日本臨床外科学会雑誌
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綜説
  • 波多野 悦朗
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1363-1368
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    肝細胞癌における薬物療法の進歩は目覚ましく,現在は8つの薬物療法のレジメンが保険収載されている.それとともに肝細胞癌の病期に応じて薬物療法が導入されつつあるが,切除可能にはadjuvant,切除可能境界にはNAC,切除不能にはconversionという薬物療法の目的を明白にしなければいけない.薬物の特性を理解したうえでの外科手術と薬物療法の融合により,さらなる治療成績の向上が期待される.そのためには,切除可能性分類を明確に規定するのは困難であるものの,オールジャパンの前向き臨床試験により,肝細胞癌の治療戦略をより明確化する必要がある.

臨床経験
  • 稲本 道, 置塩 達也, 多代 尚広, 吉澤 淳, 清地 秀典, 河本 泉
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1369-1373
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    低位直腸切除における一時的stomaの閉鎖時期は,一般的に3カ月後以降とされている.しかし,stoma関連合併症が問題となり,主に海外において早期閉鎖に関する報告が散見される.当科で経験した直腸切除後のstoma早期閉鎖10例につき検討した.年齢は62歳(中央値)で,男性4例・女性6例であった.疾患は,腺癌が8例,NETが2例であり,肛門縁から腫瘍下端の距離は70mm(中央値)であった.閉鎖術前に注腸造影を行い,直腸吻合部に問題のないことを確認した.肛門縁から吻合部の距離は35mm(中央値)であり,切除術から閉鎖術までの期間は12.5日(中央値)であった.直腸吻合部に関わる合併症は認めず,同一入院で切除・閉鎖を施行した8例での切除後在院日数は21日(中央値)であった.Stoma早期閉鎖は,縫合不全発症時の重症化を防ぐstoma造設の利点があり,かつstoma関連合併症を極力回避しうる手法であると考えられる.

症例
  • 水野 香世, 土井 卓子, 佐々木 毅
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1374-1378
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    37歳,男性.右乳房腫瘤を自覚し,当院を受診.触診では発赤,腫脹等の明らかな炎症所見は伴わないものの,右乳頭直下からやや尾側にかけ2×1cm程度の弾力性のある腫瘤あり.MMGでは右乳頭下に局所非対称性陰影あり.超音波では右乳頭下に1.2×1.1×0.6cmの低エコー腫瘤があり,血流は周囲に豊富にあり,elasticityも高めであった.家族歴は母親が68歳で乳癌で生存,姉が26歳で乳癌で死亡.同日エコー下マンモトームを施行した.結果は慢性乳腺症の診断であり,悪性所見は認められなかった.

    初診時臨床所見から女性化乳房を疑ったが,生検の結果から慢性乳腺炎の診断に至った症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

  • 和栗 真愛, 坂東 裕子, 岡崎 舞, 澤 文, 近藤 譲, 原 尚人
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1379-1383
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    乳腺化生癌(metaplastic carcinoma)は,乳腺悪性腫瘍の中で特殊型に分類され,その割合は1%以下と希少な疾患である.今回われわれは,男性に発生した乳腺化生癌の1例を報告する.症例は73歳,男性.右乳房に増大傾向のある腫瘤を自覚し,針生検にて腺筋上皮腫(adenomyoepithelioma)の診断で,悪性成分を伴っている可能性が疑われた.右乳房全切除術を施行し,病理組織学的診断は,乳腺化生癌,ER陰性,PgR陰性,HER2陰性,pStage IIAであった.術後3年8カ月の無再発生存を得られている.

