日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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ISSN-L : 1345-2843
80 巻, 8 号
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症例
  • 吉岡 遼, 小笠原 豊
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1437-1442
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    今回われわれは機能性副甲状腺嚢胞を2例,非機能性副甲状腺嚢胞を1例経験したので報告する.症例1は45歳の男性で,CTで左頸部腫瘤を指摘され紹介された.高Ca血症・高PTH血症を認め,エコーで甲状腺左葉下極背側に4.3cmの嚢胞性腫瘤を認めたため,機能性副甲状腺嚢胞の診断にて左下副甲状腺摘出術を施行した.症例2は73歳の女性で,尿管結石加療目的に紹介された.高Ca血症・高PTH血症を認め,エコーで甲状腺右葉下極尾側に3.4cmの嚢胞性腫瘤を認め,穿刺にて茶褐色の内容液が採取され,高感度PTHが高値であったため,機能性副甲状腺嚢胞の診断にて右下副甲状腺摘出術を施行した.症例3は29歳の女性.8年前から頸部腫瘤を自覚し,血液検査ではCa,intact-PTHとも正常値で,エコーで甲状腺左葉下極に接して3.6cmの嚢胞を認めた.穿刺にて透明の液体が採取され,高感度PTHが高値であったため,非機能性副甲状腺嚢胞と診断した.穿刺後頸部腫脹は消失し,再貯留なく経過している.

  • 岡野 高久, 藤原 克次, 夜久 均
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1443-1448
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は92歳の超高齢男性.当院整形外科で右脛腓骨近位端骨折に対して右下腿内側部切開でプレート固定術を施行した.術後3週目に創部離開した.形成外科で同皮膚欠損部に対し内側腓腹筋弁と局所陰圧持続療法後に植皮術を施行したが肉芽形成不良であった.下肢血管造影CTで腸骨動脈領域と下肢動脈に及ぶ多数の高度狭窄を認め,下肢動脈硬化症多分節性複合病変と診断した.当科にて救肢目的で可及的早期に血行再建が必要と判断し,左外腸骨動脈―右膝窩動脈バイパス術を施行した.バイパス術後6日目に左外腸骨動脈狭窄部と総腸骨動脈狭窄部にステント留置を行った.ABIは改善し,潰瘍部の肉芽増生は良好で,術後3週目に皮膚移植術を行い創閉鎖した.今後,増加が予測される超高齢者の下肢閉塞性動脈硬化症複合病変に対して,血行再建ハイブリッド治療と形成外科医による植皮術を行う集学的治療によって良好に経過した1例を経験したので報告する.

  • 亀田 洋平, 諸星 隆夫, 古賀 大靖, 三品 善之, 安藤 耕平, 益田 宗孝
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1449-1453
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,男性.10年前に肺癌に対して右肺全摘術の既往があった.突然の呼吸困難のため当院へ救急搬送され,左気胸の診断で入院し胸腔ドレナージを開始した.右肺全摘後であることと,急性心筋梗塞など合併症を有していたことから保存的加療の方針となった.胸腔内癒着術を計6回施行したが,それでも空気漏れは停止せず,手術を行った.術前から呼吸状態不良であり術側肺換気下でも酸素化を維持できないと想定されたため,体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)を用いて手術を行った.左右大腿静脈に送脱血カニューレを挿入し体外循環を行い,左肺の気漏部分に対して肺部分切除を行った.術後は在宅酸素療法指導後に自宅退院した.低肺機能の気胸患者に対して手術を行う場合の選択肢として,体外循環の補助が挙げられる.同様の症例の報告は稀であり,本症例の経験を報告する.

