日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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80 巻, 7 号
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綜説
  • 杉本 健樹
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1269-1278
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    本邦でも遺伝性乳癌卵巣癌症候群 (hereditary breast and ovarian cancer: HBOC)診療が徐々に普及し,主に乳癌・卵巣癌を対象に病歴・家族歴から遺伝リスクのある患者を拾上げ,遺伝の専門家が遺伝カウンセリングと遺伝学的検査を行い,結果に応じた治療と医学管理を行うと同時に家系員への情報提供および遺伝診療を提供している.2018年7月,「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」にpoly(adenosine diphosphate-ribose) polymerase (PARP)阻害剤オラパリブ(リムパーザ®)が承認されると同時にコンパニオン診断としてBRCA遺伝子検査も保険適用となった.このため,遺伝学的検査の説明と同意,状況によっては結果開示も乳腺科医が担当する場面が増えた.この状況では,乳癌診療に従事する外科医にとっても遺伝性腫瘍の理解と知識は必須である.本稿では,HBOCを中心に遺伝性乳癌診療の現状とコンパニオン診断としての遺伝学的検査で注意すべきことについて概説する.

臨床経験
  • 田中 穣, 奥田 善大, 河埜 道夫, 近藤 昭信, 長沼 達史, 中島 紳太郞
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1279-1283
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    高齢者鼠径部ヘルニアの特徴と治療方針に関して検討した.[方法]鼠径部ヘルニア873例を80歳以上の高齢群167例と80歳未満の非高齢群706例に分け,さらに高齢群のうち腸切除3例を除く164例を腹腔鏡手術(以下,TAPP)88例と鼠径部切開法76例に分け,臨床的特徴と手術成績を比較検討した.[結果]高齢群ではASA-PS分類のASA IIIが42%,嵌頓例が13%と高リスク例や嵌頓例が多かった.高齢群のTAPPでは鎮痛剤投与回数は0.4±0.7回,術後在院日数は3.0±2.3日と鼠径部切開法の1.4±1.2回と4.1±4.1日に比し低値であった.また,高齢者におけるTAPPの適応をASA III以下として経年的に手術適応を拡大したところ,重篤な合併症はなく安全に施行可能であった.[結語]高齢者鼠径部ヘルニアにおいて,ASA III以下で全身麻酔が可能であればTAPPは有用な選択肢である.

症例
  • 材木 良輔, 桐山 正人, 武居 亮平, 金本 斐子, 東 勇気, 月岡 雄治
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1284-1290
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は52歳,女性.左乳房上方の腫瘤を自覚し当科を受診した.乳腺超音波検査で同部に低エコー腫瘤を認め,針生検による組織検査では,N/C比の高い小型細胞が密に増殖しCD56が一部で陽性を示す腫瘍で,小細胞癌の疑いと診断された.全身検索の結果,リンパ節転移は認めず,また他臓器に転移や原発を示唆するような病変は認めなかった.乳腺原発小細胞癌の診断で乳房切除+センチネルリンパ節生検を施行した.病理組織検索では上記所見に加え乳管内病変も認められ,乳腺原発小細胞癌と診断した.術後補助療法としてepirubicin/cyclophosphamide followed by weekly paclitaxel療法を施行した.術後7カ月現在,無再発生存中である.乳腺原発小細胞癌は非常に稀で,確立した治療法はなく,今回術後の治療法に関しても文献的考察を加えたので報告する.

