日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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ISSN-L : 1345-2843
84 巻, 4 号
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第83回総会会長講演
綜説
  • 志田 晴彦
    2023 年 84 巻 4 号 p. 498-511
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    外科医が対応するヘルニア疾患をI.鼠径部およびその周辺のヘルニア,II.腹部の内ヘルニア,III.腹壁のヘルニア,IV.横隔膜のヘルニアに分けた.そのいずれにも経験を積んだ臨床外科医でも初めて遭遇するような希少な症例があり,診断や治療技術の進歩に伴ってそのような希少例に対する診断・治療方針も変遷し進歩を遂げていく.症例報告論文は外科医がただ一度の経験ではあっても,それを提示し,考察し,記録に残すことにより希少な症例に対する診断・治療の進歩に貢献する貴重な資料である.この綜説ではこの12年間に学会誌に掲載された希少なヘルニア症例報告論文から,診断・治療の要点や最新の話題,今後の展望などを2編に分けて概説した.疾患の認識がなければ診断は困難であり,治療方針にも影響する.臨床現場でいつ遭遇しても対応できるように,疾患名とその要点を頭の片隅に覚えていただけることを望む.

臨床経験
  • 峯田 修明, 遠藤 俊治, 吉松 和彦, 藤原 由規, 上野 富雄
    2023 年 84 巻 4 号 p. 512-516
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    背景:閉鎖孔ヘルニア嵌頓における嵌頓腸管虚血の予測因子として,「発症後経過時間」「嵌頓腸管径」「嵌頓腸管内容CT値」がある.当院での症例でこれらが腸管虚血の予測因子になるか検討した.方法:2010年から2022年の間に当院で閉鎖孔ヘルニア嵌頓で手術を行った症例は24例.腸管虚血のため腸切除したのは8例(切除群:全例緊急手術),腸切除しなかったのは16例(非切除群:緊急手術例 7例,非観血的整復後待機手術例 9例).両群で3つの予測因子について検討した.結果:発症から手術あるいは嵌頓解除までの経過時間(中央値)は,切除群が36時間,非切除群が6時間で有意差を認めなかった(p=0.07).嵌頓腸管径は,切除群が3.5cm,非切除群が3.5cmで有意差を認めなかった(p=0.99).嵌頓腸管内容CT値は,切除群が22HU,非切除群が8.3HUで有意差を認めた(p=0.04).結語:腸管虚血の予測に嵌頓腸管内容CT値は予測因子になりうると考えられた.

症例
  • 和久 利彦
    2023 年 84 巻 4 号 p. 517-522
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は71歳,女性.3年前に左乳癌術後より化学療法を行い,2年前にアロマターゼ阻害薬とアレンドロネートの投与を開始.Ca値は乳癌術前より高値を維持していた.多結節性甲状腺腫精査の外科受診でCa 10.4mg/dl,intact-PTH 137pg/mlを認め,骨密度検査では腰椎YAM 55%であった.超音波検査・造影CTでは甲状腺右葉腫瘤が副甲状腺腫である所見に乏しかったが,MIBIシンチグラフィで甲状腺右葉内腫瘤のみに集積していた.右葉内副甲状腺腫や微小副甲状腺腫の可能性を考慮して,両側頸部検索後右葉切除,右上副甲状腺摘出,径0.8cm厚さ1-2mmの左下副甲状腺腫摘出を行った.左下副甲状腺は副甲状腺腺腫,右上と右葉表面付着の右下副甲状腺は正常で甲状腺内腫瘤は濾胞腺腫であった.乳癌ホルモン療法下では骨折リスクが高いため,副甲状腺腫の術前局在診断が困難であっても副甲状腺腫の術中両側頸部検索・摘出は必然である.

