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二萬 英斗, 枝園 忠彦, 岡田 真典, 池田 宏国, 土井原 博義
2012 年73 巻5 号 p.
1059-1063
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
ジャーナル
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Langerhans細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis:LCH)はLangerhans細胞が単クローン性に増殖する稀な疾患であり全身諸臓器に浸潤し得る.今回われわれはPET-CTを契機に発見された甲状腺浸潤を伴うLCHという極めて稀な症例を経験したので報告する.骨転移を伴う甲状腺癌との鑑別は困難であり診断と治療を兼ねた手術を行い,病理組織学的にLCHと診断された.術後は化学療法を行っているが,晩期障害や二次癌発生の可能性を念頭に置いた長期にわたるフォローアップが肝要と思われる.また再発や二次癌の診断にはPET-CTが有用と思われる.
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大石 一行, 澁谷 祐一, 河北 直也, 尾崎 和秀, 岡林 孝弘
2012 年73 巻5 号 p.
1064-1069
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
ジャーナル
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症例は70歳,女性.嗄声を主訴に受診した.胸骨切痕上に硬い可動性不良な腫瘍を認め,超音波で甲状腺左葉下極に内部が不均一で低エコーを示す31mm大の腫瘍と,右総頸動脈背側に24mm大の境界明瞭なリンパ節を認めた.CTでは甲状腺左葉下極から上縦隔に及ぶ不整な腫瘍と両側肺野に散在する小結節影を認めた.FNAB(fine needle aspiration biopsy)では細胞成分は認められなかったが,甲状腺悪性腫瘍とそのリンパ節転移と診断し,甲状腺亜全摘術,リンパ節郭清を施行した.腫瘍は周囲臓器への浸潤を認めたため,左腕頭静脈合併切除,左反回神経合併切除を行った.病理組織検査では異型細胞が島状構造をとりつつ増殖し,背景にはリンパ球を伴っていた.また,免疫染色でCD5陽性,TTF-1陰性,thyroglobulin陰性であり,CASTLE(carcinoma showing thymic-like differentiation)と術後診断した.術後は放射線療法を行い,術後3年半となる現在,局所再発は認めていない.CASTLEは非常にまれな腫瘍であるが,甲状腺下極から縦隔に及ぶ腫瘤を認めた場合には念頭におく必要があると思われた.
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渡邊 将広, 長谷川 洋, 坂本 英至, 小松 俊一郎, 久留宮 康浩, 法水 信治
2012 年73 巻5 号 p.
1070-1074
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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放射状瘢痕(radial scar;RS)は良性増殖性病変であるが,ときに乳癌を合併する.今回,両側同時性に生じたRS内非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ;DCIS)の1例を経験した.症例は46歳閉経前女性.検診目的で受診した近医で異常を指摘され,当院紹介受診となった.左乳房A領域に弾性硬の腫瘤を触れ,エコーでは同部位に境界明瞭粗造な後方エコー減弱を伴う低エコー領域を認めた.マンモグラフィでは左A領域でdistorsionを認め,さらに右乳房C領域でもdistorsionと多形性不均一・集簇石灰化を認めた.右の石灰化に対してマンモトームを施行しDCISと,左の腫瘤は穿刺吸引細胞診で悪性と診断した.両側乳癌の診断で,両側乳房切除術,再建術を行った.病理組織診断は両側RS内DCISであった.
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後藤 正和, 先山 正二, 鳥羽 博明, 監崎 孝一郎, 近藤 和也, 丹黒 章
2012 年73 巻5 号 p.
1075-1079
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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低肺機能を有する成人の先天性食道気管支瘻に対して右中下葉切除,瘻管切除を行い,術後良好に経過した症例を経験したので報告する.症例は67歳,女性.既往歴に結核感染に伴う脊椎カリエスがあった.20年以上前から食事摂取時の咳嗽を認め,64歳頃から症状の増悪を認めるようになった.前医の上部消化管内視鏡検査で食道気管支瘻を指摘され,加療目的に当科紹介となった.内視鏡治療を行うも奏効せず,症状が継続するため手術加療の方針とし,右中下葉切除,瘻管切除術を施行した.術後経過は良好で第16病日に退院となった.術前に閉塞性呼吸機能障害を認めていたが,肺換気血流シンチより耐術可能と判断し,安全に手術遂行可能であった.本症例は瘻管周囲の炎症,リンパ節癒着は軽度であり,組織学的にも瘻管に扁平上皮と線毛上皮の移行像を認めることから先天性食道気管支瘻(Braimbridge I型)と考えられた.
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本山 一夫, 小林 建太, 榎本 直記, 上田 吉宏, 大野 玲
2012 年73 巻5 号 p.
1080-1084
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は75歳の女性.2008年8月,S状結腸癌・横行結腸浸潤に対し左半結腸切除術(D3)を施行した.術後2年5カ月の定期検査でCEA 18.9と高値を示したため,全身精査を施行した.右下肺に約10mm程度の結節影を認めたため肺再発と診断し,2011年3月に胸腔鏡下肺部分切除予定とした.胸腔鏡で観察したところ,右横隔膜上に腫瘍血管を伴う約10mm大の腫瘤があり肺実質に異常を認めなかったため,右横隔膜再発と診断し,右横隔膜部分切除術を施行した.結腸・直腸癌の横隔膜転移・再発報告例は稀であり,われわれが検索したかぎりでは自験例も併せて7例であった.
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南野 佳英, 中村 透, 高田 実, 安保 義恭, 中村 文隆, 樫村 暢一
2012 年73 巻5 号 p.
1085-1089
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は75歳,男性.発熱,嘔吐を主訴に近医を受診した.胸部X線写真で下縦隔に有鈎義歯を指摘され,当院救急搬送となった.来院時の胸部CT検査では下部食道に有鈎義歯と,食道右壁に微細な縦隔気腫を認めた.上部消化管内視鏡にて義歯の摘出を試みたが困難であったため,左開胸にて食道切開異物除去,穿孔部縫合閉鎖,食道縫合を行った.縫合不全防止のため食道吻合部に,横隔膜筋弁被覆を行った.特に合併症なく経過し,術後36日目に退院となった.義歯などの異物誤飲に伴う食道穿通症例において,縫合部補強のための被覆材として肋間筋弁,大網被覆などの報告があるが,横隔膜筋弁の報告はない.本症例から,一次縫合閉鎖部の被覆材として横隔膜筋弁の有用性が示唆された.
