日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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83 巻, 10 号
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綜説
  • 小寺 泰弘
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1711-1721
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    年齢調整罹患率の低下,内視鏡的切除の適応拡大などにより,外科的治療の適応となる胃癌症例は減少している.一方,欧米では若年者の胃癌が増加しており,胃癌がこのままグローバルに希少癌への道をたどるという保証はまだない.近年の胃癌外科診療の進化をたどると,根治性の観点では術式はほぼ完成した感があり,長期予後のさらなる改善は薬物療法の進歩にかかっていると思われる.また,術式はエビデンスに基づいて簡略化されており,低侵襲手術で合併症無く切除するのが現在の理想である.ロボット支援手術はそれをさらに推進するツールとなると共に,手術の遂行に必要な人員が減ることから十分に普及した暁には外科医不足への一つの対策となり得る.一方,広範囲の胃を切除した場合の胃切除術後障害については,進化した質問票で患者報告型アウトカムを評価した限りにおいて,様々な術式,再建法の工夫をもってしても未解決な課題である.

症例
  • 市野 平之伸, 加藤 祐一郎, 河野 弘, 米山 文彦, 木村 桂子, 山口 直哉
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1722-1728
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は65歳,女性.2021年3月に十二指腸乳頭部癌の診断で当科へ紹介.亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.術後4日目に突然の意識障害と視覚障害が出現し,血圧は220/140mmHgと異常高値であった.他の神経学的異常所見はなく,視覚障害は光覚弁であった.髄液検査からは脳炎,髄膜炎は否定的であった.頭部CTで特記所見なし.頭部MRIの拡散強調画像,ADC mapやT2 FLAIR画像において後頭葉および頭頂葉に高信号域を認めた.臨床症状とMRIから可逆性後頭葉脳症症候群(PRES)と診断し,降圧管理と鎮痛強化を行った.翌日には意識障害は改善し,視覚障害は手動弁であった.MRIで高信号域であった部位は術後28日目に消失し,視覚障害の改善を認めた.PRESとは後頭葉を中心に白質に可逆的な変化を及ぼす疾患である.あまり経験しない術後合併症であり,意識障害の鑑別診断に加える必要がある.

  • 菊池 雅之, 宮部 理香, 田代 和弘, 小林 純子, 熱田 幸司, 安藤 崇史, 新谷 恒弘
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1729-1734
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は78歳,男性.主訴は右乳房腫瘤.右乳頭直下に3cm大の腫瘤を触知し,右乳房腫瘤以外にも体幹部を中心にcafé au lait spotと母指頭大の褐色の軟性腫瘤を多数認め,神経線維腫症1型(neurofibromatosis 1:NF1)の診断となった.乳腺エコーでは,2.9×1.6×2.3cmの腫瘤を認め,針生検にて浸潤性乳管癌の診断となり,右胸筋温存乳房切除術+センチネルリンパ節生検→腋窩リンパ節郭清を施行した.病理検査結果では,pT2N1M0 pStage II Bであった.術後薬物療法は,タモキシフェン20mg/日を内服し,再発なく経過している.NF1では,悪性腫瘍の合併をしばしば認めるが,本症例のように男性乳癌に合併した報告は稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 設楽 将之, 森山 悟
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1735-1739
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は66歳,男性.検診異常にて紹介.胸部CTにて左肺下葉S6に境界明瞭な結節を認めた.良性結節を疑い経過観察となったが,緩徐に増大傾向を示したため,診断治療目的で手術を施行.病理検査では無色素性悪性黒色腫の診断となった.皮膚を含め他臓器に原発巣となる病変は認めず,肺原発と判断した.術後2年3カ月経過しているが,明らかな再発所見は認めていない.肺原発悪性黒色腫は極めて稀とされており,予後は不良で多くが術後1年以内に死亡する.本症例は無色素性で比較的緩徐な増大を示し,一般的な臨床像とは異なっていた.

