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小川 明男, 伊東 悠子, 野尻 基, 吉原 基, 溝口 良順
2023 年 84 巻 2 号 p.
251-256
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
症例は47歳,女性.右乳房CD境界に4cm径の腫瘤を触知した.青年期よりあり,少し縮小していた.乳腺エコーでは分葉状多結節状で,腫瘍の乳頭遠位部は他部位よりも低エコー濃度であった.乳房造影MRIでは腫瘍の乳頭遠位部は早期濃染した.針生検でlow grade ductal carcinoma in situ(DCIS)を含む葉状腫瘍の診断であった.腫瘍は乳輪下に及んでいたため,腫瘍直上の乳輪皮膚皮下も合併切除する乳房部分切除を施行した.病理診断は浸潤性乳管癌と腺筋上皮腫を含むfibroadenoma phyllodesであった.Low grade DCIS相当の乳管内成分は葉状腫瘍様の葉状構造の裂隙内に拡がり浸潤部を形成し,一部で腫瘍外にも拡がっていた.切除断端は陰性であった.術後全乳房照射を追加した.
自験例は線維腺腫が長期の経過で線維腺腫の像に留まることなく,間質では葉状腫瘍様の葉状構造,上皮の癌化,筋上皮の増殖といった多彩な局面を呈したものと考えられた.線維腺腫と葉状腫瘍の組織発生を考える上で興味深い症例であった.
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浜田 卓巳, 小笠原 和宏, 岡田 尚樹, 石黒 友唯, 中川 隆公, 岡田 宏美
2023 年 84 巻 2 号 p.
257-264
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
症例は初診時56歳の女性.右乳癌に対して乳房全切除術およびセンチネルリンパ節生検を実施.病理組織診断はinvasive ductal carcinoma,(papillotubular),NG3,ER(-),PgR(-),Ki-67=20%,HER2(-);pT1b (9mm),pN0,M0;Stage Iで,浸潤癌に隣接して腺筋上皮腫が認められた.術後補助療法なしで経過観察していた.術後4年後のCTで右肺S6に分葉状・多結節様腫瘍を認め,その4カ月後に他施設で胸腔鏡下右肺下葉切除術を実施したところ,筋上皮様細胞の増殖からなる腫瘍が認められた.病理学的な再検討により,原発巣は腺筋上皮種の乳管上皮成分と筋上皮成分の両者が悪性化した悪性腺筋上皮腫との診断に至り,浸潤径は約20mmと考えられた.術後補助化学療法としてエピルビシン+シクロホスファミド(EC)4コース→パクリタキセル週1回投与(weekly PTX)12コースを実施したが,その後,脳転移や肺転移,肝転移,腎転移など多発の遠隔転移をきたした.遠隔転移の進行により全身状態悪化をきたし,現在best supportive careへ移行,在宅緩和医療を導入し経過観察中である.
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加藤 きみ佳, 森崎 珠実, 高田 晃次, 後藤 航, 柏木 伸一郎
2023 年 84 巻 2 号 p.
265-268
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
がん遺伝子パネル検査が治療方針の決定に寄与した1例を経験したので報告する.59歳,女性.左乳房の湿疹を自覚し前医を受診,皮膚浸潤を伴う左乳癌が疑われ紹介となった.精査にて右乳腺にも乳癌が認められ,両側乳癌と診断された.右側が浸潤性乳管癌 cT1N1M0 stage II A (Luminal HER),左側が浸潤性乳管癌 cT4N3M0 stage III C (Luminal)であった.ここで化学療法(ドセタキセル+ペルツズマブ+トラスツズマブ)を施行したところ,腫瘍縮小を認めたために手術に至った.術後1年,頸椎および胸椎に骨転移再発を認めたために治療を変更,その後6カ月目に肝転移が認められた.そこで,肝生検を行いサブタイプの再確認のうえで,再度治療を変更した.治療効果を認めたが,有害事象のため約6カ月で継続困難となった.ここで,がん遺伝子パネル検査 (FoundationOne®)を行ったところ,BRCA2遺伝子の生殖細胞変異が確認された.本検査については,新たな治療の可能性につながるために積極的に実施するのが望ましいと考えられた.
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岡本 祐介, 手石方 崇志, 宮原 尚文, 平塚 昌文
2023 年 84 巻 2 号 p.
