日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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ISSN-L : 1345-2843
84 巻, 8 号
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臨床経験
  • 松本 敏文, 小山 旅人, 長谷川 巧, 吉田 大輔, 甲斐 成一郎, 川中 博文
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1159-1163
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    目的:腹腔鏡下胆嚢摘出術において,胆嚢壁の剥離では漿膜下層内層を連続して露出しながら剥離することが重要である.今回,その漿膜下層内層を確認しながら安全に剥離する手技として,生理食塩水を漿膜下層の内外層境界に注入する剥離方法を施行し,その有用性と安全性を検討した.手技:胆嚢窩が深くて広く,漿膜下層が薄いと判断した10症例を対象とした.胆嚢体部および漏斗部の漿膜下層内層をある程度露出したところで胆嚢床方向に生理食塩水を注入し,漿膜下の内外層境界を剥離し凝固切離した.結果:出血量は少量で,漿膜下層内層を確認しながら安全に胆嚢床から剥離できた.全例,術後合併症なく術後早期に退院した.結論:本法は漿膜下層内層を視認しながら安全に剥離できる.若手外科医への胆嚢漿膜下層内層の外科的解剖を教育することにも有用であると思われた.

症例
  • 吉村 吾郎, 伊達 恵美, 飯塚 徳重
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1164-1169
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は52歳,女性.右乳腺葉状腫瘍の診断で乳房部分切除術を行い,術後診断は悪性葉状腫瘍であった.初回手術から8カ月後に乳房内再発をきたし乳房切除術を,乳房切除術から7カ月後に局所再々発をきたし腫瘍摘出術を実施し,術後診断はいずれも悪性葉状腫瘍だった.腫瘍摘出術から9年5カ月後(初回手術から10年8カ月後),右腋窩腫瘤が出現した.画像上は内部に広基性充実性部分を伴う嚢胞性病変で,穿刺吸引細胞診で組織型を確定できない悪性細胞を認め,葉状腫瘍の再発を疑い,腫瘍摘出術を行った.病理組織学的検査の結果,悪性葉状腫瘍と診断した.腋窩腫瘍摘出後1年を経過して再発は認めていない.長い無病期間後の再発であること,腋窩腫瘍の局在が深胸筋膜より浅い層に存在したことより,乳腺悪性葉状腫瘍が腋窩異所性乳腺から異時性発生したと考えられ,本邦に同様の報告はなく,極めて稀な症例である.

  • 昆 智美, 中川 紗紀, 王 慧麗, 吉田 龍一, 杉浦 章, 谷内 真司
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1170-1176
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,女性.全身倦怠感のために近医を受診し,高カルシウム血症および多発肝腫瘤を認め,精査加療目的に当院を紹介された.初診時血液検査で,Ca 16.9mg/dL,PTHrP 56.0pmol/Lと高値,PTH intact 9pg/mLと低値,CEA 1,305.1ng/mL,CA15-3 154.0U/mLと上昇していた.FDG-PET/CTでは,右乳腺,左肺上葉,多発肝腫瘍,腋窩および鎖骨上窩リンパ節,胸骨,L4椎体にFDG集積を認めた.生検を行い,右乳癌cStage IV(胸膜,肝,骨),原発性肺腺癌cStage IA3と診断した.骨破壊像はなく,病理組織学的検査では乳癌・肺癌ともに腫瘍細胞はPTHrP陽性であり,高カルシウム血症の原因はPTHrP産生腫瘍に伴うものだった.乳癌および原発性肺腺癌の同時性重複癌におけるPTHrP産生腫瘍は稀であり,文献的考察を加えて報告する.

  • 谷口 絵美, 宮﨑 麻衣, 河野 奨, 飛永 純一, 稲石 貴弘
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1177-1183
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    乳腺原発小細胞癌は稀な組織型であり,予後不良とされる.薬物療法に関してエビデンスは乏しいが,進行例に対しては小細胞肺癌に準じた化学療法が行われている.今回,転移・再発の乳腺原発小細胞癌に対して,小細胞肺癌に準じてprogrammed cell death ligand 1阻害薬の併用療法を施行した1例を経験した.症例は52歳,女性.3カ月前から左乳房腫瘤を自覚して受診し,局所進行の化生癌と診断した.術前化学療法後に根治手術を施行し,最終的に乳腺原発小細胞癌と診断した.術後2カ月で左胸壁の皮下再発,多発リンパ節転移,肺転移を認め,左胸壁の皮下再発を組織診で小細胞癌と診断した.Cisplatin+etoposide+durvalumab療法を4サイクル施行後,左腋窩リンパ節を除く転移巣は全て縮小し,左腋窩リンパ節転移も照射で縮小したが,その後病勢進行により初診から19カ月目に永眠した.