  • 松本 辰也, 鎌田 陽介, 小泉 範明, 藤木 博, 阪倉 長平
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1740-1746
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は52歳,男性.貧血の精査目的に当院を受診し,上部消化管内視鏡検査で前庭部に複数の早期胃癌病変を指摘された.内視鏡的粘膜下層剥離術を施行されたが,病理組織学所見でいずれもEpstein-Barr virus encoded RNA (EBER)陽性であり,Epstein-Barr virus (EBV)関連胃癌の診断となった.そのうちの1病変で深達度SM2,高度静脈侵襲の所見を認めたため,外科的追加切除の方針となった.本症例に対して腹腔鏡下胃全摘術を施行し,手術切除標本で新たにEBV陽性早期胃癌を認め,結果的に計8個の多発病変であった.さらに,癌部以外にも,前癌病変を示唆するEBER陽性を呈する異型腺管の集簇巣を認めた.今回われわれは,同時性に8病変を伴ったEBV関連多発早期胃癌の1切除例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.多発胃癌症例を診療する際にはEBV関連胃癌の可能性を念頭に置き,診断がなされた場合,同時性/異時性発癌のポテンシャル,患者背景も考慮した治療方針の決定が重要と考えられた.

  • 森 泰木, 藤田 昌久, 石川 文彦, 新田 宙, 釜田 茂幸, 伊藤 博
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1747-1751
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は63歳,男性.心肺停止から蘇生後,急性心筋梗塞に対して経皮的冠動脈インターベンションが行われ,ICUに入室した.人工呼吸器から離脱し,食事を開始後の第14病日に腹部膨満と腹痛が出現し,腸閉塞の診断となった.イレウス管留置後も症状の改善なく,第22病日に小腸部分切除術を行った.サイトメガロウィルス(cytomegalovirus:以下,CMV)アンチゲネミア陽性および病理組織標本よりCMV腸炎と診断し,ガンシクロビルの投与を開始した.術後より続いていた下痢が速やかに改善し,第40病日に退院した.背景に免疫機能異常のない重症患者に対するCMV感染に対する明確な治療方針や感染予防法は定まっていないが,本症例のように心肺停止後の重症患者がCMV腸炎による腸閉塞をきたし手術を要することがあり,本症の発症を十分留意する必要がある.

  • 岩田 力, 渡邊 真哉, 古田 美保, 會津 恵司, 佐藤 文哉
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1752-1757
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    今回われわれは,Meckel憩室自体が結節を形成し絞扼性腸閉塞をきたした1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.症例は41歳,男性.腹部手術歴はなし.突然発症した激しい腹痛および嘔吐を主訴に,当院救急外来を受診した.腹部造影CTではDouglas窩に少量の腹水,骨盤部に小腸拡張およびclosed loopの形成を認めた.腹部所見や画像検査から絞扼性腸閉塞と診断し,同日に緊急手術を施行した.開腹し腹腔内を観察すると,盲管が口側回腸に巻き付き結節を形成し,回腸が壊死をきたしていた.結節を解除して盲管を含むように回腸を切除し,端々吻合で再建し手術を終了とした.切除された盲管は回腸末端より50cmの口側の腸間膜対側に存在し,長さ9.5cm大で先端が嚢状になっていた.病理組織学的検査で盲管はMeckel憩室と診断され,最終的にMeckel憩室自体が結節を形成し絞扼性腸閉塞をきたしたと考えられた.

  • 田浦 洋平, 岡 一斉, 中嶋 朔生, 深光 岳, 佐野 史歩, 須藤 学拓
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1758-1764
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は29歳,女性.下行結腸癌を先進部とする下行結腸腸重積と診断され,緊急で腹腔鏡下結腸左半切除術を施行した.術後癒着性腸閉塞に対して術後12日目に腹腔鏡下腸閉塞解除術を施行した.再手術後13日目に上腸間膜動脈症候群を認めたため,double elementary diet tube(以下W-ED® tube)による減圧と経腸栄養による保存的治療を行ったが改善なく,再手術後62目日に腹腔鏡下十二指腸空腸吻合術を施行した.その後の経過は良好で,再々手術後9日目に退院となった.今回若年発症の下行結腸癌による腸重積と,その術後に発症した上腸間膜動脈症候群に対して腹腔鏡下手術を施行した1例を経験したので報告する.