269-272
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
縦隔神経節細胞腫は神経節由来の良性疾患であり,20歳以下の小児,若年成人に好発する無症状で発見されることが多い腫瘍である.今回,就学前の幼児に発生した有症状の巨大後縦隔神経節腫瘍を経験したので報告する.症例は5歳,女児.咳嗽,発熱を主訴に近医を受診.画像で右後縦隔に10cm大の境界明瞭な腫瘍を認めた.CT・MRI・PET所見からは良性神経原性腫瘍を疑われ,症状は腫瘍圧迫によるものと思われた.胸腔鏡補助下に完全切除し,神経節細胞腫の診断であった.3年が経過したが,明らかな再発は認めていない.幼児期に発見される有症状の縦隔神経節細胞腫は比較的稀な疾患であるが,鑑別診断として念頭に置くべき疾患であると思われた.
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大塚 智昭, 宮谷 克也, 久保 雅俊, 宇高 徹総, 前田 宏也
2023 年 84 巻 2 号 p.
273-280
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
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肺内発生の胸腺腫は非常に稀であり,僅かな報告例があるのみである.肺内原発の胸腺腫は画像診断で他の肺腫瘍と鑑別することは困難であり,確定診断には外科的摘出による病理学的診断が有用である.今回われわれは,多発結節影の経過観察中に肺腺癌を発症,右上葉切除後に多発結節が胸腺腫と診断された1例を経験した.これに若干の考察を加え報告する.症例は71歳,女性.両側性多発肺結節に対し経過観察していた.20年前に1つを摘出生検し,良性結節と診断された.右上葉に増大傾向のある不整形陰影を認め,CTガイド下肺生検にて肺腺癌と診断した.胸腔鏡補助下右上葉切除術を施行,病理診断にて中分化型腺癌pT1bN0M0 Stage I A-2と診断した.右上葉内に2個の充実型結節があり,肺内胸腺腫(type A)と診断した.その形態的特徴は20年前の標本と一致,胸腺内に胸腺腫を疑う腫瘤影は認めず,肺原発と推察される多発胸腺腫と診断した.
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大森 威来, 久保 尚士, 黒田 顕慈, 長谷川 毅, 櫻井 克宣, 前田 清
2023 年 84 巻 2 号 p.
281-287
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
症例は53歳,男性.曖気を主訴に,近医で上部消化管内視鏡検査を施行されBarrett食道腺癌と診断され,当科を受診となった.超音波内視鏡検査で深達度はSM深部,リンパ節転移や遠隔転移は認めず,Barrett食道腺癌,AeLt,cT1b,cN0,cM0,cStage Iとして手術治療の方針となった.並存疾患に高度肥満(BMI 34),慢性腎不全,2型糖尿病を持ち,ハイリスク症例としてロボット支援下の二期分割手術を計画した.一期目手術ではロボット支援下食道亜全摘術,胃瘻造設,頸部食道外瘻造設を行った.術後合併症は認めず,初回手術1カ月後に二期目手術としてロボット支援下胃管作成,胸骨後経路胃管再建,頸部食道胃管吻合を施行した.術後,頸部食道胃管吻合部の縫合不全を認めたが,保存的に軽快し術後30日目に退院した.高度肥満,慢性腎不全を伴うハイリスク食道癌において二期分割手術とロボット支援下手術を導入することで,安全に治療を施行できた症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
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烏山 拓馬, 浅生 義人, 姚 思遠, 小嶋 大也, 竹山 治, 田中 満
2023 年 84 巻 2 号 p.
288-293
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
症例は64歳の男性で,健康診断で受けた上部内視鏡検査で胃底部後壁にType2胃癌(生検でtub1)を認めた.造影CTでは胃底部に既知の腫瘤(cT3)と膵尾部に径20mmの腫瘤を認め,その他臓器転移は同定できなかった.造影MRIで膵尾部腫瘤は膵癌,内分泌腫瘍,充実性偽乳頭状腫瘍が疑われた.胃上部癌cT3N0M0と膵尾部腫瘤に対して開腹胃全摘(D2郭清,Roux-en-Y再建),膵体尾部切除,脾摘,胆摘術を施行した.病理組織学検査では,膵病変のみでなく脾内にも胃病変と類似した組織像,免疫染色像(CK20,CK7陽性,CA19-9陰性)を認め,胃癌の膵転移・脾転移と診断した.現在,術後補助化学療法を経て5年間無再発で経過中である.胃癌の直接腫瘍浸潤を除く同時性2臓器転移の切除報告は極めて稀で,今回術後補助化学療法併用により長期間無再発で経過している症例を経験したため,文献的考察を加え報告する.
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八田 亮輔, 石崎 陽一, 小濱 信太郎, 吉本 次郎, 永仮 邦彦, 大内 昌和
2023 年 84 巻 2 号 p.
