日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
Print ISSN : 1345-2843
ISSN-L : 1345-2843
63 巻, 9 号
選択された号の論文の46件中1~46を表示しています
  • 児島 亨, 松本 三明, 畑 隆登, 津島 義正, 長尾 厚樹, 榊原 宣, 榊原 敬, 篠浦 先
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2085-2092
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    抗血栓療法(大きく抗凝固療法と抗血小板療法にわけられる)が一般外科手術に及ぼす影響と,適切な管理法を知るために, 1998年から2000年の間に当院にて経験した178例を対象に,当院のプロトコールにもとついて抗血栓療法を継続したままで手術を行った症例と,抗血栓療法非施行症例の2群に分け,各術式別に術中の出血量,手術時間,術後入院期間の項目について比較検討した.出血量,手術時間,術後入院期間のいずれにも,両者の問に統計学的な有意差は認められなかった.また周術期の出血性合併症は,ほとんど認められなかった.血栓症および塞栓の原因が血栓である血栓塞栓症の重篤性を考慮すると,抗血栓療法は適切な管理方法の下,血栓症予防の治療コントロール域で継続したまま,手術を行うことが可能であり,また望ましいと考えられた.
  • 古賀 裕, 山下 弘幸, 政次 俊宏, 渡辺 紳, 内野 眞也, 西井 龍一, 山下 裕人, 大島 章, 黒木 祥司, 田中 雅夫, 野口 ...
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2093-2097
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,当院にて術後に濾胞癌と診断された症例について,遠隔転移およびその危険因子について検討した. 2000年8月より2001年7月までに濾胞癌の診断がついた症例21名に胸部CTと骨シンチグラムを施行し遠隔転移を検索した.遠隔転移の頻度は3例(14%)で,高年齢,術前後の血清サイログロブリン(Tg)の高値が遠隔転移の有意な危険因子であった.遠隔転移例は術前の胸部X線写真で異常は認めず,骨痛その他の症状もなく,胸部CTと骨シンチグラムでのみ微小転移巣を指摘できた.遠隔転移の早期発見が放射性ヨード治療の効果を高め予後改善につながると考えられるので,年齢が65歳以上で術前後の血清Tgが高値のような遠隔転移の危険因子の高い症例では胸部CTと骨シンチグラムなどで遠隔転移の早期発見に努めなければならない.
  • 安孫子 正美, 岩波 洋, 日吉 晴久, 吉田 初雄, 湖山 信篤, 山下 直行, 岸本 昌浩, 櫻澤 信行
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2098-2101
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    術中に局在が不明確と予測される肺野小型病変に対し,診断または治療目的のために,術前にCTガイド下に金属コイルを留置する肺手術を開発し,その有用性と問題点に対する工夫を行ってきた. 1989年転移性肺腫瘍に血管留置用金属コイルを留置したのが1例目で,術中コイルを触知することによって部位を同定し,以降これを含めて14例に肺部分切除を行った.しかし,これらの症例中コイルの脱落や肺内深部のためコイルを触知しなかった症例を経験したため,コイルの脱落防止と牽引を目的に, 1998年からはコイルの両端にナイロン糸を付けて,留置の際にナイロン糸の一端を胸壁に固定する方法に変更した.術中その糸を牽引して,部分切除を16例に行った.このナイロン糸付きコイル留置法は病変の局在診断のみならず,牽引手段としても極めて有用であった.
  • 田村 和彦, 小野 充一, 青木 達哉, 小柳 〓久
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2102-2113
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    信頼しえる予後予測を得るために消化器癌患者の終末期を対象とし予後予測因子について検討した.対象は終末期消化器癌患者193例とした. Activity of daily life (ADL)の水準を示す目標としてperformance status (PS), quality of life (QOL)の評価としてQOLスコアおよび臨床検査の28項目について検討した.結果はPS4になってからの生存期間が, 29.3±5.3日であり, QOLスコアでは腹部膨満感,吐き気,アンケート総得点において生存期間と相関関係が認められた.臨床検査データではWBC, IAP, TPA,アルブミン,プレアルブミン,トランスフェリン, PNIが生存期間と相関が認められた. stepwise法による重回帰分析ではプレアルブミン, IAP, TPA, PNI, WBC,吐き気が採択された. QOLの高い治療計画を得るためには,適切な生命予後の予測が求められる.そのためには充分な客観性をもって終末期癌患者の治療方針をたてることが必要である.
  • 森谷 雅人, 高木 融, 鈴木 敬二, 佐々木 啓成, 伊藤 一成, 片柳 創, 土田 明彦, 青木 達哉, 小柳 〓久
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2114-2117
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,女性.胃癌にて1997年12月9日,胃全摘術,膵脾合併切除施行. 1998年1月9日より化学療法施行. 18日より経口摂取不良となり,高カロリー輸液(以下, TPN)を開始したが, 2月10日より記銘力低下, 14日より意識レベル低下し, 15日に急性循環不全を呈した.血液ガス分析では, pH 7.136, PaO2 157.0mmHg, PaCO2 9.8mmHg, HCO3-3.3mEq/l, Base Excess -23.4mEq/lと代謝性アシドーシスを呈していた.炭酸水素ナトリウム500ml投与するも効なく,乳酸値を測定したところ144.0mg/dlと高値を示したためビタミンB1欠乏による乳酸アシドーシスを疑い塩酸チアミンを投与した
    ところ,投与後6時間でpH 7.598, Base Excess 8.9mEq/lとなり,意識レベル,循環動態も改善した.
    自験例を含めたTPN施行時のビタミン欠乏による乳酸アシドーシスの報告例について文献的考察を加えて報告する.
  • 中川 賀清, 植村 貞繁, 丁田 泰宏, 吉田 篤史
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2118-2122
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は4歳の男児で,新生児期から右頸部の腫脹に気づかれ,生後5カ月時に他院で頸部リンパ管腫と診断された. 1歳時には右頸部に軟らかい腫脹を認め,当院での超音波検査では充実性と嚢胞性の部分が混在し,同様にリンパ管腫と診断した.その後3年間経過観察を行ったが,右頸部の腫瘤は残存した.家族の希望により4歳時に摘出術を行った.腫瘤は軟らかく充実性で,困難なく摘出できたが,術後の病理検査で異所性胸腺と判明した.術後経過は良好で, 5日目に退院した.その後,再発および免疫不全症状は認められていない.頸部異所性胸腺は胎生期の胸腺の発生異常により起こる.ほとんどの症例では無症状で,他の疾患に付随して発見される.頸部腫瘤として発症した場合も術前に診断される場合はほとんどない.だが小児の頸部腫瘤を認めた場合,異所性胸腺も鑑別診断の1つに加えるべきと思われた.