  • 岡田 真典, 岡田 和大, 久保 友次郎, 中村 龍二, 藤原 俊哉, 松浦 求樹
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1454-1459
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    間質性肺炎を伴う難治性続発性気胸に対し,体外式膜型人工肺(ECMO)を用いて手術治療を行った症例を報告する.症例は66歳,女性.分類不能型間質性肺炎に対して在宅管理中,左緊張性気胸を呈して緊急入院.胸膜癒着療法や気管支鏡下気管支充填術を繰り返すも肺瘻閉鎖に至らず,手術の方針とした.術中に陽圧換気での右側気胸発症,換気量確保困難の危険性が懸念されたため,ECMOを用いた呼吸循環管理を予定した.その導入や管理について関連診療科・部署と十分に協議した後,手術を施行.まず,血管造影室で静脈脱血-動脈送血のECMOを確立.手術室へ搬送し,右半側臥位で胸腔鏡補助下ブラ切除術を行った.術後は手術室でECMOから離脱し,術後3日目に胸腔ドレーンを抜管できた.難治性続発性気胸の手術では,術中呼吸循環管理が問題となる.ECMO併用という経験の乏しい手術を円滑かつ安全に遂行する上で,関連部署との連携は不可欠であった.

  • 村川 力彦, 大野 耕一, 倉谷 友崇, 桒原 尚太, 和田 秀之, 加藤 航平
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1460-1464
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,男性.胸部下部食道癌の診断とされ,術前化学療法としてDCF療法を施行後,胸腔鏡腹腔鏡下胸部食道亜全摘術を施行した.再建は胸骨後経路頸部食道胃管再建を行った.術後反回神経麻痺を認めず,嚥下に問題もないため,術後7日目に経口摂取を開始した.術後9日目に嘔吐し,胸部X線上,胃管の拡張を認めた.経鼻胃管を挿入し症状は改善したが,経鼻胃管抜去により胃管拡張が再発した.CT上,胃管の捻じれはなく,たわみによる胃管の屈曲と診断した.一時的にself-expandable metallic stent (SEMS)を留置し,症状は改善し経口摂取可能となった.その後,頸部食道胃管吻合部狭窄を認め,内視鏡的拡張術を施行.狭窄が改善した後,ステント留置41日目にステント抜去した.ステント抜去後も胃管拡張なく経過.術後14カ月,胃管拡張,食道癌の再発なく経過している.

  • 小関 優歌, 鈴木 佳透, 藤崎 洋人, 瀨尾 雄樹, 原 良輔, 高橋 孝行
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1465-1469
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,男性.吐血を主訴に受診した.受診時CT検査で胸部下部食道周囲および下縦隔にfree airを認め,特発性食道破裂の診断となった.発症早期でfree airが限局していたことから,緊急で腹腔鏡下縦隔ドレナージ,縫合術を施行した.6portで手術を行い,腹水などは認めず,横隔膜を切開して下縦隔を開放すると胸部下部食道に2cmほどの瘻孔を認め,穿孔部と考えられた.洗浄後,穿孔部周囲をトリミングした後,3-0吸収糸で穿孔部を全層一層で縫合閉鎖した.リークテスト陰性を確認し,左横隔膜下および食道縫合部にドレーンを留置し手術終了とした.術後13日目に胃管造影で縫合不全のないことを確認し飲水開始,ドレーンは順次抜去し,術後24日目に退院とした.今回,われわれは特発性食道破裂に対して早期の腹腔鏡下縦隔ドレナージと食道縫合術を行い良好な術後経過を得られた1例を経験したため,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 夏越 啓多, 定永 倫明, 小齋 啓祐, 吉田 倫太郎, 本坊 拓也, 松浦 弘
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1470-1474
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は89歳,男性.検診の上部消化管内視鏡検査で,胸部食道に0-II c病変を認め,生検で中分化型扁平上皮癌と診断された.胸部食道扁平上皮癌(T1bN0M0:Stage I)に対し,年齢を考慮し,根治的放射線治療(60Gy)を施行し,その後の内視鏡検査で再発を認めず経過していた.治療終了約1年後に腹痛が出現し,CTで小腸の腫瘤性病変による腸閉塞と診断され,緊急手術を施行した.回腸に腫瘍性病変を認め,同部より口側小腸の拡張を認め,また腫瘍より肛門側の回腸にも結節性病変を認め,同部を含め小腸切除術を施行した.病理組織は腫瘍性病変・結節性病変ともに扁平上皮癌であり,食道扁平上皮癌の小腸転移と考えられた.本症例は食道表在癌に対して根治的放射線治療が奏効したが,その後の再発として小腸転移による腸閉塞をきたした.放射線単独療法では,食道表在癌症例であっても,原発巣以外の再発にも留意した経過観察が重要と考えられた.