  • 深津 英希, 原田 岳, 尾﨑 裕介, 宮﨑 真一郎, 林 忠毅, 馬場 健, 森 弘樹, 落合 秀人
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1765-1770
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は55歳,男性.虫垂炎の既往があり,保存的治療で軽快した.1年後,肉眼的血尿を主訴に泌尿器科を受診し,当科を紹介受診した.膀胱鏡にて右尿管口外側に瘻孔が確認され,腹部MRIでは回盲部と膀胱が接しており,膀胱壁内に嚢胞性病変を認めた.以上より,虫垂炎または虫垂悪性腫瘍による虫垂膀胱瘻と診断し,泌尿器科と合同で腹腔鏡補助下回盲部切除術(D3郭清)+膀胱部分切除術を施行した.泌尿器科が小開腹で膀胱部分切除を行う予定だったため,腹腔内で口側と肛門側の腸管を切離した後,下腹部正中に小開腹創をおいて癒着部の膀胱壁を切除して小開腹創部から検体を摘出した.病理検査では明らかな悪性所見を認めなかった.虫垂膀胱瘻は膀胱腸瘻の中でも稀な疾患であり,術前に良悪性を診断することは非常に難しい.虫垂膀胱瘻に対し腹腔鏡アプローチで手術を施行したのは本邦で3例目であり,文献的考察を含めて報告する.

  • 小倉 正臣, 濵田 賢司, 赤尾 希美, 大森 隆夫, 金兒 博司
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1771-1777
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例1:40歳,男性.膿瘍形成性虫垂炎に対し保存的治療後,待機的虫垂切除術前CTで虫垂腫大の残存を認め,下部消化管内視鏡検査を施行.盲腸癌の診断で,腹腔鏡補助下回盲部切除術を施行した.症例2:42歳,男性.膿瘍形成性虫垂炎に対し保存的治療後,3カ月目のCTで虫垂腫大の残存と回結腸動脈領域のリンパ節腫大を認め,下部消化管内視鏡検査を施行.虫垂癌の診断で,回盲部切除術・小腸合併切除術を施行した.

    いずれも待機的虫垂切除術前に悪性所見が判明し,一期的に根治切除可能であり,現在無再発生存中である.

    結腸癌罹患率の観点から50歳以上の膿瘍形成性虫垂炎保存的治療後には,下部消化管内視鏡検査により盲腸癌,一部虫垂癌を否定することが必要である.特に,待機的虫垂切除術前の画像診断で虫垂腫大が残存している場合には,年齢にかかわらず下部消化管内視鏡検査を強く勧めることが重要である.

  • 村川 力彦, 石井 佑, 郭 紗弥, 武内 優太, 溝田 知子, 大野 耕一
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1778-1781
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は53歳,男性.直腸RS癌に対してロボット支援下高位前方切除術を施行し,25mmのcircular staplerを用いたdouble stapling technique吻合を施行した.pStage III Bの診断となり,XELOXによる術後補助化学療法を施行した.術後6カ月の受診時に粘液便の漏出を認め,CTで吻合部に長径34mmの嚢胞状病変を認めた.MRIではダンベル状の嚢胞性病変を認め,T1低信号,T2高信号の境界明瞭で均一な腫瘤を認めた.内部には充実成分を認めなかった.下部消化管内視鏡検査では吻合部に粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.以上よりimplantation cystと診断し,経過観察の方針となった.術後2年6カ月経過したが,implantation cystの増大,直腸癌再発の所見なく経過している.

  • 額田 卓, 片山 雄介, 澤崎 翔, 大佛 智彦, 利野 靖
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1782-1786
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    今回われわれは,直腸絨毛腫瘍に伴う重度の電解質異常と腎機能不全のため透析導入となった症例を経験したので報告する.

    症例は70歳,女性.2年前より血便と下痢を自覚するが,放置していた.今回,下痢症状が増悪したため前医を受診し,直腸診で腫瘤を触知したため,直腸癌の疑いにて当院を紹介受診した.食思不振もあるため同日緊急入院し,1週間後の血液検査で急性腎不全の診断で透析導入となった.下部消化管内視鏡検査では直腸に全周性の絨毛状腫瘍を認め,生検結果でadenocarcinoma in adenomaと診断した.造影CTでは,直腸内に多量の液体貯留と直腸内腔に突出した最大径約10cm大の隆起性病変を認めた.直腸絨毛状腫瘍からの粘液分泌による電解質喪失症候群(electrolyte depletion syndrome : EDS)を生じ,それがトリガーとなって急性腎不全を併発したと考えられた.治療は血液透析治療により全身状態を改善させた後,Hartmann術を施行した.術直後より急性腎不全は改善し,透析から離脱し良好な経過であった.