  • 後藤 麻佑, 齊藤 芙美, 緒方 秀昭
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1184-1188
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    悪性腸腰筋症候群(malignant psoas syndrome: MPS)は腸腰筋への悪性腫瘍の浸潤により第1~4腰神経領域の疼痛を特徴とする,同側股関節の伸展時痛を呈する症候群である.症例は76歳,女性.左乳癌術後再発に対して化学療法中であったが,右下肢痛のため通院困難となり,再発治療開始後4年6カ月に精査加療目的で入院となった.MPSによる右下肢痛に対して,NSAIDs,アセトアミノフェン,オピオイド,鎮痛補助薬,放射線治療を開始し,症状改善傾向であった.しかし,入院中に癒着性イレウスで緊急手術を施行,廃用と乳癌多発転移の進行により,訪問診療を導入し自宅退院,退院25日後に自宅で死亡した.MPSの報告は少なく,その原因は医療従事者の間で認知度が低い可能性が指摘されている.MPSは腹部臓器の癌患者で頻度が高いが,今回われわれは悪性腸腰筋症候群を呈した乳癌の1例を経験したので報告する.

  • 吉村 悟志, 中村 力也, 羽山 晶子, 山本 尚人
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1189-1193
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    サブタイプの異なる同時性両側性乳癌Stage IVに対して,長期生存を得られた1例を経験した.症例は76歳,女性.左乳房腫瘤,黄疸,歩行困難を主訴に緊急搬送された.左局所進行乳癌(cT4bN0,ホルモン受容体陽性),多発肺転移,膵転移を認めた.高度の閉塞性黄疸と肝障害を認め,緊急で減黄処置を行い全身状態は改善した.内分泌治療を開始したが,開始後17カ月で右乳房腫瘤の増大があり,生検の結果,HER2陽性乳癌(cT2N0)の診断となった.抗HER2療法を行ったが局所制御困難となり,右乳房切除を行った.その後は内分泌治療を中心とする薬物療法を行い,治療開始後6年5カ月,癌性胸膜炎で死亡した.乳癌膵転移,左右でサブタイプの異なる両側乳癌Stage IVは稀だが,減黄処置および早期乳癌に対する乳房切除による局所制御と全身薬物療法を行うことで,長期生存に寄与すると思われる.

  • 田中 雅人, 田畑 光紀, 佐伯 悟三, 雨宮 剛, 新井 利幸
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1194-1198
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,女性.感染性心内膜炎の診断で,循環器内科にて入院治療中であった.心窩部不快感が出現したため造影CTを行ったところ,上腸間膜動脈周囲の脂肪織濃度上昇所見があり,同動脈への感染と診断した.抗菌薬治療を継続していたが,その後腹痛を認めCTを再検したところ,上腸間膜動脈本幹に嚢状動脈瘤の形成を認めた.感染コントロール不良と判断し,瘤切除術と自家静脈による上腸間膜動脈再建術を施行した.感染性心内膜炎による上腸間膜動脈瘤は感染および破裂,いずれのコントロールも重要であり,ひとたび破裂するとその治療に難渋することが多い.破裂前に診断し最適な治療を行うために,感染性心内膜炎など血流感染の治療中に腹部症状が出現した際には,たとえ軽微な症状の変化であっても積極的に画像検索を行うことが必要である.

  • 髙山 哲也, 松本 勲, 髙山 恭滉, 齋藤 大輔, 田中 伸廣, 吉田 周平
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1199-1204
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    背景:肺アスペルギルス症は宿主の免疫状態と肺構造との相互関係により様々な病態と画像所見を呈し,併存疾患により全身状態不良であることが多く,慎重に手術適応を決める必要がある.今回,手術により診断した肺多発結節を呈した侵襲性肺アスペルギルス症の1例を経験したので報告する.症例:67歳,女性.びまん性大細胞性B細胞性リンパ腫に対し,自家末梢血幹細胞移植を施行された.移植4日目に左肺下葉S8に空洞を伴う浸潤影が出現し,移植15日目に多発肺結節も出現した.気管支鏡検査でS8病変からアスペルギルスを検出した.多発肺結節は針生検を行ったが,確定診断には至らなかった.抗真菌薬を投与したが,左肺S8病変は肺膿瘍状となり,診断治療目的に左肺下葉切除+上葉部分切除を行った.病理でS8以外の病変にもアスペルギルスを認め,侵襲性肺アスペルギルス症と診断した.術後1年10カ月経過し,抗真菌薬内服中であるが病状の増悪なく生存中である.