  • 藤井 雅和, 野島 真治, 佐藤 陽子, 金田 好和, 須藤 隆一郎, 田中 慎介
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1291-1296
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は70歳の女性.2015年に両側卵巣癌の診断で,術前・術後化学療法+卵巣癌根治術を施行した.2018年9月のCTで左上外側乳房に腫瘤性病変を認め,当科へ紹介となった.卵巣癌,乳癌の腫瘍マーカーはいずれも陰性であった.針生検で悪性所見を認めたが,組織型や原発巣の特定は困難であった.CTでは腋窩リンパ節の腫脹や肺・肝転移は認めなかった.画像上は乳癌の所見であったが,既往歴・針生検で卵巣癌の転移も否定できず,診断と治療を兼ねて左乳房温存術+センチネルリンパ節生検を施行した.術後の永久標本で卵巣癌の転移と診断された.術後のPET-CT検査では,明らかな他の転移性病変は認めていない.現在,婦人科で化学療法を施行中である.悪性腫瘍の乳腺転移は非常にまれな病態である.

  • 伊藤 悠子, 土屋 勝, 前田 徹也, 大塚 由一郎, 船橋 公彦, 金子 弘真
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1297-1302
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は55歳,女性.健診にて胆嚢ポリープを指摘され当院へ紹介受診となった.CT検査およびMRI検査で膵頭部右縁壁に石灰化を認め,腫瘤内尾側に充実成分を伴う30mm大の嚢胞性腫瘤を認めた.また,上腸間膜静脈と脾静脈の合流部近傍に29mm大の門脈瘤を認めた.EUSでは膵鉤部に低エコーを示す石灰化を伴う腫瘤として認められたが,FNAでは確定診断は得られなかった.画像所見よりSPNやP-NETを疑い,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.門脈瘤に対しては増大傾向を認めなかったため,切除は施行しなかった.術後病理診断では,腫瘤は十二指腸の固有筋層内に位置していた.腫瘤部は短紡錘形核と好酸性の細胞質を有する紡錘形細胞が束状,錯綜配列を示し,充実性胞巣を形成していた.c-kit陽性であり最終診断は十二指腸GISTであった.

  • 一宮 脩, 大内田 次郎, 久保 進祐, 寺坂 壮史, 上田 祐滋, 丸塚 浩助
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1303-1308
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は64歳,男性.体重減少と血糖コントロール悪化のため近医で上部消化管内視鏡検査を受け,十二指腸乳頭部癌の診断で当科を紹介受診した.十二指腸乳頭部癌の術前診断で亜全胃温存膵頭十二指腸切除術,リンパ節郭清術を施行した.摘出標本では十二指腸乳頭部に2型腫瘍を認めたが,Vater乳頭の構造は保たれていた.組織学的所見では高~中分化腺癌に加え神経内分泌癌の成分が混在しており,腫瘍細胞はVater乳頭を取り囲むように局在していたが乳頭自体には腫瘍の浸潤を認めず,十二指腸原発のmixed adenoneuroendocrine carcinoma (MANEC)と診断した.

    2010年のWHO分類では腺癌とneuroendocrine carcinoma (NEC)が混在し,それぞれの成分が少なくとも30%以上占めるものをMANECと定義しており,近年報告例が散見されるようになってきている.

  • 上村 良, 内田 洋一朗, 伊藤 聖顕, 岡本 共弘, 上田 修吾, 寺嶋 宏明
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1309-1314
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は61歳,男性.心窩部痛を主訴に当院を受診.血液検査上炎症反応の上昇,腹部造影CT検査で胃壁肥厚および網嚢内液体貯留を認め,胃穿孔に伴う網嚢膿瘍および限局性腹膜炎を疑い,緊急入院となった.上部消化管内視鏡検査では,胃穿孔は認めず十二指腸乳頭部前壁を主座とする20mm大の潰瘍限局型の腫瘍を認め,生検の結果はadenocarcinomaであった.十二指腸癌の網嚢穿孔による網嚢膿瘍形成と診断し,超音波内視鏡下経胃的膿瘍ドレナージ(EUS-AD)による保存加療を先行した.炎症反応が鎮静化した発症から半年後に,膵頭十二指腸切除術を施行した.術後経過は良好であり,術後7年経過した現在でも無再発生存中である.十二指腸癌の網嚢内穿破は極めて稀であり,文献的考察を加えて報告する.