  • 青竹 利治, 横町 順, 松村 光誉司, 打波 大, 堀内 哲也, 田中 國義
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2123-2126
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    極めて稀な乳腺間質肉腫の症例を経験したので報告する.症例は48歳,女性.右乳房の腫瘤を主訴に近医を受診,嚢胞と診断され4年間経過観察されていた.徐々に増大し精査希望にて当科を受診した.右乳房D領域に可動性の3×2cmの表面平滑,境界明瞭な弾性硬の腫瘤を触知した.超音波検査,マンモグラフィーにて3cm大の微小石灰化を伴う不整形の内部不均一な腫瘍を認め,ダイナミックMRIで急峻型の造影パターンを示し乳癌が疑われた.吸引細胞診ではclass IIIであった.乳癌の診断にて胸筋温存乳房切除術(level II郭清)を施行した.摘出標本は被膜に覆われた弾性硬の灰白色充実性腫瘍であった.病理組織学的には平滑筋への分化を伴う乳腺間質肉腫と診断された.現在術後9カ月を経過し再発は認めていない.
  • 亀井 秀弥, 久野 泰, 蜂須賀 丈博, 森 敏宏, 篠原 正彦, 宮内 正之
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2127-2131
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    乳房温存療法の問題点の一つに,残存乳房における局所再発がある.今回われわれは乳房温存療法後にPaget様再発をきたした症例を経験したので報告する.症例は49歳,女性. 1997年1月頃より左乳房の腫瘤を自覚し,他院にて乳癌と診断され(T1aN0M0)乳房扇状部分切除術+腋窩郭清(Level I, II)が施行された.術後残存乳房に対し放射線療法が行われた. 1999年7月頃より左乳頭部のびらんと,さらには乳頭血性分泌も出現し, 1999年12月13日当院受診となった.触診上残存乳房に腫瘤は触知しなかったが乳頭擦過細胞診にてclass Vとの診断を得られ, Paget様局所再発と診断し,残存乳房全摘術を施行した.術後2年経過した現在,再発の徴候はない.この様な再発形式は比較的稀ではあるが存在するため,常に念頭におき,早期に適切な治療を行うことが大切であると考えられた.
  • 中尾 健太郎, 佐藤 徹, 大塚 耕司, 牧田 俊宣, 渋沢 三喜, 草野 満夫
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2132-2135
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,女性.右乳房腫瘤に気が付き来院した.初診時,右乳房CD領域に直径5cmの腫瘍を触知し,陥没乳頭を認めたものの,乳頭・乳房皮膚には異常を認めなかった.針生検にてClass V,右乳癌(T2N0M0: Stage I)と診断し,非定型的乳房切除術(Bt+Ax)を行った.術後8病日より術創部の皮膚にびらんが生じ難治性であったため同部位の皮膚生検を行った.病理組織学的検討ではintraductal carcinomaの中にPaget細胞を認め,また皮膚生検組織からもPaget細胞が検出されたためPagetoid癌(t3n0m0)と診断された.遺伝学的悪性度を調べるためflow cytometryによるDNA量の測定を行ったところD. I.=1.4であった.
    術前に肉眼的に明らかな乳頭部びらんがみられず術後に皮膚症状が出現し,さらに急速な進展を示したPagetoid癌の症例は稀と思われたので報告する.
  • 野口 琢矢, 三浦 隆, 中城 正夫, 在永 光行, 野口 剛, 横山 繁生
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2136-2140
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    自然気胸発症時に偶然発見された後縦隔傍神経節腫の1例を経験した.症例は23歳の男性.突然の胸痛を主訴に近医を受診し,左気胸および後縦隔腫瘍と診断された.一過性の頭痛,高血圧,頻脈を認め,血中カテコラミン,尿中VMAは高値であった. CT, MRI, 131I-MIBGから傍神経節腫の術前診断で胸腔鏡補助下手術を開始したが,血圧の変動が著明で易出血性の腫瘍のため,標準開胸術へ移行した.切除標本肉眼所見は灰白色の充実性腫瘍で大きさ5×4×4cm, 重さ46g, 組織診断は傍神経節腫であった.
  • 篠原 永光, 近藤 肇彦, 福田 洋, 青木 克哲, 小笠原 邦夫, 西井 博
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2141-2145
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胸部外傷後,偶然発見された心膜嚢胞の嚢胞液のCA125 (141, 906U/l)が異常高値を示したのでこの心膜嚢胞の悪性化を疑い嚢胞摘出術を施行した症例を経験したので報告する.症例は42歳,男性. 4mの高位から転落し,当院受診した.精査を行ったところ,腰椎亀裂骨折と縦隔腫瘍を指摘された.整形外科的治療のみ受け,軽快退院した. 3ヵ月後胸痛が生じたため受診した.胸部X線写真では,心胸郭比の拡大があり,胸部CT検査, MRI検査で左心横隔膜部に大きさ5.0×3.8×4.5cmの嚢胞を認めた.血中の腫瘍マーカーは正常であったが,嚢胞液を穿刺し測定したところ腫瘍マーカーが異常高値を示したので心膜嚢胞の悪性化を疑い胸腔鏡補助下に摘出術を施行した.病理組織学検査では,心膜嚢胞で良性と診断された.本症の治療にあたって,悪性化例の報告もあり,治療方針を十分に考慮して選択すべきであると思われた.
  • 真名瀬 博人, 富山 光広, 進藤 学, 加藤 紘之
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2146-2149
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は56歳時に腹部大動脈瘤に対して人工血管置換術を受けた既往のある73歳の男性である.大量の吐血と下血があり入院,緊急の腹部CT検査では両側の大腿動脈瘤を認めた.しかし,人工血管近位吻合部に仮性動脈瘤などは認めなかった.緊急内視鏡検査にて十二指腸上行部に潰瘍があり,その底部に人工血管の露出を認めた.以上より,二次性大動脈・十二指腸瘻と診断した.手術は潰瘍を含む十二指腸を部分切除した上で,人工血管中枢側吻合部の出血部位を縫合補強し大網で被覆した.