  • 馬塲 耕一, 能城 浩和
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1384-1390
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は70歳,女性.4年前に左前胸部よりペースメーカー(PM)を留置されていた.左腋窩の腫瘤を自覚し,受診した.左乳房E区域を中心に長径6cm大の腫瘤を認め,左腋窩にはリンパ節腫大も認めた.生検で浸潤性乳管癌の診断となったが,左鎖骨上にもリンパ節転移を認め,局所進行乳癌の診断であった.術前化学療法を行い,左鎖骨上リンパ節を含めた左乳癌は縮小し手術可能となったが,術後放射線療法の適応であり,乳癌手術前にリードレスPMを留置した.また,右乳房には石灰化病変を認め,生検で非浸潤性乳管癌の診断となり,手術は両側乳房全切除,左腋窩リンパ節郭清,右センチネルリンパ節生検を行った.術後は予定通り,左乳房全切除後放射線療法(50Gy/25Fr)を行った.術後4年になるが,再発を認めていない.高齢化に伴い,PM留置症例は増加しているが,PM留置側に乳癌を合併した場合,診断・治療には注意を要する.

  • 髙尾 由佳, 大城戸 政行, 島崎 亜希子, 米田 玲子
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1391-1396
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は65歳,女性.右乳房腫瘤と皮膚の発赤・肥厚を主訴に当院を受診し,右乳癌cT4bN1M0 Stage IIIB(浸潤性乳管癌,ER 50%,PgR 20%,HER2 3+)と診断された.乳房造影MRIで右大胸筋の低形成ならびに右小胸筋の欠損を認めた.右手指は対側の手指と比較して低形成であり,Poland症候群の診断に至った.術前化学療法・ホルモン療法を行い,右乳房全切除術+腋窩郭清術を施行した.術後はホルモン療法・分子標的療法,放射線療法を行い,術後3年8カ月現在,無再発生存中である.Poland症候群患者の患側乳癌に対する手術の際は,疾患特有の解剖学的な特徴のため血管や神経の誤認を招きやすく細心の注意が必要である.

  • 田口 恵理子, 伏見 淳, 風間 高志, 神尾 麻紀子, 武山 浩, 野木 裕子
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1397-1402
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は42歳,女性.疼痛を伴い急速に増大する左乳房腫瘤を主訴に当院を受診した.受診時,左乳房に10×15cmの腫瘤と左腋窩リンパ節を触知し,12時方向に瘻孔を認めた.乳腺超音波検査と造影MRIでは,左乳房内に液体成分と充実成分が混在する約10cmの腫瘤を認め,皮膚との交通を認めた.初回の針生検病理所見は乳管過形成の診断となり,再検査で浸潤性乳管癌の診断となった.T4乳癌,腋窩リンパ節転移ありと考え,手術は左乳房全切除術,腋窩リンパ節郭清および全層植皮術を施行した.術後の病理組織診断は浸潤癌を伴う被包型乳頭癌(encapsulated papillary carcinoma with invasive components(mucinous))だった.被包型乳頭癌の被膜内部は広範に梗塞壊死組織を認め,瘻孔部周囲の皮膚に腫瘍の浸潤を認めなかった.今回,われわれは広範に梗塞壊死をきたし,瘻孔を形成した乳癌の1例を経験し,術前診断および治療に苦慮したため,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 合田 杏子, 田中 眞紀, 山口 美樹, 竹中 美貴, 山口 倫
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1403-1410
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は47歳,女性.左乳房腫瘤を主訴に受診し,コアニードル生検(CNB)で左乳癌と診断された.生検翌日から穿刺部位の発赤疼痛を認め,創部感染と判断し抗菌薬内服やドレナージ処置を行ったが改善を認めなかった.各画像検査では腫瘍と生検穿刺部の表皮との間に連続する軟部陰影を示し,同部位に対して切開組織生検を行い,悪性所見を認めた.腫瘍は強い炎症を伴って増悪し,化学療法や放射線治療に対して抵抗性を示し,初診から176日後に死亡した.CNB直後の症状を感染所見と判断したため,腫瘍細胞の急激な進展と炎症波及による所見と診断するまでに時間を要したことで,化学療法開始が遅延しdown stageに至らなかった.これまでCNB後のneedle tract seedingの症例の報告は多数認めるが,本症例のような急速に画像所見の増悪変化や臨床所見を伴い進行を認めた症例の報告はない.本症例はこれまでのneedle tract seedingとは異なる機序による腫瘍の炎症性波及が腫瘍増悪の原因となったと考えられた1例として報告する.

