日本臨床外科学会雑誌
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84 巻, 7 号
選択された号の論文の29件中1~29を表示しています
第84回総会会長講演
  • 赤木 由人
    2023 年 84 巻 7 号 p. 993-1000
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    半世紀を振り返ってみても,社会の様々なことが変革・進歩し急速に発展し続けている.動き始めた時代の流れはコントロールできず,現実とのギャップを感じることがある.私たちには物事の神髄を見極めることと,未来に向けた対応力の滋養が必要不可欠となっている.成長のために過去から学ぶことで,診療・教育・研究に携わってきた自身を振り返り,変化し続けるであろう社会環境に自らも対応していくことの重要性を述べた.現代の置かれた医療環境を立ち止まって考え,自身も組織も成長し続けていくために歴史に学び,未来のことを考える機会になったら幸いである.

症例
  • 田中 智章, 黒木 直美, 菅瀬 隆信, 後藤 崇, 古賀 倫太郎, 年森 啓隆, 長安 真由美
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1001-1005
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,男性.30年前より慢性甲状腺炎に伴う甲状腺機能低下症を指摘され,レボチロキシンナトリウム水和物による補充療法が行われていた.約20年前より増大する甲状腺右葉結節に対して穿刺吸引細胞診が行われ,好酸性細胞型濾胞性腫瘍が疑われ,当院を紹介受診となった.頸部エコーでは濾胞癌の可能性も否定できず,診断的治療として手術を行う方針とし,甲状腺右葉切除術を施行した.病理検査所見では散在する腫瘍胞巣は扁平上皮細胞への分化を伴った細胞と粘液産生細胞を示し,部分的に腺腔構造も認められた.線維性間質に好酸球・リンパ球・形質細胞の浸潤が目立ち,好酸球増多を伴う硬化性粘表皮癌(sclerosing mucoepidermoid carcinoma with eosinophilia:以下,SMECE)と診断した.

    SMECEは1991年にChanらが初めて提唱し,甲状腺癌取扱い規約第8版にも甲状腺腫瘍の組織学的分類にその他の腫瘍の一つとして記載されているが,現在までSMECEとして自験例を含めた69例の報告例しかなく,非常に稀である.若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 渡邊 紗理, 今井 奈央, 東 千尋, 小川 朋子
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1006-1009
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は54歳,女性.軽自動車同士の衝突事故で受傷.救急隊接触時は意識清明,歩行可能であったが,経時的に左前胸部が膨隆し,救急車内で血圧低下を認めた.来院時,左乳房に著明な腫脹と圧痛,皮下出血斑を認めた.血圧73/36mmHg,脈拍108回/分,呼吸数27回/分とショックバイタルであった.造影CTにて左乳房内に巨大血腫と造影剤の血管外漏出を認め,左外側胸動脈分枝からの活動性出血が疑われた.循環動態が不安定な状態での全身麻酔はリスクが高く,また血管内治療では出血点まで確実に到達できない可能性を考慮し,局所麻酔下で大胸筋前面の大量血腫を除去し,ガーゼと弾性包帯で圧迫固定を行った.術翌日に圧迫を解除し止血が得られていることを確認,術後6日目にドレーン抜去し,翌日退院となった.今回われわれは,局所麻酔下での血腫除去術および圧迫止血により治癒した外傷性乳房内出血症例を経験したので報告する.

  • 島田 菜津美, 曽山 みさを, 岡本 葵, 小西 宗治
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1010-1014
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    肉芽腫性乳腺炎とは出産・授乳後2-3年に好発すると言われているが,妊娠期の発症は報告が少ない.今回,妊娠初期に肉芽腫性乳腺炎と診断され,外科的治療にて緩解した症例1例を経験したので報告する.症例は妊娠9週4日初産婦の女性.他院にて乳腺炎と診断され,抗菌薬治療が開始されるが改善なく,当院を紹介受診となった.病理組織検査にて肉芽腫性乳腺炎の診断となった.肉芽腫性乳腺炎の治療方法として,確立されたものはなく,抗菌薬や切開排膿などの外科的処置やステロイド投与が検討される症例が多い.しかし,本症例は妊娠初期であり薬物治療が躊躇される症例であったことから,seton法を用いた外科的治療を行い,産後も再燃せず経過している症例を報告する.