  • 海瀬 理可, 三島 江平, 若林 大雅, 藤山 芳樹, 若林 剛
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1787-1793
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は70歳,男性.2019年11月に肝S4の肝細胞癌の破裂に対して緊急で肝動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization: TAE)を施行した.その際の造影CTにて門脈左枝から本幹に至る門脈腫瘍栓(Vp4)を認めた.化学療法を施行する方針とし,2019年12月よりlenvatinib(12mg/day)を開始した.治療開始6週間後,腫瘍,門脈腫瘍栓ともに縮小し,根治術(conversion手術)可能と判断した.2020年2月に腹腔鏡下肝左葉切除術を施行した.術中肝門部Glissonは個別に処理し,左門脈は超音波で根部に腫瘍栓がないことを確認した上でクリップ切離した.術後合併症なく退院し,現在術後2年間無再発生存中である.

  • 丸田 浩志, 小松 英明, 田中 賢治, 木下 直江
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1794-1799
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,男性.腹痛・嘔吐で前医を受診し,腹部超音波検査で胆嚢腫大を指摘され当院に紹介となった.腹部CTで急性胆嚢炎の診断とされ保存的加療で改善した後,待機的胆嚢摘出術目的に当科紹介となった.当科受診時に胆嚢炎症状は認めなかったが,腹部CTで胆嚢炎増悪を認め,MRIで胆嚢と肝彎曲部横行結腸に瘻孔が疑われた.胆嚢炎および胆嚢結腸瘻の診断で,絶食・抗菌薬加療後に開腹手術を施行した.胆嚢と横行結腸との間に瘻孔形成を確認し,胆嚢亜全摘術,横行結腸部分切除術を施行した.術後は合併症なく経過し,術後15日目に退院した.病理組織学的検査で黄色肉芽腫性胆嚢炎と診断された.胆嚢結腸瘻を伴う黄色肉芽腫性胆嚢炎は非常に稀であり,若干の文献的報告を加え考察する.

  • 加藤 萌子, 増田 稔郎, 神尾 多喜浩, 髙森 啓史
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1800-1804
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    急性胆嚢炎に対する内視鏡的胆嚢ステント長期間留置後,胆嚢癌を疑われた1切除例を経験した.

    症例は68歳,男性.腹痛を主訴に当院を受診した.急性胆嚢炎の診断で,内視鏡的胆嚢ドレナージ(endoscopic transpapillary gallbladder drainage;以下,ETGBDと略記)を行った.待機的胆嚢摘出術を予定したが,受診なく長期間ステント留置状態であった.8カ月後,腹痛を主訴に近医を受診し,偶発的に胃癌を指摘され当院に紹介された.CTでは胆嚢に約6mmの限局性壁肥厚を認め,胆嚢癌が疑われた.開腹胃全摘術および胆嚢全層切除術を実施した.胆嚢の術後病理診断は黄色肉芽腫性胆嚢炎であった.

    急性胆嚢炎に対するETGBDは,体外へのチューブ留置がないことから症状改善後に受診が滞るリスクがあり,ETGBDチューブの長期留置によって胆嚢の慢性炎症をきたす可能性がある.炎症改善後にETGBDチューブ抜去が必要であること,胆嚢摘出が望ましいことについて十分な患者指導を行うことが肝要である.

  • 下村 佳寛, 岡田 禎人, 太平 周作, 鈴木 和志, 田口 泰郎, 酒徳 弥生
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1805-1810
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は66歳の男性.37歳時に十二指腸潰瘍穿孔に対して胃切除術(Billroth II法再建)を施行された.腹痛を主訴に受診し,CTで輸入脚拡張と膵周囲脂肪織濃度上昇を認め,輸入脚症候群による急性膵炎の診断で入院となった.緊急に内視鏡下で輸入脚内にNGチューブを留置し,減圧を行った.減圧は成功したが, 重症急性膵炎に進展し,入院10日目のCTで左腎下極から縦隔に及ぶ広範な膿瘍形成を認めた.入院29日目に膿瘍が被包化した段階で開腹ネクロセクトミーとBraun吻合を施行した.術後は縫合不全を認めたが,ドレーン管理で保存的に治癒した.炎症所見も鎮静化し,入院77日目に退院となった.輸入脚症候群は稀に急性膵炎に進展し,重症化した場合には致死率が高い.われわれは胃切除後の輸入脚症候群に続発した重症急性膵炎に対して,待機的な外科手術を施行した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

  • 佐藤 凜太郎, 清水 健司, 柿崎 裕太, 臼田 昌広, 千場 良司, 宮田 剛
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1811-1816
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は74歳,男性.2015年より膵尾部intraductal papillary mucinous neoplasm (IPMN)に対して当院消化器内科で経過観察されていた.2020年に発熱,食思不振で来院,腹部造影CTで膵尾部IPMN網嚢内穿破の診断となり,distal pancreatosplenectomyを施行した.膵尾部に破裂嚢胞,網嚢内に粘液を認めたが,明らかな肝転移やリンパ節腫脹は認めず,腹腔洗浄細胞診は陰性であった.術後経過は良好で,術後第14病日に自宅退院した.病理診断はIPMNに発生した粘液性高分化腺癌であったため,術後2カ月よりS-1による補助化学療法を6カ月間施行した.術後1年時点で無再発生存中である.