  • 橋本 岳史, 広利 浩一, 佐久間 淑子, 金 昇晋
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1411-1416
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    葉状腫瘍に非浸潤性小葉癌(LCIS)や乳癌が併存することは稀である.今回,LCISが併存する葉状腫瘍の1例を経験したので報告する.症例は47歳,女性.2020年1月に右乳房腫瘤を自覚し,同年2月に前医を受診した.針生検にてLCISと診断され,同年5月に精査加療目的で当科を紹介受診となった.当科初診時,右乳房全体に100mm大の腫瘤を触知した.マンモグラフィでは右乳房全体を占める境界明瞭平滑な等濃度腫瘤を認めた.乳房超音波検査では,右乳腺CA区域を中心に最大径約120mmの境界明瞭平滑,内部不均質等エコー,後方エコー増強を認める楕円形腫瘤を認めた.当科でも針生検を実施しLCISを伴う葉状腫瘍と診断し,右乳房切除術+センチネルリンパ節生検を施行した.病理診断では腫瘤は良性の葉状腫瘍であり,腫瘍全体の上皮成分にLCISを認めた.葉状腫瘍を超えたLCISの進展はなく,明らかな浸潤癌も認めなかった.

  • 都島 由紀雄, 日暮 亮太, 伊藤 祥隆
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1417-1423
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    先天異常である気管支原生嚢胞と肺分画症の併存は稀な病態であり,ロボット支援下の同時切除術の報告は少ない.症例は15歳,女性,健診で胸部異常陰影を指摘された.胸部CTおよびMRIで後縦隔に境界明瞭,内部均一な嚢胞性腫瘤を認めた.造影CTで後縦隔腫瘤の尾側に接する無気肺様構造物に胸部下行大動脈より流入する異常動脈を認めたため,肺分画症の合併と診断した.後縦隔腫瘍および肺分画症に対してロボット支援下に同時切除術を施行した.先に後縦隔腫瘍を摘出し,分画症肺に関してはその基部で大動脈からの異常血管を含む索状物を一括して自動縫合器で切離して摘出した.術後経過は良好で,術後第3病日に退院した.後縦隔嚢胞性腫瘤の病理診断結果は気管支原生嚢胞であった.気管支原生嚢胞と肺葉外肺分画症が併存した症例に対してロボット支援下に同時切除した1例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.

  • 中埜 友晴, 奥田 勝裕, 横田 圭右, 羽田 裕司
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1424-1429
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は20歳,女性.左前胸部痛と発熱を主訴に近医を受診し,胸部X線写真上,左肺門部の突出を指摘され,胸部CTで前縦隔腫瘍と腫瘍に接した左肺上葉の肺炎像を指摘された.抗菌薬で肺炎治療した後,ロボット支援下剣状突起下アプローチで前縦隔腫瘍摘出術+左肺上葉部分合併切除術を行った.病理検査の結果,左上葉へ穿通した成熟奇形腫であった.左肺へ穿通した縦隔成熟奇形腫に対し,ロボット支援下剣状突起下アプローチに手術を完遂した.合併症なく,術後3日目で退院となった.縦隔腫瘍が穿通した症例であっても症例によってはロボットの多関節で精緻な操作性により,内視鏡下で手術を完遂できることが示唆された.

  • 平山 杏, 松野 将宏, 角岡 信男, 遠藤 希之, 赤平 純一
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1430-1436
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    先天性嚢胞性腺腫様奇形(congenital cystic adenomatoid malformation:CCAM)は,胎生期の気管支・細気管支形成期での気道閉鎖に伴い発生するとされる先天性嚢胞性疾患である.通常,CCAMの約8割は1歳未満で発見されるため,成人での発見は稀であり,本邦での報告例も少ない.当院では,画像所見が異なる2例のCCAM症例に対して手術加療を施行しており,それら症例を提示すると共に,過去の本邦文献のまとめを加えて報告する.