  • 小野 元嗣, 原 祐郁
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1205-1210
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例1:31歳,女性.自宅で転倒し近医へ救急搬送され,精査で左中大脳動脈領域の脳梗塞と診断されたため,加療目的に当院へ転院搬送された.全身精査で右肺下葉の肺動静脈瘻が指摘され,これが脳梗塞の原因と考えられた.治療として,中枢側に発生した肺動静脈瘻であるため肺葉切除を施行した.症例2:61歳,女性.嘔気,めまいを主訴に当院へ救急搬送され,小脳虫部の脳梗塞と診断された.全身精査で右肺下葉の肺動静脈瘻が指摘され,症例1と同様に脳梗塞の原因と考えられた.治療として,末梢側の肺動静脈瘻であるため肺部分切除を施行した.脳梗塞が原因で発見されるRendu-Osler-Weber病を伴わない肺動静脈瘻は稀とされる.今回,脳梗塞を契機に発見された中枢側の肺動静脈瘻1例と末梢側の肺動静脈瘻1例の外科的切除症例を経験したため,文献的考察を加え報告する.

  • 小林 周平, 東山 聖彦
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1211-1215
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例:69歳,男性.現病歴:64歳時に早期胃癌に対して腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行された.術後無再発で経過していたが,術後4年6カ月時の定期CTで胸膜腫瘍を2箇所指摘され,当科へ紹介となった.PET-CTでいずれも異常集積を認めたため,手術の方針とした.腫瘍は肋骨に浸潤を認めたため,胸壁胸膜合併切除し病変を摘出した.病理診断結果は2箇所とも小細胞癌であった.肺原発が最も疑われるが,画像上肺に病巣を見いだせないため原発巣不明小細胞癌の転移性胸膜腫瘍と診断した.術後頭部MRIを施行したが,転移を認めなかった.術後化学療法は行わず経過観察していたが,縦隔リンパ節および左腸骨に再発転移を認め,術後6カ月目より化学療法を開始した.考察:原発不明小細胞癌の転移臓器となると縦隔リンパ節の報告はあったが,限局した胸膜腫瘍が初発病巣とする報告は未だない.今回,胸膜腫瘍で発見された原発不明小細胞癌を経験したので報告する.

  • 小野 武, 加藤 航司, 永田 仁, 比嘉 聡, 樋口 佳代子
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1216-1221
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は65歳,男性.心窩部違和感を主訴に受診し,上部消化管内視鏡検査で食道胃接合部に粘膜下腫瘍を認めた.病理組織検査でc-kit陽性,CD34陽性であり,胃GISTと診断された.CTで#1,#2リンパ節に3-5mm大の腫大を数個認めた.術中#2リンパ節を採取し迅速病理診断を行ったところ転移を認め,腹腔鏡下噴門側胃切除術,D1+郭清,double tract再建を行った.術後病理診断は腫瘍径30mmのGISTであり,リンパ節転移は#2に1箇所認めた.一般的に胃GISTに対しての術式は部分切除のみで,リンパ節郭清は行われていない.しかし,稀ではあるがリンパ節転移陽性症例もあることを認識する必要があり,文献的考察を含めて報告する.

  • 井 翔一郎, 井上 耕太郎, 木村 有, 山口 賢治
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1222-1226
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    遠隔転移を伴う胃癌の予後は一般に不良である.胃癌の遠隔転移は治療が難しい状況と認識されることが多い.本症例は61歳の男性で,多嚢胞性腎症,慢性腎不全で長期維持透析中の患者である.前庭部胃癌に対して幽門側胃切除術,D2郭清の根治手術を施行した.術後病理診断でStage IIA (T1b,N2,M0)と診断された.補助療法なしで経過観察中,1年後に孤立性の腋窩リンパ節転移で再発した.同部切除後,病理診断で胃癌の転移再発と考えられた.その後も引き続き集学的治療は行わず経過観察中で,初回治療後約13年間無再発で長期生存を得ている.本症例のような胃癌遠隔転移再発後の長期生存に関して,遠隔転移部位や補助療法なしという点で,非常に稀である.本症例の病態を,他の症例報告を検討し考察する.

  • 鄭 暁剛, 中﨑 隆行, 重松 和人
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1227-1231
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    濾胞樹状細胞肉腫は,濾胞樹状細胞に由来する稀な腫瘍である.症例は69歳,女性.右季肋部痛の精査で施行された腹部造影CTで,十二指腸水平脚に広く接する境界明瞭な6×6cm大の腫瘤を認めた.十二指腸由来の消化管間質腫瘍,腸間膜由来の神経原生腫瘍,膵鉤部から発生した神経内分泌腫瘍などを疑い,腫瘍摘出術を施行した.腫瘍は小腸間膜に存在していた.病理組織学的所見ではリンパ節内に類円形から短紡錘形細胞が胞巣状,びまん性に増生していた.免疫組織化学染色で腫瘍細胞はCD21・CD23・CD35陽性,多形性の強い細胞の部分ではD2-40も陽性であり,腸間膜リンパ節に発生した濾胞樹状細胞肉腫と診断された.術後8年経過し,無再発生存中である.