    本症例では,腹膜偽粘液腫再発が懸念される.その有効な予防方法は確立されていないが,膵癌に準拠した補助化学療法を施行した.今後も慎重な経過観察が重要であると思われる.

  • 安井 友梨奈, 小郷 泰一, 長野 裕人, 加藤 俊介, 入江 工, 井ノ口 幹人
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1817-1821
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は89歳,女性.2~3カ月前からの胃部不快感を主訴に当院を紹介受診した.既往に直腸癌(腹腔鏡補助下腹会陰式直腸切断術),単孔式S状結腸人工肛門穿孔(腹腔鏡補助下単孔式横行結腸人工肛門再造設術)がある.造影CTでは胃小彎側腹側に拡張腸管と集簇血管を認め,内ヘルニアの診断で胃管減圧の上緊急手術を施行した.小網に約5cmの異常裂孔があり,小腸が裂孔背側から腹側に向かって嵌頓していた.腸管壊死は認めず,愛護的に整復し異常裂孔を縫合閉鎖した.術後経過は良好で術後第7病日に自宅退院し,術後8カ月経過した現在も再発は認めていない.本症例は過去の手術により横行結腸間膜が一部欠損していることで,小腸が開放された網嚢を通り,何らかの要因で生じた小網裂孔に嵌入したと考えられた.小網裂孔ヘルニアは内ヘルニアの中でも稀な疾患ではあるが,特徴的な画像所見により術前診断に至る可能性があり,留意する必要がある.

  • 栗林 完, 小倉 佑太, 中島 三郎, 上木原 貴仁, 原口 優清
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1822-1826
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は35歳,女性.右上腹部痛と嘔気を主訴に前医を受診,腹部症状が持続したため当科を紹介受診した.腹部症状は右上腹部痛のみだったが,腹部単純X線・腹部単純CTで小腸の拡張所見を認め,急性胃腸炎の診断で入院した.絶食・補液で経過を見ていたが,症状改善に乏しく,入院3日目の腹部造影CTで腹水の増加および小腸拡張像の増悪を認めた.小網部に小腸が嵌頓していたことから,内ヘルニアによる絞扼性腸閉塞と診断し,イレウスチューブによる腸管内減圧を試みた後,翌日に緊急手術を施行した.術中所見では,大網の異常裂孔から網嚢内に小腸が迷入し,その小腸が小網裂孔から遊離腹腔に嵌頓していた.腸管の壊死所見は認めず,大網と小網の異常裂孔を閉鎖し手術を終了した.術後経過は良好だった.大網小網裂孔網嚢ヘルニアは極めて稀な病態であり,今回われわれは若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 武居 友子, 益田 悠貴, 矢作 雅史, 亀山 哲章, 秋山 芳伸, 緒方 謙太郎, 片井 均
    2022 年 83 巻 10 号 p. 1827-1832
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は45歳,男性.CTにて,左総腸骨動静脈と椎体の間に,40mm大の後腹膜腫瘍を認め,悪性腫瘍が否定できないため外科的切除の方針となった.腫瘍は左総腸骨動静脈に癒着しており,合併切除および血行再建を行った.病理組織学的には,類円形および紡錘形の好酸性細胞が混在して増殖し,HMB-45およびMelan-A陽性のメラニン顆粒産生細胞とα-SMA陽性細胞を認めること,上皮系マーカーが陰性であることから,血管周囲類上皮細胞腫瘍(perivascular epithelioid cell tumor : PEComa)と診断した.PEComaは,悪性例が存在する稀な間葉系腫瘍であり,術前画像診断は困難とされている.骨盤内後腹膜腔での発生は稀であり,総腸骨動脈を合併切除することで遺残なく切除可能であった1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

国内外科研修報告
支部・集談会記事
編集後記
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