  • 高橋 政史, 高木 章司, 原田 昌明, 黒田 雅利, 山野 寿久, 池田 英二
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1475-1480
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は73歳,男性.食道胃接合部癌に対して胃全摘術(D2郭清,Roux-en-Y法再建),胆嚢摘出術を施行した.病理診断は2病変を認め,U,Less,neuroendocrine carcinoma with adenocarcinoma,ypT3(SS),int,ly1,v2,pPM0,ypN1,ypStage II BとM,0-II a,tub1,ypT1a(M),ly0,v0,pDM0だった.術後7カ月で脾腫瘤が出現し,腹部CT,PET/CTから孤立性脾転移と診断し,脾臓摘出術を施行した.脾腫瘤は胃癌病変と類似しており,病理所見からも孤立性脾転移の診断だった.現在,脾臓摘出後27カ月で無再発生存中である.胃癌術後孤立性脾転移の報告は稀であり,文献的考察を加えて報告する.

  • 園川 卓海, 北 健吾, 高橋 周作, 田中 友香, 大野 陽介, 市原 真, 石津 寛之
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1481-1486
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は71歳,男性.食思不振を主訴に前医を受診し,食道胃接合部癌と診断された.精査中に全身に多発する緊満性水疱,びらんが出現し,精査目的に当院へ紹介.皮膚生検で水疱性類天疱瘡と診断され,蛋白漏出に伴う低蛋白血症も伴っていた.臨床経過から悪性腫瘍のデルマドロームとして水疱性類天疱瘡の発症が疑われた.皮膚症状のコントロール目的にステロイド投与および栄養介入後,下部食道-噴門側胃切除術を施行した.病理診断は乳頭腺癌,pStage III Aであった.現在,術後約4カ月であるが,再発は認めていない.また,皮膚症状や低蛋白血症は改善傾向である.水疱性類天疱瘡と悪性腫瘍の合併はしばしば報告されているが,その関連に一定の見解が得られていない.本症例はステロイドへの反応も良好であったが,腫瘍切除後に皮膚症状はさらに改善した.強い関連が示唆された症例であり,臨床経過を治療戦略とともに考察する.

  • 白井 大介, 久保 尚士, 櫻井 克宣, 玉森 豊, 前田 清
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1487-1491
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は70歳台,女性.糖尿病性慢性腎不全にて維持透析中で,狭心症にて冠動脈バイパス術の既往あり.上部消化管内視鏡検査にて胃前庭部に粘膜下層浸潤を示唆する早期癌を認めた.腹部CT検査で腹腔動脈,脾動脈,短胃動脈などに広範囲の石灰化を認めた.手術は腹腔鏡下に幽門側胃切除,Billroth I法再建を施行した.術後の上部消化管内視鏡検査で残胃粘膜の広範囲壊死を認め,造影CT検査では胃壁の造影不良,断裂を認めたため,残胃壊死と診断し術後13日日に残胃全摘術を施行した.しかし,再手術後に十二指腸断端の縫合不全を発症し,全身状態の悪化により,初回手術より23日目に死亡した.自験例は脾動脈,短胃動脈の広範囲な石灰化が残胃壁の血流低下,壊死を引き起こした一因と推測された.胃切除後の残胃壊死は非常に稀な合併症であるが,一旦発症すると重篤な経過を辿ることが多く,早期診断,早期再手術が肝要と考えられた.