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浜岡 道則, 中原 雅浩, 福田 敏勝, 住谷 大輔, 高橋 元, 田口 和浩
2012 年73 巻5 号 p.
1090-1093
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は76歳,男性.約50日前に胃癌に対し幽門側胃切除術を施行.再建は結腸前のBillroth II法で行い,Braun吻合を付加した.今回,腹痛と嘔吐を主訴に来院.CT検査で輸入脚の著明な拡張を認めたため,輸入脚閉塞症と考え緊急手術を行った.開腹するとBraun吻合と輸出入脚の腸間膜間隙に小腸が嵌入していた.嵌入腸管の腸間膜と輸入脚の腸間膜間でバンドを形成し輸入脚の圧排所見がみられた.バンドを切離し小腸を整復後,ヘルニア門を縫合閉鎖した.Braun吻合と輸出入脚の腸間膜間隙の内ヘルニアを原因とした輸入脚閉塞症の頻度は少ないものの,早期診断および治療が重要であるため,胃切除後の合併症として本疾患も念頭に置く必要がある.
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槇殿 公誉, 野崎 功雄, 久保 義郎, 棚田 稔, 栗田 啓
2012 年73 巻5 号 p.
1094-1100
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は15歳,男性.息切れ,全身倦怠感を主訴に近医受診し,貧血の精査・加療目的に当科紹介となった.上部消化管内視鏡検査とPET-CT検査で胃体下部後壁に胃壁内外に突出する約5cmの多結節状腫瘤を認め,生検の結果,胃gastrointestinal stromal tumor(GIST)と診断された.開腹下に胃局所切除を施行した.病理学的には6.2cm×4.0cm×2.2cm大の病変で,免疫染色ではKIT(CD117)陽性,CD34陽性でGISTと診断された.現在まで術後10カ月再発認めず経過観察中である.今回われわれは黒色便の持続による貧血を主訴に発見し,胃局所切除を施行した稀な小児胃GISTを経験したので,若干の文献的検討を加え報告する.
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岩谷 慶照, 黒田 大介, 松田 佳子, 黒田 嘉和
2012 年73 巻5 号 p.
1101-1105
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は74歳,男性.腹部膨満感を主訴に近隣の総合病院を受診.精査にて腹腔内を占拠する,胃壁由来と考えられる巨大腫瘤を認めたため,当科に紹介入院となった.門脈系を流出路とする富血管性の胃GISTの術前診断のもと,胃局所切除を伴う腫瘤摘除術を施行した.術後10日目に軽度の倦怠感が生じたため精査を行ったところ,門脈本幹から右枝を中心に血栓形成を認めたため,直ちにヘパリン15,000単位/日の持続静注・ワーファリン2mg内服の抗凝固療法を開始した.術後18日目の腹部CT検査では血栓は著明に縮小し,30日目には消失した.ワーファリン内服のみを継続したが再燃なく,術後33日目に退院となった.門脈系を流出路とする富血管性腫瘤の摘除時には,術後門脈血栓症の発症を念頭に置いておく必要があると考えられた.
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塙 秀暁, 小笠原 康夫, 名取 穣治, 内山 喜一郎, 鈴木 英之
2012 年73 巻5 号 p.
1106-1109
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は72歳,男性.体重減少を主訴に受診した.十二指腸潰瘍に対し開腹手術の既往あり.造影CTで膵頭部前面に粒状石灰化,造影効果を伴う2.5×3.0cm大の腫瘤を認めた.FDG-PET検査でも同部位に異常集積を認めた.上部消化管内視鏡検査では再建はBillroth II法であり,残胃および吻合部に異常所見は認めなかった.原発不明の腹腔内腫瘍の診断で開腹術を施行した.開腹所見では初回手術は幽門空置胃切除術であり,幽門輪および胃幽門前庭部の一部が遺残していた.同部位に腫瘍を認めたため幽門側残胃切除術を施行した.術後の病理診断はPapillary adenocarcinomaであった.幽門空置胃切除後の幽門部残胃に発生した残胃癌の報告例はみられないため報告した.
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湯浅 康弘, 沖津 宏, 古川 尊子, 木原 歩美, 山下 理子, 沖津 奈都
2012 年73 巻5 号 p.
1110-1114
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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胃癌肉腫はまれな疾患である.なかでも肉腫成分が明確な非上皮系成分への分化を呈し,癌腫成分との移行がない真性癌肉腫は極めてまれで本邦報告は10例,うちほとんどが死亡報告である.症例は53歳女性で吐血を主訴に受診した.上部消化管内視鏡にて4cm大の1型腫瘍を認め,高分化腺癌と診断され,腹腔鏡補助下幽門側胃切除術を施行した.病理結果では管腔形成が明瞭でサイトケラチン陽性の高分化型腺癌の部分と,間質に増生する紡錘型細胞からなる部分を認めた.紡錘型細胞は免疫組織学染色にてデスミンやビメンチンといった非上皮系細胞のマーカー陽性であり,上皮系細胞のマーカーに陰性であった.腺癌と肉腫成分の境界明瞭で真性胃癌肉腫と診断した.肉腫に対する化学療法は確立されておらず,腺癌の成分はT1(sm), N1:stage IB(取扱い規約第13版)で,経過観察とした.術後5年間,無再発生存中である.
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玉手 雅人, 大野 耕一, 長谷 龍之介, 鈴木 善法, 藤森 勝, 関下 芳明
2012 年73 巻5 号 p.
1115-1119
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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異物誤飲は,日常診療においてよく見受けられる.しかし,異物が消化管穿孔の原因となることはまれであり,誤飲の自覚のない時は診断に苦慮することが多い.今回われわれは爪楊枝を誤飲し,小腸穿通・腹膜炎を発症した1例を経験した.症例は59歳男性で統合失調症に罹患し,内服加療中であった.約7日間続く下腹部痛を主訴に当院を受診した.CT検査で小腸間膜内に腫瘤を認め,内腔に空気が見られたため,消化管穿孔疑いで手術となった.患者は小児期に急性虫垂炎による汎発性腹膜炎で,複数回の手術歴があった.手術は腹腔鏡による観察を行った後,開腹し小腸の癒着を剥離した.空腸回腸移行部に腸間膜膿瘍を認め,その中に腸管を穿孔する爪楊枝を認めた.剥離後に膿瘍周囲の腸管を切除した.異物誤飲による消化管穿孔の頻度や術前における診断の困難について若干の文献的考察を加えて報告する.