  • 佐藤 太軌, 髙橋 有毅, 高瀬 貴章, 宮島 正博, 渡辺 敦
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1437-1441
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    患者は48歳,男性.前医の胸部CTで右肺下葉に2.9cm大の結節を認め,臨床的原発性肺癌として当科に紹介となった.ロボット支援下右肺下葉切除,リンパ節郭清術を施行し,気管支をEndoWrist® Stapler 45 Greenで切離した.空気漏れ試験で下葉気管支断端より気漏を認め,stapling failureによる気管支瘻と考えられた.ロボット支援下で心膜傍脂肪組織をpledgetsとして気管支断端を縫合閉鎖した.胸腔鏡下手術において自動縫合器関連で気管支断端に起こる術中有害事象は約1.6%と報告されているが,da Vinci stapler使用によるstapling failureの詳細な報告はない.本症例は若年男性で気管支壁が厚く,今回のリロードが不適であった可能性がある.症例に応じて,胸腔鏡下用の自動縫合器を臨機応変に追加使用することも考慮すべきである.

  • 長島 諒太, 長 靖, 若山 顕治, 高橋 周作, 石津 寛之, 市原 真
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1442-1448
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    エキノコックス症の肺転移は,アルベンダゾール(ABZ)内服が推奨されている.今回,血痰を繰り返す本疾患に対して手術を施行した例を経験した.64歳の男性で,多発肺転移を伴う肝エキノコックス症に対して肝切除の既往があった.術後はABZを内服していた.3年後,5年後に血痰症状が出現し,右肺S1の肺転移巣からの出血が疑われたため,同部位の胸腔鏡下肺部分切除術を施行した.術後血痰は改善し,1年2カ月現在,ABZの内服継続により肺転移の個数増加・残存肺転移巣の増大・肝転移巣の再発なく経過している.多発肺転移を伴うエキノコックス症では,ABZ内服下でも血痰などの呼吸器症状を繰り返す場合があり,原因病変の局所的な部分切除は治療方針の一つとして検討の余地があると考えられた.

  • 澤井 美里, 木村 昌弘, 上野 修平, 杉田 三郎, 江口 祐輝, 浅井 宏之
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1449-1453
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は59歳,女性.交通外傷にて救急搬送となった.来院時,血圧およびSpO2の低下,左呼吸音の減弱を認めた.CTで胃,横行結腸,肝外側区の左胸腔内への逸脱を認めた.横隔膜損傷による外傷性横隔膜ヘルニアと診断し,手術を施行した.開腹すると,左横隔膜に長径12cmの欠損を認めた.脱出臓器は容易に腹腔内に引き出すことが可能であり,虚血性変化や損傷は認めなかった.胸腔内を観察すると,横隔膜損傷に加え,心膜損傷を伴い,それぞれ連続縫合にて閉鎖した.外傷性横隔膜損傷は多数臓器損傷を合併していることが多いとされるが,外傷性横隔膜損傷に伴う心膜損傷は稀である.解剖学的に,横隔膜と心膜は連続した組織であり,心嚢底部において両者は癒合している.横隔膜損傷例においては,本症例のように横隔膜から心膜へと連続する裂傷が生じ得ることを念頭に置く必要がある.

  • 小山 旅人, 松本 敏文, 長谷川 巧, 甲斐 成一郎, 川中 博文, 中園 裕一, 猪股 雅史
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1454-1458
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    石灰化を伴う胃GISTの報告は散見されるが,骨化成分を伴った胃GISTの報告は少なく比較的稀であると言える.症例は77歳,女性.健診の胸部X線検査で上腹部の異常陰影を指摘され,精査で胃小彎の石灰化腫瘤を認め生検の結果,GISTの診断となり手術目的に外科紹介となった.腹腔鏡下胃局所切除術で腫瘍を摘出し,病理組織検査では高度石灰化を示し一部骨化変性も認めるGISTの診断であった.GISTが石灰化あるいは骨化を引き起こすメカニズムはいまだ明確には解明されていない.骨化成分を伴った高度石灰化胃GISTの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