  • 石原 博雅, 柴田 有宏, 岡本 果南, 村上 弘城, 出口 智宙, 高瀬 恒信, 亀井 誠二
    2023 年 84 巻 4 号 p. 523-527
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は55歳,女性.1年前から左乳腺腫瘤を自覚し放置していたが,腫瘤から出血するようになり近医より当院へ紹介受診した.初診時,左C領域に皮膚自壊を伴う15cm大の腫瘤を認め,著明な貧血を認めた.左乳腺腫瘤に対して針生検を施行し,浸潤性乳管癌と診断.CT・骨シンチグラフィの所見より,cT4bN1M0;Stage IIIBの診断で術前化学療法を施行する方針とした.しかし,腫瘍からの出血が継続し化学療法継続が困難であったため,止血目的に血管内塞栓術を施行することとした.腋窩動脈・外側胸動脈・内胸動脈からの分枝に対して塞栓術施行すると,腫瘍からの出血は消失し腫瘍が明らかに縮小した.外来で術前化学療法継続した後,左乳房全摘+腋窩リンパ節郭清+植皮術を施行.術後化学療法,術後放射線治療も安全に施行できた.腫瘍出血に対し血管内塞栓術が有用であった1例を経験したので報告する.

  • 山本 美里, 柴田 雅央, 武内 大, 増田 慎三
    2023 年 84 巻 4 号 p. 528-531
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は64歳,男性.左前胸部腫瘤を自覚し受診した.超音波検査で乳頭から5cm離れた11時方向に15mmの充実性腫瘤を認め,MRIでは不整形腫瘤と乳頭の間に造影効果のない線状構造を認めた.吸引組織診にて浸潤性乳管癌の診断を得た.手術は乳房切除術+センチネルリンパ節生検を施行した.術後病理検査では乳頭から乳管様構造が続く先に腫瘍を認め,浸潤性乳管癌,pT1b(9mm),pN0(sn),M0,Stage I,ER陽性,PgR陽性,HER2 1+,Ki-67 5%の結果であった.乳頭方向への腫瘍の乳管内進展は認めなかった.術後薬物療法はタモキシフェン5年間内服の方針とした.ほとんどの男性乳癌は乳頭直下に発生し,乳頭から離れた部位に発生した報告は少ない.本症例では,乳頭から乳管様構造が広がり男性乳癌が生じたことがMRIや病理検査で示された.男性でも乳頭から離れた部位に乳癌が発生することを認識し,乳管様構造の広がりを意識した診断や術式決定が重要と考えた.

  • 大山 友梨, 結縁 幸子, 矢内 勢司, 松本 元, 田代 敬, 山神 和彦
    2023 年 84 巻 4 号 p. 532-537
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    シリコンブレストインプラント(SBI)留置により形成された線維性被膜への直接浸潤と非連続性の被膜播種を伴った乳癌症例を経験した.大胸筋前面に豊胸目的で両側SBIが留置されており,左乳房の広範な腫脹と左D区域の硬結を認めた.針生検で浸潤性乳管癌と診断した.画像検査では腫瘍の直接被膜浸潤,SBI周囲の多量の液体貯留,SBI の最外殻であるシェルの圧迫嵌入および破損を疑う形状変化,さらに被膜播種を疑う結節が認められた.SBI,被膜を含む乳腺全切除を行った.切除標本の病理診断にて腫瘍の被膜への直接浸潤と被膜播種が確認された.SBI破損は無く,SBIと被膜間に多量の血性浸出液の貯留を認めた.本症例のように術前画像で結節としての被膜播種を疑う場合,また腫瘍の直接被膜浸潤とSBI-被膜間の液体貯留を認めるのみの場合においても,被膜播種の存在を考慮し,被膜内の液体を漏らすことなくインプラント周囲被膜の完全切除が必要と考えられた.