    大動脈瘤に対する人工血管置換後長期間を経ても近接臓器への穿破が起こり得ることから注意深い観察が肝要と思われた.診断にあたってはCT検査よりも内視鏡検査が有用であり術前の確定診断に必須と思われた.
  • 堤 純, 鳥海 弥寿雄, 田畑 泰博, 古川 良幸, 平井 勝也, 青木 照明
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2150-2153
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,女性.右下腹部痛,右下肢浮腫および疼痛を主訴に内科入院.下大静脈閉塞症と診断され当科転科となる.右下腹部に腫瘤を触知し,皮下静脈の発達および右下肢浮腫を認めた. CT検査, MRI検査,血管造影検査等により,下大静脈および右卵巣静脈原発の平滑筋肉腫を疑い,手術を施行した.右側腹部,右卵巣静脈に一致して10×8cm大の腫瘤を認めた.また肝のS5に1cm大の腫瘤を認め,術中病理にて平滑筋肉腫と診断された.下大静脈前面を切開し,アンスロンチューブを挿入.部分体外循環とした後,下大静脈内部の腫瘍を摘出した.稀な右卵巣静脈原発の平滑筋肉腫により,下大静脈閉塞症となった症例と考えられた.本症例は稀であり,術式について術前より十分な検討が必要であると思われた.
  • 柴崎 正幸, 万代 恭嗣
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2154-2158
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    特発性食道破裂は解剖学的な理由から多くの場合下部食道左壁に穿孔をきたし,左開胸により修復される.今回著者らは下部食道右壁の穿孔に対し右開胸アプローチにより一期的縫合閉鎖を行った症例を経験した.症例は69歳男性で背部痛,心窩部痛を主訴に来院し,食道造影にて下部食道右壁に穿孔を認めた.造影剤の管外流出は食道右側に限局していた.発症8時間後,右開胸にて手術を施行した.横隔膜直上の下部食道右壁に長さ4cmの穿孔を認めたため縫合閉鎖し,さらに汚染された縦隔組織のdebridementを十分に行いドレナージした.術後経過順調にて第31病日軽快退院した.自験例および文献的検討から本症の食道右壁穿孔,右側に限局する縦隔汚染例に対しては右開胸アプローチによる修復術が穿孔部縫合時の視野,汚染縦隔組織の十分なdebridementによる確実な縦隔ドレナージの2つの点から左開胸アプローチより優れていると考えられた.
  • 海老原 裕磨, 久須美 貴哉, 小林 正彦, 細川 正夫, 加藤 紘之
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2159-2163
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は45歳,男性.前胸部不快感の増強を主訴に近医受診.内視鏡検査にて下部食道表在癌ならびに噴門部に巨大な腫瘤性病変を認め,加療目的に当院紹介入院.精査にて食道表在癌・胃壁内転移と診断し,左開胸開腹下部食道胃全摘術を施行.切除標本組織診断では下部食道IIc+IIb病変の大きさは4.5×4.0cm,深達度m2癌, ly3, v0, n2で胃噴門部に大きさ6.5×6.0cmの壁内転移巣を認め,進行度TIaN2M0IM1-Stp10→StageIIであった.術後8年9ヵ月経過した現在,再発は認められていない.外科的切除を施行した自験例m2癌52例のうち脈管侵襲が認められた症例は3例(5.8%)であり,リンパ節転移を認めたものは本症例1例(1.9%)のみであった. m2癌症例においても脈管侵襲が認められることがあり,リンパ節転移の有無・壁内転移などを十分に検索したうえ治療方針を決定する必要があると考えられた.
  • 服部 優宏, 佐藤 雄民, 松田 孝之, 仲 綾子
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2164-2168
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    72歳の男性.上腹部不快感,食欲低下を主訴に近医受診,胃体部小彎に陥凹を伴う隆起性病変あり,当科紹介入院となった.手術は胃全摘術を施行した,摘出標本は胃体部小彎を中心に最大径13.5cmの中心部に潰瘍を伴う隆起性の粘膜下腫瘍を認めた.また他の部位に数ヵ所の小結節病変を認めた.組織診で,主病変は紡錘形細胞の増殖で束状配列し,車軸状増殖や核の柵状配列を認めた.細胞密度が高く核異型とmitosisを認め,悪性と診断した.小結節病変は4ヵ所あり,固有筋層から漿膜下に紡錘形細胞の増殖がみられ, mitosisは認めず,良性と診断した.どちらも免疫染色でKITレセプター, CD34陽性でGISTと診断した.本症例は良性病変の1つが悪性に分化したのではなく,各々の病変が独立して発生し,良性あるいは悪性に分化したと思われる.
  • 久野 壽也, 阪本 研一, 澤田 傑, 野尻 眞
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2169-2173
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,女性で貧血の精査を目的に来院した.上部消化管内視鏡を施行したところ胃体下部後壁のO IIc様病変と胃底部を中心とした境界不明瞭な隆起性病変を認めた. O IIc様病変部からは印環細胞癌が検出され,隆起性病変部には高度に形質細胞が浸潤した像を認めたため胃全摘術を行った.組織学的検査の結果,胃底部の病変はMALTl ymphomaであると同時にH. Pylori感染を認めた.胃印環細胞癌とMALT lymphomaの併存例は稀であると同時にMALT lymphomaには印環細胞様の変性した上皮細胞(signet ring cells)が出現することがあり,今回の症例にも同細胞の出現を認めた. MALTリンパ腫の診断には印環細胞癌との鑑別を念頭におく必要がある.
  • 川口 吉洋, 滝浪 真, 羽田 一博, 菅野 博隆
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2174-2178
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,男性.高血圧で通院中上腹部痛と体重減少を訴えたため胃内視鏡検査したところ,噴門部に大きな潰瘍を伴う癌が発見され,生検で腺癌と診断された.さらに術前のCT検査で肝転移も認めた.胃全摘および肝右葉切除施行.しかし,術後の病理組織検査では腺癌の成分も伴った胃原発絨毛癌と診断された.