  • 山田 嵩宜, 岡﨑 雅也, 鈴木 貴友, 小田 竜也
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1459-1465
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は46歳,女性.2カ月前からの右下腹部痛を主訴に近医を受診し,右下腹部に圧痛を伴う腫瘤を触知された.腹部造影CTでは,骨盤腔内に多発石灰化結石と液体貯留を伴う約4cm大の腫瘤を認めた.病変は小腸と連続性があり,Meckel憩室内に多数の腸石が存在している病態と診断した.画像・血液検査で炎症所見などは無かったため緊急性は無いと判断し,待機的に腹腔鏡下Meckel憩室切除術を施行した.病理組織学的には異所性胃粘膜を伴うMeckel憩室で,憩室内の約20個の腸石は0.5-2cm大で鋭利なものも含まれていた.術後に腹痛は寛解した.Meckel憩室は憩室炎や穿孔の合併により緊急手術が必要となることがあるが,無症状の場合には治療の必要はなく,待機的に手術を施行した報告例は少ない.自験例のように腸石を伴うMeckel憩室は稀であるが,腸石が慢性的な腹痛の原因や,憩室炎や穿孔を引き起こすと考えられる場合には,待機的手術を検討すべきである.

  • 水野 真夏, 杢谷 友香子, 吉岡 慎一, 藤田 淳也, 田村 茂行, 佐々木 洋
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1466-1472
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    妊婦の急性腹症の原因として急性虫垂炎が最多であり,術式は腹腔鏡下虫垂切除術が一般的となってきているが,その報告数は少ない.当院において,2017年3月から2022年7月までに妊娠時急性虫垂炎7例に対して腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.発症時の妊娠週数の内訳は,妊娠15週までの妊娠初期3例,妊娠16週から27週の妊娠中期3例,妊娠28週以降の妊娠後期1例であった.妊娠週数に応じてポート配置を工夫し,単孔式腹腔鏡下虫垂切除2例を含めて,全症例において腹腔鏡下手術で完遂可能であり,術中および術後合併症なく経過した.腹腔鏡下手術において,妊娠子宮との干渉を避けることが肝要となってくる.今回,自験例と過去の報告例より,妊娠各期における至適ポート位置を検討した結果,妊娠週数に応じたポートの配置がある程度予測可能であり,文献的考察を加えて報告する.

  • 谷口 絵美, 三輪 高嗣, 中森 万緒, 宮﨑 麻衣, 鳥井 恒作, 石榑 清
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1473-1477
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は80歳,男性.膀胱浸潤を伴うS状結腸癌cT4bN0M0 cStage IIcと診断し,開腹S状結腸切除,膀胱部分切除術を行った.病理組織学的検査では中分化型腺癌,pT4bN0M0 pStage IIcで膀胱筋層まで腫瘍の浸潤を認めたが,膀胱切離断端は陰性であった.術後6カ月のCTで膀胱壁に5mm大の腫瘤性病変を認め,経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)を行った.病理組織学的検査でS状結腸癌と類似した腺癌であり,S状結腸癌の膀胱内再発と診断した.切除断端は陰性であったが,初回術後9カ月のCTで膀胱内の切除部位とは離れた部位に30mm大の腫瘤性病変を認めた.再度TUR-Btを行ったが膀胱筋層への浸潤が疑われ,単純膀胱全摘,両側尿管皮膚瘻造設術を行った.病理組織学的検査では膀胱内腔に腺癌の転移ないし播種像を認め,残存膀胱内播種による再発が疑われた.