  • 梅田 響, 山野 寿久, 工藤 泰崇, 黒田 雅利, 高木 章司, 池田 英二
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1492-1496
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,男性.3週間前から体動時の腹痛を自覚していた.腹部に移動性のある約8cm大の腫瘤を認めたため,精査目的に当院に紹介された.腹部CTでは腫瘤は胃壁に接しており,壁外発育型の胃GISTが疑われた.その数日後,吐血をきたしたため腫瘤破裂と考え,緊急手術を行った.手術所見としては胃幽門部大彎から連続する表面平滑な腫瘤を認め,術中内視鏡検査では胃角部後壁に2型病変を認めた.壁外発育型GISTと胃癌の合併と考え,幽門側胃切除術(D2)を行い,術後経過は良好であったが,病理検査で胃癌およびそのリンパ節転移と判明した.最終診断は幽門部胃癌pT2(MP)N1M0 Stage II Aで,単発のリンパ節転移であった.現在,1年8カ月無再発生存中である.胃癌が単発で巨大なリンパ節転移巣を形成することは比較的稀で,経験例と併せて若干の文献的考察を加え報告する.

  • 光井 恵麻, 横山 伸二, 佃 和憲, 沖田 充司, 山本 澄治, 池谷 七海
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1497-1500
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は70歳,男性.改善しない下腹部痛を主訴に当院外来を受診.膀胱癌に対し46歳時に左腎尿管全摘術,54歳時に膀胱全摘術・回腸を使用した人工膀胱作成術を施行された既往があり,回腸は機能的端々吻合で再建されていた.腹部CTでは,回腸切除後再建部が嚢状に拡張し内容物が停滞している所見が認められblind loop syndromeと診断,腹部症状の改善がないため入院3日目に手術を施行した.腹腔鏡所見でも右下腹部に嚢状に異常拡張した腸管を認めた.拡張腸管を部分切除し端々層々吻合による再建を行った.以降は再発なく経過している.Blind loop syndromeは機能的端々吻合部に発生することは稀とされているが,機能的端々吻合後の合併症として留意すべきであり,腹部症状を伴う場合は手術加療が必要であると考えられた.

  • 福富 俊明, 佐藤 明史, 千葉 裕仁, 板倉 裕子
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1501-1507
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は87歳,女性.検診にて便潜血陽性となり,大腸内視鏡検査にて横行結腸脾彎曲部に2/3周性の2型腫瘍を認め,生検にて低分化腺癌の診断に至った.CT検査ではリンパ節転移や遠隔転移を認めなかったが,原発巣は造影効果を伴う不整な壁肥厚や漿膜面に不整な凹凸を認め,深達度SS以深と診断した.開腹による横行結腸部分切除を施行した.切除標本では腫瘍が存在したと思われる部位に潰瘍を認め,術前検査で認められたような2型腫瘍は存在しなかった.病理検査では潰瘍部に高度の炎症性細胞浸潤や線維化を認めたが,癌細胞は検出されなかった.術後1カ月半で大腸内視鏡検査を行ったが,腫瘍の遺残は認められず,術後4年半経過したが再発徴候は認めていない.生検検体の免疫染色においてCD8陽性Tリンパ球の腫瘍周囲への浸潤を認めたことから,腫瘍消失の機序として腫瘍免疫の関与を推定した.

  • 杉本 敦史, 福岡 達成, 永原 央, 渋谷 雅常, 井関 康仁, 大平 雅一
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1508-1512
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    腹腔鏡下大腸癌手術後の門脈血栓症は稀であり,抗凝固療薬の選択や投与期間の基準はない.腹腔鏡直腸癌手術後の門脈血栓症に対し,ダナパロイドナトリウムが奏効した症例を報告する.症例は59歳,男性.下部直腸癌T1bN0M0,cStage Iに対し腹腔鏡下括約筋間切除術と回腸人工肛門造設術を行った.退院後の術後29日目の血液検査で肝機能障害を認め,造影CT検査で門脈血栓を認めた.ダナパロイドナトリウムを投与し2週間で血栓は消失した.ワーファリンによる維持療法で血栓再燃はない.腹腔鏡手術での腹腔内圧上昇,高CO2血症,頭低位による門脈血流低下が原因と推察された.腹腔鏡手術後の門脈血栓症診療の一助となると考える.