  • 佐藤 啓介, 坂本 快郎, 山名 一平, 岡本 辰哉, 乗富 智明, 中島 明彦
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1315-1319
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は77歳,女性.腹痛を主訴に近医を受診し,保存的加療で経過観察されていたが,受診翌日に症状が増悪し,当院を紹介された.臍周囲に圧痛を認め,臍下部に反跳痛を伴う腫瘤を触知した.血液検査では炎症所見上昇を認め,腹部造影CT検査および腹部超音波検査では臍下部に嚢胞性病変を認めるも,明らかな腸管虚血や穿孔を示唆する所見は認めなかった.保存的加療で経過観察し腹痛は軽快したが,発熱と炎症所見の遷延を認めたため,入院7日目に腹腔鏡下試験開腹術を施行した.回腸末端より口側60cmの回腸に頸部で捻転・壊死したMeckel憩室が周囲小腸に被覆され,内部で膿瘍を形成している所見を認めた.開腹手術に移行して捻転を解除後,Meckel憩室を楔状切除にて摘出した.高齢者のMeckel憩室茎捻転は比較的稀な合併症であり,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 下田 啓文, 栗原 直人, 飯田 修平
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1320-1325
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は79歳,女性.突然の腹痛,食残様嘔吐にて当院へ救急搬送となった.来院時血液検査では貧血や炎症反応の上昇は認めなかった.腹部造影CT検査では小腸内に境界明瞭腫瘤を認め,内部に造影剤流出に伴う高吸収な液面形成が疑われた.また,小腸の壁肥厚,周囲脂肪識濃度上昇を認めた.入院翌日の血液検査では貧血,炎症反応の上昇が認められたが,血管造影検査では明らかな動脈瘤は指摘できなかった.再検した腹部ダイナミックCT検査では均一に造影される2cm大の小腸内腫瘤を認め,動脈瘤の可能性も否定できず緊急手術の方針となった.手術は腹腔鏡補助下に施行.上部空腸に腫瘤が触知され,小腸部分切除を行った.病理検査の結果,粘膜下動脈瘤の診断となった.小腸の粘膜下動脈瘤は稀な疾患であり,未破裂の状態で発見された報告例は少ない.今回,腹腔鏡補助下に切除した未破裂小腸粘膜下動脈瘤の1例を経験したので,報告する.

  • 吉川 徹二, 勢馬 佳彦, 今西 努, 土師 誠二
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1326-1329
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は56歳,男性.2016年1月に急性虫垂炎を指摘されていたが,手術に消極的であり保存的に経過を見ていた.2017年3月,手術の同意を得られたため腹腔鏡下虫垂切除術を施行.切除標本の組織学所見では虫垂の内腔には肉芽腫の形成があり,ヘマトキシリン好染~標的状のMichaelis-Gutmann小体を認め,PAS染色でも好染性であったため,マラコプラキアと診断した.マラコプラキアは主として泌尿生殖器系に生じる炎症性肉芽腫性病変で,免疫不全や悪性腫瘍などの基礎疾患を持った患者に合併するとされている.今回われわれは,虫垂マラコプラキアの1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

  • 皆尺寺 悠史, 松本 敏文, 江頭 明典, 川中 博文, 中園 裕一, 吉河 康二, 猪股 雅史
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1330-1334
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は14歳,女児.1週間前より持続する腹痛の増悪を自覚し近医を受診し,血液検査にて高度の炎症反応を認めたため当院へ紹介となった.精査の結果,骨盤内・腹腔内膿瘍を伴った複雑性虫垂炎と診断し,保存的加療後の待機的虫垂切除術の方針とし治療を開始した.加療開始後4日目において炎症反応の改善は乏しく,発熱・腹部症状が持続することから再びCT検査を行った.虫垂の炎症所見や膿瘍のサイズに変わりなく,保存的加療にて改善は期待できないと判断し,虫垂切除および膿瘍摘出術を行った.病理組織検査にて進行虫垂癌の診断に至った.追加切除,術後補助化学療法を施行し無再発生存中である.小児複雑性虫垂炎に対して待機的手術を計画する際にも悪性疾患の存在を念頭に置く必要がある.