294-298
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
62歳,女性.腹痛,嘔気を主訴に当院内科を受診し,CTでの含気のある低吸収腫瘤による小腸閉塞で,胃石による小腸閉塞と診断した.イレウス管を挿入しコカ・コーラ®による溶解を試みたが改善せず,当科へ紹介となり単孔式腹腔鏡手術を施行した.回盲弁から約30cm口側に約40mmの胃石が嵌頓し閉塞起点となっていた.小腸を体外に挙上し小腸を切開して胃石を摘出し,切開部を縫合閉鎖した.術後に発熱が遷延したが,抗菌薬投与で軽快退院した.摘出標本の分析ではタンニン酸が98%で胃石の診断が確定した.幽門側胃切除後に比べて幽門保存胃切除後では,胃石発生頻度が高く,胃内で確認されれば内視鏡的摘出か,コカ・コーラ®による溶解療法,外科的治療の適応となる.胃石が小腸に落下する頻度は低いが,落下すると腸閉塞をきたすことがある.この場合,溶解療法などの内科的治療は奏効しないことが多く,早期に外科的治療を考慮する必要がある.
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大河原 一真, 渡邉 雄介, 中山 宏道, 植木 隆, 大城戸 政行
2023 年 84 巻 2 号 p.
299-304
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
小腸憩室はまれであり,その多くが無症候性であるが,時に憩室炎などの症状を呈する.空腸憩室炎の穿通や穿孔により腹腔内膿瘍や腹膜炎を生じた場合には,外科的治療が選択される場合が多く,保存的治療で軽快した報告は少ない.今回われわれは,保存的治療で軽快した小腸憩室炎による腹腔内膿瘍の症例を経験した.症例は70歳の女性で,発熱と左下腹部痛を主訴に当院を受診した.CTで多発空腸憩室を認め,軽度の壁肥厚と造影効果を伴う空腸憩室を一つ認めた.この憩室に接した腸間膜内にairを伴う液貯留と脂肪織混濁を認めた.空腸憩室炎の穿通による腹腔内膿瘍・限局性腹膜炎と診断した.全身状態が安定しており,腹部症状も限局していたため保存的治療を選択し,軽快した.本症例や過去の報告からは,発症後早期に正確に空腸憩室炎穿通の診断がなされ,全身状態が安定している場合には,保存的治療も選択肢になりうると思われた.
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鳥居 隼, 戸﨑 達, 岩本 久幸, 馬場 卓也, 大澤 一郎, 笹本 彰紀
2023 年 84 巻 2 号 p.
305-309
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
症例は67歳,女性.腹痛を主訴に当院に入院となった.入院時血液検査で炎症反応の高値を認めた.腹部造影CTでは,虫垂は造影される壁肥厚を認め,尖端部には内部造影効果の乏しい4cmの腫瘤と右水腎症を認めた.虫垂腫瘍による尿管狭窄に伴う右水腎症と診断した.大腸内視鏡では虫垂開口部に明らかな腫瘤は認めなかったが,虫垂の悪性腫瘍も否定できず,D3郭清を伴う回盲部切除を施行した.病理検査では,腫瘤部は泡沫状組織球を主体とする炎症細胞浸潤と肉芽組織から成る黄色肉芽腫性の炎症巣を認め,黄色肉芽腫性虫垂炎と最終診断した.黄色肉芽腫性腫瘤は,胆嚢・腎臓に好発すると報告されているが,虫垂原発は稀であり文献的考察を加えて報告する.
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日比野 佑弥, 金岡 祐次, 前田 敦行, 高山 祐一, 高橋 崇真, 青山 広希
2023 年 84 巻 2 号 p.
310-315
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
症例は14歳,女性.2日前からの下腹部痛と発熱を主訴に当院を受診した.腹部造影CTで急性虫垂炎と診断し,虫垂切除術を施行した.術後も発熱と炎症の改善がなく,術後4日目に造影CTを施行したところ,手術部位の膿瘍形成と上腸間膜静脈血栓症を認め,ヘパリン1万単位/日を開始した.この際に初診時のCTを見返したところ,既に上腸間膜静脈に血栓を形成していた.術後10日目に造影CTで肝左葉門脈内に血栓の進展を認めたが,肝機能異常は認めなかった.術後13日目にAPTTの十分な延長を得られず,リバーロキサバン(以下,RVX)内服を開始した.造影CTで血栓の変化はないものの,各種症状の新規出現もないためRVX内服を継続し,術後26日目に退院となった.退院後も血栓の消失は認めていない.術後半年でRVXの内服は終了し,経過観察中である.
