日本臨床外科学会雑誌
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83 巻, 9 号
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臨床経験
  • 沼本 諒, 鱒渕 真介, 河合 英, 井上 仁, 木下 隆, 林 道廣
    2022 年 83 巻 9 号 p. 1559-1564
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    当院で施行した腹腔鏡下胆嚢摘出術488例の内,C-tubeを留置した271例に対し,術後胆汁アミラーゼ値の測定と胆道造影検査を実施し,膵管・胆管の合流形態異常と胆汁アミラーゼ値の関連性を検討した.膵管が常時描出された合流異常症例4例は全例とも40,000IU/L以上の値であり,膵管が間歇的に描出される高位合流例は中央値9,423IU/L[7-205,900]であった.通常例は中央値10IU/L[1-399,600]で,この結果より胆汁アミラーゼ値の合流異常・高位合流例と通常例の鑑別のためのcut offの検討を行うと,ROC曲線下面積が最大になるアミラーゼ値は6,698IU/Lであった(ROC曲線下面積=0.904).これをもとに胆汁アミラーゼの臨床的cut off値を6,600IU/L と設定し,このcut off値で検討すると感度85.7%,特異度94.2%で合流異常もしくは高位合流が存在する結果となった.高位合流は合流異常と比較すると胆道癌の発生リスクは低いことは知られているが,その明確な診断基準や治療方針は確立されておらず,今後も症例を積み重ね検討していく必要がある.

症例
  • 向井 友一郎, 桃野 鉄平, 三原 俊彦, 北浜 誠一, 大浦 康宏, 山元 康義
    2022 年 83 巻 9 号 p. 1565-1569
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は88歳の女性.デイケアサービス入浴介助時,職員により左乳房腫瘤を見つけられた.腫瘍は大きく自壊する可能性もあり,ADL維持のためには治療が必要と考えられた.重度認知症のため安静が保てず覚醒状態での生検が困難な患者であり,診断と治療を兼ね低侵襲な鎮静下での単純乳房切除を行った.組織診では1年8カ月前に診断され,手術治療後の脳(中枢神経系)原発悪性リンパ腫の転移であった.乳房切除は短時間の手術であったが,術翌日の退院後に脳梗塞をきたし,結果的にADLは低下した.中枢神経系悪性リンパ腫の単独での乳房転移は極めて稀であり,高齢重度認知症患者の乳房腫瘤の治療方針についても考察を加え報告する.

  • 別府 樹一郎, 坂梨 渓太, 丸塚 浩助
    2022 年 83 巻 9 号 p. 1570-1574
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    肺定型カルチノイドのリンパ節転移は稀である.症例は72歳,男性.検診胸部X線で異常を指摘され近医を受診し,CTで左下葉に径3.1cmの腫瘤を認め,気管支鏡でカルチノイド疑いと診断され当科へ紹介となった.PETで腫瘤に異常集積を認めたが転移所見はなく,左下葉肺癌疑い,cT2aN0M0:Stage IBと診断した.手術を希望せず厳重経過観察となったが,軽度増大を認めたため手術となった.胸腔鏡下左下葉切除術および肺門縦隔リンパ節郭清を施行し,術後病理で肺定型カルチノイドと診断された.#12Lに1個リンパ節転移を認め,pT2aN1M0:Stage IIBの診断となった.術後経過は良好で,術後8日目にリハビリ目的にて転院となった.肺定型カルチノイドであってもリンパ節転移をきたす可能性があるため,術式選択は慎重に行うべきと考えられた.

  • 高圓 瑛博, 笹本 晶子, 清水 俊榮, 増永 敦子, 前 昌宏
    2022 年 83 巻 9 号 p. 1575-1580
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は49歳,女性.既往歴は41歳時に乳癌手術および化学療法を施行,43歳時に卵巣癌手術.当院婦人科外来受診時に経時的なCA125の上昇を認め,PET-CTを施行し胸骨の腫瘍に一致する集積を認めた.診断および治療のため,胸骨柄と胸骨体の一部に加え両側第1,2,3肋軟骨を部分切除し腫瘍とともに摘出し,ポリプロピレンメッシュを用いて胸壁欠損部を再建した.病理所見では卵巣癌胸骨転移と診断された.悪性腫瘍の胸骨転移は乳癌と甲状腺癌が多く,多発骨転移していることがほとんどである.卵巣癌における孤立性胸骨転移の報告は稀であるが,遠隔転移をしていても単発性の場合,切除によって生存率の延長が報告されている.今回,孤立性胸骨転移を画像により切除範囲を決定し,十分な外科的切除範囲を確保した上で胸骨部分を行い,ポリプロピレンメッシュによる胸壁再建を施行した1例を経験したので報告する.