  • 北條 大輔, 五十嵐 裕一, 中田 博, 木谷 匡志, 元吉 誠
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1232-1237
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    憩室炎に由来する稀な合併症として上腸間膜静脈血栓症が知られており,腸間膜静脈血栓症は鬱滞性の腸管虚血をきたし得る重篤な病態である.症例は62歳,男性.主訴は発熱および右側腹部痛.既往歴はなく,血栓性素因は無い.造影CTで膿瘍を伴う回腸末端憩室,上腸間膜静脈の造影欠損,胆囊の緊満を認めたため,静脈血栓症を伴う憩室穿通および胆囊炎と診断し,抗凝固療法および抗菌薬治療を行った.1カ月後,側副血行路の発達とともに全身症状が軽減した時点で,再発予防目的で腹腔鏡下回盲部切除術および胆囊摘出術を行った.術後3カ月間,経口抗凝固薬を内服したところ,途絶した上腸間膜静脈の代替血管が発達したことを確認できた.静脈血栓症を合併する憩室炎に関して,本邦の大腸憩室症ガイドラインでは言及されておらず治療法は確立されていないが,本症例から内科的治療後の原発巣の外科切除は適切であることが示唆された.

  • 井上 知晃, 福本 将之, 古賀 洋一, 北島 正親, 井上 啓爾
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1238-1241
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は72歳の女性.胃癌に対して腹腔鏡下胃全摘,胆囊摘出,脾臓摘出,Roux-en-Y再建を施行され,術後7カ月目に腹痛を主訴に当院を受診した.造影CTで左胸腔への腸管脱出と上腸間膜動脈の血流障害および腸管壁の一部造影不良を認め,絞扼性腸閉塞の診断で緊急手術を施行した.開腹すると食道裂孔部に横隔膜欠損を認め,大量の小腸が左胸腔内へ脱出し嵌頓していた.嵌頓を解除すると約60cmと過長な挙上空腸と横行結腸間膜の間隙(Petersen's defect)に,さらに小腸が嵌頓していた.同部位の壊死が疑われたため,小腸部分切除し再度Roux-en-Y再建を施行し,横隔膜欠損部は縫合閉鎖した.術後経過は良好であった.腹腔鏡下胃全摘後の横隔膜切開後食道裂孔ヘルニアとPetersenヘルニアの2つの内ヘルニアにより絞扼性腸閉塞をきたした稀な症例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 中澤 幸久, 榊原 巧, 池田 耕介, 南 雄介, 堤 純, 中澤 綾, 西川 恵理
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1242-1250
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は73歳,男性.60年前,転落による腹部外傷に対する開腹手術歴がある.今回,他科治療中に撮影された腹部CTにて小腸の一部が嚢状に拡張し,内部に結石を認めたために,外科紹介となった.腸石を伴う巨大空腸憩室,ないし小腸の嚢状拡張と診断した.約1年間の経過観察後に開腹手術を行った.開腹すると前回手術で小腸の側々吻合が行われており,吻合部が嚢状に拡張していた.拡張部分を含む小腸の部分切除,手縫いによる端々吻合を行った.嚢状拡張部の大きさは17×9cm,内部に最大径4cmの結石を10個認めた.結石分析ではデオキシコール酸が98%以上で胆汁酸による真性腸石であった.術後2年目まで経過観察をしたが,腸石の再発を認めていない.

    自験例では,60年前の小腸側々吻合により蠕動不全が起き,同部位が嚢状に拡張し,腸内容が鬱滞したことによって真性腸石が形成されたと考えられた.消化管吻合後の真性腸石の報告は稀であり,報告する.

  • 中島 拓哉, 佐野 文, 井川 愛子, 松本 圭太, 篠田 智仁, 永田 幸聖
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1251-1256
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は66歳,女性.胃癌に対して胃全摘術(Roux-en-Y再建)を施行した.術後1年6カ月時点で撮像したCTで,偶発的にY脚吻合部肛門側小腸に重積像を認め,腸重積と診断した.自覚症状はなく,CT撮像から2日後に無症候性腸重積に対して内視鏡下での整復を試みた.観察時にはY脚吻合部近傍に異常所見は認めず,その後のCTでも腸重積の改善を確認できた.その後も自覚症状なく経過していたが,腸重積発症から10カ月後のCTでも同様の重積所見を認めた.この際も自覚症状はなく,CTで自然軽快を確認できたため経過観察とした.胃切除術後の腸重積症は約0.07~2.1%と報告される稀な合併症であるが,その病態に関しては明らかにはなっていない.自験例のような胃切除術後における無症候性の腸重積の報告例はない.われわれが経験した胃切除術後の無症候性腸重積に関して,文献的考察を加えて報告する.