  • 竹中 僚一, 根津 賢司, 竹本 大二郎, 林 龍也, 山本 久斗, 松影 昭一
    2023 年 84 巻 4 号 p. 538-543
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    化生性胸腺腫は多角細胞成分と紡錘形細胞成分が混在する二相性の構造を認める胸腺上皮性腫瘍であり,胸腺腫の1~2%と稀な腫瘍である.今回,化生性胸腺腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.症例は58歳,男性.尿路結石にて救急外来を受診した際のCTにて,前縦隔腫瘍を指摘された.胸部単純CTでは前縦隔に68×40mmの境界明瞭,辺縁整,内部均一な腫瘤を認めた.FDG-PET-CTでは前縦隔腫瘤に一致したSUVmax 8.37のFDG高集積を認めた.胸腺腫と診断し,胸骨正中切開アプローチにて周囲リンパ節を含めた胸腺全摘術を施行した.心膜や縦隔,胸膜浸潤は認めなかった.切除標本は77×57×32mm大で,胸腺左葉下極より発生し,割面にて白色充実性,境界明瞭,辺縁整,明らかな被膜の途絶は認めなかった.病理所見では充実性の胞巣を形成する多角細胞成分と,胞巣を取り囲む束状の紡錘形細胞成分が混在する二相性の構造を認めた.免疫染色において多角細胞ではCK(AE1/AE3)が強陽性,紡錘形細胞ではVimentinが強陽性であったことから,化生性胸腺腫と診断された.

  • 近藤 祐平, 淺海 信也, 近藤 隆太郎, 香川 哲也, 高倉 範尚
    2023 年 84 巻 4 号 p. 544-549
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,女性.腹痛を主訴に当院を紹介受診した.胸腹部CTで滑脱型食道裂孔ヘルニアならびに胃,十二指腸,横行結腸が右胸腔に脱出しており,Morgagni孔ヘルニアの診断とした.明らかな絞扼所見はなく,待機的な一期的腹腔鏡下修復術の方針とした.食道裂孔ヘルニアに対しては食道裂孔の縫縮とToupet法による噴門形成を行った.Morgagni孔ヘルニアに対しては横行結腸が脱出していたが容易に還納でき,ヘルニア門は50×60mmで,ヘルニア嚢は切除せずメッシュでの修復術を行った.術後1年以上経過したが,再発所見なく経過している.Morgagni孔ヘルニアは成人横隔膜ヘルニアの中で稀な疾患であり,さらに食道裂孔ヘルニア併存の報告例は少ない.両ヘルニアに対する腹腔鏡下アプローチは脱出臓器の還納やヘルニア門の観察が容易で,低侵襲性であることより有用な術式であると考える.Morgagni孔ヘルニアと食道裂孔ヘルニア併存の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

  • 今西 謙太郎, 小林 一泰, 丸山 修一郎, 平井 隆二, 金谷 欣明
    2023 年 84 巻 4 号 p. 550-553
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は83歳,男性.2019年10月に心窩部,右季肋部痛を伴う巨大肝嚢胞に対する腹腔鏡下肝嚢胞開窓術を施行した.術後経過は特に合併症なく,第8病日に退院した.

    術後3年が経過した2022年11月に左側腹部痛を主訴に受診した.Computed tomography(以下CT)から右横隔膜ヘルニアおよび小腸の造影効果低下がみられた.遅発性横隔膜ヘルニア嵌頓と診断し,同日緊急手術とした.腹腔鏡下に腹腔内を観察した.肝嚢胞切除部の外側に嚢胞状に菲薄化した横隔膜を認め,その背側から小腸が嵌頓していた.腹腔内からの腸管の還納は困難であった.胸腔鏡により胸腔内を観察したところ,腸間膜を伴い小腸が脱出しており,ヘルニア嚢はみられなかった.開胸した後ヘルニア門を切開して開大し,小腸を腹腔内へ還納した.ヘルニア門を2-0非吸収糸にて結節縫合閉鎖した.

    術後経過は良好で,特に合併症なく術後12日目に退院した.

  • 小郷 泰一, 西山 優, 石原 慶, 塚原 啓司, 井ノ口 幹人
    2023 年 84 巻 4 号 p. 554-559
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,女性.胸部下部食道癌cT2N1M0,Stage IIに対し,術前化学療法としてDCF療法を開始し,1コース目のDay3にpegfilgrastimを使用した.Day12に腹痛・関節痛が出現し,Day14当院外来受診時に発熱および炎症反応の上昇を認めた.造影CTで大動脈周囲の軟部影を認め,G-CSF製剤による大動脈炎と診断した.その後は徐々に炎症反応改善を認めたためステロイドは使用せず,症状改善した.G-CSF製剤投与による大型血管炎の報告例は近年増加傾向だが未だ少なく,病態や治療法など不明な点も多い.今回,食道癌術前化学療法中のpegfilgrastim投与後に発生した1例を経験したので報告する.