  • 栗原 亜梨沙, 俵矢 香苗, 柳本 邦雄
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1015-1019
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は82歳,女性.左乳房腫瘤と出血を認め,当院へ紹介受診となった.左乳房内側上部に7cmの発赤を伴う硬結と左乳輪に3mm大の皮膚瘻を認め,淡血性の排液がみられた.臨床所見から乳輪下膿瘍を疑い,発赤部位を切開し膿瘍を排出した.抗菌薬内服と創部の処置を継続し,炎症所見が改善した後に画像検査を施行した.乳房超音波検査では47mm大の嚢胞内に広基性の充実性部分を認めた.乳房造影MRIでは,左乳頭下に嚢胞性腫瘍と,周囲に不均一な信号上昇を認め,周囲組織への炎症の波及が疑われた.嚢胞内の充実性部分に対してエコーガイド下吸引式組織生検を施行し,乳癌の診断となった.全身麻酔下で外科的手術を施行した.術後病理結果は被包型乳頭癌であった.乳房膿瘍が40歳以上の比較的高齢の女性にみられる場合には,乳癌を伴う可能性も考慮し治療,検査を行う必要がある.今回,被包型乳頭癌に膿瘍を生じた乳癌の1例を経験したため,文献的考察を加え報告する.

  • 神谷 蔵人, 手島 仁, 出川 和希, 谷地 涼介, 臼田 昌広, 宮田 剛
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1020-1025
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    胸腔鏡下食道切除術中にシングルルーメンチューブが原因で気管膜様部損傷をきたし,胸腔鏡下で直接縫合を行った症例を経験したので報告する.症例は45歳,女性.胸部中下部食道癌の診断で,シングルルーメンチューブ,ブロッカーカテーテル使用による分離肺換気下に完全腹臥位胸腔鏡下食道切除術を施行,術中に気管膜様部の損傷を確認した.麻酔科医師により,気管チューブを先進し十分な呼吸管理下で胸腔鏡下に直接縫合し,ポリグリコール酸シートとフィブリン糊で被覆して修復を行った.術後第6病日に気管支鏡で閉鎖を確認,術後第8病日に抜管した.術後第12病日に急性腹症で人工呼吸器管理の上で全身麻酔下に試験開腹術を施行したが,気道に問題はなかった.シングルルーメンチューブによる挿管操作であっても気管損傷を生じる可能性があること,麻酔科と連携して十分な呼吸管理により修復は可能となることを念頭に置く必要がある.

  • 西平 守道, 井上 裕道, 有本 斉仁, 苅部 陽子, 小林 哲, 松村 輔二
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1026-1031
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    肺切除術時の片肺換気中に対側気胸を発症した2例を経験した.症例1は左上葉切除術中,シーリングテストを契機に低酸素血症を発症した.気管支鏡で挿管チューブの位置確認や吸痰を行うも改善を認めなかった.対側気胸発症を疑い,迅速に創閉鎖してポータブル胸部X線撮影を行った.右緊張性気胸を確認し,胸腔ドレナージを施行した.症例2は左下葉切除中に低酸素血症が持続したが術中原因が同定できず,術後ポータブル胸部X線で右気胸が明らかとなった.胸腔ドレナージを施行して低酸素血症は回復した.ダブルルーメンチューブ下の手術では低酸素血症に遭遇することがしばしばある.多くの場合は,痰による閉塞やチューブ位置のずれが原因である.術中対側気胸の発生は稀であるが,診断の遅れは致命的となる可能性がある.通常の対応手段で改善のない術中低酸素血症を認めた場合,対側気胸をまず疑い迅速に対応することが重要である.