  • 中川 登, 藤山 准真, 曽我 耕次, 藤田 悠司, 水谷 融, 石田 怜
    2022 年 83 巻 9 号 p. 1581-1588
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    胃癌の局所再発に対する放射線照射療法で8年10カ月の無再発生存例を経験したので,その有用性と局所再発の原因につき検討した.

    症例は50歳の男性で,胃癌,3型,転移リンパ節からの腹腔動脈浸潤の診断で化学療法を施行し,腹腔動脈浸潤の原因となったbulkyリンパ節は縮小した.R0手術可能と判断し,Appleby手術を施行した.切除標本組織診ではtub1,SI(後腹膜腔),N1,stage III B,R0であったが,節外転移(en),神経浸潤(pn)を認めた.術後3カ月で腹腔動脈周囲に局所再発し,放射線照射治療を施行し術後8年10カ月,無再発生存した.

    この症例の局所再発の原因がen・pn遺残が疑われたため,局所治療の選択肢の一つとして放射線照射を施行しCRとなった.

    胃癌の局所再発治療の選択肢の一つとして,放射線照射療法で治癒が望める可能性がある.

  • 宮本 学, 廣野 欣司, 多胡 和馬, 伊藤 雅典, 岡田 剛, 篠浦 先
    2022 年 83 巻 9 号 p. 1589-1595
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は50歳,男性.2週間前より持続する腹痛を主訴に近医より紹介され,腹部造影CTにて上腸間膜静脈・門脈血栓を認め,interventional radiology目的に入院となった.翌朝,腹痛の増悪を認め,CT再検にて空腸の造影不良域を認めたため当科へ紹介,緊急手術となった.術中所見にて小腸の虚血壊死を認め,鬱血による血流障害が原因と推測されたため,開腹下に上腸間膜静脈末梢から血栓除去を行った後,虚血小腸を部分切除し小腸瘻を造設した.術後,厳格な抗血栓・抗凝固療法を行い,術後34日目に小腸瘻閉鎖,63日目に退院となった.入院時および12週後にループスアンチコアグラントが陽性となり,抗リン脂質抗体症候群と診断した.腸間膜静脈血栓から腸管虚血壊死に至るケースは散見されるものの,開腹手術中の血栓除去術に関する報告は少ない.今回,貴重な症例を経験したので,若干の文献的考察を交えて報告する.

  • 古川 舜理, 真鍋 達也, 藤本 崇聡, 奥山 桂一郎, 馬塲 耕一, 能城 浩和
    2022 年 83 巻 9 号 p. 1596-1601
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は46歳,男性.16歳時に家族性大腸腺腫症に対し,大腸全摘術および回腸嚢肛門吻合術を施行された.術後の約10年間は経過観察をされていたが,その後の通院歴はなかった.術後30年目に全身倦怠感および貧血のため近医を受診したところ,下部消化管内視鏡検査で回腸嚢に多発ポリープと潰瘍を伴う隆起性病変があり,生検で後者は高分化管状腺癌の診断を得た.回腸嚢多発腺腫と回腸嚢癌に対して,腹腔鏡下回腸嚢肛門切除術および回腸人工肛門造設術を施行した.切除標本の病理学的検査では回腸嚢に限局する多数の腺腫と2型進行癌に加え,腺腫内癌を2カ所に認めた.家族性大腸腺腫症術後では消化管に対する発癌のために空腸・回腸を含め諸臓器のサーベイランスの必要性が示されている.回腸嚢に対しても定期的な内視鏡検査によるサーベイランスが必須と思われた.

