日本臨床外科学会雑誌
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84 巻, 6 号
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令和4年度学会賞受賞記念講演
  • 松波 英一
    2023 年 84 巻 6 号 p. 843-850
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    120年間,外科中心の病院として発展してきた.4代にわたり,留学や往時の最新医学(開腹手術,輸血,民間救急車,全身麻酔,電算断層X線,腹腔鏡,コンピューターシステムによるインテリジェントホスピタル,コージェネレーションシステム,患者移送車,自動カルテ搬送ロボット,顕微授精,生体部分肝移植,等)の導入により,常によりよい医療が安全に行えるように腐心してきた.また,博士号取得,論文作成を怠らず,岐阜大学から多くの優秀な先生を招くことにより,民間病院ではあるが,学問である医学を忘れることなく切磋琢磨してきた.その結果,職員数・医師数,入院患者数,手術数,医療収入,医業業績,剖検数,等すべて漸増し,地元の医療の向上に資することができた.先の大戦,医療制度改革,コロナ禍等,多くの困難があったが,近年はコロナ慰労金を全職員に配り,親族と職員が一丸となりこれらの困難を乗り越えることができた.

症例
  • 手嶋 花梨, 細川 優子, 杤久保 順平, 森 弘樹
    2023 年 84 巻 6 号 p. 851-854
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    肉芽腫性乳腺炎に結節性紅斑を併発した2例を報告する.

    症例1:32歳,女性.乳房腫瘤,乳房痛を自覚し当科を受診した.抗菌薬の投与で改善せず,臨床経過から肉芽腫性乳腺炎に準じた状態と判断した.乳腺炎発症から24日後に両下腿に有痛性紅斑と全身の関節痛,発熱が出現した.薬疹を疑われ,抗菌薬が中止されたが改善しなかった.皮疹は組織生検で結節性紅斑と診断され,自然消退した.一方で,肉芽腫性乳腺炎は増悪し,切開排膿とステロイド投与を行い改善した.

    症例2:38歳,女性.乳房腫瘤,乳房痛を自覚し当科を受診した.抗菌薬の投与で改善せず,乳腺の組織生検から肉芽腫性乳腺炎と診断した.乳腺炎発症から22日後に下腿に有痛性紅斑が出現した.臨床所見より結節性紅斑と診断され,自然消退した.一方で,肉芽腫性乳腺炎は増悪し,切開排膿を行い改善した.

    肉芽腫性乳腺炎の治療中に有痛性の皮疹が出現した際は,結節性紅斑を念頭に置くべきである.

  • 上田 晃志郎, 松並 展輝, 菅 淳, 林 雅規, 井上 隆, 瀬山 厚司
    2023 年 84 巻 6 号 p. 855-861
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    急性乳腺炎には,乳汁うっ滞を原因としたうっ滞性乳腺炎や乳頭より細菌が感染した化膿性乳腺炎があり,産褥期に好発し高齢者の萎縮した乳腺に発症することは稀である.急性乳腺炎の所見を呈した高齢者非浸潤性乳管癌の1例を経験したので報告する.症例は77歳,女性.左乳房痛と乳頭乳輪周囲の発赤・腫脹のため前医を受診し,乳腺炎と診断され抗菌薬投与後に精査目的で当科へ紹介となった.左乳房EDBC区域に発赤を認め,左乳房DCE区域に硬結を触知した.発赤は抗菌薬により速やかに消退したが,マンモグラフィでL-MS・OSに多形性石灰化の集簇がみられ,乳房超音波検査でも左CDE領域に複数の点状高エコーを伴う乳管内充実性病変が認められた.同部の針生検でductal carcinoma with neuroendocrine featuresと診断されたため,乳房全切除術とセンチンネルリンパ節生検を行った.切除標本の病理組織診断は,約50mmの範囲に分布するnon-invasive ductal carcinoma with neuroendocrine featuresであった.術後は無治療で経過観察中である.