  • 稲本 将, 肥田 侯矢, 河田 健二, 坂井 義治
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1335-1340
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,男性.外傷精査時のCT検査にて,肛門縁から3cmの下部直腸に約5cmの腫瘤を指摘された.下部内視鏡検査,FDG-PET,MRIにて遠隔転移を伴わない直腸粘膜下腫瘍と診断.組織診断には至らなかったが,術前検査から直腸消化管間葉系腫瘍(gastro-intestinal stromal tumor:GIST)が疑われた.腫瘍は壁外突出が強く,肛門挙筋に広く近接していた.同症例に対し,ロボット支援下括約筋間直腸切除を施行.ロボット手術の特徴である多関節機能を駆使することで,被膜損傷なく安全に肛門温存手術を施行できた.術後経過は問題なかった.病理組織診断でc-kit陽性GISTと確定したため,ガイドラインに則りイマチニブによる補助治療を開始している.狭骨盤・男性症例での下部直腸GISTに対しても,ロボット手術により肛門機能を温存し,腫瘍学的にも安全な根治切除が可能であると考える.

  • 中川 将視, 河内 順, 下山 ライ, 磯貝 尚子, 柏木 宏之, 深井 隆太
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1341-1346
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は62歳,女性.外来で施行した下部内視鏡検査で,Anal Verge(AV)より5cmに直腸ポリープを指摘.同日,EMRを施行した.病理結果にて直腸neuroendocrine tumor(NET) G1の診断.腫瘍径は8mm,深達度は粘膜下層,脈管・リンパ管侵襲はなく,断端陰性であるが腫瘍が垂直断端に近接しているため,外科的加療目的に当科へ紹介となった.局所切除の適応であるが,腹腔鏡下超低位前方切除術+小腸瘻造設を選択した.術後の病理結果よりリンパ節浸潤(#251 2/8)であり,T1aN1M0 stage III B(UICC 8th)の診断.ガイドラインでは10mm未満の腫瘍の場合,局所切除を推奨されている.今回,10mm未満の腫瘍であるが,リンパ節転移を伴う直腸NETの症例を経験した.

  • 竹之内 信, 横畠 徳祐, 野村 晋太郎, 神谷 有希子, 長谷川 俊二
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1347-1351
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は57歳,男性.検診を契機に直腸S状部の15mm大0'-II a+II c病変を指摘され,下部消化管内視鏡検査所見でSM浸潤癌が疑われた.術前CT検査で遠隔転移やリンパ節転移を認めなかったが,上腸間膜動脈を2本(以下,1st SMA,2nd SMA)認めた.1st SMAは通常の高さから起始していたが,2nd SMAは下腸間膜動脈から分岐し,一旦上行した後に中結腸動脈,回結腸動脈を順に分岐しながら反時計回りに弓状に走行していた.1st SMAが空腸,2nd SMAが回腸と右側結腸を栄養しているものと考えられた.自験例ではさらに180°の不完全型腸回転異常を合併していた.手術は腹腔鏡補助下前方切除術を施行.術中所見でもリンパ節転移を認めなかったことから,血流温存を優先し,左結腸動脈を温存したD2リンパ節郭清を行った.上腸間膜動脈の重複は非常に珍しいことから,文献的考察を含めてここに報告した.