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桂 春作, 榎 忠彦, 濱野 公一
2012 年73 巻5 号 p.
1120-1123
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は19歳,女性.中学生の頃より嘔吐と腹痛を年に2~3回認めていた.有症状時のCT検査でwhirl signを認め小腸軸捻転が疑われたため当院へ紹介となった.無症状時のCTでは,腸回転異常の所見はなく,また軸捻転も明らかではなかった.原因は確定できないが,放置すれば再び捻転を引き起こす可能性が高いため手術を施行した.開腹すると空腸の腸間膜対側に,径10cmの隣接する憩室が2個絡み合うように存在していた.これらの巨大な空腸憩室を軸として小腸が捻転していた.病理学的には真性空腸憩室であった.いかなる原因であっても小腸軸捻転は絞扼性腸閉塞となり,手術時期を逸すると致死的経過を辿ることもあるので注意を要する.今回,度重なる腸閉塞症状で発症し,その原因として隣接する巨大な空腸憩室による小腸軸捻転を認めた症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
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中津 敏允, 本山 悟, 丸山 起誉幸, 宇佐美 修悦, 吉野 敬, 小川 純一
2012 年73 巻5 号 p.
1124-1129
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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73歳の男性,胸部中下部食道癌に対し,食道亜全摘,胃噴門部切除,3領域リンパ節郭清,腹腔内高位食道胃吻合,空腸瘻造設術を施行した.入院中,術後15病日に腹痛が出現した.腹部膨満,圧痛を認めるものの腹膜刺激症状は認めなかった.胸腹部CTでは,腸間膜静脈,脾静脈から肝内門脈まで多量のガス像を認めた.また小腸は著明に拡張し,再建胃管と小腸に壁在気腫を認めた.腸閉塞ならびにそれに伴う門脈ガス血症,腸管気腫症と診断し,緊急手術を施行した.手術所見では腸管壊死は認められず,腸閉塞の原因となっていた空腸瘻固定部の癒着を剥離し,空腸瘻の閉鎖術を併せ行った.回復に時間を要したが,47病日に独歩退院した.腸管気腫症を伴う門脈ガス血症は稀な病態であり,予後不良とされている.食道癌術後急性期に発症した本症に対し,若干の文献的考察を加え報告する.
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大原 勝人, 初貝 和明, 石井 正, 金田 巖
2012 年73 巻5 号 p.
1130-1133
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は42歳,女性.平成6年より子宮内膜症にて婦人科に通院中であった.平成18年11月頃から度々腹痛をきたすようになり,平成19年2月に月経時の腹痛が増悪したため近医を受診した.腹部単純X線にて小腸ガスを認め,腸閉塞の診断で当科紹介となった.CT・MRIにて遠位回腸に腫瘤を認め,子宮内膜症の既往もあることから回腸子宮内膜症が疑われた.絶食にて症状は軽快したが,小腸造影にて遠位回腸に狭窄を認めたため,開腹手術を行った.CTで認めた腫瘤を中心に,遠位回腸が巻きついて一塊となっていたため,腫瘤ごと回腸部分切除を行った.また,骨盤内には小水疱が散在しており,右卵巣は周囲と強固に癒着していた.標本の腫瘤はチョコレート嚢胞様であり,回腸子宮内膜症と診断した.
回腸子宮内膜症によって腸閉塞をきたした症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
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馬場 活嘉, 本間 憲一, 新上 浩司, 宇治 祥隆, 山口 方規, 高尾 貴史
2012 年73 巻5 号 p.
1134-1139
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は38歳,女性.右下腹部痛を主訴に受診した.エコーで虫垂根部の拡張と同部の低エコー域を認め,CTでは虫垂根部から盲腸に及ぶ内部不均一な腫瘤を認め,膿瘍を伴う虫垂炎と診断した.抗菌薬による保存的加療を行い,約2カ月後に腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.摘出標本の虫垂根部には白色調の腫瘤性病変を認め,組織検査では紡錘形細胞の束状配列を認めた.免疫染色ではKIT陽性であり,核分裂数は2/50HPFであったので超低再発リスクのgastrointestinal stromal tumor(GIST)と診断した.虫垂GISTは,全GIST症例の約0.1%と非常に稀な疾患であり,医学中央雑誌で検索した範囲では0例,PubMedで検索した範囲では9例の報告のみであった.腹痛を契機に発見された虫垂GISTを経験したので,文献的考察を行い報告する.
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上田 貴威, 有永 信哉, 白石 憲男, 北野 正剛
2012 年73 巻5 号 p.
1140-1143
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は82歳,男性.食欲不振を主訴に来院.精査目的に下部消化管内視鏡検査を施行したところ,盲腸部に棍棒状に突出する長さ約8cmの1型腫瘍を認め,生検にてgroup 4であった.早期盲腸癌と診断し,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.切除標本の病理組織学的検索では,盲腸内腔に完全に翻転重積した早期虫垂癌(M,ly0,v0,N0,stage0)であった.
原発性虫垂癌は比較的稀であり,さらに虫垂重積症を伴った虫垂癌はこれまでに14例の報告しかない.今回,盲腸内腔に翻転重積していた早期虫垂癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
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内田 恒之, 平能 康充, 吉田 周平, 加藤 秀明, 俵矢 香苗, 渡辺 透
2012 年73 巻5 号 p.
1144-1148
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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原発性虫垂癌は比較的まれな疾患であり,自覚症状も乏しいため,診断時には進行癌であることが多い.今回われわれは,虫垂憩室の後腹膜穿通を契機に比較的早期に発見された原発性虫垂癌の1例を経験したので報告する.患者は72歳の女性.右下腹部痛を主訴に来院した.腹部CT検査で急性虫垂炎の穿孔による腹腔内膿瘍と診断し手術を施行した.術中所見では虫垂が後腹膜と癒着し膿瘍を形成していた.虫垂の高度な壁肥厚と膿の性状より虫垂腫瘍を否定できず,また虫垂切除断端の安全な処理が困難と判断したため回盲部切除術を施行した.病理組織学的に虫垂間膜側の憩室穿孔と粘膜下層に浸潤する乳頭腺癌を認め,憩室が癌による内腔の閉塞に伴う内圧の上昇により後腹膜に穿通し膿瘍形成したものと診断した.併存した虫垂間膜の膿瘍腔内に癌細胞を認めたため,術後補助化学療法を施行しつつ外来にて経過観察中であるが,30カ月経過した現在無再発生存中である.