    本症例の診断は,術後病理組織検査にゆだねられ,一方では腺癌成分も同時に認めることが多いと報告されている.さらにほとんどが進行癌であり,既に遠隔転移が存在しておりその予後はきわめて悪い.われわれは,比較的稀とされている胃原発絨毛癌を経験したので,文献的考察を加え報告する.
  • 西村 淳, 青野 高志, 岡田 貴幸, 武藤 一朗, 長谷川 正樹, 小山 高宣
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2179-2182
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は68歳の男性で,上腹部不快感を主訴として来院.腹部CT検査で胃,膵体尾部,肝外側区域を圧排する直径約8cmの腫瘤を認めた.上部消化管内視鏡にて胃体下部から胃上部小彎に,一部潰瘍部分を伴う粘膜下腫瘍様病変を認めた.潰瘍辺縁,潰瘍底からの生検はそれぞれ, Group I,壊死組織であった.血管造影検査で,左胃動脈を主な栄養血管とする腫瘍濃染を認めた.胃gastrointestinal stromal tumorの術前診断で手術を施行した.腫瘤は肝外側区域に直接浸潤しており,胃全摘, D1郭清,肝外側区域合併切除を施行した.病理組織学的検査で, HE染色では未分化な細胞の増殖巣からなり,免疫組織学的染色でGrimelius, neural cell adhesion molecule, neuron specific enolaseが陽性のため,胃内分泌細胞癌と診断した.肝浸潤を伴う胃内分泌細胞癌の切除例は報告がなく,極めて稀と考えられる.
  • 中田 岳成, 小松 大介, 伊藤 勅子, 熊木 俊成, 青木 孝學, 春日 好雄
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2183-2188
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は88歳,女性. 2001年6月腹痛を主訴に来院.右側腹部から右下腹部に圧痛,筋性防御を認めた.胸部・腹部単純X線写真ではfree airを認めなかったが,腹部造影CT検査にて右側後腹膜に広範な低吸収域を認めた.汎発性腹膜炎として開腹手術が行われた.十二指腸下行部外側に径3cm大の憩室とその穿孔を認め,憩室切除,縫合閉鎖およびドレナージが行われた.病理組織学的には切除された憩室は層構造が破壊され好中球浸潤とフィブリンの析出が著明であった.術後経過は良好であった.
    十二指腸憩室は日常臨床上よく見られる疾患であるが外科的治療の対象となるものは稀である.興味深いCT所見を呈した十二指腸憩室穿孔の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 鶴本 泰之, 櫻井 幸一, 内野 良仁
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2189-2192
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は31歳,男性.腹痛のため当院受診し諸検査を受けるも原因不明で経過観察となった.腹痛が繰り返しみられ,腹部単純X線撮影にて小腸ガス像を認めたため入院となった.
    腹部CT検査にて,下腹部の腸管内に腫瘤様陰影をみとめた.小腸造影検査で,下部回腸内に長軸方向に長い陰茎様腫瘤陰影を認めその口側に小腸重積像を認めた.後日の小腸造影検査では, 6×2cmの腫瘤陰影は認められたが,造影剤の通過障害は改善され腸重積は保存的に軽快していた.小腸腫瘍による腸重積を疑い開腹術施行した.回盲部より80cm口側の回腸内に5×2cmの腫瘤を触れ,腸間膜側やや側壁に漿膜面の陥入と腸間膜の索状肥厚を認め,小腸切除術を施行した.病理組織学的に腫瘤は腸管壁全層が内翻したものであった.以上から内翻したMeckel憩室による腸重積症と診断した.
  • 吉田 博希, 杉本 泰一, 清水 紀之, 石川 訓行
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2193-2196
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腹部内臓動脈瘤は腹部大動脈瘤に比べ,稀な疾患であるが,その中でも下腸間膜動脈瘤はきわめて稀である.今回われわれは下腸間膜動脈瘤の手術例を経験したので報告する.症例は78歳,女性で,腹部エコー, CTで異常を指摘されたため,精査を行った.腹部CTで腹部大動脈の前方に径1.2cmの造影剤にてエンハンスされる血管陰影を認めた.血管造影では下腸間膜動脈根部に径1.6×1.3cmの嚢状動脈瘤を認めた.破裂予防のため,手術を施行した.下腸間膜動脈瘤を切除し,末梢を腹部大動脈にreimplantationした.術後経過は良好で,術後造影でも再建した下腸間膜動脈は開存しており,術後21日目に軽快退院となった.病理学的には石灰化を伴う高度の動脈硬化病変が認められ,内膜の線維性肥厚とアテローマ形成が認められ,動脈硬化に伴う動脈瘤と診断した.
  • 鈴木 雅行, 橋本 正人, 伊藤 清高, 山口 晃司, 前山 義博
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2197-2200
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    回腸末端に発生した炎症性線維性ポリープ(inflammatory fibroid polyp,以下IFPと略記)が先進部となり,成人腸重積をきたした1例を経験したので報告する.症例は44歳の女性で,持続する腹痛と下痢を主訴として受診,急性胃腸炎の診断にて入院となる.入院後症状が徐々に悪化しCTにて小腸腫瘍を先進部とする腸重積と診断し,緊急開腹手術を施行した.手術は回盲部切除術を施行した.切除標本では回腸末端(Bauhin弁)より約30cm口側に3.0×2.5×3.Ocmの腫瘤とその周囲に1.5×2.Ocm大の小腫瘤4個を認めた.病理組織学的に炎症性線維性ポリープ(IFP)と診断された.
    小腸IFPはその89.3%が腸重積を併発し術後病理にて診断されている.小腸腫瘍による腸重積症では本疾患も念頭におくべきものと思われた.