  • 吉野 流世, 吉田 奈七, 安田 俊輔, 伊藤 茜, 中坪 正樹, 林 真奈実, 谷野 美智枝, 北田 正博
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1032-1037
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は57歳,女性.呼吸苦,胸痛を自覚していた.胸部CTで右胸腔内に18×13cm大の胸壁腫瘍を認め,CTガイド下経皮針生検を施行した結果,孤立性線維性腫瘍(SFT)の診断となった.CT,MRI,FDG-PET所見からは良悪性の診断が困難であった.2020年12月,胸腔鏡補助下で腫瘍摘出術が施行された.術後の病理組織学的検査の結果,紡錘形細胞がpatternlessに増殖する所見を認めた.核分裂像は16個/10HPFであり,免疫染色はCD34陽性,STAT6陽性であった.以上より,高リスク悪性SFTの診断となった,切除断端は陰性であり,外科的完全切除を施行できた.術後補助療法は施行せず,無治療経過観察中である.悪性SFTは非常に稀な疾患であり,診断基準が明確でないが,再発リスクについては様々な文献で報告されている.今回,悪性SFTと診断し,外科的切除術を施行した1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 光岡 浩一郎, 小島 史嗣, 板東 徹
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1038-1042
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は46歳,女性.2022年8月に他院の胸部単純CTで偶発的に縦隔上部に腫瘤性病変を指摘され,当科を紹介受診した.左総頸動脈,鎖骨下動脈を前後から挟み込むように2つの腫瘍が存在する稀な画像所見であった.9月の経気管支生検の結果は神経鞘腫であり,現状であれば低侵襲に切除し得ると判断してロボット支援下手術の適応とした.副半奇静脈の頭側で迷走神経の近傍に隆起する2つの腫瘍を認め,神経を温存しつつ被膜下切除を行った.さらに,頭側に小さな腫瘍を認め,最終的には3つの数珠状に連なる腫瘍が近接して存在していたと判断し,同様に切除した.摘出標本の病理診断はいずれも神経鞘腫で,悪性所見は認めなかった.皮膚病変や聴神経腫瘍はなく,家族歴もないため,多発性神経鞘腫症と診断し経過観察中である.文献的考察を加え報告する.

  • 福田 美月, 藤原 聡史, 井上 聖也, 後藤 正和, 滝沢 宏光, 西野 豪志
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1043-1047
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は75歳の男性で,胸部下部食道癌に対し,縦隔鏡下食道亜全摘術,3領域リンパ節郭清,胸骨後経路胃管再建術,腸瘻造設術を施行した.術後1日目より腸瘻から経腸栄養を開始し,縫合不全を発症したため徐々に投与量を増やしていた.術後20日目に強い腹痛が出現し,造影CTで門脈ガス血症と腸管気腫を認め,腸管壊死を疑い緊急手術を施行した.明らかな虚血所見なく,試験開腹で終了となった.術後5日目より経腸栄養を再開するも,再燃なく経過し退院した.経腸栄養に伴う門脈ガス血症,腸管気腫症は稀な合併症であり,本邦ではあまり広く知られていない.今回,われわれは食道癌術後に門脈ガス血症・腸管気腫症を発症した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

  • 前田 拓也, 鈴木 雄之典, 篠塚 美有, 横井 彩花, 鈴木 亮太, 阪井 満
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1048-1053
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は48歳の女性.以前から自覚する腹痛の増悪があり,当院に救急搬送された.腹部造影CTで胃前庭部に壁在膿瘍を認めた.入院での抗菌薬による保存治療で改善した.症状改善後の上部消化管内視鏡検査で異所性膵が疑われ,壁在膿瘍の原因と考えられた.その後症状の再燃を認め,画像上も膿瘍の完全な消失が得られなかったため,手術方針とした.幽門輪に近く,壁在膿瘍の影響で病変の境界が不明瞭なことから,腹腔鏡補助下幽門側胃切除術を施行した.有症状の異所性膵は手術適応であるが,自験例のように幽門輪に近接し,壁在膿瘍の広がりを伴う場合は幽門側胃切除術を含めた慎重な術式選択が,肝要であると考えられた.