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清水 哲朗, 山崎 一麿, 坂東 正, 田近 貞克, 塚田 一博
2012 年73 巻5 号 p.
1149-1153
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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結腸アニサキス症は,その頻度が非常に低く,臨床診断は困難である.しかも,それが成人の腸重積の誘因となることは極めてまれである.今回われわれは,上行結腸重積症の診断にて開腹手術を行い,結腸アニサキス症と診断された症例を経験したので報告する.症例は35歳女性で,来院2日前より上腹部不快感があり,上腹部痛,下痢,嘔吐が著明となり来院した.腹部単純CTにより上行結腸重積症と診断し,緊急開腹手術を施行した.開腹時には,重積は自然解除されていたが,上行結腸の著明な肥厚が認められ,悪性疾患も考慮して切除した.術後の病理組織学的検査によりアニサキス症と診断された.結腸アニサキス症の腸重積合併例は極めてまれで,本例を含めて5例の報告がみられるのみである.発症前の魚介類の生食状況の確認が重要であるとの示唆に富んだ症例であった.
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五味 邦之, 藤本 佳也, 小西 毅, 長山 聡, 福長 洋介, 上野 雅資
2012 年73 巻5 号 p.
1154-1158
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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患者は71歳,男性.以前からS状結腸過長症を指摘され,捻転を繰り返し大腸内視鏡下に整復されていた.今回,S状結腸に腺腫を指摘され当院紹介.腺腫のすぐ口側に縦走潰瘍を伴う狭窄を認め,繰り返す捻転による狭窄型虚血性大腸炎と診断.捻転を繰り返していることと,腺腫の内視鏡的切除が困難であることから手術適応と判断し腹腔鏡下S状結腸切除を施行.腹腔鏡下で剥離・授動し,小開腹にて拡張したS状結腸から狭窄部までを切除して機能的端々吻合を施行した.S状結腸捻転は慢性便秘を呈する高齢者に多く,大腸内視鏡による非観血的整復が治療の第一選択となるが,整復非成功例や再発例に対してはS状結腸切除術が必要となる場合がある.本症例は手術を選択し,より侵襲が少ない腹腔鏡下での結腸切除術を行い,良好な経過を得たので報告する.
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高林 一浩, 斉田 芳久, 榎本 俊行, 大辻 絢子, 長尾 二郎, 草地 信也
2012 年73 巻5 号 p.
1159-1162
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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下部消化管術後吻合部狭窄は治療に難渋すると患者QOLの低下につながる.今回われわれは大腸癌術後吻合部の浮腫性狭窄に対しステロイドの局注と全身投与の併用にて著明に改善を得た1例を経験したので報告する.症例は60歳代,女性.平成23年6月上行結腸癌ステージIIに対し腹腔鏡下結腸右半切除術を施行され退院となったが,退院4日後にイレウスの診断にて入院となった.腹部造影CT検査にて吻合部の浮腫性狭窄が原因であると診断した.保存的加療で改善が得られず,内視鏡的バルーン拡張術を試みるも,ガイドワイヤーが通過せず施行不可能であったため,ステロイドの局注と2日間の点滴静注を併用したところ,症状の早急な改善が得られた.投与方法や長期成績など今後検討する課題はあるが,下部消化管術後吻合部狭窄に対しステロイド投与が有効であることが示唆された.
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杉本 真一, 青木 恵子, 武田 啓志, 高村 通生, 徳家 敦夫
2012 年73 巻5 号 p.
1163-1167
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は15歳,女児.腹痛を主訴に近医受診,腸感冒の診断で保存的加療受けるも改善せず,血便も生じ当院を紹介され精査となった.大腸内視鏡検査にて横行結腸に3型腫瘤認め生検にて中分化腺癌が検出された.CT上にて腸管傍,中間から主リンパ節に及ぶリンパ節腫大を認めた.開腹所見では横行結腸に手拳大の腫瘤,主リンパ節の腫大,腫瘤近傍に白色結節を複数認めた.腹膜播種を伴う進行横行結腸癌の診断にて開腹,右半結腸切除+D3郭清,播種巣および大網切除を施行した.総合所見はT,type3,35×30mm,SE,N3,H0,p1,M0,D3,R0,根治度B:StageIVであった.術後補助化学療法としてmFOLFOX6+Bevacizumab療法施行し術後45カ月無再発生存中である.
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外岡 亨, 吉岡 茂, 若月 一雄, 片岡 雅章, 宮澤 康太郎, 太枝 良夫
2012 年73 巻5 号 p.
1168-1173
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は77歳,男性.上腹部腫瘤を自覚し当科受診され,腹部CT検査で,胃横行結腸間に9×7cmの境界比較的明瞭,内部不均一な球形の腫瘍を認めた.術前消化管検索上,横行結腸管内病変を指摘できなかったため,非上皮性腫瘍が疑われ,手術を施行した.術中所見では,腫瘍は胃横行結腸間に存在し,球状の柔らかい腫瘤として触知された.横行結腸および胃壁への浸潤を疑い,腫瘍摘出とともに横行結腸合併切除術,胃部分切除術を行った.切除標本上,腫瘍の一部は横行結腸内腔に露出していたが,腫瘍の大半は壁外に存在していた.病理組織学的所見は,腫瘍の主座を壁外に持つ横行結腸癌であり,5型,9×7cm,中分化腺癌,pSS,ly1,v1,pN0,sH0,sP0,cM0,fStageIIであった.著明な壁外発育形態を呈する大腸癌はまれであり,過去の文献報告例の検討を合わせて報告する.
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甲賀 淳史, 岡本 和哉, 奥村 拓也, 山下 公裕, 鈴木 憲次, 川辺 昭浩
2012 年73 巻5 号 p.