  • 山﨑 信人, 石 志紘, 島田 岳洋, 川口 義樹, 浦上 秀次郎, 波多野 まみ, 村田 有也
    2023 年 84 巻 4 号 p. 560-568
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は66歳,男性.中咽頭癌(cT1N0M0,cStage I)のスクリーニング検査で胸部中部食道に1型,2cmの食道扁平上皮癌(cT2N1M0,cStage II)と,肝S4,5,8にわたる8cmの腫瘍を発見.手術侵襲度を考慮して,一期目に経口的中咽頭部分切除術,二期目に胸腔鏡下胸部食道切除亜全摘術と一時的頸部食道瘻造設術,三期目に腹腔鏡下肝中央二区域切除術,用手補助腹腔鏡下胃管再建術を行う方針とした.二期目では食道口側を胸部上部食道レベルで切離し一時的食道瘻を造設,噴門側は胸部下部食道レベルで仮切離し盲端とした.二期目から4週後の三期目では腹腔鏡下肝中央二区域切除術に続き用手補助腹腔鏡下胃管再建術を開始,食道盲端部が縦隔内で高度に癒着していたため開腹手術への移行を要したが,三期分割切除にすることで一連の手術治療を完遂した.ただし,鏡視下で手術を完遂するためには,インターバル期間の再考や食道切離端処理の工夫が必要と考えられた.

  • 杉浦 孝太, 菅原 元, 久留宮 康浩, 世古口 英, 井上 昌也, 加藤 健宏
    2023 年 84 巻 4 号 p. 569-573
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は87歳,女性.吐血と黒色便で当院へ救急搬送された.上部消化管内視鏡検査でMallory-Weiss症候群と診断した.内視鏡後のCTで脾周囲を中心としたCT値の高い腹水貯留とupside down stomach(UDS)を認め,腹腔内出血を疑い緊急手術を施行した.開腹すると胃脾間膜からの出血を認めたので縫合止血し,食道裂孔ヘルニアの修復を行った.術後は脳梗塞を合併したが,ヘルニアの再発なくリハビリ施設へ転院した.自験例では,UDSにより胃脾間膜に過度の進展がかかった状態で,嘔吐や内視鏡操作による物理的刺激が加わり,胃脾間膜から出血したと考えられた.食道裂孔ヘルニアに腹腔内出血を合併した報告は稀であり,文献的考察を加えて報告する.

  • 久保 陽香, 宮永 太門, 西田 直仁, 奥田 俊之, 二宮 致, 海崎 泰治
    2023 年 84 巻 4 号 p. 574-578
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は67歳,女性.症状はないものの,CTにて偶発的に胃大彎側の7cm大の腫瘤を認めた.精査の結果,GISTを疑い開腹での胃局所切除術を施行した.病理組織学的検査所見からは,髄外性形質細胞腫と診断され,組織学的には胃と連続性は認めなかった.追加検査にて遠隔転移なく髄外性形質細胞腫として無治療経過観察となり,術後2年3カ月経過し無再発生存中である.

    髄外性形質細胞腫は形質細胞腫瘍の一病型であり,腹腔内リンパ節原発(後腹膜原発を除く)の症例は本邦で自験例を含め5例と稀である.今回,術前診断が困難であった髄外性形質細胞腫の症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 吉岡 尚子, 豊田 和宏, 坂下 吉弘, 小林 弘典, 宮本 勝也, 谷山 清己
    2023 年 84 巻 4 号 p. 579-583
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は70歳,男性.動悸,ふらつき,黒色便を主訴に受診し,上部消化管内視鏡検査で胃体上部大彎後壁に3型進行癌を,胃体中部前壁に0-IIc型胃癌を認めた.さらに,胃体中部小彎後壁に粘膜下腫瘍様の病変を認め,リンパ節による壁外性圧排の可能性が疑われた.多発胃癌に対し,胃全摘・D2+No.10リンパ節郭清,脾臓・胆囊摘出術を施行した.病理組織診断では3型病変と0-IIc型病変ともに胃リンパ球浸潤癌で,胃粘膜下腫瘍は壁内転移と診断された.壁内転移は局所転移と判断し,進行度はpT3N2M0,pStage IIIAとした.術後補助化学療法を施行し,術後1年1カ月現在,無再発生存中である.胃癌に壁内転移を伴う場合,広範囲な胃切除を検討する必要があるが,粘膜下層腫瘍様の病変を呈することがあり術前診断は難しい.胃癌の壁内転移症例は報告が少なく,さらに原発巣がリンパ球浸潤癌である症例は非常に稀であり,文献的考察を加えて報告する.