  • 森山 瑞紀, 藤枝 裕倫, 古田 美保, 會津 恵司, 渡邊 真哉
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1257-1261
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は35歳,男性.前日からの腹痛が改善しないため救急外来を受診した.来院時,右下腹部から正中にかけて圧痛を認めた.血液検査所見では炎症反応上昇を認め,腹部CTでは骨盤内の小腸に隣接する嚢胞性病変と虫垂腫大を認めた.重複腸管・Meckel憩室・急性虫垂炎による炎症や膿瘍形成を疑い,緊急で腹腔鏡下手術を施行した.3点ポートで腹腔鏡下手術を開始し,回腸に連続する腸管様の構造物を認め,腸間膜を共有しており,術中所見からは重複腸管と判断した.基部で360°捻転しており,体腔内で重複腸管の捻転を解除した.臍部を小開腹し,重複腸管を含む回腸を取り出し,正常腸管も含め小腸部分切除を行った.病理組織学的検査所見で嚢胞壁は粘膜・粘膜筋板・固有筋層・漿膜下層を有し,隣接する回腸と共通の腸間膜を有していることから,重複腸管と診断した.今回,腹腔鏡下手術を施行した回腸重複腸管捻転の1例を経験したため報告する.

  • 望月 翔太朗, 青砥 慶太, 塚田 学, 大須賀 文彦, 遠藤 豪一
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1262-1266
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は77歳,男性.麻痺性イレウスと診断され,前医に入院.血液検査にて形態異常リンパ球を認め,可溶性IL-2Rが13万U/mlと異常高値を示し,精査予定であった.しかし,穿孔性腹膜炎を併発し,外科治療目的に当院に転院,緊急手術を施行した.開腹所見ではTreitz靱帯から回盲部までの小腸全体の漿膜側にまだら様色調変化を認め,回盲部から口側約25cmの小腸に腫瘍性の穿孔があり,小腸部分切除術を施行した.術後の病理診断にて,成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)の腫瘍細胞浸潤に伴う小腸穿孔と判明した.

    ATLLの消化管浸潤に伴う穿孔はこれまでも9例1)~9)の報告があり,その予後は不良である.今回われわれは,小腸穿孔をきたしたATLLの1例を経験したため,考察を加えて報告する.

  • 山本 祐也, 齋藤 徹, 横山 元昭, 永井 啓之, 末松 直美, 野澤 聡志
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1267-1271
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は92歳,女性.腹痛で受診し,CTで回腸末端に造影効果を伴う腫瘤性病変と口側の腸管拡張を認めた.小腸腫瘍による閉塞性腸閉塞の診断とし,開腹回盲部切除術を施行した.摘出標本では,回腸末端から7cmに漿膜の引き連れによる狭窄と,その肛門側に敷石状の粘膜隆起を認めたが,癌腫を思わせるような潰瘍性病変は認めなかった.病理組織学的には粘膜深部を主体とする高度のリンパ球,IgG4陽性形質細胞の浸潤と花筵状線維化を認めた.免疫染色では,IgG4陽性細胞を強拡大視野で32個認め,IgG4陽性細胞/IgG陽性細胞比は51.6%であった.術後に測定した血清IgG4値は23.8mg/dlと基準値範囲内であった.IgG4関連疾患の診断基準では準確診群(probable)となるものの,他の腫瘍性病変は否定的であり,IgG4関連小腸偽腫瘍が強く疑われた.IgG4関連疾患において小腸に病変を生じる症例は非常に稀であり,既報告例4例に自験例を加えた5症例についての検討を加えて報告する.

  • 渋谷 紘隆, 藤井 幸治, 山内 洋介, 田村 佳久, 髙橋 幸二
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1272-1276
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は71歳,男性.発熱と右下腹部痛を主訴に受診した.CTで虫垂腫大,回結腸動脈周囲のリンパ節に腫大を認めた.急性虫垂炎・虫垂腫瘍疑いとして,同日腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.虫垂根部に腫大があり,盲腸壁を一部含めて虫垂を切除した.摘出標本では虫垂開口部から3cm末端側に13mm大の腫瘤を認めた.病理組織検査では紡錘形細胞の増殖を認め,免疫染色にてKIT(+),CD34(+),desmin(-)であった.以上より,虫垂GISTと診断した.術後7日後に合併症なく退院した.虫垂GISTは非常に稀な疾患であり,これまでの報告も限られている.虫垂炎様症状を呈した虫垂GISTの症例を経験したため,文献的考察を加え報告する.

  • 高原 善博, 宇野 秀彦, 西田 孝宏, 横田 哲生, 郷地 英二
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1277-1281
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は51歳の女性で,突然の腹痛を主訴に救急搬送され,S状結腸軸捻の診断で内視鏡下整復を施行した.精査にて,S状結腸軸捻の原因は総腸間膜症に伴う結腸過長症の診断となった.若年期より難治性の便秘を認め腹痛を繰り返していたことから,本人の希望にて腹腔鏡補助下結腸切除および予防的虫垂切除を施行した.術後,長年にわたり患者を苦しめていた慢性便秘および繰り返す腹痛は消失し,患者quality of life(以下QOL)は劇的に改善を認めた.幼少期からの難治性便秘の原因として総腸間膜症を鑑別におくことは重要であり,画像にて総腸間膜症の診断がついた場合には,外科的治療も選択肢として有用であると考えられた.