1174-1179
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
ジャーナル
フリー
症例は81歳,男性.下腹部痛を主訴に外来受診.S状結腸癌と診断された.左下肢深部静脈血栓症(以下DVT)の既往があり,先天性antithrombin III(以下ATIII)欠乏症と診断され,以後ワーファリン内服中であった.下肢magnetic resonance venographyでは左総腸骨静脈に血栓を認め,周術期の血栓塞栓症発症のリスクが高いと判断した.周術期はワーファリン内服を中止し,へパリンおよびATIII製剤を使用した.また,肺塞栓症予防のため一時的に下大静脈(IVC)フィルターを留置した.手術はトラブルなく終了し,経過良好にて術後22日目退院となった.先天性ATIII欠乏症はまれな疾患であるが,外科手術は血栓塞栓症発症の誘因となる.本例のように術前DVTを確認した症例であっても,ヘパリン・ATIII製剤,一時的IVCフィルターを用いることで肺塞栓を予防し手術に臨むことができる.
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高原 秀典, 永吉 直樹, 多代 尚広, 横山 正, 實光 章
2012 年73 巻5 号 p.
1180-1184
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
ジャーナル
フリー
症例は80歳,男性.下血を主訴に来院し,下部内視鏡検査にて上部直腸に径35mmのtype I腫瘍を認めた.生検結果はsquamous differentiationを伴う腺癌で,腹腔鏡補助下低位前方切除術(D3郭清)を行った.病理組織学的検査では adenosquamous carcinoma,pSS,int,INFb,ly3,v2,pN2,pstage IIIbであった.術後第4週から術後補助化学療法としてUFT/LV療法を開始した.術後8カ月で多発肝転移を認めたため,bevacizumab+CapeOX,bevacizumab+FOLFIRI,panitumumab+FOLFOX療法を行ったが術後2年で多発性肝転移のため死亡した.腺扁平上皮癌は全大腸癌の約0.1%と非常に稀で,予後不良といわれている.本症例では術後化学療法を繰り返し2年間生存したので文献的考察を加え,報告する.
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関澤 健太郎, 志田 大, 松田 真輝, 松岡 勇二郎, 宮本 幸雄, 井上 暁
2012 年73 巻5 号 p.
1185-1189
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
ジャーナル
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発生率が1万人に1人の腸回転異常症の中でも,逆回転型腸回転異常症はその約4%に過ぎない.今回われわれは逆回転型腸回転異常症を伴った直腸S状部癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を含めて報告する.症例は56歳女性,直腸S状部癌の術前検査としての注腸検査およびCT検査で逆回転型腸回転異常症を疑った.開腹所見では,下行結腸は右側壁に弱く固定され,上行結腸はそのすぐ左側に位置した.小腸は全て腹部左側に寄っており,Ladd靱帯は認めなかった.術前の画像診断通り,逆回転型腸回転異常と診断した.術前に腸回転異常および合併奇形を把握していたことで,安全かつ十分なD3リンパ節郭清を伴う直腸低位前方切除術を行い得た.病理結果は,SS,pN2(12/55)H0 P0 M0 fStage IIIbであった.周術期はenhanced recovery after surgery(ERAS)による積極的な治療を行い,術後7日目には外科的に退院可能な状態となった.
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坂田 宏樹, 中沢 祥子, 高橋 里奈, 白木 孝之, 豊田 宏之, 小山 広人
2012 年73 巻5 号 p.
1190-1194
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は36歳,女性.発熱・上腹部痛を主訴に当院受診.血液データでの白血球数,CRPの上昇とともに,腹部CT,超音波にて肝後区域に多発性の嚢胞性腫瘤を認め,肝膿瘍の診断で緊急入院となり経皮経肝膿瘍ドレナージ(PTAD:percutaneous transhepatic abscess drainage)を施行した.CTにて直腸壁肥厚を指摘されたため大腸内視鏡を行ったところ,直腸Rsに2型病変を認め高分化型腺癌の診断であった.肝膿瘍の穿刺液の細胞診はclass2であり,PTADおよび抗生剤投与にて膿瘍が軽快したことから,膿瘍内に肝転移は伴わないと判断した.膿瘍消退後,低位前方切除を施行し,tub1,A,ly2,v2,n2,stage IIIbの病理診断であった.その後,膿瘍の再燃や癌の再発は認めていない.肝膿瘍症例においては,たとえ40歳未満の若年者であっても,大腸癌が起因となる可能性を念頭においた全身検索が必要である.
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原 貴信, 松尾 光敏, 宮崎 健介, 須藤 隆一郎, 野島 真治, 善甫 宣哉
2012 年73 巻5 号 p.
1195-1199
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は63歳,男性.肛門周囲から持続する排膿を12年にわたり放置していた.発熱と疼痛を主訴に当科を受診.著明な耐糖能異常,臀部蜂窩織炎に加え,排膿部に一致する2×3cm大の腫瘤を認めた.生検の結果は高分化の扁平上皮癌であった.病歴より痔瘻部に発生した痔瘻癌と診断し,直腸切断術を施行した.術後の病理組織学的検査では直腸粘膜面と連続する瘻孔は認められず,腫瘍は癌真珠の形成,メラニンの沈着を伴っており,皮膚由来の基底扁平上皮癌であった.リンパ節転移,遠隔転移を認めず,現在無再発生存中である.痔瘻癌は痔瘻の長期経過中にみられる稀な疾患であり,その診断には臨床経過を重視した診断基準が用いられている.自験例はこれに則って診断を下したにもかかわらず,実際には皮膚由来の癌であった.術前の画像で瘻孔の存在を証明できないものについては,皮膚癌である可能性も考慮し,術式について十分な検討を行うべきと考えられた.
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堀 義城, 岩田 英之, 鈴木 哲郎, 松本 浩次, 黒崎 哲也, 畑中 正行
2012 年73 巻5 号 p.
1200-1204
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は78歳,男性.肝膿瘍破裂による汎発性腹膜炎に対し,洗浄ドレナージ術を施行した.術後敗血症性ショックをきたしたが症状改善,持続ドレナージにて膿瘍腔も消失し,ドレーン留置のまま1カ月後に軽快退院となった.退院後2カ月目に発熱,食欲不振を主訴に来院,CRP 26.38IU/l,WBC 27,100/μlと炎症反応の高値を認めた.CTにて肝右葉に膿瘍の再燃を認め,再入院となった.膿瘍腔造影時に右気管支も造影され,肝気管支瘻と診断した.持続ドレナージおよび抗生剤治療にて改善し,入院後3週間で退院となった.その後CT上膿瘍腔は縮小,気管支瘻も自然閉鎖し,ドレーンを抜去した.以後2年経過したが,膿瘍の再燃はみていない.肝膿瘍の破裂および気管支瘻はきわめてまれな病態であり,文献的考察を加え報告する.