  • 溝口 資夫, 平川 雄太, 馬場 研二, 牧角 寛郎, 奥村 浩
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1478-1484
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,男性.Ra直腸癌に対して腹腔鏡下低位前方切除術が行われ,病理診断はpT3(SS)N2aM0 pStage III bであった.術後経過良好で,術後6日目から経口摂取開始.術後14日目にドレーンを全抜去.術後15日目に発熱と気尿出現.その後の精査により,直腸精囊瘻が判明した.絶食と高カロリー輸液による管理が行われ,術後65日目に直腸精囊瘻の閉鎖を確認した.直腸精囊瘻は直腸切除後の合併症としては比較的稀であり,本症例は保存的治療により治癒しえたため,文献的考察も加えて報告する.

  • 鈴木 崇之, 神谷 潤一郎, 山田 千寿, 三浦 世樹, 金子 高明, 竹内 男
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1485-1490
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は48歳,女性.右季肋部痛を主訴に前医を受診.腹部超音波検査で肝S5に40mm大の腫瘍を指摘され,当科へ紹介となった.血液検査上は特に異常を認めなかったが,ダイナミックCT, EOB-MRIで腫瘍は早期相で濃染し,後期相でwash outを認めたため,肝細胞癌と診断し腹腔鏡下肝S5部分切除を施行した.病理組織診断では好酸性胞体と明るい核クロマチン,明瞭な核小体を有する大型でpolygonalな腫瘍細胞が小胞巣状から索状構造を呈しながらびまん性に増殖していたが,一部平滑筋様の好酸性紡錘形腫瘍細胞も混在していた.免疫染色ではmyogenin,vimentin,HMB-45,SMA,CD68が陽性であり,以上の所見から肝原発血管周囲類上皮細胞腫瘍と診断した.肝原発血管周囲類上皮細胞腫瘍は非常に稀な疾患であるが,今回われわれは腹腔鏡下に切除しえた1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 豊中 亮介, 荒牧 修, 吉田 直樹, 村井 海輝, 大荷 澄江, 大久保 裕直, 山下 裕玄, 岡村 行泰
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1491-1497
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は81歳,男性.肝腫瘤,肝内胆管拡張の精査目的に受診,左肝管に浸潤する肝S4 60mmおよびS5 10mm,S7 10mm,S8 5mmの肝細胞癌(cT4,cN0,cM0,cStage IVa)と診断された.切除不能肝細胞癌と判断し,atezolizumab-bevacizumab療法を導入した.10コース終了後,PIVKA-IIは5,670から14mAU/mLに低下し,S4・S7の腫瘍は著明に縮小,S5・S8の腫瘍は同定困難となったが,S4腫瘍内にviable lesionを疑う所見を認めた.R0切除が可能と判断し,conversion surgeryを施行した.病理組織学的に腫瘍細胞の残存はなく,完全奏効が確認された.術後8カ月現在,再発所見は認めていない.Atezolizumab-bevacizumab療法はその奏効率の高さから,conversion surgeryにおける役割が期待されている.Atezolizumab-bevacizumab療法後のconversion surgeryの適応や最適な時期について,文献的考察を加えて報告する.

  • 新垣 滉大, 大内田 次郎, 木村 隆一郎, 井手野 昇, 丸塚 浩助, 大友 直樹
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1498-1503
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は58歳の男性で,倦怠感・下腿浮腫を主訴に前医を受診したところ,貧血および胆囊腫瘍を指摘され当科へ紹介となった.精査の結果,胆囊癌(Gf, papillary-expanding type,hep,50×40mm,cT2b,cPV0,cA0,cN0,cM0,cStage IIB)に伴う胆囊出血の診断となった.また,術前に施行した内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)では,稀な形態異常である重複胆管と非拡張型の膵胆管合流異常の合併を認めた.本症例は胆囊床切除術と領域リンパ節郭清を施行し,術後24カ月無再発経過中である.重複胆管は極めて稀な胆道の先天性奇形異常であり,「2本の開存性の保たれた胆管が別々に消化管に開口している先天奇形」と定義されており,過去に数十例の報告がなされているのみである.今回われわれは,胆囊出血を契機に診断しえた重複胆管および膵胆管合流異常を伴った胆囊癌の1例を経験したので報告する.