  • 岡本 行平, 松本 尊嗣, 西村 隆則, 須賀 悠介, 永井 元樹, 野村 幸博, 小川 真毅, 鈴木 良夫
    2023 年 84 巻 4 号 p. 584-589
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    小腸憩室は稀な疾患であり,憩室穿孔の報告例は少ない.今回,絞扼性腸閉塞手術時に認めた空腸憩室が術後早期に発症した癒着性腸閉塞により穿孔に至った1例を経験したので報告する.症例は81歳の男性で,絞扼性腸閉塞にて当院へ紹介.同日緊急手術を施行したところ,小腸間膜根部が内ヘルニアにより絞扼されており,全小腸が虚血に陥っていた.また,虚血小腸に憩室を複数認めた.絞扼解除のみ施行し,第17病日に軽快退院となった.第38病日に癒着性腸閉塞を発症し,保存加療抵抗性であったため第44病日に癒着解除術を施行した.初回手術時に認めた小腸憩室のうち,1つが穿孔し腹腔内膿瘍を認めた.穿孔部を含めた小範囲の空腸を切除し,第59病日に退院となった.病理所見は仮性憩室であった.空腸仮性憩室が虚血の影響で脆弱化し,癒着性腸閉塞による腸管内圧上昇のために穿孔したと推察された.

  • 横井 勇真, 大森 隆夫, 畑中 友秀, 湯淺 博登, 早﨑 碧泉
    2023 年 84 巻 4 号 p. 590-595
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は79歳,女性.嘔吐,発熱,腹痛を主訴に救急外来を受診した.腹部単純CTで下腹部に腸管との連続が不明瞭で内部にairを含む最大径17.5cm大の構造物とfree airおよび門脈ガス像を認め,穿孔性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.手術所見では回腸末端より100cmの小腸に小児頭大の腫瘍性病変を認め,腫瘍は内部壊死と穿孔を伴っていた.小腸部分切除を施行した.切除標本では腸間膜対側に嚢状に突出する粘膜下腫瘍を認めた.病理組織学的検査と免疫組織学的検査でgastrointestinal stromal tumorと診断された.術後,体質性黄疸と敗血症による遷延性黄疸を伴ったが,概ね経過良好であり術後16日目に退院となった.再発高リスク群であり,術後補助療法としてメシル酸イマチニブ療法を開始し,外来通院中である.

  • 関本 晃裕, 三宅 秀夫, 永井 英雅, 吉岡 裕一郎, 柴田 耕治, 川合 亮佑
    2023 年 84 巻 4 号 p. 596-602
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は78歳の女性で,腹痛と嘔吐を主訴に当院を受診した.血液検査で肝胆道系酵素の上昇を認め,CTで近位小腸内にairを伴う腫瘤状陰影を認めたため,胆管炎と診断し入院した.ERCPで胆道内に結石を認めなかった.イレウス管を挿入したが腸閉塞が改善しないため,CTを再検すると小腸内の腫瘤が肛門側に移動していた.食餌性腸閉塞または腸石による腸閉塞の診断で,入院13日目に腹腔鏡下手術を施行した,小腸に球形の硬い物体を認め,腸切開したところ結石であったため摘出し,小腸を縫合閉鎖した.結石の大きさは3.0×2.0cmで,成分分析でデオキシコール酸が98%以上であったので,胆汁酸腸石と診断した.CTで3.0×2.0cmの十二指腸傍乳頭憩室を認め,臨床的に胆管十二指腸瘻,胆囊十二指腸瘻を認めなかったことから,十二指腸傍乳頭憩室内の腸石の落下による腸閉塞と考えた.胆石落下による腸閉塞の報告は多いが,十二指腸傍乳頭憩室に形成された真性腸石の落下による腸閉塞の報告は稀である.