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大塚 将之, 中島 正之, 木村 文夫, 清水 宏明, 吉留 博之, 宮崎 勝
2012 年73 巻5 号 p.
1205-1210
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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肝原発ガストリノーマはまれだが,今回肝原発として矛盾しない1例を経験した.症例は35歳,女性.上腹部痛を主訴に近医受診.十二指腸潰瘍と肝後区域に腫瘤を認め紹介された.肝内胆管癌の診断で手術施行も,病理組織検査で神経内分泌腫瘍と診断された.術前術後全身検索では肝外病変は認めなかった.4年5カ月後,十二指腸潰瘍が再発,肝内側区域に腫瘍性病変を認めた.空腹時ガストリンが高値を示し,神経内分泌腫瘍の再発でガストリノーマと診断,外科切除を施行した.病理組織検査では神経内分泌腫瘍,免疫組織学的にガストリンが証明された.初回切除時の標本を再検討したところ同様にガストリンが陽性であった.術後ガストリン値は正常化,再切除後2年3カ月現在,無再発生存中で,肝外病変も明らかでない.肝原発ガストリノーマの診断は難しいが,本症例では臨床経過から肝原発と判断した.本腫瘍は低悪性度で,切除により長期予後が期待できる.
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坂口 達馬, 海堀 昌樹, 松井 康輔, 石崎 守彦, 松島 英之, 權 雅憲
2012 年73 巻5 号 p.
1211-1216
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は84歳,男性.総胆管結石に対する内視鏡的砕石術後,MRCPにて肝S5に径2cmの腫瘤を指摘され精査加療目的で当科紹介となった.肝機能異常認めず,HBs抗原陰性,HCV抗体陰性でAFP,PIVKA-II値は正常範囲内であった.腹部造影CTでは乏血性腫瘍として描出されたが,EOB・プリモビスト造影MRI動脈相では淡く造影され肝細胞相で取り込み低下を示したことから肝細胞癌が疑われた.肝切除を施行し,免疫染色から肝MALT(Mucosa-Associated Lymphoid Tissue)リンパ腫と診断された.現在術後11カ月,無再発生存中である.比較的稀とされる肝MALTリンパ腫の1切除例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
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梶原 勇一郎, 池上 徹, 吉住 朋晴, 調 憲, 前原 喜彦
2012 年73 巻5 号 p.
1217-1221
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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一定基準内の肝細胞癌に対する肝移植は比較的良好な成績を収めるようになった.一方,肝移植後に肝癌再発をきたした症例の予後は極めて不良である
1).それら移植後肝癌再発の特徴として,早期多臓器転移再発であり,ほとんどが術後2年以内,特に1年前後に多臓器転移で再発することが多い.今回われわれはミラノ基準外肝癌に対して生体肝移植を施行後,5年の期間を経て再発を認めた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は60歳代の男性.C型肝硬変に合併したミラノ基準外肝細胞癌に対して生体肝移植術を施行した.術後再発なく経過観察されていたが,術後5年目に胃小弯のリンパ節転移性再発を発症し,腫瘍摘出術を施行した.さらにその5カ月後には移植肝の肝静脈根部にグラフト肝転移性再発を指摘され,放射線化学療法にて治療を行うも,生体肝移植より5年7カ月後に死亡した.
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小倉 康裕, 平野 達也, 佐田 正之
2012 年73 巻5 号 p.
1222-1227
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は83歳,女性.腹部US・CT検査にて径10mm大の総胆管拡張を認め,総胆管内に約7mmの結石を2個認めた.また胆嚢は壁肥厚なく,約10mm大の胆嚢結石を3個認めた.まず総胆管結石症に対し内視鏡的乳頭切開術を試みたが,十二指腸乳頭部近傍に憩室を認め選択的胆管挿入が困難であった.その為,腹腔鏡下胆嚢摘出術施行時に胆嚢管にCチューブを留置し,術後2日目にCチューブよりガイドワイヤーを十二指腸内へ誘導し,内視鏡的に選択的胆管挿入を行い切石しえた.術後3日目,造影検査にて総胆管結石の残存がないことを確認後,Cチューブを抜去した.本症例のように胆嚢結石を伴う総胆管結石症に対して,内視鏡的胆管挿入が困難であっても,腹腔鏡下胆嚢摘出術時に胆嚢管にCチューブを留置し,術後にガイドワイヤー下に内視鏡的乳頭切開術および切石術を施行する手技は有用であると考えられた.
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廣瀬 友昭, 長谷川 洋, 坂本 英至, 小松 俊一郎, 久留宮 康浩, 法水 信治
2012 年73 巻5 号 p.
1228-1231
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は61歳,女性.下大静脈平滑筋肉腫の診断で,腫瘍摘出,下大静脈合併切除,人工血管置換術を施行し,2年3カ月後局所再発のため,腫瘍摘出,人工血管置換術を施行された.初回手術から3年後のPET-CTで,膵尾部に異常集積像を指摘され,CTで17mm大の辺縁に造影効果を伴う腫瘤を認めた.EUS-FNABで平滑筋系腫瘍と診断された.脾温存,膵尾部切除術を施行し,病理組織学的に下大静脈平滑筋肉腫の膵転移と診断された.術後5カ月,初回手術後3年10カ月無再発生存中である.
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水谷 文俊, 磯谷 正敏, 原田 徹, 金岡 祐次, 亀井 桂太郎, 前田 敦行
2012 年73 巻5 号 p.
1232-1237
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は77歳女性で,突然の左上腹部痛を主訴として当院を受診した.腹部CTにて左上腹部に腫瘤を認め,網嚢内から膵体尾部に連続する嚢胞性病変を認めた.また生化学的検査でCRP 29.7mg/dlと高度の炎症反応を認めた.MRCPでは主膵管との交通はなく,2年前のMRIで膵尾部に認められていた径2.5cmの粘液性嚢胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm)が網嚢内へ穿破したと考えて手術(胃全摘術,膵体尾部脾合併切除術,横行結腸左副腎部分切除術)を施行した.病理所見から浸潤性粘液性嚢胞腺癌(mucinous cystadenocarcinoma)が網嚢内に穿破して仮性嚢胞を形成したと診断した.膵粘液性嚢胞腺癌が自然破裂した症例は極めてまれであり,文献的考察を加えて報告する.