  • 石川 亘, 岩崎 寿光, 貞森 裕, 三浦 奈緒子, 黒瀬 洋平, 高倉 範尚
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1504-1508
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例:61歳,男性.急性大動脈解離(Stanford B型)で前医入院加療中,発症後14日目の経過観察のCTで,膵十二指腸動脈に動脈瘤を認め,周囲に血腫形成を認めたため,精査加療目的で当院に紹介.正中弓状靱帯症候群を認め,腹腔動脈起始部~上腸間膜動脈近傍には解離がみられたものの,上腸間膜動脈起始部には解離が及んでいなかった.緊急開腹手術の準備を行った上で,動脈塞栓術を行う方針とした.上腸間膜動脈からMicro catheterを挿入し,後上膵十二指腸動脈と後下膵十二指腸動脈をコイル塞栓した.出血や解離の増悪は認めなかった.術後一過性に上部消化管の蠕動低下を認めたものの,術後14日目に退院となった.

    膵十二指腸動脈瘤破裂に関しては,動脈塞栓術やステント留置,開腹手術などが治療選択肢に挙げられるが,動脈塞栓術は低侵襲であり,治療成績が他の治療法に比べて比較的良好であると言われている.重篤な血管内病変を合併する本症例においても,複数科によるバックアップ体制を整えた状況での動脈塞栓術は有用であると思われた.

  • 越間 佑介, 加藤 吉康, 服部 圭祐, 福持 皓介, 野田 裕俊, 丸山 浩高
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1509-1514
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は80歳,男性.全身のリンパ節腫大と脾腫を認め,リンパ増殖性疾患が疑われた.血液内科にてPET-CTやリンパ節生検,皮膚生検が施行されたが確定診断に至らず全身の血管炎症状が出現,診断目的に当科に脾摘の依頼となった.CT上,膵尾部が脾門に密接し,かつ脾静脈の怒張・側副路の発達といった所見があり,脾門処理に懸念があることや,多くの既往歴・併存疾患のある症例のため,脾動脈分枝塞栓術を先行した上で腹腔鏡下脾部分切除を施行した.摘出標本から血管免疫芽球型T細胞リンパ腫と診断され,病理学的診断に基づいた化学療法を開始することができた.腹腔鏡下脾部分切除の症例報告は近年散見されるようになってきたが,脾動脈分枝塞栓術を併用した症例の報告は本邦では確認できず,自験例が初と思われたため若干の文献的考察を加えて報告する.本術式は合併症低減のために有用と考えられるが,長期的な経過に関してはさらなる検討が待たれる.

  • 加藤 大貴, 北村 智恵子, 山田 純
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1515-1519
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は65歳,男性.健診で便潜血検査陽性を指摘され,下部消化管内視鏡検査にてS状結腸に10mm大のIpポリープと直腸に12mm大のIsポリープを認め,内視鏡的粘膜切除術を施行した.病理組織学的検査にてS状結腸病変はadenocarcinoma,tub1>por2,pT1a,Ly1a,V0,直腸病変はadenocarcinoma,tub1>por2,pT1b (1,750μm),Ly1a,V1aであり,追加切除として腹腔鏡下低位前方切除術を施行した.術前および術中所見では明らかなリンパ節腫大を認めなかったが,切除標本の直腸傍リンパ節12個のうち,低分化腺癌の転移を4個認めた.免疫組織学検査にてCK7(-),CK20(-),CDX2(-),前立腺特異抗原(prostate specific antigen;PSA)(+)を示し,前立腺癌由来のリンパ節転移が疑われた.追加検査で血清PSA上昇,MRIにて前立腺両葉にT2強調画像で低信号腫瘤を認めた.針生検でadenocarcinomaを認め,前立腺癌の診断となった.前立腺癌の直腸傍リンパ節転移の報告は稀であり,今回われわれは直腸傍リンパ節転移から前立腺癌の診断に至った大腸癌の症例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 櫻井 太郎, 種村 匡弘, 松本 謙一, 東 重慶, 古川 陽菜, 三宅 正和
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1520-1526
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は52歳,女性.健診で高血圧を指摘され,当院循環器内科へ紹介となった.原発性アルドステロン症の除外目的に施行した腹部造影CTにて副腎に異常は認めなかったが,十二指腸水平脚背面と右腎との間に石灰化を伴う平衡相で淡い造影効果を伴う腫瘤を指摘された.PET-CTでは淡いFDG集積を認め,MRIではT1WIで低信号,T2WIで著明な高信号を呈した.画像所見から神経原性腫瘍,脂肪肉腫,血管肉腫を疑った.術前生検は腫瘍細胞播種の危険性を考慮し,実施しなかった.手術は開腹腫瘍切除術を施行した.病理組織学的所見では海綿状血管腫と診断された.後腹膜原発の血管腫は後腹膜腫瘍のうち約1~3%と稀な疾患である.他部位原発の海綿状血管腫とは異なり造影効果に多様性があるため,術前診断に苦慮する症例が多い.本症例でも画像所見による術前診断は困難であった.典型的な画像所見を示さない後腹膜腫瘍病変の鑑別にも後腹膜海綿状血管腫の存在を考慮すべきであると考える.

