝炎により他院に通院中であった.既往歴として,23歳時に卵巣腫瘍にて左卵巣摘出術と右卵巣部分切除術を受けている.また,卵巣手術から40年経過した時点で,卵巣癌を原発とする転移性S状結腸腫瘍に対して結腸切除術を受けており,その術後観察中のところ,胸部CTにて前縦隔に新規の結節性病変を指摘されたため当科へ紹介となった.有効な術前診断の方法がなく,治療と診断を兼ねて前胸壁合併切除を伴う腫瘍切除術を施行した.病理組織診断は先のS状結腸腫瘍と同様,卵巣癌(漿液性癌)であった.術後化学療法を行い,10年経過して無再発生存中である.卵巣癌の初回手術から40年以上を経過して,S状結腸および前縦隔へ異時性に孤立性遠隔転移の形式で再発した稀な症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

  • 澤井 美里, 木村 昌弘, 杉田 三郎, 江口 祐輝, 今神 透, 長崎 高也
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1648-1653
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は37歳,女性.当院受診4日前から不正性器出血を認めていた.下腹部痛も出現したため,当院へ救急搬送された.腹部全体に圧痛と筋性防御を認めた.血液検査でWBCの低下,CRPの上昇を認めた.CTでは中等度の腹水を認め,びまん性に小腸壁は浮腫状であった.穿孔や腸管虚血を示唆する所見は認めなかった.経腟エコーにてDouglas窩に多量の腹水を認め,腹水迅速細菌検査で,A群溶連菌による原発性腹膜炎と診断し,緊急手術とした.腹腔内は多量の膿性腹水で満たされていたが,腸管に明らかな穿孔部位は認めなかった.腹腔内洗浄ドレナージを施行し手術を終了した.入院4日目に腹水培養,膣培養からA群溶連菌が検出された.本症は稀な疾患で,特徴的な画像所見も無いことから診断に難渋することが多い.しかし,本症例では術前婦人科診察時に腹水迅速細菌検査を施行したことで,本症を鑑別に挙げ手術を施行しえた.

  • 布施 喜信, 生沼 利倫, 黒部 仁
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1654-1659
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は7歳の女児.学校検診で血尿を指摘,腎臓疾患が疑われ当院小児科を紹介受診した.腹部超音波検査で左側腹部腫瘤を認め,当科受診となった.腹部CT・MRIでは,腹部左側全体を占める最大径14cm大の境界明瞭な腫瘤を認め,内部は均一なhigh densityの脂肪成分で一部石灰化を伴っていた.奇形腫との鑑別が必要であったが,脂肪腫を最も疑い外科的切除の方針となった.腫瘤の他臓器への直接浸潤はなく,周囲組織との癒着を剥離し,摘出した.病理組織診断で脂肪腫と診断され,石灰化部は脂肪壊死と判明した.術後4年,無再発経過観察中である.小児の後腹膜脂肪腫は稀な疾患であり,小児における血尿を契機に発見された報告や石灰化を伴った症例の報告は過去になく,文献的考察を含めて報告する.

  • 栗原 重明, 村田 哲洋, 清水 貞利, 高台 真太郎, 山上 啓子, 金沢 景繁
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1660-1664
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は54歳,男性.冷汗を伴う腹痛が突然出現し,前医に救急搬送された.CTではTreitz靱帯周囲に内部出血を伴う11cm大の腫瘍を認め,十二指腸上行部や大動脈と接していた.腫瘍内出血を起因とした急性腹症と診断されて,当院へ転送となった.強い腹痛のため緊急手術も考慮したが,大動脈から直接栄養血管が流入していたことや,治療抵抗性高血圧の既往から傍神経節腫瘍が疑われた.腹痛は麻薬性鎮痛薬にて改善したため,精査を進めてから手術を行う方針とした.尿中カテコラミン値の上昇とMIBGシンチグラフィーにて腫瘍に一致したRI の異常集積を認め,傍神経節腫と診断した.術前血圧管理を行った後に摘出手術を施行し,術中,術後合併症は認めずに術後9日目に退院となった.傍神経節腫は術前診断されずに手術が行われると,周術期管理が不十分となって致死的な合併症を起こす可能性がある.急性腹症で発症する傍神経節腫は稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 鴇沢 一徳, 竹島 薫, 馬場 秀雄, 宮内 潤, 山藤 和夫
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1665-1671
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    未分化多形肉腫は四肢・体幹に好発する予後不良の軟部肉腫で,結腸癌との重複例は稀である.今回,上行結腸癌と同時に切除した後腹膜未分化多形肉腫の1例を経験したので,文献的考察も加えて報告した.

    症例は75歳,男性.右下腹部有痛性腫瘤と発熱を主訴に当院を受診した.CT・下部消化管内視鏡検査では,穿孔・膿瘍形成を伴う上行結腸癌を認めた他,十二指腸水平脚に接して4.7cm大の軟部影を認めた.十二指腸粘膜下腫瘍を疑い上行結腸癌と同時に手術を行ったところ,後腹膜腫瘍は十二指腸との連続性はなく,左腎静脈レベルの腹部大動脈腹側に接して位置し,腫瘍からの静脈が下大静脈に直接流入していた.後腹膜腫瘍は長径5.3cmで,病理組織学的には未分化多形肉腫と診断された.腫瘍床に対して術後補助放射線療法を行った.術後1年6カ月現在,無再発経過観察中である.

  • 宮川 公治, 中林 雄大, 山条 純基, 藤堂 桃子, 藤 信明
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1672-1677
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    61歳,女性.数年前から左鼠径部の腫脹を自覚し婦人科を受診していたが,10日前から大きくなり,軽度の疼痛も出現したためNuck管水腫の疑いで外科へ紹介となる.CT画像を経時的に精査すると,腫瘤は鼠径管内を外鼠径輪に向けて移動かつ増大していた.感染を伴ったNuck管水腫と診断し手術を行った.腫瘤は外鼠径輪から半分突出していた.鼠径管を開放し腫瘤を周囲組織から剥離すると,4cm大の球状で線維状の索状物が内鼠径輪の外側でblue lineに付着していた.腫瘤は子宮円索と接していたが連続は無く,陰部大腿神経との交通も不明であった.病理組織検査では神経鞘腫であった.神経鞘腫は発生母体となる神経の同定が困難であるが,経時的変化を鑑みて陰部大腿神経の陰部枝が関連するものと思われた.女性の鼠径部に発生する神経鞘腫は比較的稀なため,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 小林 敏倫, 田渕 悟, 千葉 斉一, 片柳 創, 日高 英二, 河地 茂行
    2020 年 81 巻 8 号 p. 1678-1681
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    症例は30歳,男性.3日前から持続する右下腹部痛を主訴に近医を受診,急性虫垂炎の疑いで当院を紹介受診となった.身体所見では右下腹部に限局する圧痛・反跳痛を認め,血液検査では炎症反応の著明な上昇を認めた.腹部CTでは上行結腸腹側・腹壁直下に限局した脂肪組織の濃度上昇を認め,腹部手術および腹部外傷の既往がなく,大網捻転の所見を認めないことから,特発性大網梗塞と診断した.入院後,絶食・抗菌薬による保存的で症状は改善し,第12病日に退院となった.今回われわれは,保存的加療で軽快した特発性大網梗塞の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

編集後記
feedback
Top