  • 近藤 祐平, 淺海 信也, 近藤 隆太郎, 香川 哲也, 高倉 範尚
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1054-1059
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,男性.既往に高血圧,慢性腎不全ならびに来院1カ月前に心不全に対する心臓カテーテル検査の施行歴がある.腹痛を主訴に当院を受診し,腹部全体の圧痛と両側足趾に疼痛を伴う壊死所見を認めた.CTで腹腔内遊離ガスを認め,消化管穿孔による汎発性腹膜炎の診断で,緊急手術を施行した.小腸に多発潰瘍,また1カ所に穿孔部を認め,小腸部分切除を施行した.術後病理組織学的検査でコレステロール結晶塞栓症による小腸穿孔と診断した.術後21日目に退院となったが,術後49日目に消化管出血を認め死亡となった.コレステロール結晶塞栓症による消化管穿孔は極めて稀で,予後不良な疾患とされている.治療はステロイド療法など有効とする報告はあるが,確立された治療方法はない.消化管穿孔時には適切な術式選択や慎重な周術期管理が重要である.今回,コレステロール結晶塞栓症による小腸穿孔の稀な1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 三枝 晋, 浦谷 亮, 渡辺 修洋, 藤川 裕之, 毛利 智美, 広川 佳史, 田中 光司
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1060-1064
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,男性.左下腹部痛を主訴に来院.腹部理学所見では左下腹部に圧痛,軽度反跳痛を認めた.精査にて下行結腸憩室腸間膜内穿通,腹腔内出血,腹膜炎と診断し,緊急手術を施行した.開腹所見は暗赤色血性腹水を中等量認めたが,腸管内容漏出による腹腔内汚染は認めなかった.下行結腸腸間膜内血腫,腹腔内出血と診断し,血腫を含む腸間膜および約10cmの下行結腸部分切除術を行った.出血の原因が判然とせず,多発憩室を認めたため,吻合は行わず人工肛門造設術を行った.摘出標本では腸間膜内血腫を腫瘤状に触知し,腸管内腔に出血を認めなかった.病理組織学的所見は粘膜下層で動静脈の形成不整,短絡を認め,動静脈奇形と診断した.消化管動静脈奇形は,消化管出血や貧血の原因として知られているが,腹腔内出血をきたした症例は稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 利府 数馬, 猪瀬 悟史, 千葉 小夜, 窪木 大悟, 伊藤 誉, 栗原 克己
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1065-1069
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    64歳,男性.当院で直腸癌に対して腹腔鏡下低位前方切除術施行後,pT1bN0M0,pStage Iで術後外来経過観察していた.術後1年目のCTで下腸間膜動脈根部近傍の腸間膜に腫瘍が新規に出現した.精査として施行したFDG-PETで腫瘍の増大があり,集積亢進を認めたことから直腸癌再発を疑って,開腹腫瘍切除術を施行した.病理所見ではH.E.染色でspindle cell tumor,免疫染色でc-kit陰性,CD34陰性,desmin陽性であり,腸間膜原発平滑筋腫と診断した.術後1年3カ月現在,無再発経過観察中である.腸間膜平滑筋腫は稀な疾患であり,FDG-PETで集積亢進する平滑筋腫の報告もあることから,偽陽性の可能性を念頭に置いた診療を行うことが必要であると考えられた.早期直腸癌術後再発と鑑別困難なPET集積を伴う腸間膜平滑筋腫の1例を経験したため,文献的考察を含めて報告する.

  • 小松 茂樹, 今泉 健, 佐藤 彩, 山名 大輔, 笠島 浩行, 棟方 哲, 下山 則彦, 中西 一彰
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1070-1075
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    77歳,男性.前医で肛門腫瘤を指摘され,当科を受診した.直腸診では肛門管内に隆起型腫瘍を触知し,生検では粘液癌と診断された.肛門周囲の皮膚には明らかな肉眼的変化を認めなかった.肛門管粘液癌cT2N0M0 Stage Iと診断し,腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術を施行した.粘液癌であったため,肛門縁から約3cmの皮膚を切除した.病理組織検査では腫瘍周囲に連続する扁平上皮内にPaget様細胞の浸潤を認めた.免疫染色ではCK7陽性,CK20陽性,GCDFP-15陰性であり,pagetoid spreadと診断された.Pagetoid spreadの肛門側進展距離は2cmで,切除断端には腫瘍細胞は認められなかった.最終病理診断はpT3N2bM0のStage IIIcであった.肛門管癌の治療に当たる際には,術前診断がついていない場合でもpagetoid spreadの可能性を念頭に置き,十分な切除範囲を確保する必要がある.

  • 米盛 圭一, 迫田 雅彦, 平瀬 雄規, 坂元 昭彦, 大塚 隆生, 前之原 茂穂
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1076-1083
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は70歳,女性.肝右葉の単純性囊胞に対して腹腔鏡下肝囊胞開窓術を施行した.手術の7カ月後に肝囊胞出血を発症し,当院へ転院となった.囊胞が増大傾向にあり血管造影検査を行ったところ,右肝動脈後区域枝末梢から囊胞内に造影剤漏出像を認めた.前医CTで肝S8ドームと横隔膜下にも出血像があり,肝囊胞全体への動脈を塞栓する目的で,胆囊動脈より末梢の右肝動脈とA4,右横隔膜下動脈に塞栓術を行った.その7時間後に急激な血圧低下をきたしたため,塞栓術が不十分であったと判断し,再度血管造影検査を行い胆囊動脈まで含めた右肝動脈に対しコイル塞栓を行い,その後胆囊摘出術と囊胞開窓術を行った.しかし,囊胞の再増大と貧血の進行を認めたため,最終的に根治的に囊胞切除術を行った.外来で経過観察中であるが,囊胞切除後1年間再発を認めていない.肝囊胞開窓術後に遅発性囊胞出血をきたし出血性ショックを伴った稀な1例を経験したので報告する.