  • 伊藤 正朗, 加瀬 肇, 竹山 照明, 船橋 公彦, 寺本 龍生, 平野 敬八郎
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2201-2205
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    回盲部原発の悪性リンパ腫は比較的頻度が少ないとされている.われわれは回腸悪性リンパ腫が原因と思われる腸重積症の1手術例を経験したので報告する.症例は29歳,男性.膜性増殖性糸球体腎炎にて昭和63年に生体腎移植を受けた.今回腹痛を主訴に当科を受診した.触診にて右下腹部に圧痛を伴う腫瘤を触知し,腹部超音波検査にて同部位にtarget signを認め,腹部CT検査で上行結腸に同心円上の壁肥厚を伴う腫瘤形成を認め,回盲部腸重積と診断し,緊急開腹術を施行した.術中,径25mmの粘膜下腫瘍を先進部とする約20cmの回腸嵌入と捻転を認め,用手整復を行うも困難であった.そのため回盲部切除術を施行した.病理診断の結果,びまん性大細胞型B細胞悪性リンパ腫であった.術後経過は良好で24病日に外科治療を終了した.今回われわれは腎移植患者に発症した回腸原発悪性リンパ腫症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.
  • 木花 鋭一, 松田 昌三, 山崎 良定, 高田 昌彦, 中島 幸一
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2206-2210
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,男性.主訴は右下腹部腫瘤,腹痛.回盲部を中心に直径約20cm大の弾性硬,表面平滑で可動性不良な腫瘍を認めた.同腫瘤は腹部CTで,辺縁多結節状,境界は明瞭,内部はやや不均一であった.上腸間膜動脈造影では回腸動脈が拡張,右下腹部に分布し,末梢には不整な血管増生と不均一な濃染を認めた.小腸間膜原発の悪性腫瘍と診断し開腹術を施行した.回腸末端から190cm口側の腸間膜に,被膜に覆われた腫瘍を認め,腫瘍および罹患部回腸を合併切除した.肝転移,腹膜播種,リンパ節腫脹等は認めなかった.摘出標本は大きさ17×13×13cm,重量1,380gであった.病理所見では紡錘形,好酸性の胞体と棍棒状の核を有する腫瘍細胞が不規則に錯綜する束を形成し,核異型は軽度であったが細胞密度も高く,核分裂像も散見され平滑筋肉腫と診断された.術後20力月を経過した現在,肝転移等再発の徴候なく健在である.
  • 高野 学, 小野 要, 宮本 修, 生田 宏次, 住田 啓, 秋山 裕人
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2211-2214
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎に対し盲腸肛門管吻合術を施行したが遺残肛門管狭窄をきたし全直腸切除術を余儀なくされた1例を経験したので報告する.症例は18歳,男性.全結腸型潰瘍性大腸炎に伴う穿孔性腹膜炎のため結腸全摘,盲腸での人工肛門造設術を施行し, 7ヵ月後盲腸肛門管吻合術を施行した.術後2年の注腸造影で遺残肛門管の狭窄を認めたため遺残肛門管切除,盲腸による人工肛門造設術を施行した.この症例では大腸炎のコントロールが比較的良好であったため肛門管粘膜の抜去を行わず盲腸肛門管の機械吻合を行った.しかしながら再燃に起因すると思われる糞瘻,肛門周囲膿瘍のため残存肛門管の狭窄をきたした.潰瘍性大腸炎の手術療法の術式は患者のQOLと病気の再燃を考慮して選択されるべきであると考えられた.
  • 名取 志保, 長田 俊一, 亀田 久仁郎, 久保 章, 竹川 義則
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2215-2219
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,男性.平成13年7月4日より左腰背部に落痛,腫脹が出現し7月7日当院皮膚科を受診した.左腰背部に発赤したドーム状の最大径10cmの膿瘍があり,切開排膿を行ったが同部位に難治性の瘻孔を形成した.腹部CT写真では左後腹膜に巨大な腫瘤状陰影を呈し腸腰筋の炎症が疑われたが, 8月7日瘻孔から食物残渣が排出されたため,当科へ紹介となった.注腸造影検査で下行結腸の全周性狭窄,内視鏡検査で下行結腸癌と診断された. 8月17日イレウスを発症し18日ハルトマン手術, D1郭清術を施行した.病理組織検査では中分化腺癌, 2型,深達度si, ew(+), n(-),根治度Bであった.術後,腰背部の瘻孔も治癒し9月5日退院となった.大腸癌が腸管皮膚瘻を形成する症例は稀である.とくに下行結腸癌の報告は珍しく,文献的考察を加え報告する.
  • 滝沢 建, 岩崎 靖士, 菅家 大介
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2220-2223
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    固形癌の脾転移は稀である.今回われわれは,大腸癌術後に脾転移をきたした症例を経験したので報告する.症例は78歳の女性で,平成11年5月,下行結腸癌にて左半結腸切除術,同年7月,同時性肝転移に対して肝外側区域切除術,平成12年9月,腹壁転移をきたし腫瘍摘出術を行った.経過観察中, CEAの上昇を認め,腹部CT検査で脾転移が疑われて入院,腹部血管造影ではhypovascularな腫瘍であり,脾転移と診断して平成14年3月,脾摘術を施行した.組織学的には腹壁腫瘍,脾腫瘍とも原発巣である大腸癌と同様の中分化腺癌であり,転移と考えられた.術後3ヵ月の現在, CEAも正常化し再発の兆候は認めていない.大腸癌の脾転移に対する脾摘の意義に関しては,症例数も少なく一定の見解は得られていないが,長期生存例の報告もあり,積極的に手術を施行し,長期経過観察例を集積する必要があると思われる.
  • 八木橋 信夫, 大澤 忠治, 成田 淳一, 岩渕 圭, 柘植 俊夫
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2224-2228
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は50歳の男性であり,生来健康で痔瘻の既往もなかったが,肛門から直腸周囲にかけての膿瘍とS状結腸癌(中分化型腺癌)との診断を受け,まず膿瘍切開術とS状結腸切除術を施行した.しかし痔瘻の回復が遷延し, 5ヵ月後の痔瘻手術の際の組織診で高分化型腺癌の診断を受けた.痔瘻先端は前立腺後方まで及んでおり,遠隔転移や周囲リンパ節腫脹を認めなかったため骨盤内臓全摘術を行った.自験例は両者の組織型が非常に似ていること,所謂痔瘻癌に特徴的な粘液産生をほとんど認めなかったことなどよりS状結腸癌よりの管腔性のimplantationによる転移性痔瘻癌と診断した.本症報告例は猟渉しえた限りでは,現在まで7例で自験例が8例目にあたる.結腸および直腸癌に痔瘻が合併する場合,痔瘻癌の有無を診断しておくことが重要で,さらに痔瘻癌に遭遇した際には結腸癌の除外診断は必須であると思われた.