  • 樋口 雄大, 古屋 信二, 小澤 貴臣, 滝口 光一, 白石 謙介, 市川 大輔
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1282-1287
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は70歳,男性.前医にて仙骨浸潤,膀胱浸潤および骨盤内膿瘍を伴う高度進行直腸癌の診断で,当院へ紹介となった.横行結腸双孔式人工肛門造設術を行い,化学療法としてmFOLFOX6+panitumumabを10コース施行した.原発巣の著明な縮小を認めたため,conversion surgeryとして,仙骨合併骨盤内蔵全摘(郭清:D3,LD3),回腸導管造設,S状結腸人工肛門造設,横行結腸人工肛門閉鎖術を施行した.術後,骨盤死腔炎を発症し,開創術による膿瘍ドレナージのみでは改善に乏しく,局所陰圧閉鎖療法を開始したところ,良好な創傷治癒が得られた.術後82病日に退院となった.消化器外科領域においても,創感染に対する局所陰圧閉鎖療法の有用性を示す報告は散見され,創傷治癒や入院期間の短縮に寄与する可能性が示されている.骨盤内蔵全摘後の難治性骨盤死腔炎に対しても局所陰圧閉鎖療法は有効な治療法であった.

  • 門脇 啓太, 藤崎 隆, 町田 理夫, 渡野 邉郁雄, 須郷 広之
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1288-1292
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は77歳の女性で,下血を主訴に当院へ紹介となった.下部消化管内視鏡検査では,肛門縁から3cmの直腸(Rb)に2型進行癌を認めた.また,術前CTで中結腸動脈根部に8mm大の無症候性動脈瘤を認めた.手術は動脈瘤破裂のリスクを考慮し,開腹腹会陰式直腸切断術と動脈瘤切除とし,左側結腸の血流を考慮し端々吻合による血行再建を施行した.再建後,血流は良好であり術後経過も問題を認めなかった.

    術前患者に偶発的に見つかった無症候性動脈瘤に対する治療介入については原疾患の状況,動脈瘤の局在や破裂のリスク,血行再建の必要性など様々な要素を考慮のうえでの方針決定が必要と思われた.

  • 浦川 雅己
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1293-1300
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    Fournier壊疽は外陰部に生じる急性壊死性筋膜炎で急激な経過をたどり,早期に適切な治療を施さなければ全身状態が急激に悪化し予後不良になる.多くは痔瘻,肛門周囲膿瘍,泌尿器科疾患が原因となるといわれており,直腸癌を原因として生ずることは比較的稀である.

    今回われわれは,直腸癌が原因で発症したFournier症候群の2例を経験した.両症例とも臀部から陰嚢に至る広範な気腫を伴う蜂窩織炎と膿瘍を形成しており,抗菌薬投与,ドレナージ,デブリードマンを行ったが感染コントロールがつかず,準緊急で人工肛門造設を行い感染のコントロールがついたところで低位前方切除術を行い,治癒切除することができた.直腸癌によるFournier壊疽の治療では,腫瘍学的治療介入までの時間が予後に影響すると考えられる.直腸癌が原因で発症した本邦での報告例は2000年~2022年の間で29例であった.自験例2例を含めた31例につき,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 實金 悠, 安井 和也, 楳田 祐三, 八木 孝仁, 藤原 俊義
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1301-1307
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    患者は57歳,男性.Budd-Chiari症候群による非代償性肝硬変に対して46歳時に生体肝移植術後.慢性期に門脈狭窄に起因する門脈圧亢進症に伴う腸炎や肝性脳症を繰り返していたが,肝不全兆候はなく外来フォロー中であった.今回,間質性肺炎急性増悪に対しステロイド加療中にClostridium difficile腸炎を併発,メトロニダゾール内服にて軽快したが,腸炎症状は遷延していたためメトロニダゾール1g/日の内服を継続していた.約2カ月後に内服服薬管理困難,構音障害,手指振戦が出現し,症状発現から1週間後に意識障害の増悪を認め受診.頭部MRIで両側対称性に小脳歯状核の高信号域を確認,メトロニダゾール誘発性脳症と診断した.速やかにメトロニダゾールを中止したことで,徐々に意識レベルは改善した.メトロニダゾール誘発性脳症の発症は稀であり,肝移植・肝障害に関連した報告例は少なく,過去の文献的考察を加えて報告する.