  • 的野 る美, 山懸 基維, 上野 晃平, 宮﨑 充啓, 松山 歩, 園田 孝志
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1084-1090
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    腹腔鏡下肝切除は2016年4月より血行再建や胆道再建を伴わないすべての肝切除術式が保険収載された.近年では,肝内再発病変や転移性病変に対しても可能ならば繰り返して肝切除を施行することで予後改善するとの報告もあり,腹腔鏡手術が選択されることもある.しかし,横隔膜直下の肝上部領域(S7・S8)の腫瘍の切除は視野確保も困難で手術操作も制限されるため,技術を有する.特に,複数回の腹部手術歴のある腫瘍に対しては,開腹を選択しても癒着等で切除に難渋することが多い.今回,横隔膜直下の腫瘍に対し,過去の手術歴のために,胸腔鏡下,経横隔膜アプローチを選択し,切除を施行した肝部分切除例を経験したので,その治療成績を踏まえ,報告する.

  • 山田 裕宜, 野田 裕俊, 越間 佑介, 福持 皓介, 横井 勇真, 丸山 浩高
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1091-1096
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は24歳,男性.腹部を蹴打された直後からの強い右上腹部痛を主訴に,当院に救急搬送された.腹部造影CTにて,胆囊単独損傷と診断した.胆囊動脈から造影剤の血管外漏出を認めたため,緊急で腹腔鏡下胆囊摘出術を行った.胆囊頸部周囲に漿膜下血腫を認めたが,穿孔の所見は認めなかった.術後経過は概ね良好であり,7日目に退院となった.胆囊単独損傷は非常に稀であり,特異的な症状もないため,診断や治療に難渋することが多い.また,腹腔鏡下手術を行った胆囊損傷の報告例は極めて少ない.外傷性胆囊損傷を受傷後早期に診断・手術を行い,良好に経過することができたので,文献的考察を加えて報告する.

  • 石村 陸, 吉田 瑛司, 近藤 裕太, 村松 里沙, 及能 拓朗, 寺井 琴美, 計良 淑子, 髙金 明典
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1097-1102
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は53歳の女性.Nuck管水腫の診断で切除術を施行され,病理組織学的に子宮内膜症を伴ったNuck管水腫と診断された.初回手術から26カ月後,他疾患のフォロー目的に施行した腹部造影CTで偶発的に回盲部の壁肥厚を指摘された.診断,治療目的に腹腔鏡下回盲部切除術が施行され,病理組織学的に腸管子宮内膜症と診断された.初回手術前の腹部単純CTを確認すると,回盲部に壁肥厚を認め,Nuck管水腫と腸管子宮内膜症が併存していたことが明らかとなった.Nuck管水腫は,Nuck管内やその近傍の鼠径部,あるいは女性生殖器に子宮内膜症を併存するとされるが,その他臓器への併存は報告がない.自験例から,Nuck管水腫に併存する子宮内膜症は腹腔内の他臓器にも発症する可能性が示唆され,Nuck管水腫診療において,術前,術中の腹腔内検索を考慮する必要性があると考えられた.

  • 松田 崚佑, 大西 直, 足立 真一, 藤江 裕二郎, 上島 成幸, 桧垣 直純
    2023 年 84 巻 7 号 p. 1103-1107
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は78歳,男性.右鼠径部膨隆を主訴に受診した.14年前に両側鼠径ヘルニアに対してMcVay法による修復術の既往があった.腹部CTで膀胱の一部が鼠径靱帯の尾側,大腿静脈の内側から脱出しており,大腿輪をヘルニア門とした膀胱ヘルニアと診断しtransabdominal preperitoneal repair(TAPP)で修復を行った.膀胱が大腿輪に嵌入しており,膀胱を損傷しないように剥離を進め,ヘルニア囊を牽引すると膀胱,ヘルニア囊が還納された.術後経過は良好で術後2日目に退院し,術後1年の時点で無再発が確認された.膀胱ヘルニアの多くは直接鼠径ヘルニアとして発症し大腿ヘルニアとしての発症は非常に稀である.術前診断が困難である上にしばしば還納困難であり,膀胱損傷を起こし得る.腹腔鏡下に安全に修復することができたが,解剖学的ランドマークに沿った剥離が膀胱への損傷を防ぐために重要である.

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編集後記
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