  • 木戸 美織, 和多田 晋, 雨宮 隆介, 小倉 正治, 市東 昌也
    2023 年 84 巻 4 号 p. 603-607
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は10歳,女児.腹痛を主訴に当院救急外来を受診した.腹部造影CTで虫垂の腫大,糞石様高吸収域,周囲の脂肪織濃度の上昇を認め,急性虫垂炎と診断し腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.切除標本では虫垂体部に灰黄色調の1.1×1.5cmの腫瘤と高度の狭窄を認めた.組織学的には粘膜下層から一部漿膜下層にかけて類円形核と淡好酸性細胞質をもつ比較的均一な腫瘍細胞が浸潤し,索状配列を呈していた.核分裂像を認め(2.5/10 HPF),Ki-67 labeling index 8.4%でNET G2と診断された.わずかにリンパ管侵襲を認めたがリンパ節転移は認めず,慎重経過観察の方針とし,術後半年再発は認めていない.小児虫垂NETは予後良好であるが稀な疾患であり,追加切除の要否,フォローアップの期間や方法等の治療方針について明確な基準はなく,今後の症例の蓄積による治療方針の確立が望まれる.

  • 西村 充孝, 佐野 貴範, 香西 純, 森 誠治, 岡田 節雄
    2023 年 84 巻 4 号 p. 608-614
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    一般に,腹腔内遊離ガス像は消化管穿孔を伴うことから緊急手術の重要な判断基準の一つとして考えられている.しかしながら,腹腔内遊離ガス像を認めるものの消化管に明らかな穿孔所見が認められないものや,最終的にその原因が不明であったと判断せざるを得ない特発性気腹症という病態が頻度は少ないながらも存在する.今回,われわれはS状結腸過長症が発症に関与したと考えられた特発性気腹症の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

    症例は84歳,男性.腹痛を主訴に来院し,画像所見で腹腔内遊離ガス像を確認した.炎症所見は軽微であったが腹膜刺激症状を認めたことから,消化管穿孔を疑い緊急手術を行った.しかし,明らかな穿孔箇所は認められず,特発性気腹症と診断した.S状結腸過長症が併存しており結腸が著明に拡張していたことから,腸管壁の機能障害をきたしたことや腸管内圧の上昇が特発性気腹症の発症に関与しているものと考えられた.

  • 富永 哲郎, 野中 隆, 小山 正三朗, 高村 祐磨, 澤井 照光, 永安 武
    2023 年 84 巻 4 号 p. 615-619
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    腸管アミロイドーシスは腸管粘膜の虚血・脆弱性をもたらす.腸管再建の際,吻合部の血流障害をきたし,縫合不全の高リスクといわれ,一期的吻合を避け人工肛門造設する例もある.症例は67歳の男性で,関節リウマチで20年間の治療歴がある.貧血を主訴に施行した下部消化管内視鏡検査で,S状結腸に20mm大の隆起性病変を認めた.同時に施行した結腸生検で,粘膜下層内の間質・動脈周囲にアミロイド沈着を認めた.Direct fast scarlet染色陽性であり,腸管アミロイドーシスと診断された.S状結腸腫瘍に対しEMRを施行したところ,垂直断端陽性で外科に紹介となり腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した.術中,再建腸管の緊張をとるために脾彎曲部授動を行った.また,腸管再建時にindocyanine green蛍光法で吻合部血流が良好であることを確認し吻合した.術後は明らかな合併症なく経過し,術後10日目に自宅退院となった.