  • 野渡 剛之, 黒田 順士, 古屋 欽司, 小澤 佑介
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1513-1518
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は60歳,女性.主訴はなし.血液検査上CEA高値を契機に腹部造影CT検査を施行され,下部直腸左側に5cm大の腫瘍を指摘された.精査で直腸消化管間葉系腫瘍もしくは肛門挙筋由来の神経原性腫瘍と診断し,腹腔鏡下腫瘍切除術を施行した.腫瘍は直腸や直腸間膜との連続性を認めず肛門挙筋と連続しており,肛門挙筋を一部合併切除し腫瘍を摘出した.摘出標本の免疫染色で,平滑筋腫と診断された.腹腔鏡による拡大視効果と視野の共有により,骨盤深部における腫瘍と下部直腸との非連続性を容易に確認でき,腹腔鏡手術が有用と考えられた1例であった.また,傍直腸腔(挙筋上腔)に発生する平滑筋腫は極めて稀であり報告する.

  • 糸川 凜, 萩原 悠介, 木村 俊郎, 豊木 嘉一, 遠藤 正章, 楠美 智巳
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1519-1524
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は70歳,女性.右側腹部痛を主訴に近医を受診した.肝に腫瘤を指摘され当科へ紹介となり,非典型的な原発性肝細胞癌として肝右葉切除,胆嚢摘出術を施行した.術後病理診断にて,2010年WHO分類の神経内分泌癌(neuroendocrine carcinoma:NEC)と診断した.術前の上下部消化管内視鏡検査・CT・MRI,術後のPET-CTにおいても他部位に原発巣となり得る病変は認めず,肝原発神経内分泌癌(primary hepatic NEC:PHNEC)と考えられた.しかし,2017年にWHO分類が改定され,これに則ると今回の症例はNETG3と診断される.肝原発神経内分泌腫瘍(primary hepatic neuroendocrine tumor:PHNET)は,その症例数の少なさから診断および治療方針についての十分な知見が得られていないのが現状である.

  • 柴崎 雄太, 滝田 純子, 芳賀 紀裕, 調 憲
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1525-1530
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は62歳,女性.上腹部痛,黄疸で当科を紹介受診.精査で下部胆管に腫瘤性病変を認めた.ERCPで生検し,Group4,下部胆管癌の診断で膵頭十二指腸切除術を施行.標本では下部胆管に膵臓への浸潤を伴う結節浸潤型の30×20×15mm大の腫瘍を認めた.病理所見ではN/C比の高い異型上皮が充実性胞巣状構造を呈しており,腺管構造は不明瞭であった.免疫染色でchromogranin A・synaptophysin・CD56が陽性,Ki-67免疫染色でMIB1 index 90%以上であり,胆管原発の大細胞神経内分泌癌(large cell neuroendocrine carcinoma;以下LCNECと略記)と診断.術後経過は良好で術後19日目に退院したが,術後3カ月でリンパ節再発し,術後約10カ月で死亡した.胆管原発のLCNECは非常にまれで予後不良であり,文献的考察を加えて報告する.

  • 加藤 宏周, 伊藤 康博, 岸田 憲弘, 戸倉 英之, 清水 和彦, 高橋 孝行
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1531-1537
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は71歳,女性.全身倦怠感を主訴に,近医で黄疸と肝機能障害を指摘され当院を紹介受診.腹部造影CT検査でgroove領域に十二指腸浸潤を伴う径30mm程度の造影効果に乏しい腫瘤が指摘され,膵頭部癌と診断された.右肝動脈が胃十二指腸動脈より分岐する走行変位を示し,さらに膵頭部腫瘤内を走行し狭窄を認め,浸潤が疑われた.血管造影を行い,肝内に左右肝動脈間の交通血管が発達していたため右肝動脈狭窄部を塞栓した.塞栓術後も肝機能悪化は認めず,6日後に右肝動脈合併切除非再建を伴う亜全胃温存膵頭十二指腸切除を施行した.肝動脈走行異常を伴う膵頭部領域癌に対しては,根治性や安全性の観点から術前の血管走行の詳細な把握とそれに応じた術式検討が重要である.本症例は右肝動脈が胃十二指腸動脈から分岐する分岐破格を認めたが,術前右肝動脈塞栓術を行うことで安全に手術を施行できた1例を経験したため,若干の文献学的考察を加えて報告する.