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神谷 純広, 田中 久富
2012 年73 巻5 号 p.
1238-1242
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
ジャーナル
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症例は60歳,男性.会社の健康診断で肝機能異常を指摘され当院を受診した.腹部CTと超音波検査にて肝腫瘍と膵頭部腫瘍を指摘された.上部消化管内視鏡にて十二指腸に腫瘍の侵潤を認め生検にて膵癌と診断された.肝転移のある膵癌stage IVbであるためgemcitabine/S-1の化学療法を4クール施行した.終了後,腹部造影CTで肝腫瘍と膵腫瘍の30%以上の縮小を認め,上部消化管内視鏡で十二指腸の浸潤が認められなくなった.新しい転移巣も認めないため膵頭十二指腸切除および肝転移巣切除を施行した.以後S-1内服などにより経過を見ているが術後50カ月以上した現在無再発である.膵癌肝転移に対して手術を施行し長期生存した症例は稀と考えられるので,若干の文献的考察を加えて報告する.
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岡田 明子, 雨宮 剛, 佐伯 悟三, 岡田 禎人, 新井 利幸
2012 年73 巻5 号 p.
1243-1247
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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67歳,女性.1991年11月に左乳癌に対しPatey法を施行された.病理診断は,硬癌,n1(3/12),ER(+),PgR(+),HER2(1+)だった.術後補助療法としてCMFとTAM5年間を施行した.以後10年間再発を認めなかった.2005年11月に,両側肺転移,多発骨転移,皮膚転移が判明した.アロマターゼ阻害薬を継続していたが,その後両側副腎転移が出現した.2008年7月に発熱で救急搬送され,来院時所見では低血圧,低血糖,低Na血症,高K血症を認めた.対症療法にても改善せず,副腎不全が疑われたため,迅速ACTH負荷試験を行いhydrocortisoneの投与を開始したところ,著明な改善を認めた.迅速ACTH負荷試験の結果,血中コルチゾールの増加がみられず,Addison病と診断した.両側副腎転移を有する担癌患者では,積極的に内分泌学的検索を行うことが重要であると考えられた.
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濱口 純, 篠原 敏樹, 前田 好章, 二川 憲昭, 濱田 朋倫, 武田 広子
2012 年73 巻5 号 p.
1248-1251
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
ジャーナル
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症例は57歳,女性.突然の心窩部痛が出現し救急搬送された.既往として,5年前に子宮癌にて手術歴があった.来院時CTにて腹水と胃背側に造影効果のない腫瘤影を認めた.腹水穿刺では血性腹水であった.急性腹症,腹腔内出血の診断に至り,緊急開腹手術となった.開腹所見では胃角小弯部に間膜の裂傷を認め,裂傷の他にここからの出血・凝血塊を認めたため,最終的に同部位からの出血と判断した.出血部の間膜を切除し止血をえた.腹部外傷の既往はなく,出血素因も認めなかった.病理組織学的検索では腫瘍性病変は認めず,最終的にsegmental arterial mediolysisが成因と考えられる小網出血の診断となった.小網を出血源とする腹腔内出血は文献上極めてまれであるが,若干の文献的考察を加え報告する.
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黒川 友博, 山本 雅由, 植田 貴徳, 榎本 剛史, 大河内 信弘
2012 年73 巻5 号 p.
1252-1256
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
ジャーナル
フリー
患者は66歳,男性.糖尿病の治療中,5カ月前より臍上部に腫瘤を触知していたが,無症状であったため様子をみていた.しかし,徐々に腫瘤が大きくなり痛みを伴うようになったため,近医受診,当科紹介となった.検査所見では,CRP 1.26mg/dlと炎症反応の軽度上昇を認め,腹部CT,MRIにて横行結腸腹側に長径5cm大の腫瘤性病変を認めた.大網梗塞,転移,感染などによる炎症を疑い待機的手術を施行した.病理組織学的診断では錯綜する膠原線維を背景として紡錘形細胞の増殖や,高度の炎症細胞浸潤がみられ,膿瘍化した壊死組織も認められたことから原発性大網膿瘍と診断した.大網膿瘍はまれな疾患であり,なかでも原発性の大網膿瘍は現在までの報告が本邦では数例しかなされていない.今回われわれは原発性大網膿瘍の1切除例を経験し,良好な経過を得られたため文献的考察を加え報告する.
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黒河内 顕, 宮倉 安幸, 瑞木 亨, 熊野 秀俊, 堀江 久永, 安田 是和
2012 年73 巻5 号 p.
1257-1262
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
ジャーナル
フリー
稀な成人発症小腸腸間膜裂孔ヘルニアの2例を経験したので報告する.症例1:21歳男性.上腹部痛を主訴に当院紹介受診.保存的に経過観察されたが症状改善せず翌日再診となる.再検した腹部CTで内ヘルニアによる絞扼性イレウスと診断,緊急手術となった.回腸末端より50cm口側の腸間膜に径3cmの裂孔を認め,回腸80cmが陥入していた.裂孔を縫合閉鎖し終了した.症例2:28歳女性.緊急帝王切開術後腹痛,嘔吐出現.保存的に経過観察されたが,数日後のCTで絞扼性イレウスと診断し緊急手術となった.回盲部から100cm口側の腸間膜に径4cmの裂孔があり回腸が150cm嵌入していた.壊死腸管150cmの切除を施行した.腸間膜裂孔ヘルニアは診断が難しく,腹部所見やCTを中心とした画像所見の経時的な評価から手術の必要性を考慮することが重要である.
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赤池 英憲, 三井 文彦, 國友 和善, 千須和 寿直, 宮澤 正久, 巾 芳昭
2012 年73 巻5 号 p.
1263-1268
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は70歳,男性.嘔気と心窩部痛を主訴に当院救急外来を受診.腹部X線写真でイレウスと診断された.開腹歴はなく,イレウスの原因検索のためCT検査を施行.CT上,左下腹部に小腸がループ様にみえる箇所を認め,膀胱は軽度圧排されていた.内ヘルニアによるイレウスが疑われたが,確定診断には至らなかった.患者本人が保存的加療を強く希望されたため,イレウス管を挿入し保存的に経過を観察した.しかし,イレウスの解除には至らず準緊急に開腹手術を施行した.手術所見にて,膀胱上窩への小腸の嵌頓を認め内膀胱上窩ヘルニアと診断した.内膀胱上窩ヘルニアは極めて稀な疾患であり,疾患自体があまり認識されていない.術前診断は困難であるとされているが,疾患に対する十分な認識があれば,特徴的なCT所見により診断可能であると思われる.今回われわれは,特徴的なCT所見を示していた内膀胱上窩ヘルニアの1例を経験したので文献的考察を加え報告する.