  • 青木 貴徳, 紀野 修一, 小原 充裕, 浅間 俊之, 山崎 弘貴, 葛西 眞一
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2229-2233
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,女性.高血圧,高脂血症にて近医通院していた.平成7年に肝S8に6cm大の肝嚢胞を指摘されたが,症状がないため放置していた.平成12年6月の検診にて嚢胞は10cm大に増大していた.本人の強い希望で,治療目的に当院内科に入院となった.入院後経皮的に嚢胞を穿刺し,排液した.内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)の胆管造影は不成功におわったが,施行翌日より排液に胆汁の混入が認められた.嚢胞造影で,強く圧をかけると肝内胆管および総胆管が造影され,肝内胆管との交通が明らかとなった.肝内胆管との交通を認める肝嚢胞の診断で,手術目的に当科紹介となった.穿刺ルートを含め,交通のある胆管を確認し嚢胞を切除した.病理では肝の単純性嚢胞であり,嚢胞壁は線維性結合織と炎症性肉芽からなり,内腔面の上皮は脱落しているものの,嚢胞壁内には胆管が存在していた.
  • 石津 寛之, 近藤 征文, 岡田 邦明, 大沢 昌平, 益子 博幸, 今井 政人
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2234-2239
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    過去6年間に3例の嚢胞形成性悪性肝腫瘍の切除例を経験した.症例1は78歳,女性で,肝外側区に嚢胞性腫瘤を認め,周囲に拡張した末梢胆管とB3の間に交通を認め,粘液産生性肝内胆管癌と診断した.切除組織標本で腫瘍の被膜および周囲肝実質への浸潤を認めた.症例2は68歳,男性.嚢胞内に壁在性の乳頭状隆起を伴う多房性病変をS4-8に認め,乳頭腺癌以外に乳頭腺腫,管状腺腫の像も認め,腺腫からの癌化例と考えた.症例3は48歳,女性で,肝S4に球状の多房性の腫瘍と内腔に突出する結節が存在していた.切除標本では腫瘍と胆管との交通を認めたが,腫瘍周囲の細い胆管枝の存在や表層拡大進展がないため,単純嚢胞からの癌化と考えた.症例1は初回手術後25カ月で腫瘍死したが,症例2, 3はそれぞれ56カ月, 16カ月生存中である.
  • 島田 和典, 小川 法次, 田中 靖士, 水谷 伸
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2240-2244
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は83歳,男性,平成元年7月に他院にて肝細胞癌に対する右葉切除術の既往がある. 18×16×11cmの巨大腫瘍で,肉眼および組織学的所見ではEg, Fc(+), Fc-Inf(+), Sf(-), S1, IM0, P0, VP1, VVO, B0, Edmondson III型,進行度T3NOMOStage 3であった.当院内科通院中に平成12年8月胸部レントゲンで右肺野に異常陰影を認め,胸部CTでは右肺S6に径約3cm大の腫瘤を認めた.血液検査ではAFP 122.8ng/mlと高値であり, CT下針生検にてclass V, 肝細胞癌の転移が疑われた.転移性肺癌の診断で同年9月18日右肺S6部分切除術を施行した.病理組織診断では肝細胞癌の転移であった.術後AFPは正常化し,肺転移切除後1年4カ月経過した現在,再発の兆候なく生存中である.
    肝細胞癌は早期に肝内再発し,肺転移に対して手術適応となることは稀である.特に遠隔期の切除報告は極めて稀で今回われわれは肝細胞癌術後12年目に発見された症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 宮内 勝敏, 高橋 広, 鈴木 秀明, 堀内 淳, 渡部 祐司, 吉川 浩之, 楠瀬 浩之, 河内 寛治
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2245-2250
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    両側肺転移を伴った肝芽腫の経過良好例を報告する.症例は1歳4カ月の男児.汗疹を主訴に近医を受診し,腹部腫瘤を指摘され,当院に入院した. AFPは1.38×106ng/mlと高値で,胸腹部CTで両側多発性肺腫瘤と肝左葉全体と右葉に及ぶ巨大肝腫瘍を認め,両側肺転移を伴うStage IV肝芽腫と診断した. cisplatine (CDDP)とpinorubin (THP-ADR)を中心とした化学療法4クールと肝動注塞栓療法を施行後,治療開始3カ月後に拡大肝左葉切除, 4カ月後に両側肺部分切除および2年後に左肺部分切除を施行した.術後1年2カ月後, AFPは正常域で,再発の徴候を認めていない.
    初診時より両側肺転移を伴った進行肝芽腫に対し,化学療法と積極的な外科療法によって,原発巣の完全切除と転移巣のコントロールができ,良好な結果を得ることができた.
  • 佐々木 英二, 玉内 登志雄, 竹内 英司, 岡本 哲也
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2251-2255
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は72歳の男性.上腹部痛を主訴に来院,胆石と診断され,精査目的で入院.内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査で,下部胆管に隆起性病変を認め,擦過細胞診で腺癌が疑われた,非拡張胆管に対し経皮経肝胆道ドレナージ後,経皮経肝胆道鏡下生検を施行,病理組職学的には高分化型管状腺癌であった.また,注腸検査でS状結腸癌も発見された.以上より,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術およびS状結腸切除術を行った.胆管癌は15mmの乳頭膨張型でss, n 0, stage II, S状結腸癌はsm, n 0, stage Iであった.胆管病変の質的診断や水平方向の進展度診断には胆道鏡検査が必須であるが,本例では経皮経肝胆道下生検が非常に有用であった.
  • 佐々木 文章, 北河 徳彦, 葛西 弘規, 山本 浩史
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2256-2259
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は8歳,女児.主訴は嘔吐,上腹部痛. 37度の発熱と咳漱があり,マイコプラズマ感染症として近医で加療.抗生剤としてミノサイクリン投与. 9日後に嘔吐と上腹部痛が出現し,翌日に上腹部中心の圧痛と筋性防御出現,血液検査でWBC 25,500/mm3,アミラーゼ1,4481U/Lと上昇し, CT所見より急性膵炎が疑われ,同日当院に入院.入院時の超音波, CT検査にて,急性膵炎の診断で内科的治療を開始.膵炎は第7病日頃に治まった.入院後第6病日に施行されたCTにて門脈本幹の起始部および上腸間膜静脈から脾静脈内にかけての門脈血栓が見つかった.しかし,臨床症状なく肝機能も変化なく,超音波検査にて門脈の血流は良好に保たれていた.抗凝固剤投与により,第29病日のCTでは門脈内血栓は完全に消失.小児においても,急性膵炎発症時には門脈血栓症の合併に注意を払う必要がある.