  • 神田 修平, 奥田 雄紀浩, 山崎 伸悟, 久保田 豊成, 森 友彦, 松尾 宏一
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1308-1313
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    今回,われわれは肝細胞癌治療経過中に血行性大腸転移をきたし,外科的切除を施行した稀な1例を経験したので報告する.症例は65歳,男性.肝細胞癌に対して肝外側区域切除術後,10カ月目に肝S4肝内再発と腹膜播種再発の診断となり,経皮的ラジオ波焼灼療法と播種摘出術を施行した.さらに,9カ月後に播種再発があり,再度播種摘出術を施行した.レンバチニブを投薬したが,腹膜播種再発を認めた.ソラフェニブに変更すると,播種結節は縮小傾向となり1年2カ月著変を認めなかった.CA19-9上昇あり,精査でS状結腸腫瘍を認めた.生検で肝細胞癌の転移と診断し,S状結腸切除術と播種摘出術を施行した.大腸転移と播種結節の部位は肉眼的に離れており,漿膜側への腫瘍浸潤は認められなかった.また,病理所見も同様であったことから,肝細胞癌の血行性大腸転移と診断した.現在,無再発経過観察中である.

  • 佐久間 政宜, 高橋 崇真, 亀井 桂太郎, 高山 祐一, 青山 広希, 前田 敦行
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1314-1320
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    レンバチニブはマルチチロシンキナーゼ阻害剤であり,稀な副作用として急性無石性胆囊炎が記載されている.レンバチニブの適応疾患は根治切除不能な悪性腫瘍であり,また血管内皮増殖因子(VGEF)受容体チロシンキナーゼ阻害による創傷治癒遅延の副作用のため,急性胆囊炎を発症した際の治療選択は慎重に行う必要がある.症例は73歳の男性で,局所進行左腎癌に対してレンバチニブ+ペンブロリズマブ投与64日目に発熱,右側腹部痛を認めた.CTで急性壊疽性胆囊炎と診断し,同日腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.術後経過良好で,術後9日目に退院した.創傷治癒遅延等の術後合併症は認めなかった.レンバチニブ投与中に発症した急性無石性胆囊炎に対しては,原疾患の病状が許せば,緊急腹腔鏡下胆囊摘出術も選択肢となりうる.

  • 新井 博人, 武田 重臣, 鈴木 寛, 岩田 尚樹, 松下 英信, 大河内 治
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1321-1324
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は特に既往のない7歳の男児.右側腹部痛を自覚した翌日に当院を受診した.CTにより胆囊腫大と壁肥厚を認め,急性胆囊炎として入院した.セフメタゾールナトリウムで治療を開始したが,腹部所見と炎症反応の改善を認めなかった.入院3日目に施行した腹部超音波検査により胆囊頸部の著明な壁肥厚を認め,MRCPでは胆囊頸部の出血性変化と狭小化を認めたため,胆囊捻転症と診断し,同日,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.術後2日目から経口摂取を開始し,術後6日目に合併症なく退院となった.胆囊捻転は小児では比較的稀な疾患であり,自験例では腹部超音波とMRCPが診断に有用であった.若干の文献的考察を加え報告する.

  • 濱﨑 友洋, 杭瀬 崇, 高橋 立成, 三原 大樹, 三又 雄大, 山野 寿久
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1325-1331
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は82歳の男性で,発熱と肝機能障害を主訴に当院を紹介受診した.画像検査で遠位胆管の壁肥厚と狭窄を認め,生検でadenocarcinomaを検出した.遠位胆管癌cT2cN0cM0,cStage I Bと診断し亜全胃温存膵頭十二指腸切除術,D2郭清を施行した.摘出標本の病理組織学的検査では,病巣は2種類の腫瘍で構成され,腺癌とNEC(chromogranin陽性,synaptophysin陽性,Ki-67:73.8%)と診断した.腺癌とNECがそれぞれ領域を有するcombined/biphasic type(腺癌:40%,NEC:60%)であり,NECは腺癌より深層まで浸潤し漿膜下層に達していた(pT2,ITT:5mm,SS)が,脈管浸潤や神経浸潤およびリンパ節転移は腺癌/NECともに認めなかった(pLy0,pV0,pN0).術後9カ月目のCTで多発肝転移が出現し,現在化学療法を行っている.本症例では粘膜表層が腺癌主体であり,術前生検ではMiNENと診断することが困難であった.また,NEC成分がより深層まで浸潤していたことが転移をきたす原因になった可能性が示唆された.

  • 天海 博之, 笹川 真一, 小出 義雄, 塚本 総一郎, 鎗田 努, 松原 久裕
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1332-1337
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は60歳,Hartmann術後の男性.小児頭大の傍ストーマヘルニアに対しての手術目的で紹介された.手術は,腹腔鏡下Sugarbaker法を行った.ヘルニア門は8cmで,尾側は下腹壁動静脈にかかるため,腹膜剥離を必要とした.メッシュはSymbotexTM composite meshを折り返し,全体が18cm,折り返した部分が14cmに設定し,折り返し部位の癒着防止コラーゲンフィルムがストーマ腸管を覆うようにした.傍ストーマヘルニアの手術はSugarbaker法の再発率が低く有用と報告されているが,本邦ではSugarbaker法用のメッシュは現在市販されていない.代用としてSymbotexTM composite meshを成形して使用した報告があり,今回われわれも同様の方法を用いて修復を行った.メッシュの成形方法や術中の注意点を報告する.