  • 原田 幸志朗, 春木 伸裕, 溝口 公士, 加藤 知克, 傳田 悠貴, 藤田 康平
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1352-1359
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は36歳,男性.下部直腸癌に対し術前化学放射線療法を施行した後に,手術(腹腔鏡下括約筋間直腸切除(intersphincteric resection : ISR)・側方リンパ節郭清・回腸双孔式人工肛門造設術)を施行した.肛門側の切離線が括約筋間溝である内肛門括約筋を全切除するtotal ISRとなった.内肛門括約筋切離後,肛門部皮膚や肛門管粘膜は外反し,結腸肛門吻合終了時に粘膜脱様の吻合となった.術後1年経過を観察したが,粘膜脱は改善なく,注腸造影検査では,造影剤注入と同時に失禁となった.ISR術後の粘膜脱に対し,Delorme手術を施行した.経過は良好で注腸検査においても失禁は認めなかったため,人工肛門を二期的に閉鎖した.閉鎖後は,パッドを1日1回着用したが,ガスや便の失禁は認めなかった.Wexner scoreは4点で肛門機能の改善を得た.

  • 若林 康夫, 外川 明, 奥野 厚志
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1360-1364
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    肝膿瘍の治療後に膿瘍部から肝細胞癌が発生した極めて稀な症例を経験したので報告する.症例は76歳の女性で,ガス産生肝膿瘍破裂と診断され,緊急開腹ドレナージ術と抗菌治療にて軽快退院した.退院後,肝膿瘍は徐々に縮小したが,肝S8に膿瘍が残存した.肝膿瘍の治療後4年6カ月が経過して,同部から肝細胞癌の発生を認めた.肝右葉切除術を施行し,病理組織学的に高分化型肝細胞癌と診断された.肝細胞癌が肝膿瘍から発生することは極めて稀であり,膿瘍内に微小な腫瘍が潜在している場合,肝細胞癌を診断することは容易でない.肝膿瘍の治療において,肝細胞癌の合併の可能性も念頭に置きながら,肝膿瘍の経時的変化を経過観察することが重要である.

  • 米光 健, 櫻井 克宣, 久保 尚士, 玉森 豊, 村田 哲洋, 前田 清
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1365-1369
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は62歳,男性.膵尾部に5cm大の腫瘤に対する超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)により膵癌と診断し,膵体尾部切除を施行した.病理診断は中分化型管状腺癌pT3 N1 M0 fStage II Bであった.術後にS-1による補助化学療法を行っていたが,術13カ月後に吐血を主訴に受診された.上部内視鏡検査で胃体上部後壁に隆起性病変を認め,生検の組織学的検査では切除した膵癌と類似した管状腺癌を認めた.PET検査で胃後壁に異常集積を認めたが,他に再発の所見なく胃部分切除を施行した.病理組織学的検査では胃壁全層にわたる管状腺癌の増生を認めた.膵癌術前に胃病変は指摘されておらず,臨床経過と併せて膵癌のneedle tract seedingによる胃壁転移と診断した.膵体尾部病変におけるEUS-FNAは,穿刺部位が切除範囲に含まれないため,術後の胃壁転移に対しても十分な注意が必要である.

  • 宮本 匠, 山下 好人, 川人 章史, 野間 淳之, 上野 剛平, 辰林 太一
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1370-1375
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は70歳,女性.胃角部小彎の早期癌に対して腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した.最終診断でmoderately differentiated adenocarcinoma,T1b1(SM1),N1,M0,pStage I Bであった.術前のCTで左副腎に小結節を認めていたが,副腎腺腫疑いとして経過観察となっていた.術後6カ月目のCTで左副腎腫瘍は増大傾向となり,MRIやPET-CTの結果,胃癌の副腎転移が疑われた.その他,遠隔転移やリンパ節転移など再発所見は認めなかったため,診断も兼ねた外科的切除の方針とし,腹腔鏡下左副腎摘出術を行った.病理組織診断は非機能性副腎皮質癌pT1N0M0 Stage I Bとなった.副腎皮質癌は稀な疾患であり,さらに非機能性であれば術前に診断することは困難な場合が多い.今回,胃癌術後の副腎転移を疑い,診断を兼ねた切除を行った副腎皮質癌の1例を経験したので報告する.