  • 宮内 亮子, 宮下 正寛, 川口 貴士, 野沢 彰紀, 大河 昌人, 上西 崇弘
    2022 年 83 巻 9 号 p. 1602-1608
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    70歳,男性.腹部に腫瘤を触知したため近医を受診し,CTで腹腔内腫瘤が指摘されたため当科へ紹介となった.腹部造影CTおよび腹部造影MRIで,左上腹部に不均一に淡く濃染される境界明瞭な5cm大の腫瘤を認めたため,間葉系腫瘍を疑い,開腹下に空腸部分切除で腫瘍を切除した.病理・免疫組織学的に,腸管膜線維腫症と診断された.術後外来にて経過観察を行っていたところ,術1年後のCTにて小腸間膜と横行結腸近傍に境界明瞭な腫瘤を認めた.腸間膜線維腫症の再発と考え,それぞれ空腸および横行結腸合併切除で腫瘍切除を施行した.病理・免疫組織学的に,腸間膜線維腫症と診断された.再切除後1年10カ月が経過した現在,無再発生存中である.家族性大腸腺腫症や手術,外傷の既往なく発生した腸間膜線維腫症に対する外科的切除後,多発再発に対して再切除を施行した稀な症例を経験したので報告する.

  • 藤田 覇留久, 平井 健次郎, 竹島 潤, 市川 淳, 大江 秀典, 光吉 明
    2022 年 83 巻 9 号 p. 1609-1614
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    患者は76歳,男性.血便を主訴に受診し,腹部造影CTで虫垂内部にextravasationを認めた.下部消化管内視鏡検査を施行したところ,虫垂開口部より湧出性の持続出血を認め,虫垂出血と診断した.内視鏡的止血は困難と判断し,同日腹腔鏡下虫垂切除術を行った.病理組織学的検査において虫垂潰瘍を認め,出血源と考えられた.術後経過は良好で,術後6日目に軽快退院となった.下部消化管出血において,虫垂が出血源となることは極めて稀である.今回われわれは,虫垂出血に対し腹腔鏡下虫垂切除術を施行した1例を経験したため,本邦での報告例を集計し報告する.

  • 淺野間 理仁, 吉川 幸造, 田上 誉史, 正宗 克浩, 吉田 禎宏, 島田 光生
    2022 年 83 巻 9 号 p. 1615-1619
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は82歳,男性.来院前日から腹痛が出現し,血便も認めたため当院紹介となった.腹部は平坦・硬で腹部全体に圧痛を認め,反跳痛,筋性防御も伴っていた.腹部単純CTで回盲部から上行結腸に著名な壁肥厚,周囲の炎症所見,腸管外ガスを認め,また血液生化学所見では白血球数とCRPの上昇を認めた.結腸穿孔と診断し同日腹腔鏡下に緊急手術を行い,術中所見で盲腸に虚血壊死所見を認めたため腹腔鏡下回盲部切除術を行った.術後経過は問題なく術後11日目に退院となった.稀な疾患である限局性盲腸壊死に対し腹腔鏡下に切除を行った1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 藤永 和寿, 中橋 央棋, 春木 祐司, 加藤 憲治
    2022 年 83 巻 9 号 p. 1620-1625
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は78歳,女性.意識障害を主訴に救急搬送された.脱水,認知機能の低下を認め入院加療となり,認知機能低下の原因は顕微鏡的多発血管炎の神経症状と診断され,ステロイドパルス療法が行われた.ステロイド減量の過程で,左側胸部を中心とし左頸部から左下腹部にわたる広範な皮下気腫を認めた.理学所見は広範な皮下気腫のみで,腹部症状は認めなかった.CTでは,左側胸部を中心に大量の気腫像を認め,左頸部や左骨盤内後腹膜につながっていた.腹腔内遊離ガスは認めなかったが,S状結腸間膜に小さな気泡が疑われた.以上から,S状結腸間膜穿通を疑い,緊急試験開腹術を施行した.術中所見でS状結腸間膜穿通と診断し,Hartmann手術を行った.病理組織所見は憩室穿孔であった.発見の契機が広範な皮下気腫で,腹膜炎所見を認めないS状結腸間膜穿通の1例を経験したので報告する.