  • 松山 隆生, 角 泰廣, 澤田 傑, 村瀬 勝俊, 尾関 豊, 大西 佳文
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2260-2264
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は49歳,女性,心窩部痛を主訴に近医を受診した.腹部超音波検査で膵体部に腫瘤を指摘され,膵体部腫瘍の診断で当科を紹介受診した.腹部CTでは膵体部に嚢胞性病変を認め,膵頭体部の主膵管は拡張していた. MRCP,膵管造影では膵体部に多発性の嚢胞性病変を認め,膵頭部主膵管内には壁在結節が疑われた.膵管内視鏡,膵管内超音波検査を施行したが主膵管病変の存在を否定できなかった.膵頭部主膵管,膵体部分枝膵管に病変を持つ膵管内乳頭腫瘍と診断し幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本で,膵体部には多発性の嚢胞性病変を認め,膵管内乳頭腺癌と診断したが,膵頭部には腫瘍性病変を認めなかった.膵管内乳頭腫瘍の病変の進展範囲の決定が困難であることを痛感させられる症例であった.
  • 中山 善文, 岩井 志保, 吉田 陽一郎, 永田 直幹, 伊藤 英明
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2265-2270
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    内分泌非活性副腎皮質癌は稀な疾患である.治療法としては,外科的治療が主体であり,一般に化学療法,放射線療法の効果が期待できないとされている.われわれは,下大静脈内腫瘍塞栓があり非治癒切除に終わった小児頭大の内分泌非活性副腎皮質癌に対して,術後, o, p'-DDD (一般名ミトタン)を投与し,遺残した腫瘍が著明に縮小し, 4年6カ月後に出現した肺転移の切除後,初回手術から6年後の現在,健在である症例を経験したので報告する.症例は, 62歳,女性.左背部痛,左上腹部腫瘤を主訴に近医を受診し, CT検査より,左後腹膜腫瘍の診断で当科紹介となった.入院後, MRI, CT, 血管造影で,下大静脈内腫瘍塞栓を有する左副腎腫瘍の診断のもと手術を施行した.下大静脈内腫瘍塞栓は切除せず,左副腎腫瘍摘出術と左腎合併摘出術を施行した.術後,副腎皮質癌の病理診断があり, o, p'-DDDの投与を開始した.
  • 横山 昌樹, 石川 惟愛, 小野 慶一, 森田 隆幸
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2271-2274
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は,72歳の男性で, 1996年9月右腎癌・左肺転移にて右腎摘出・左肺下葉切除を施行した. 1997年10月下血を認め,消化管を精査したところ,腹部超音波検査およびCT検査で小腸腫瘍が疑われ手術施行となった.腫瘍は回盲部より約100cmの回腸に認めこれを切除した.病理組織検査はclear cell carcinoma,腎癌小腸転移の診断であった.その後下血は認めなかったが,腎不全を併発し, 1998年2月死亡した.腎癌小腸転移は稀とされ,自験例を含めた14例につき考察を加え報告する.
  • 浅野 賢道, 金子 敏文, 島田 俊史, 矢野 諭, 加藤 紘之
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2275-2279
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.平成13年9月より当院泌尿器科で左腎癌の肺多発転移の診断にて経過観察中,同年11月,下血,下腹部痛を認め,当院消化器内科に入院.腹痛の増強および腹部膨満感があり,腹部単純X線検査にてniveau像を認めたため,当科紹介となった.腹部造影CT検査にて拡張した回腸の内部に良好に造影される腫瘤を認め,腸重積による腸閉塞が疑われた.このため,緊急手術を施行したところ,回盲部より10cm口側に腸重積を認めた.先進部には腫瘤を触知し,整復後,腫瘤を中心に約10cm回腸を切除した.病理組織学的に腎細胞癌の小腸転移と診断された.術後経過は良好であり,第18病日に退院となり,術後4カ月の現在,経過観察中である.
    腎癌の小腸転移は極めて稀であり,本邦では自験例も含め17例の報告があるに過ぎない.若干の文献的考察を加え報告する,
  • 菅原 元, 山口 晃弘, 磯谷 正敏, 原田 徹, 金岡 祐次, 鈴木 正彦
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2280-2284
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    全周性直腸狭窄で発見された前立腺癌の1例を経験したので報告する.症例は71歳の男性で近医での注腸造影検査で直腸腫瘍を指摘されていた. 2000年7月21日に,腹痛が増強したため当院救急外来を受診し入院した.腹部CT検査では直腸下部の全周性狭窄と壁肥厚および前立腺の腫大と石灰化を認めた.大腸内視鏡検査は肛門痛が強く施行できなかった.前立腺浸潤を伴う直腸癌と診断して, 8月7日,腹会陰式直腸切断術を施行し,前立腺針生検を6箇所施行した.切除標本では,肉眼的に下部直腸に全周性の壁肥厚と硬化像を認めた.組織学的には前立腺癌の直腸浸潤と診断した.なお,術直前に測定した血清PSA値は14.7ng/mlと高値(正常値3.6ng/ml以下)を示した.術後抗アンドロゲン作用薬を経口投与している.前立腺癌の直腸への浸潤は比較的稀であるが,下部直腸の全周性狭窄と前立腺の腫大を認める場合には,念頭に置く必要がある.
  • 林 明男, 山崎 芳郎, 流郷 昌裕, 山崎 元, 桑田 圭司, 小林 曇
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2285-2289
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    外科的治療が奏効した硬化性被包性腹膜炎(SEP) 2例を経験したので報告する.症例1は49歳,女性で9年間の腹膜透析後に腹痛,嘔吐,下痢が出現しSEPと診断.血液透析を導入し,約2年間の内科的治療に抵抗を示した為,平成10年10月に癒着剥離術を施行した.術後5日目より経口摂取を開始し,その後一時的な絶食期間を要したが経過は概ね良好で術後52日目に退院となった.