  • 徳田 智史, 大島 健志, 大端 考, 渡邉 昌也, 金本 秀行, 大場 範行
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1338-1343
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は53歳,女性.左腰部違和感・膨隆のためMRIを撮像し,左上腰ヘルニアの診断となった.12年前のCTを後方視的に確認すると,同部位にヘルニア門を認めた.経時的に増大傾向を認め,有症状のため手術適応と考えた.手術は右半側臥位,3ポートで行った.下行結腸外側より腹膜切開を開始し,左腎背側に回るように剥離を進めた.腹横筋腱膜を確認し,内側に剥離を進め上腰三角に到達した.1.5cmのヘルニア門を確認し,腸骨下腹神経を損傷しないようにタッカーでメッシュを固定して手術を終了とした.術後4日目に軽快退院となった.本症例は12年前無症状であり,CTで指摘されていなかった.上腰ヘルニアの診断は無症状時難しいが,偶発的に診断された場合はできるだけ早く手術することが望ましいと考える.

  • 荒木 達大, 羽田 匡宏, 天谷 公司, 吉川 朱実, 加治 正英
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1344-1349
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    89歳,男性.左鼠径部痛で来院.造影CTで左鼠径部へのS状結腸脱出および多量の宿便による腸閉塞を認めた.用手還納後,遅発性腸管穿孔を考慮し経過観察入院としていたが,同日ショック状態となった.造影CTで横行結腸~S状結腸に造影不良を認め,腸管壊死と診断し緊急手術による腸管切除を行った.集中治療室で人工呼吸器管理を継続したが,肝・腎機能は増悪し術後12日目に多臓器不全のため永眠した.病理所見上は粘膜内を主体に壊死・脱落を認め,閉塞性大腸炎と診断した.明らかな器質的血管障害は認めず,閉塞性大腸炎からのbacterial translocationを併発していたと考えられた.鼠径ヘルニアで閉塞性大腸炎を併発することは稀であり,文献的考察を含め報告する.

  • 石村 昂誠, 佃 和憲, 橋田 真輔, 山本 澄治, 池田 宏国, 沖田 充司
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1350-1353
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例は45歳,女性.体動時の左鼠径部痛を自覚し,前医を受診し鼠径ヘルニアの疑いで当院を紹介となった.腹部CTとMRIで,左鼠径部に腸管とは連続しない軟部組織の脱出を認めた.既往症としてMayer-Rokitansky-Kuster-Hauser syndrome(MRKH症候群)があり,瘢痕子宮の脱出が疑われ,婦人科と合同での腹腔鏡手術の方針とした.腹腔内を観察すると,左鼠径部に卵管および子宮円索と連続する瘢痕子宮を認め,その瘢痕子宮が脱出する滑脱型ヘルニアと診断し,腹腔鏡下に修復術を行った.疼痛は消失し,現在まで再発なく経過している.MRKH症候群のような性分化疾患では発生学的にはNuck管を形成し,鼠径ヘルニアを併存しやすいという報告もある.このような稀な病態における脱出臓器の画像による確定診断が困難な鼠径ヘルニアに対して,腹腔鏡手術による診断は有用であると考えられた.

  • 木井 修平, 細川 侑香, 山本 葉一, 蔵谷 勇樹, 藤好 直, 小池 雅彦
    2023 年 84 巻 8 号 p. 1354-1360
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    症例1:83歳,女性.左大腿部痛と嘔吐を主訴に当院を受診し,左閉鎖孔ヘルニア嵌頓と診断した.鏡視下の観察で左閉鎖孔の嵌頓は解除されていた.嵌頓小腸の壊死は認めず,完全腹膜外修復法(以下,TEP法)でヘルニアを修復した.症例2:72歳,男性.左鼠径部痛を主訴に当院を受診し,左鼠径ヘルニア嵌頓と診断した.全身麻酔下で嵌頓を整復した.鏡視下の観察で発赤した脂肪垂を認めたため,切除した.TEP法でヘルニアを修復した.症例3:96歳,女性.右下腹部から右鼠径部にかけての疼痛を主訴に当院を受診し,右閉鎖孔ヘルニア嵌頓と診断した.鏡視下に嵌頓小腸を整復したが暗赤色であった.TEP法でヘルニアを修復した.その後,鏡視下の観察で嵌頓小腸の壊死が疑われたため,小腸を楔状に切除した.

    腹腔内操作先行により嵌頓内容が確認でき,TEP法はメッシュ留置部位と腹腔内を交通させず,腸管浮腫の影響を受けにくいため有用であると考えられた.

編集後記
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