  • 山﨑 雅明, 押 正徳, 木村 安希, 山田 顕光, 江中 牧子, 藤井 誠志, 遠藤 格
    2023 年 84 巻 6 号 p. 862-867
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    癌化学療法において,発熱性好中球減少症発症リスクが高い患者に対してG-CSF製剤の予防的投与が推奨されるが,一方で近年,G-CSF製剤使用後の大動脈炎の合併リスクも0.47-2.7%程度に認めるとの報告もあり,重要視されている.われわれは,長期作用型G-CSF製剤pegfilgrastimの複数回投与後に大動脈炎を発症した症例を経験したので報告する.症例は53歳,女性.右乳癌に対しpegfilgrastimを併用した術前化学療法を施行した.Dose-dense(dd)EC療法4コース,dd-paclitaxel療法1コースを有害事象なく完遂したが,2コース目のpegfilgrastim投与後から発熱と右下腹部痛を認めた.2週間後にも改善を認めず炎症反応の上昇,CTにて大動脈周囲の炎症像を認め,G-CSF製剤による薬剤誘発性血管炎が疑われた.ステロイドは使用せず解熱鎮痛薬の投与のみで改善を認めた.この時点で乳癌は完全奏効が得られたため,術前化学療法は中止し手術を施行した.その後は症状の再燃を認めず,術後42日目のCTで大動脈炎の所見は消失していた.G-CSF製剤初回投与時に異常を認めなくても複数回目で薬剤誘発性大動脈炎が発症する可能性があることに留意する必要がある.

  • 松野 将宏, 平山 杏, 角岡 信男
    2023 年 84 巻 6 号 p. 868-872
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は60歳,女性.右上葉肺癌(cT1cN0M0 Stage I A3)に対して胸腔鏡下右上葉切除+リンパ節郭清術(ND2a-1)を施行.術後経過は問題なく術後4日目に退院となったが,術後12日目に血圧低下を伴う右胸痛で当院に救急搬送.心臓超音波検査で心嚢液貯留を認めた.心嚢ドレナージを施行し乳白色の排液を認め,乳糜心膜症と診断した.心嚢ドレナージと食事療法にて乳糜心膜症は改善し,術後23日目に退院.術後37日目に右乳糜胸を認め再入院となったが,胸腔ドレナージおよび食事療法・胸膜癒着療法にて改善し,術後54日目に退院となった.乳糜心膜症は肺癌術後には稀な合併症であるが,心タンポナーデにより致死的な経過をきたす可能性があり,認知しておくべき合併症である.

  • 奥田 昌也
    2023 年 84 巻 6 号 p. 873-876
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    80歳,女性.既往歴に直腸癌・胸部大動脈瘤があり,2008年に直腸癌の手術,2018年4月に弓部大動脈人工血管置換術を受けていた.直腸癌経過観察のため撮影された胸部CTで右肺胸膜直下に結節影を指摘され,当科へ紹介となった.FDG-PETでは結節に異常集積を認めず,腫瘍径1cm未満のためFDG集積偽陰性の可能性も含め経過観察とした.2カ月後に腫瘍の消失がなく,胸膜に接していることから診断加療目的に切除の方針とした.2018年11月に手術を施行し,術中所見では白色の結節が周囲毛細血管増生を伴い胸膜表面に存在していた.肺楔状切除を行い,摘出標本を確認したところ白色の硬い結節で,骨蝋と酷似しており胸腔内異物の診断で手術を終了した.最終病理でも胸腔内異物となり,以前の胸部手術時の遺残と思われた.転移性肺腫瘍と鑑別を要した胸腔内異物の1例を経験したため,これを報告する.

  • 根本 幸一, 三浦 昭順, 植野 広大, 篠原 元, 齋藤 賢将, 鈴木 邦士
    2023 年 84 巻 6 号 p. 877-883
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    78歳,女性.2018年9月につかえ感を自覚.精査の結果,胸部食道癌(Lt,Type-3,T4bN2M0,Stage IVa)の診断となった.2018年12月より術前化学療法を施行し,加療後は胸部食道癌(Lt,Type 5b,cT3N2M0,cStage III)の診断となり,2019年3月に食道癌根治術を施行した.2020年10月に急激な視力低下の出現を認めた.各種眼科検査から癌関連網膜症(CAR)の臨床所見と一致していたため,臨床的にCARと診断した.CARを契機にCTを施行,縦隔リンパ節の106preの増大を認め,生検を施行したところ扁平上皮癌の所見であり,再発転移の診断となった.再発転移に対して化学放射線療法(CRT)を施行した.CRT後の評価目的のCTでは106pre のリンパ節は縮小し,PET 検査でも集積を認めなかった.眼所見も視機能は改善傾向の経過をとり,増悪なく経過している.

    食道癌によるCARの報告は極めて稀である.今回われわれは,CARを契機に再発を認めた1例を経験した.原発癌の進退に伴うCARの進退や食道癌とCARの関係について,文献的考察を加えて報告する.