  • 穐山 竣, 横田 満, 森川 彰貴, 岡部 道雄, 北川 裕久, 河本 和幸
    2023 年 84 巻 4 号 p. 620-626
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は85歳の男性で,有痛性の潰瘍を伴う肛門部腫瘤に対して精査目的に紹介となった.各種腫瘍マーカーの上昇は認めず,画像所見で肛門管右側壁に内肛門括約筋を越えて浸潤する腫瘤を認め,肛門管癌が疑われた.内視鏡生検では上皮細胞を同定できず,検体の挫滅も強く確定診断に至らなかった.肛門痛の増悪でADLが低下し,症状緩和目的に人工肛門造設術と切除生検を行った.病理所見では上皮は消退,大型のリンパ球様細胞がびまん性に増生し,CD20などB細胞系マーカーが陽性であり,肛門管原発びまん性大細胞性B細胞リンパ腫の診断に至った.化学療法(R-THPCOP療法)を施行し,2コース後のCT評価で完全奏効が得られた.消化管悪性リンパ腫の治療は,悪性リンパ腫に準じて化学療法が第一選択となる.リンパ腫病変は比較的柔らかく上皮が消退していることもあるため,内視鏡生検で確定診断に至らない場合には自験例のように切除生検が有用と考えられた.

  • 佐伯 昌一, 岡本 浩一, 森山 秀樹, 中村 慶史, 木下 淳, 稲木 紀幸
    2023 年 84 巻 4 号 p. 627-632
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    79歳,男性.不整脈と心機能低下の精査目的に施行された冠動脈造影検査にて左前下行枝に有意狭窄を認めたため,肝動脈形成術として冠動脈ステント留置術が施行された.術直後より心室細動が出現したため,胸骨圧迫と電気的除細動を施行し洞調律に復帰したが,血圧低値が遷延し貧血の進行を認めた.造影CTにて肝外側区域に存在していた肝囊胞の縮小と脾臓や胃の周囲の血腫を認めたため,肝囊胞破裂出血が疑われた.その後も補液,輸血,循環作動薬投与下でもショック状態が持続し,4時間後のCTでも腹腔内出血と貧血の進行を認めたため,出血源同定と止血目的に腹部血管造影検査を施行した.肝外側区域の肝囊胞内に血管外漏出を認めたため,左肝動脈末梢レベルでの選択的肝動脈塞栓による止血術を行った.以後貧血の進行や囊胞内出血,腹腔内血腫の増悪なく,合併症を認めることなく処置後25日目に退院となった.

  • 山田 真規, 井上 一真, 寺脇 平真, 佐倉 悠介, 伊東 大輔, 安近 健太郎
    2023 年 84 巻 4 号 p. 633-640
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は60歳,女性.嘔吐を主訴に当院ERを受診し,腹部CTで下行結腸癌による大腸閉塞を疑う所見を認め,肝臓には複数の低吸収結節があり囊胞が疑われた.大腸閉塞に対し大腸ステントを留置された40日後に腹腔鏡下結腸左半切除術を施行した.術中, 肝S5およびS8表面に2箇所,転移性肝腫瘍を疑う5mm大の白色結節を認めた.EOB-MRIで同部位2箇所のみに転移性肝腫瘍を疑う所見を認め,初回手術から約2カ月後に腹腔鏡下肝部分切除術を施行した.病理組織検査の結果,肝reactive lymphoid hyperplasia(RLH)の診断であった.

    RLHは良性腫瘍でこれまで肺や眼窩,皮膚などで多くの報告があるが,肝臓では稀で,特に多発例は非常に稀である.基本的に治療を要することは少ないが,術前診断の難しさ,悪性肝腫瘍との鑑別の難しさから経過観察の対象とはなりづらい.大腸癌の転移性肝腫瘍を疑われた多発肝reactive lymphoid hyperplasiaの1例を経験したので,文献的考察を交えて報告する.

  • 伊藤 雅典, 篠浦 先, 大島 圭一朗, 岡田 剛, 西﨑 正彦, 繁光 薫
    2023 年 84 巻 4 号 p. 641-646
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は79歳,女性.慢性貧血を認め,原因精査目的に内視鏡検査を施行し十二指腸第2部,乳頭部より約2cm口側に10mmほどの腫瘤を指摘され,精査目的に紹介となった.副乳頭部に存在している腫瘍であり,正常副乳頭は確認できなかった.腫瘍からの生検ではadenocarcinomaが疑われる所見であった.画像上は遠隔転移や周囲リンパ節転移を疑う所見を認めなかったため,亜全胃温存膵頭十二指腸切除を行った.術後は胃内容排泄遅延により長期の胃管留置が必要であったが自然軽快し,術後54日目に退院となった.病理結果は低分化管状腺癌の診断で膵実質への浸潤を認めたが,リンパ節転移は認めなかった.術後腸閉塞にて入院歴はあるが,70カ月経過し再発は確認されていない.十二指腸副乳頭部の腫瘍は珍しく,神経内分泌腫瘍などの良性腫瘍が比較的多く報告されているが,副乳頭部癌の報告例は極めて稀である.近年内視鏡治療例などの報告も散見され,文献的考察を加えて報告する.