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菅野 圭, 三田 和芳, 羽田 匡宏, 小竹 優範, 原 拓央
2023 年 84 巻 2 号 p.
316-320
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
症例は74歳,女性.9年近く前に右大腿ヘルニアに対してメッシュ留置を伴う手術歴がある.4年余り前に盲腸癌pStage III bに対し腹腔鏡下結腸部分切除術(D3郭清)を行い,術後補助化学療法も行った.1年前に腹部CTで右鼠径部腫瘤影を指摘され,徐々に増大を認めた.3カ月前より右鼠径部痛が出現し,PET-CTで同部へのFDG集積を認めた.盲腸癌の再発を疑い,腹腔鏡下および右鼠径部前方切開による腫瘤摘出術を施行した.肉眼的にはメッシュ中央付近の腹壁を首座とする40mm大の腫瘤で,腹腔内播種を疑う所見は認めなかった.病理組織学的には高分化~中分化の管状腺癌で盲腸癌の再発と考えられた.腫瘍は腹壁側からメッシュを圧拝し,一部で繊維の間隙に浸潤するように増生しており,播種などの直接転移よりは血行性転移が想定された.また,メッシュを用いる腹壁ヘルニア手術は日常的な診療であるが,留置から4年後に切除された盲腸癌の再発に関与した可能性が示唆された.
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大谷 博, 埜村 真也, 今西 大樹, 野田 諭
2023 年 84 巻 2 号 p.
321-325
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
症例は66歳,女性.潰瘍性大腸炎の治療中にCTでS状結腸憩室炎,膿瘍形成と診断されたが,腹膜炎所見を認めず,保存加療されていた.その後も発熱,腹痛等の症状が時にあり,絶食加療となるため,患者と相談し,手術の方針となった.術前のCTでは,S状結腸憩室炎,膿瘍形成,左卵巣穿通疑いと診断した.術中所見では,S状結腸と左卵巣との間に膿瘍形成に加えて左卵巣に穿通を疑ったため,腹腔鏡下S状結腸切除,左卵巣切除を施行した.卵巣に穿通したS状結腸憩室炎の報告は非常に稀であるため,若干の文献的考察を加え報告する.
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杭瀬 崇, 三原 大樹, 濱﨑 友洋, 秋元 悠, 原田 亮, 山野 寿久
2023 年 84 巻 2 号 p.
326-332
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
症例1は22歳の男性で,水上バイクの追突事故時にハンドルで心窩部を強打し,腹痛を主訴に当院を受診した.CTで外傷性膵損傷と診断し,緊急内視鏡的逆行性膵管造影(endoscopic retrograde pancreatography;以下,ERPと略記)では主膵管は完全断裂し尾側膵管は造影されず,緊急手術(脾温存膵体尾部切除術)を行った.術後8日目に軽快退院した.症例2は12歳の男児で,ハンドボール中に相手選手の肘で左側腹部を強打し,腹痛を主訴に当院を受診した.CTで外傷性膵損傷と診断し,緊急ERPでは主膵管の不完全断裂を認めたが尾側膵管へカニュレーションが可能であり,膵管ドレナージによる保存的治療で第15病日に軽快退院した.IIIb型外傷性膵損傷に対し膵管ドレナージにより手術を回避できる症例が存在するが,確立した適応基準はない.文献的考察を加え治療戦略について考察する.
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窪田 拓己, 梶川 真樹, 山本 泰康, 浅田 崇洋, 奥村 徳夫, 渡邉 卓哉
2023 年 84 巻 2 号 p.
333-339
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
症例は37歳,男性.痙攣と意識消失を主訴に来院した.早朝低血糖がみられ,造影CTで膵頭体部境界の多血性腫瘍を指摘され,インスリノーマと診断された.手術を予定したが,併存症に神経線維腫症1型があり,他にも膵内に結節が多発しており,術中にインスリノーマ完全摘出の判断を行う必要があった.術前選択的動脈内カルシウム注入法,術中超音波検査,術中迅速病理,急速カルシウム静注負荷下の術中血中インスリン測定を併用し,膵部分切除術を施行した.術後3年経過し,再発は認めていない.
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谷口 絵美, 稲石 貴弘
2023 年 84 巻 2 号 p.