  • 樋口 雄大, 川井田 博充, 斎藤 亮, 中田 祐紀, 雨宮 秀武, 市川 大輔
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1527-1533
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    症例は62歳,男性.健康診断の腹部超音波検査で膵背側に腫瘤陰影を指摘され,当院へ紹介となった.単純CT・単純MRIでは膵背側に25mm大の腫瘤として観察され,腫瘤と膵臓との境界は明瞭であった.超音波内視鏡検査では膵背側に脾動静脈と接する23mm大の低エコー腫瘤として観察され,EUS-FNAにて神経内分泌腫瘍の診断となった.後日,腹腔鏡下腫瘍摘出術を施行した.病理診断はNET-G2であり,切除検体に膵臓やリンパ節,副腎,神経節などの組織が含まれないことや,術中所見で周辺臓器と腫瘍の明らかな連続性を認めなかったことから,後腹膜を原発とした神経内分泌腫瘍と考えられた.術後2年経過した現在も明らかな再発は認めていない.今回われわれは,膵背側に発生した後腹膜原発神経内分泌腫瘍に対して,腹腔鏡下に切除しえた稀な1例を経験したので,文献的考察を踏まえて報告する.

  • 岩田 尚樹, 大河内 治, 松下 英信, 鈴木 寛, 長谷川 雄基, 坪井 拓磨
    2023 年 84 巻 9 号 p. 1534-1540
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    子宮内膜症は全身の臓器に起こりうるが後腹膜腔は頻度が少なく,癌化はさらに稀である.症例は42歳の1経妊1経産婦で,月経時の右上腹部痛を主訴に受診し,腹部CTで後腹膜腫瘍を指摘された.MRIで上行結腸の外背側に,内部に液体成分と充実性成分を伴う10×9cm大の囊胞性腫瘤を認めた.CA19-9は2,120U/mL,CA125は116U/mLと上昇を認めた.後腹膜腫瘍摘出術を施行,腫瘍は他臓器への浸潤はなく摘出できた.病理所見では茶褐色液体を含む囊胞病変で,組織学的に婦人科癌に類似したadenocarcinomaの所見であり,総合的に子宮内膜症に関連した後腹膜悪性腫瘍と判断した.PET-CTで明らかな集積は認めず,診断も兼ねて子宮全摘+両側付属器切除+大網部分切除術を追加で施行したが,病理学的に悪性所見は認めなかった.術後,子宮内膜癌の術後化学療法に準じTC療法6コースを施行し,現在無再発経過中である.今回われわれは,子宮内膜症の悪性転化も考えられる組織像を呈した後腹膜腫瘍の1例を経験したので報告する.

国内外科研修報告
支部委員会報告
編集後記
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