  • 迫川 賢士, 澤田 絋幸, 徳永 真和, 家護谷 泰秀, 平田 雄三
    2023 年 84 巻 6 号 p. 884-891
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は75歳,男性.心窩部痛精査の上部消化管内視鏡検査で胃角部小弯に3型胃癌を認め,当科紹介となった.CTで遠隔転移を認めず,cT4aN1M0,cStage IIIの診断で切除を試みたが,腫瘍は膵頭部に直接浸潤しており,膵頭十二指腸切除(以下,PD)以外にR0切除は困難と考え,切除を断念した(cT4b(膵)N1M0,cStage IVA).術前化学療法を行う方針とし,capecitabine+oxaliplatin+nivolumab併用化学療法を開始した.8コース後のCTで原発巣は著明に縮小し,膵頭部との境界が明瞭化したため,定型手術によるR0切除が可能と判断し腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した.最終病理組織診断は,por2,ypT4a,Ly1a,V1a,pPM0,pDM0,ypN3a,ypStage IIIBで,術前化学療法の組織学的効果判定はGrade1aであった.手術侵襲が大きなPDを胃癌の膵浸潤例に行うか否かはしばしば議論になるが,nivolumabを併用した術前化学療法を行うことでPDを回避し,定型手術によるR0切除を目指せる可能性が示唆された.

  • 二村 徳人, 鈴木 雄之典, 永井 秀征, 野本 昂奨, 横井 彩花, 阪井 満
    2023 年 84 巻 6 号 p. 892-897
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は17歳,男性.前日からの腹痛の増悪を主訴に当院を受診した.CTにて回盲部の腫瘤性病変を先進部とした腸重積の所見を認めた.腸重積に対して高圧浣腸による整復を試みたが重積の解除は得られず,緊急手術を施行した.術中,回腸末端から上行結腸が横行結腸に嵌入する所見を認め,徒手的に整復した.右側結腸の固定不良があり,近位上行結腸には腫瘤性病変を触知した.悪性腫瘍が否定できなかったため,回盲部切除術を施行した.病理組織検査所見では腸管嚢胞様気腫症(pneumatosis cystoides intestinalis;以下,PCI)と診断された.PCIは腸管の粘膜下または漿膜下に含気性嚢胞を生じる比較的稀な疾患で,腸重積を引き起こした報告例は少ない.文献的考察を交えて報告する.

  • 朴 容韓, 北原 弘恵, 吉村 昌記, 宮川 雄輔, 唐澤 幸彦, 寺島 剛, 浅香 志穂
    2023 年 84 巻 6 号 p. 898-903
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(inflammatory myofibroblastic tumor:IMT)は炎症細胞の著明な浸潤を伴う筋線維芽細胞様紡錘形細胞の増殖を特徴とする腫瘍性病変である.症例は71歳,男性.2カ月前から続く腹痛を主訴に当院を紹介受診した.腹部CTで回腸に漸増性に造影される30mm大の軟部腫瘍を認め,腫瘍を先進部として腸重積を生じていた.腹部MRIではT1・T2強調画像でともに低信号を呈し,線維成分主体の腫瘍が疑われた.手術では回盲部より70cm口側に腸重積を伴う3cm大の小腸腫瘍を認め,腹腔鏡下小腸部分切除を行った.病理組織学的には束状の膠原線維を介在しながら,リンパ球や形質細胞,好酸球などの炎症性細胞浸潤,異型に乏しい紡錘形細胞の増殖が認められ,IMTと診断された.IMTは稀に遠隔転移をきたすことがあるため,WHOの軟部組織腫瘍分類では良悪性中間腫瘍に分類されている.