  • 加藤 真司, 小林 聡, 関村 敦, 高木 健裕, 前田 孝, 堀 明洋
    2023 年 84 巻 4 号 p. 647-652
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例1は,67歳の女性.肛門管癌に対し,化学放射線治療後に腹会陰式直腸切断術を施行した.術後6カ月で膣後壁に局所再発を認めたため,局所切除を施行した.症例2は,71歳の女性.直腸癌膣後壁浸潤に対し,膣後壁合併切除を伴う腹会陰式直腸切断術を施行した.それぞれ膣壁欠損に対し,横転皮弁による再建を施行した.

    本術式は,通常の腹会陰式直腸切断術と同一体位で施行できるため,体位変換が不要であり,他の再建法と比較し低侵襲かつ簡便であるため,形成外科医が不在の施設においても外科医のみで実施が可能である.また,この再建方法を習熟することにより,膣壁との安易な剥離操作や不十分なマージンによる切除を避けることが可能となる.

    本術式は膣後壁合併切除を要する切除術において,有用な再建方法となり得ると考えられた.

  • 吉田 道彦, 鳥越 陸矢, 水本 拓也, 平田 建郎, 辻村 敏明, 上野 公彦
    2023 年 84 巻 4 号 p. 653-658
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は84歳,女性.上腹部痛と嘔吐を主訴に救急外来を紹介受診.腹部単純X線にて左外側へ圧排される胃泡と胃小彎側領域に拡張した小腸を認め,単純CTでは胃と肝臓に囲まれた領域に,niveauを形成する小腸を認めた.網囊ヘルニアによる絞扼性イレウスが疑われ,同日緊急手術を施行した.拡張した小腸は小網の異常裂孔をヘルニア門とし,胃の背側から腹腔へ向かって脱出し絞扼されていた.小網を切開し小腸の絞扼を解除した.小腸は大網の異常裂孔から網囊に入り,胃の背側から小網の異常裂孔を通り脱出しており,大網小網裂孔網囊ヘルニアと診断した.経時的に小腸壁の色調等の改善を認めたため,整復のみとした.

    高齢の大網小網裂孔網囊ヘルニアの1症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 中橋 剛一, 河合 徹, 京兼 隆典, 相場 利貞, 久世 真悟, 宮地 正彦
    2023 年 84 巻 4 号 p. 659-664
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    鼠径ヘルニア内容が虫垂であるAmyand's herniaはまれな疾患である.その治療戦略は,手術のタイミング(緊急/待機的),術式選択(前方アプローチ/鏡視下アプローチ),虫垂切除の有無,メッシュ使用の有無といった点で多岐にわたる.今回われわれは,一期的に虫垂切除とメッシュ修復を施行したAmyand's herniaの2例を経験したので,文献的考察を加え報告する.症例1は48歳,男性.CTでAmyand's herniaと診断した.虫垂炎を伴っていたが,虫垂切除とヘルニア修復のアプローチを変え,緊急で腹腔鏡下虫垂切除術と前方アプローチでのメッシュ修復術を一期的に行った.症例2は69歳,男性.右鼠径ヘルニアの手術歴と虫垂炎保存的加療歴あり.CTで右鼠径ヘルニアの再発と虫垂炎を伴うAmyand's herniaと診断したが,虫垂と腹膜の癒着が懸念されたため,消炎後待機的に腹腔鏡下虫垂切除術と前方アプローチでのメッシュ修復を一期的に行った.いずれの症例も術後経過良好であった.

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