  • 橋之口 朝仁, 定永 倫明, 本坊 拓也, 吉田 倫太郎, 坂井 邦裕, 松浦 弘
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1538-1541
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は54歳,女性. 21年前に子宮頸癌 (Stage I B)に対して腹式単純子宮全摘術,術後放射線療法を受けた.増大傾向にある左側腹部に存在する腫瘍の精査加療目的で当院外科へ紹介となった.MRIでは左腎外側に径11cm大の嚢胞性腫瘤を認めた.外来受診時,「子宮頸癌手術時に卵巣を温存し吊り上げている」とのことであり,婦人科へコンサルトした.子宮頸癌の術後放射線療法に際して,卵巣機能温存目的に被曝を避けるため卵巣を照射野外に移動固定する術式が選択された可能性が考えられた.卵巣移動術後の左卵巣嚢腫を疑い,腹腔鏡下腫瘍摘出術を施行した.病理組織学的検査で卵巣粘液性嚢胞腺腫 (良性)と診断した.術後は順調に経過し,術後7日目に自宅退院となった.

  • 大島 由佳, 片山 知也, 奥田 耕司, 砂原 正男, 大島 隆宏, 三澤 一仁
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1542-1547
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    滑膜肉腫は軟部腫瘍の7%を占める比較的稀な腫瘍である.10代後半から30代の若年成人に好発するとされており,大関節周囲が好発部位である1).腹壁原発は全滑膜肉腫の2.6%と稀とされる2).今回,腹壁原発の滑膜肉腫を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

    症例は39歳の男性で,左季肋部痛を主訴に受診した.触診では左季肋部に3cmほどの腫瘤を触知し,圧痛も認めた.CTでは,左季肋部の腹壁から腹腔側に突出する58×52mmの境界明瞭な腫瘤を認めた.内部は不均一で,辺縁にのみ増強効果を認めたが,画像上は良悪性の判断が困難であった.有痛性でもあり,明らかな遠隔転移や他臓器浸潤を認めなかったことから切除可能と判断し,腫瘤切除術を施行した.病理組織学的検査で滑膜肉腫と診断された.滑膜肉腫は再発や転移率が高いため,術後に補助放射線治療と補助化学療法を施行し,現在も再発なく生存している.

  • 石井 健一, 吉田 信, 松田 隆志, 浅沼 和樹, 大黒 聖二, 石後岡 正弘
    2019 年 80 巻 8 号 p. 1548-1554
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/18
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,男性.胃癌の内視鏡治療後,病理所見で脈管侵襲陽性のため追加切除の方針となり当院へ入院.CT検査で腹部大動脈と下大静脈の間に径38×14mmの境界明瞭で内部不均一な腫瘤を認め,傍大動脈リンパ節腫脹や神経鞘腫などの後腹膜腫瘍を考えて,胃切除と同時摘出の方針として手術を行った.後腹膜腫瘤の周囲を操作した際,著明な血圧上昇が出現し,手術を中止して精査を行った.蓄尿検査でカテコールアミン高値,MIBGシンチグラフィーで腫瘤は高い集積を認め,パラガングリオーマと診断して,初回手術から2週間後に再手術を行った.腫瘤周囲の剥離の際に多少の血圧変動を認めたが,血管処理後には安定し,腫瘤摘出後に胃癌根治手術を行った.病理所見からパラガングリオーマと診断した.後腹膜腫瘍では,たとえ血圧正常で自覚症状がなくとも,パラガングリオーマの可能性を常に念頭に置いて診断と治療を行う必要がある.

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編集後記
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