340-345
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
症例は52歳,女性.以前より神経線維腫症1型と診断されていた.6年前に左乳癌に対して手術を行い,術後1年のCTで左後腹膜腫瘍を指摘されたが臨床症状や高血圧を認めず,後腹膜神経線維腫と判断され経過観察となった.その後,左後腹膜腫瘍は緩徐に増大し,6カ月前のCTで70mmであった.この時点で褐色細胞腫の可能性を考慮して精査を行い,左褐色細胞腫と診断した.ドキサゾシンを14mg/日まで漸増した後に,腹腔鏡下左副腎摘出術を施行した.今回,神経線維腫症1型に合併した乳癌術後の経過観察中に後腹膜腫瘍を指摘され,数年後の精査で褐色細胞腫の診断に至った症例を経験した.神経線維腫症1型は多種の腫瘍性病変を合併することがあるが,必要に応じて褐色細胞腫のスクリーニング検査を行い,褐色細胞腫を見逃さないことが重要である.
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甲斐 巧也, 前田 敦行, 高山 祐一, 高橋 崇真, 青山 広希, 金岡 祐次
2023 年 84 巻 2 号 p.
346-351
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
症例は60歳,女性.身長159cm,体重100kg,BMI 40kg/m2.9年前に臍ヘルニアに対してメッシュ修復術が施行された.前夜からの腹痛が改善せず,当院に救急搬送された.腹部には巨大腫瘤を認め,CTでは14×10cmの腹壁瘢痕ヘルニアと小腸近傍にfree airを認め,腹壁瘢痕ヘルニア嵌頓小腸穿孔と診断し緊急手術を施行した.小腸の壊死と1cmの穿孔を認め,切除吻合した.ヘルニア修復はメッシュを除去し,components separation法で施行した.術後14日目と18日目に大量の皮下出血で出血性ショックとなり緊急手術を施行したが,明らかな出血点は認めなかった.その後,人工呼吸器管理,腎不全となり血液透析を必要とし,抗菌薬による無顆粒球症を併発したが保存的に軽快し,77日目に軽快退院した.再出血前に発熱を認めたために感染を契機に再出血した可能性も考えられた.肥満患者では組織が脆弱なうえ,剥離範囲が広範なため,十分な止血と感染コントロールが必要である.
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新田 敏勝, 成田 匡大, 上田 恭彦, 太田 将仁, 石橋 孝嗣
2023 年 84 巻 2 号 p.
352-355
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
ジャーナル
フリー
症例は56歳の男性.数カ月前より左鼠径部の違和感および膨隆を認めてきたため,血液透析先の泌尿器科を受診した.そこで,左鼠径ヘルニアの診断にて当院に紹介となった.今後,腎臓を移植することを考慮し泌尿器科医と患者はメッシュを使用しない術式を希望した.Shouldice法はその再発率は1.15%と報告されており,国際ガイドラインで推奨されている組織縫合法である.しかしながら,本邦で施行されることはほぼない術式でもある.実際,医学中央雑誌にて現在までで「Shouldice法」をキーワードに検索したところ(会議録を除く),6例の検索結果を認めるのみであった.Shouldice法とその他の従来法との違いとして,①挙睾筋を鼠径管内で離断し,外側断端は精索に巻き付けることにより「内鼠径輪の外側化」を図ること,②鼠径管後壁を切開し腹膜前腔を十分に剥離すること,③修復に腹直筋・内腹斜筋を用いて4層に縫合することを挙げている.今回,稀な場合であるが,メッシュを使用しない組織縫合法として日本では非常に稀なShouldice法を施行した1例を経験したので報告する.
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青山 諒平, 榎木 佑弥, 井上 一真, 寺脇 平真, 伊東 大輔, 宇山 志朗
2023 年 84 巻 2 号 p.
356-361
発行日: 2023年
公開日: 2023/08/31
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症例は70歳,男性.尾骨周囲疼痛と肛門部違和感を主訴に当院を受診した.右臀部に弾性軟の有痛性腫瘤を触知し,CTで仙骨前面から直腸右側壁にかけて90×75mmの多房性嚢胞と右臀部膿瘍形成を認めた.肛門周囲膿瘍を伴った感染性前仙骨部嚢胞性腫瘤と診断し,切開・排膿ドレナージを施行したが,発熱,疼痛が再燃したため,15PODに経仙骨的アプローチにて尾骨合併腫瘤摘出術を施行した.病理組織学的にepidermoid cystと診断となり,術後排便機能障害や再発を認めていない.
前仙骨部は胎生期組織の遺残により種々の腫瘤が発生し,感染の合併や悪性化の懸念があるため,速やかな完全切除が望ましいとされる.感染を伴った巨大な前仙骨部epidermoid cystであったが,経仙骨的アプローチにて切除手術が可能であった.
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