  • 武内 寛, 田代 浄, 杉谷 純, 伊藤 良太, 森 和彦, 川崎 誠治
    2022 年 83 巻 9 号 p. 1626-1633
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は83歳,男性.便潜血陽性のため下部消化管内視鏡検査を施行し,下行結腸癌T1bN0M0 cStage Iと診断した.他院で腹部大動脈瘤(abdominal aortic aneurysm,以下AAA)に対する腹部大動脈ステントグラフト内挿術(endovascular aortic repair,以下EVAR)の既往あり.腹部骨盤造影CTでは,腹腔内中央に位置する50mm×45mm大のAAAを認め,エンドリークを認めなかった.多孔式腹腔鏡手術で生じうる右側ポートからの鉗子接触によるAAA破裂やステントグラフトのずれ,AAAによる鉗子操作制限を考慮し,単孔式腹腔鏡手術を施行した.腹高の頂点となる臍部からアクセスすることでAAAを鉗子で圧排すること無く安全に手術を行うことが出来た.今後,AAAと大腸癌を有する腹腔鏡手術が増加すると予想されるが,単孔式腹腔鏡手術を選択することで上記リスクを回避することが可能であった.本術式の有用性に関して文献考察を交え報告する.

  • 田中 悠介, 岡田 正夫, 佐近 雅宏, 下平 悠介, 関 仁誌
    2022 年 83 巻 9 号 p. 1634-1637
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    肝右葉萎縮は稀な異常であり,肝右葉形成不全症による一次的な原因と門脈や胆管系の狭窄や閉塞による二次的な原因によるものがある.肝右葉形成不全症はしばしば胆嚢の位置異常を合併し,胆嚢管の捻れや圧迫により,胆石症を生じやすいとされている.また,位置異常による術野展開に困難が予想されるため,肝右葉形成不全症に合併した胆石症に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術は禁忌と考えられていた.症例は72歳,男性.胆嚢炎の手術目的に当院へ紹介となった.術前CTで肝右葉の高度萎縮を認め,それに伴い胆嚢の腹腔内における位置が背側方向へ偏位していた.また,肝左葉が代償性に腫大し,術中視野の確保が困難となることが予想された.術前の血液検査・造影CT・DIC-CTにより,自験例の肝右葉高度萎縮の原因は,肝右葉形成不全症によるものと考えられた.今回われわれは,手術体位を左半側臥位とすることで術中視野を確保し,腹腔鏡下胆嚢摘出術を安全に施行しえた.

  • 船水 尚武, 新恵 幹也, 浦岡 未央, 小川 晃平, 北澤 理子, 高田 泰次
    2022 年 83 巻 9 号 p. 1638-1643
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は51歳の女性.食思不振と心窩部痛を主訴に,近医を受診した.上部消化管内視鏡検査で胃の壁外性圧迫・変形を認め,前医に紹介となった.腹部造影CTで膵前面に小児頭大の充実成分を伴う嚢胞性病変を指摘された.また,腫瘍栓による上腸間膜静脈の閉塞を認め,精査加療目的で当科へ入院となった.超音波内視鏡下針生検により膵腺房細胞癌の診断となった.切除可能と判断したが,上腸間膜静脈の腫瘍栓もみられたため,術前化学療法(GS療法)を行う方針とした.しかし,1コース目で腫瘍の増大により腹痛が増強し,oncogenic emergencyと判断し,準緊急で手術を行うこととなった.膵頭十二指腸切除術(pancreatoduodenectomy,以下PD),および門脈合併切除・再建術を施行した.術後合併症を認めず,術後23日目に退院となった.退院後の腹部造影CTで腹膜播種を認め,GS療法を再開した.4コース終了したところで増悪し,FOLFIRINOX療法へ変更した.その後前医での治療を希望し,同レジメが継続されたが,術後14カ月目に現病死した.

  • 長澤 由依子, 蔀 由貴, 渡邉 公紀, 佐藤 博, 荒巻 政憲
    2022 年 83 巻 9 号 p. 1644-1650
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は52歳,男性.1年前より下腹部痛を自覚し,増悪したため前医を受診した.血液・尿検査では尿潜血を認めるのみで,貧血や腫瘍マーカーの上昇は認めなかった.各種画像検査にて後腹膜に75×62mmの腫瘤を認めた.腫瘤は左総腸骨動脈に接し,左尿管を圧排し水腎症をきたしていた.リンパ節転移や遠隔転移は認めなかった.左尿管ステント留置後に当院へ紹介され腫瘍摘出術を行った.病理検査では多形型横紋筋肉腫の診断であった.術後3年目に局所再発を認め,腫瘍摘出術と術後放射線治療を行った.初回手術から6年目の現在,再々発は認めていない.成人発症多形型横紋筋肉腫の治療法は確立されておらず,後腹膜原発は稀である.文献的考察を加え報告する.

支部・集談会記事
編集後記
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