  • 二見 徹, 岡田 良, 草間 大輔, 齋藤 敬弘, 伊東 藤男, 土屋 貴男
    2023 年 84 巻 6 号 p. 904-910
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    右側結腸軸捻は全腸閉塞の0.4%,結腸捻転症の5.9%と稀な疾患である.症例は25歳,女性.重度新生児仮死による脳性麻痺と側彎を認め,噴門形成術,胃瘻造設術,気管切開術後であった.腸閉塞の診断で前医重症心身障害者病棟から転院搬送された.血液検査は炎症反応軽度,CTで右上腹部に拡張した結腸を認めるも閉塞起点は明らかでなく,腹膜刺激徴候もないため,血流障害はきたしていないと判断した.腸管減圧し経過観察するも腹部膨隆が増悪したため,翌日手術を施行した.術中所見は右側結腸が固定されておらず,右上腹部に180度捻転した上行結腸が嵌入していた.捻転腸管に壊死はないものの漿膜損傷とうっ血を認め,再発リスクを考慮し捻転腸管を切除し機能的端々吻合で再建した.術後経過は良好であった.精神発達遅滞者に本症を発症した場合,術前診断が困難な場合があるが24時間以内に捻転整復の要否を判断し,再発リスクを考慮した腸管切除も常に念頭に置く必要がある.

  • 寄森 駿, 瀬尾 雄樹, 武居 友子, 岸田 憲弘, 戸倉 英之, 高橋 孝行, 清水 和彦
    2023 年 84 巻 6 号 p. 911-914
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は82歳,男性.局所進行上行結腸癌cT4b(尿管,腸腰筋)N1bM0 cStage III c に対して回腸横行結腸吻合術を施行した.術後,全身化学療法としてCapeOX+bevacizumab療法を開始したが,効果判定はSDであった.Microsatellite instability-high(以下,MSI-H)であったため,pembrolizumabに変更した.6コース施行後,原発巣の縮小,尿管浸潤の消失を認めたため根治切除可能と判断し,結腸右半切除術,D3リンパ節郭清を施行した.組織学的には残存腫瘍細胞は認めず,病理学的にCRであった.手術後1年間,再発転移を認めず外来通院中である.

  • 深田 晃生, 杢谷 友香子, 吉岡 慎一, 藤田 淳也, 田村 茂行, 竹田 雅司, 佐々木 洋
    2023 年 84 巻 6 号 p. 915-921
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,男性.2019年3月に血便の精査加療目的に当院へ紹介となった.下部消化管内視鏡検査にて歯状線からHerrmann線にかけて1型の腫瘍を認め,生検で腺癌の診断であった.腫瘍以外で肛門周囲の皮膚あるいは粘膜に明らかな病変は認めなかった.肛門管腺癌 cT2N0M0 cStage Iの診断で,2019年5月に腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術を施行した.病理診断はpagetoid spread(以下,PSと省略)を伴った肛門管腺癌であり,進行度はpT2N0M0 pStage Iであった.PSは腫瘍より肛門側の皮膚に認められ,PSからのdistal marginは1.3mmであった.術後は経過観察の方針とし,術後3年6カ月現在,無再発生存中である.

    本症例は術前に肉眼的に皮膚病変が同定できず,結果的に十分な断端距離が確保できなかったにもかかわらず,追加切除を行うことなく長期に局所再発を認めずに経過している稀な症例であり,文献的考察を含めて報告する.

  • 平原 慧, 大津 一弘
    2023 年 84 巻 6 号 p. 922-927
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は6歳,女児.食後の腹痛を繰り返すため,前医を受診.造影CT・MRCPにて胆石症が疑われ,当科へ紹介となった.腹部X線検査にて胆嚢の石灰化像と前医CTにて胆嚢内に高輝度の鏡面像を認め,石灰乳胆汁を疑った.受診時,肝胆道系酵素の上昇や炎症所見はなく,鎮痛薬にて疼痛管理は良好であったため,全身麻酔下ERCPを施行した.膵胆管合流異常症はなく,胆嚢管から胆嚢頸部の欠損像と胆嚢管の総胆管への低位合流を認めた.胆嚢管の結石はガイドワイヤーによる移動は不可能であった.胆嚢管の結石嵌頓による石灰乳胆汁が原因の腹痛発作,胆嚢炎と診断した.腹腔鏡下胆嚢摘出術を行った.術中所見では,胆嚢頸部に高度の炎症を認め,慢性胆嚢炎の所見であった.周術期合併症なく術後4日目に退院となった.以降,腹痛発作は認めていない.石灰乳胆汁の小児報告例は稀であり,文献的考察を加えて報告する.