  • 阪野 佳弘, 岸 健太郎, 西塔 拓郎, 今里 光伸, 種村 匡弘, 赤松 大樹
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1376-1381
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    63歳,女性.2年前から上腹部不快感,食欲不振,嘔気を認め,精査目的で前医を受診した.精査の結果,脾前面の腫瘤と骨盤内腫瘤の腫大を指摘され,診断・治療目的に当院に紹介となった.上下部消化管内視鏡やEUS検査にて壁外病変の診断となり,リンパ節腫大が疑われた.穿刺細胞診を行うも診断に至らず,Castleman病を疑い外科的リンパ節生検を行う方針となった.既往歴に多数の手術歴があり,腹腔内の癒着を認めたが,周囲と強固に癒着する白色結節を多数認め,播種病変の様相を呈したが,術中迅速検査に提出するも悪性所見は認めなかった.標的としたリンパ節に至っては横隔膜を貫き浸潤をきたしていた.病理結果は,IgG4陽性形質細胞の組織への浸潤と花筵様の線維化,閉塞性静脈炎を呈しておりIgG4関連疾患の診断に至った.診断後は,免疫腫瘍内科にてステロイドが開始された.診断に難渋したIgG4関連疾患を経験したので報告する.

  • 平井 公也, 松尾 憲一, 磯﨑 哲朗, 平野 敦史, 岡﨑 靖史, 篠藤 浩一
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1382-1387
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,女性.腹部大動脈瘤の経過観察中で定期的にCT検査を施行されており,2010年には3cm大の嚢胞性病変を後腹膜に指摘されていた.上腹部痛を自覚し近医を受診した際の腹部造影CT検査で,十二指腸水平部尾側の後腹膜に多量の内部血腫を伴う最大径13cm大の嚢胞性腫瘤を認めた.嚢胞内出血を伴う後腹膜嚢胞性腫瘤と診断され,精査加療目的に当院へ紹介された.悪性の可能性を考慮し後腹膜腫瘍摘出術を施行した.摘出標本は最大径13cm大の嚢胞性腫瘍で,内部には液体成分が充満していた.病理組織学的検査で,内部に出血を伴った後腹膜平滑筋腫と診断された.術後経過は良好で第10病日に退院となった.後腹膜原発の平滑筋腫は稀であり,その多くが充実性腫瘍として報告されている.今回われわれは,嚢胞性病変を呈した後腹膜平滑筋腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

  • 西野 仁惠, 永川 裕一, 佐原 八束, 瀧下 智恵, 刑部 弘哲, 土田 明彦
    2019 年 80 巻 7 号 p. 1388-1393
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は37歳,女性.3年前に指摘された胃背側の後腹膜腫瘤が85mm径に増大し当院へ紹介となり,腹腔鏡下腫瘍摘出術を施行した.腫瘍は網嚢腔背側の左前腎傍腔に存在し胃体部後面と膵上縁を背側から圧排していたが,周囲臓器との連続性は認めなかった.摘出標本は組織学的に紡錘形細胞の束状増殖を認め,c-kit陽性,DOG-1陽性であった.核分裂像数2/50HPFで高リスクの後腹膜原発extragastrointestinal stromal tumor (EGIST)と診断した.術後12カ月現在,イマチニブ内服中で無再発生存中である.GISTは消化管筋層に発生する間葉系腫瘍だが,消化管外に発生する場合EGISTと呼称され,腸間膜や大網など腹腔内発生が多く後腹膜原発例は稀である.後腹膜原発EGISTに対する完全鏡視下手術は難度が高く,自験例が本邦で初めての報告であり,若干の文献的考察を加え報告する.

支部・集談会記事
日本臨床外科学会・日本外科学会共催(第80回日本臨床外科学会総会開催時)第21回臨床研究セミナー
編集後記
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