    症例2は57歳,女性で13年間の腹膜透析後に腹部膨満,全身倦怠,下痢が出現しSEPと診断.約1年間の内科的治療の後,平成11年7月に癒着剥離術と回腸部分切除術を施行した.術後14日目より経口摂取を開始し,創感染を合併したものの縫合不全は認めず術後47日目に退院となった.
    平成13年11月現在2症例とも日常生活に復帰し, SEPによるイレウス症状の再発を認めていない.
  • 長田 俊一, 高橋 徹也, 福島 忠男, 高橋 利通
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2290-2294
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は47歳,男性.主訴は心窩部痛.精査で腹膜偽粘液腫の診断となり平成10年12月1日に虫垂切除,大網切除,粘液除去,粘液溶解洗浄,腹腔内ポート留置を施行.翌年1月より腹痛出現し,外来で5-FU腹腔内投与するも腹痛の改善なく,平成11年5月より5-FU内服とOK-432腹腔内投与に変更した.腹痛は軽快するも平成12年4月6日に腸閉塞で再入院.平成12年4月20日,開腹手術を行った.腸間膜および腸管に多発性の粘液腫を認めた.また,茶色の結節性病変により小腸が閉塞されていた.可及的粘液腫切除とイレウス解除および腹腔内ポート抜去再留置を行った.病理学的検査では血腫であった.腫瘍マーカーは, OK-432腹腔内投与を開始した直後と再手術後に低下した.したがって,可及的粘液腫切除, 5-FU内服およびOK-432腹腔内投与が効果的な治療法と考えられた.文献的考察を加え,報告する.
  • 石田 祐一, 正岡 直子, 山崎 洋次, 青木 照明
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2295-2298
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    化膿性脊椎炎の中でも頸椎および頸椎椎間板での発症は多くはない.われわれは胃癌手術後にMRSAによる頸椎椎間板炎を合併した1例を経験した.症例は60歳男性,噴門部胃癌に対して噴門側胃切除空腸間置再建を施行したが,縫合不全による腹膜炎を併発し術後7日目に開腹ドレナージ術を施行した.術後MRSAによる肺炎と敗血症を合併したがその後軽快した.しかし初回手術後67日目に突然両側上下肢の知覚低下と脱力感が出現し頸椎MRIで第4, 5頸椎椎間板炎と診断した.麻痺の進行を認めたため71日目に病巣掻爬および前方固定術を施行した.掻爬された椎間板組織から起因菌としてMRSAが同定された.術後経過は良好で機能訓練の後,術後176日目に退院した.消化器癌術後などのcompromised hostが,頸部や腰背部の疼痛,感染症状を呈した場合,化膿性脊椎炎の可能性を考慮するべきである.
  • 廣松 伸一, 藤野 隆之, 小野 崇典, 明石 英俊, 青柳 成明
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2299-2303
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,女性.主訴は右下肢腫脹,しびれ感と灼熱感.カラードップラーエコーで大腿動静脈の後面に約4×3cmのlow echoic massを認めた. CTでは大腿静脈を背側から圧排する内部均一なLDAあり,腸腰筋に接していた. MRIで股関節前面で腸腰筋に接する嚢腫状腫瘤を認め腸恥滑液包炎と診断した.腫瘤と股関節腔との交通ははっきりしなかった.静脈造影では右大腿静脈は閉塞していた.治療は一時的下大静脈フィルター挿入下にエコー下嚢腫穿刺吸引術を施行した.約15mlの粘稠度の高い黄色透明の液を吸引した.その後の造影で大腿静脈の閉塞は改善していた.術後1週間のCTでは嚢腫は残存していたが, MRVで大腿静脈の再閉塞はなかったので外来でしばらく様子をみた.術後4カ月のCTでは嚢腫は消失し,症状も改善し経過は良好であった.
  • 白石 好, 西海 孝男, 磯部 潔, 森 俊治, 中山 隆盛, 古田 凱亮
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2304-2308
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,男性.右乳腺腫瘤および嚥下困難を主訴に受診した.精査の結果,右乳癌T1N0M0と食道癌T2N1M0の同時性重複癌と診断した.先ず右乳癌に対しBt+Ax施行し, 1ヵ月後に食道癌に対して右開胸開腹胸部食道全摘術, D3郭清,胃管再建術を施行し術後経過良好であった.病理組織所見にてリンパ節転移を認めたため,術後補助化学療法を施行した後に退院した.本邦報告例12例の男子乳癌との同時性重複癌について,特徴と治療方針について検討した結果,胃が最も多く食道は自験例を含め2例のみであった.男子乳癌の早期発見例の増加,ホルモン療法を含めた男子乳癌の治療成績の向上から,今後は併存する他臓器とくに消化器癌の治療が予後に関わるものと考えられた.重複癌の発生に関してp53遺伝子異常が関与しているとの文献的考察から,免疫染色法にて検討した結果,どちらも陽性であり今後の経過観察の際に,再発だけでなく異時性多重癌の発生にも配慮するべきであると考えた.
  • 寺石 文則, 軸原 温, 紙谷 晋吾, 佐藤 克明
    2002 年 63 巻 9 号 p. 2309-2313
    発行日: 2002/09/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    同時性2重複癌(早期胃癌,胆嚢癌)を合併した遺伝性非ポリポーシス大腸癌(hereditary non-polyposis colorectal cancer; HNPCC)の1例を経験したので報告する.症例は65歳,女性. 41歳時,左乳癌で手術施行.家族歴で姉と妹に大腸癌を認めた.今回,上腹部痛を主訴に近医を受診.胆石症の診断で手術目的で当院紹介入院となった.胆石症の術前精査の結果,胃前庭部に早期胃癌,横行結腸に3型大腸癌を認めた.まず早期胃癌に対してEMRを施行し,中分化腺癌と診断された.その後,開腹手術にて他の悪性病変は認めず,右半結腸切除術および胆嚢摘出術を施行した.病理組織学的に横行結腸病変は中分化腺癌と診断され, 2群リンパ節に転移を認めた.胆嚢病変は,底部に限局する高分化管状腺癌を認めた.以上より自験例は,同時性2重複癌を合併したHNPCC (Lynch II型)と診断した.
feedback
Top