  • 橋本 聖史, 加藤 洋介, 大島 正寛, 小竹 優範, 尾山 佳永子, 原 拓央
    2023 年 84 巻 6 号 p. 928-934
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は85歳,女性.他疾患で近医に通院中.健診目的の腹部超音波検査で胆嚢腫瘍を指摘され,当院へ紹介となった.腫瘍マーカーはAFP 1,960ng/ml,CEA 7.5ng/mlと高値を認めた.腹部超音波検査・腹部CT・腹部MRIの結果,胆嚢癌,cT2N0M0,cStage IIの診断となり,開腹胆嚢床合併胆嚢摘出術を施行した.病理検査では胆嚢腫瘍は中分化乳頭腺癌の成分と肝細胞癌に類似した成分の異なる組織が混在しており,胆嚢原発肝様腺癌と診断した.術後,AFP・CEAは正常値に復し,現在4カ月で無再発生存中である.肝様腺癌は肝細胞癌と腺癌の2つの特徴を持つ稀な組織型であり,胃,大腸,肺,膵臓,子宮など様々な臓器での報告がみられるが,胆嚢での報告例は少なく,文献的考察を加えて報告する.

  • 小崎 良平, 牧野 洋知, 津村 祥子, 山岸 茂
    2023 年 84 巻 6 号 p. 935-940
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は53歳,女性.右鼠径部の膨隆と疼痛を主訴に産婦人科を受診した.精査の結果,鼠径ヘルニア嵌頓を疑われ,当科を紹介され受診した.腹部超音波検査と腹部造影CTで,鼠径部に造影効果を有する直径3cmの腫瘤と回盲部へ連続する索状構造物を認め,ヘルニア内容が虫垂である鼠径ヘルニアまたは鼠径部腫瘤と診断し,腹腔鏡下手術を施行した.腹腔鏡による観察ではヘルニアは認めず,鼠径部切開法で腫瘍摘出術を施行した.子宮円靱帯に連なる腫瘍であったため,子宮円靱帯原発腫瘍と診断した.病理組織学的検査では紡錘状の平滑筋組織が錯綜する像を認め,子宮円靱帯平滑筋腫と診断した.今回われわれは,鼠径部ヘルニアとの鑑別に難渋した子宮円靱帯原発平滑筋腫の1例を経験した.子宮円靱帯原発の平滑筋腫は非常に稀な疾患であるが,女性の鼠径部ヘルニアを疑った際に,子宮筋腫の既往がある鼠径部腫瘤性病変であった場合は鑑別疾患として念頭に置くべきであり,鼠径部ヘルニアとの鑑別目的に腹腔鏡下手術が有用であると考えられた.

  • 柳田 充郎, 吉田 有策, 中居 伴充, 鬼塚 裕美, 尾身 葉子, 堀内 喜代美, 長嶋 洋治, 岡本 高宏
    2023 年 84 巻 6 号 p. 941-946
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は34歳,男性.多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasia:MEN)2A型.甲状腺髄様癌再発手術の術前CTで左副腎腫瘤を指摘された.123I-meta-iodobenzylguanidine (MIBG)シンチグラフィーで左副腎腫瘤への集積亢進を認めたが,カテコラミンの過剰分泌は認めず,術前には褐色細胞腫の診断基準は満たさなかった.しかし,MEN2A型患者に発生した副腎腫瘤であり,褐色細胞腫の可能性は十分考えられたため,褐色細胞腫の周術期管理に準じてα遮断薬の投与を行った.手術操作に伴い血圧の上昇を認めたが,α遮断薬による降圧が奏効し,安全に手術を完遂した.褐色細胞腫でも内分泌機能検査でカテコラミン過剰分泌を示さないことがあり,臨床所見を併せ総合的に判断しての周術期管理が安全な治療を遂行するためには重要である.

  • 長谷川 雄基, 武田 重臣, 新井 博人, 吉田 光一, 松下 英信, 大河内 治
    2023 年 84 巻 6 号 p. 947-951
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,女性.腹部の張りを自覚し,前医より精査目的に当院紹介となった.腹部単純CTで左上腹部背側に19×13.5cmの巨大腫瘤を認めた.副腎癌などの後腹膜腫瘍を疑い手術を施行した.術中所見にて腫瘍は左副腎と連続して発育していると判断し,腫瘍摘出および左副腎摘出術を施行した.摘出した腫瘍は最大径20cmで病理組織検査では血管周皮腫様血管を認め,免疫組織染色ではCD34が陽性であったため,後腹膜より発生した孤立性線維性腫瘍と診断した.術後は合併症なく経過し,7日目に退院となった.以後外来経過観察中であるが,術後6年3カ月が経過し再発を認めていない.今回われわれは,後腹膜に発生した巨大な孤立性線維性腫瘍を経験したので,再発リスクの新分類についての文献的考察を加えて報告する.