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阿部 勇人, 平田 泰, 南村 圭亮, 安部 仁, 梅村 彰尚, 真船 健一
2012 年73 巻5 号 p.
1269-1273
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例1:43歳女性は1年前に無症状の上行結腸間膜嚢腫と診断されていた.突然の右下腹部痛と発熱が出現しCTで12×9cm大の腸間膜嚢腫への感染が疑われ経皮的嚢胞ドレナージと抗生剤投与ののち,嚢胞切除とともに回盲部切除術を施行した.病理組織結果では炎症を合併した嚢状の腸間膜リンパ管腫であった.症例2:30歳男性は突然の腹痛と発熱を認めた.CTで13×11cm大の小腸間膜内の多房性嚢胞性腫瘤を認め,抗生剤加療ののち待機的に腫瘤とともに約50cmの空腸合併切除を施行した.病理組織結果では嚢胞内部に混濁した血性壊死物が充満した海綿状の腸間膜リンパ管腫であった.結語:成人の腸間膜リンパ管腫は比較的まれな疾患で大半が無症状で経過するが,時に嚢胞内感染などによる急性腹症で発見される.今回嚢胞内に感染が疑われ待機的手術を行った2例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
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竹内 信道, 久保 直樹, 芳澤 淳一, 荻原 裕明, 中山 中, 伊藤 憲雄
2012 年73 巻5 号 p.
1274-1277
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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直腸間膜由来の骨盤内リンパ管腫に対して,腹腔鏡補助下切除を行った.症例は52歳女性.1年前より続く排尿切迫感と排便困難を主訴に当科を受診した.骨盤CTで,直径9cmの多胞性嚢胞状腫瘍を骨盤内に認め,MRIの所見もあわせて,直腸間膜由来のリンパ管腫と診断した.腹腔鏡下にS状結腸から下部直腸を後腹膜から剥離授動して骨盤内の視野を確保してから腫瘍を剥離すると比較的容易に授動されたので,下腹部に小切開をおいて腫瘍を摘出した.腸間膜および腸管切除は不要であった.腸間膜リンパ管腫は比較的まれな良性疾患で特異的な症状はないため,特に女性においては婦人科疾患と混同され開腹後に診断されることも多い.本症例ではCTで多発する嚢胞のあいだを上直腸動脈の枝が通過する所見から術前に診断が可能であった.腸間膜由来の良性疾患は腹腔鏡下手術のよい適応であるが,特に骨盤内においては視野確保のために有利であると思われた.
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木村 明春, 広松 孝, 高良 大介, 尾辻 英彦, 前田 隆雄, 待木 雄一, 吉田 カツ江
2012 年73 巻5 号 p.
1278-1281
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は70歳,女性.右下腹部の腫瘤を主訴に近医を受診し,腹部CTにて右下腹部に腫瘤性病変を指摘され当院に紹介された.右下腹部に手拳大で弾性硬の可動性良好な腫瘤を触知した.検査後,大腸非上皮性悪性腫瘍や腸間膜発生の腫瘍を疑い手術を施行した.開腹すると盲腸から上行結腸にかけての腸間膜より発生する腫瘤を認めた.回盲部切除術を施行し,腫瘤を腸管とともに一塊に摘出した.病理検査で腸間膜原発の悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma;以下MFHと略記)と診断された.現在術後1年経過したが,無再発生存中である.MFHは成人の四肢軟部組織に好発する非上皮性悪性腫瘍であるが,腸間膜が原発の報告例は少ない.今回,腸間膜原発のMFHの1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.
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高垣 敬一, 村橋 邦康, 増田 剛, 澤田 鉄二, 西野 光一
2012 年73 巻5 号 p.
1282-1287
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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症例は42歳,男性.昼食後腹痛が出現したため当院外来に救急搬送された.その際腹部全体の圧痛と腹膜刺激症状を認めた.腹部CT検査上腹腔内にfree airを認め,消化管穿孔の診断で緊急手術を施行した.術中所見上回盲弁より約100cm口側の回腸で鵞卵大の硬い腫瘤を蝕知し,同部で穿孔していた.また腫瘤周囲の回腸間膜でリンパ節の腫脹を認めた.小腸悪性腫瘍の穿孔および汎発性腹膜炎との診断にてリンパ節郭清を伴う回腸部分切除術および腹腔ドレナージ術を施行した.摘出標本上,潰瘍型の腫瘍で,深い潰瘍底に穿孔部を認めた.病理組織所見上中分化型管状腺癌であった.
原発性小腸癌はイレウス症状や下血で発症することが多く,穿孔で発症する症例は非常に稀である.今回われわれは穿孔をきたした原発性小腸癌による汎発性腹膜炎の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.
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西野 豪志, 片山 和久, 高橋 裕兒, 田中 隆
2012 年73 巻5 号 p.
1288-1292
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/25
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膀胱癌はリンパ節,肝臓,肺,骨などに転移しやすく,消化管への転移は非常にまれである.今回われわれは,膀胱癌の小腸転移による穿孔性腹膜炎を発症した1例を経験した.症例は70歳男性で,膀胱癌の診断でTUR-BTを施行された既往がある.手術から2年後,転移性肺腫瘍を認め,胸腔鏡下肺部分切除術を施行した.術後,全身化学療法を予定されていたが,反跳痛を伴う下腹部痛を発症し,外科に紹介された.腹部CTで骨盤内小腸の壁肥厚と周囲に遊離ガス像を認め,消化管穿孔による急性汎発性腹膜炎と診断し,同日緊急手術を施行した.開腹所見で,回腸末端から120cm口側に5mm大の穿孔を認め,小腸切除術を施行した.切除標本で,回腸粘膜に周堤を伴う潰瘍病変を認め,病理組織学的検査で,異型を伴う移行上皮細胞を認め,膀胱癌からの転移と診断された.術後6カ月が経過した現在,全身化学療法を継続中で,新たな再発転移を認めていない.
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