  • 池西 一海, 福本 晃久, 江尻 剛気, 三宅 佳乃子, 青松 幸雄, 中島 祥介
    2023 年 84 巻 6 号 p. 952-956
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は77歳の男性.排尿困難・右腰背部痛を主訴に他院を救急受診し,右鼠径ヘルニアと診断され,加療目的に当科へ紹介となった.CT所見で右外鼠径ヘルニアを認め,右陰嚢まで膀胱が脱出し右尿管も牽引され右水腎症を呈していた.また,ヘルニア嚢内には回腸も脱出していた.今回われわれは,本症例に対して手術開始前に尿管ステントを留置の上,TAPP(transabdominal preperitoneal repair)法を施行した.術後6カ月,排尿障害も改善し再発なく経過している.鼠径部膀胱ヘルニアは成人鼠径ヘルニアの1-4%に認められると報告されている.尿管まで脱出し水腎症を合併した症例報告は稀である.これまでに尿管まで滑脱した鼠径部膀胱ヘルニアをTAPP法で手術した報告はなく,文献的考察を加えて報告する.

  • 島本 実, 湊 栄治, 玉﨑 秀次, 岡部 智, 伴 卓史朗
    2023 年 84 巻 6 号 p. 957-961
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    腹腔鏡下ヘルニア修復術施行後にメッシュ関連膿瘍を生じた場合,抗菌薬投与,ドレナージなどの保存的治療での完治は困難で,メッシュ,タッカーなどの人工物を完全に除去しないと治癒しないことが多い.腹腔鏡下ヘルニア修復術でのメッシュシートの挿入部位は周囲に重要構造物が密集している上に,さらに術後の炎症性変化が加わることで初回手術と比べて柔軟性を失っているため,感染メッシュに対しては慎重なアプローチが必要である.今回われわれは,腹腔鏡下ヘルニア修復術後のメッシュ感染に対して腹腔鏡下でメッシュ除去を行った症例を経験し,良好な結果を得たため報告する.

  • 深田 忠臣, 亀髙 尚, 牧野 裕庸, 秋山 貴洋, 清家 和裕
    2023 年 84 巻 6 号 p. 962-966
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は85歳,女性.遷延する腹痛・嘔吐を主訴に,前医でのCTにて右閉鎖孔ヘルニア嵌頓と診断され,紹介となった.非観血的用手圧迫にて容易に整復でき,直後のCTにて整復と明らかな消化管穿孔などを疑う所見のないことを確認した.整復後3日目に腹痛が出現し,CTにて腹腔内遊離ガスを認めた.穿孔性腹膜炎と診断し,開腹下に創汚染対処のもと小腸部分切除および正中創から腹膜前腔を剥離し,ダイレクトクーゲルパッチ®にてヘルニア修復術を施行した.閉鎖孔ヘルニア嵌頓の非観血的整復については,緊急手術を回避でき術前精査を進められるなどの利点があるが,整復時の嵌頓部腸管の虚血穿孔のリスクが常にあり,非観血的整復における適応については一定の見解が得られていない.また,非観血的整復後の遅発性腸管穿孔についての報告はなく,文献的考察を加え報告する.

  • 萩原 悠介, 工藤 大輔, 矢越 雄太, 木村 俊郎, 三橋 佑人, 亀山 優真
    2023 年 84 巻 6 号 p. 967-974
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,女性.1カ月前からの右下腹部痛・右下肢痛が増強し,歩行障害を認めたため近医を受診.腹部CTにて骨盤底ヘルニアが疑われ,当科を紹介受診となった.腹部CTで右坐骨孔から脱出する小腸を認め,大坐骨孔ヘルニアと診断した.腸閉塞の合併は認めなかったが,坐骨神経痛を伴っていたことから,嵌頓の可能性を考えて緊急手術を行った.開腹すると右坐骨ヘルニアを認めたが,既に小腸嵌入は解除されていた. 腸管壊死所見はなく,小腸切除は行わなかった.ヘルニア門を単純縫合にて閉鎖した.術翌日,右下肢痛は消失しており,坐骨神経障害は改善していた.坐骨ヘルニアは極めて稀なヘルニアであり,小腸嵌入を伴う症例は14例しか報告されておらず,その中でも坐骨神経痛を伴う症例は4例のみである.今回の症例に若干の文献的考察を加えて報告する.

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