日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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ISSN-L : 1345-2843
83 巻, 7 号
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綜説
  • 小川 朋子
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1195-1204
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    乳房温存オンコプラスティックサージャリー(OPBCS)ワーキンググループは,OPBCSの手技習得のためステップアップガイドを作成している.

    =OPBCSステップアップガイド=

    1)Basic OPBCS:OPBCSを行う際の基本的な心構え.

    OPBCSにおいては,腫瘍の大きさ・広がり・位置,乳房の大きさ,腫瘍/乳房容積比に加え,背景の乳房構成や立位での形態の評価も重要である.

    2)Volume displacement:

    <ステップ1>乳腺内組織の剥離・移動に加え,皮膚切開の工夫やNACの位置調整(NAC re-centralization)を行う.

    <ステップ2>乳房縮小術を基盤としたOPBCSを特徴づける手技.ほとんどの場合NAC re-centralizationが必要.

    3)Volume replacement:

    <ステップ1>主として切除部に近接する組織を局所皮弁として用いる.比較的小さな欠損に使用.

    <ステップ2>広背筋皮弁や穿通枝皮弁などの手技.比較的大きな欠損に使用.

    段階的にOPBCSの手技習得を目指して欲しい.

原著
  • 坂下 勝哉, 金岡 祐次, 前田 敦行, 高山 祐一, 高橋 崇真, 青山 広希, 細井 敬泰, 清板 和昭
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1205-1210
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    目的:鼠径部ヘルニア術後の予約前受診患者について調査し,今後の診療の在り方を検討することを目的とした.方法:2008年1月~2019年3月に手術を施行した鼠径部ヘルニア2,394例を対象とし,退院後初回外来の予約前に受診した176例(7.4%)を予約前受診群,予約日に受診した2,218例(93%)を予約受診群とし,受診理由とその対処法を調査した.また,両群の患者背景,手術成績を比較し,予約前受診のリスク因子を検討した.結果:退院から予約前受診までの日数中央値は5日で,主な理由は疼痛62例(35%),腫脹61例(35%),主な対応は経過観察112例(63%),投薬55例(31%)だった.予約前受診のリスク因子の検討では,手術時間68分以上(OR:1.43,p=0.04),鼠径部切開前方到達法(OR:1.92,p<0.01),合併症あり(OR:3.30,p<0.01)が有意なリスク因子だった.結語:手術時間68分以上,鼠径部切開前方到達法,合併症ありが予約前受診のリスク因子であった.手術時間短縮,合併症低減に加え,退院前の十分な説明と投薬が重要と思われた.

臨床経験
  • 松本 華英, 伊藤 靖
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1211-1215
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    緒言:乳輪下膿瘍の多くは女性に発症し,男性は稀である.今回,当院で経験した6例の男性乳輪下膿瘍を報告する.

    対象および方法:2012年1月から2020年12月に,当院で乳輪下膿瘍または乳腺膿瘍の診断となった138例のうち,男性6例を対象とし,年齢,左右,腫瘤径,喫煙歴,培養結果,治療法,予後について検討した.

    結果:年齢は30から49歳,右4例/左2例,腫瘤径は11mmから28mm.診断時に切開排膿を施行したのは3例,aspirationを行ったのが2例,ドレンを留置したのが1例.4例にcefcapene pivoxilを使用した.初回治療がaspirationのみだった2例は再発し,再発時に切開排膿をし,軽快している.再発せず経過した4例の治療後観察期間は1カ月から73カ月だった.

    考察:男性に発症した乳輪下膿瘍は,適切な抗菌薬の選択と十分なドレナージにより,切開排膿でも有効である可能性がある.

  • 鍛 利幸, 岡田 和幸, 高木 秀和, 宇山 直樹
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1216-1220
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    目的:腹膜播種に対して腹膜切除と腹腔内温熱化学療法が有効な治療となる症例が存在するが,シスプラチン使用後の腎不全はしばしば問題になってきた.

    方法:シスプラチンを用いた腹腔内化学療法を行った63例について,患者背景,術中・術後の17因子について,術後腎障害との関連を検討した.チオ硫酸ナトリウムによる腎保護は行わなかった.

    結果:Grade2以上の腎機能障害の症例は6例,grade3以上は3例に見られた.Grade2以上の危険因子は,手術時間,コロイド輸液量,術中尿量で,独立した因子は同定できなかった.Grade 3以上の危険因子は,コロイド輸液量であった.

    結語:シスプラチン使用後の腎不全は約10%の症例に見られた.コロイド輸液を控えること,術中尿量を確保することである程度予防できる可能性があるが,より安全に行うためには,さらに腎保護を考慮すべきであると考えられた.

症例
  • 米川 佳彦, 浅羽 雄太郎, 前田 隆雄, 伊藤 哲, 青木 佑平, 鈴木 正彦
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1221-1228
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,女性.左乳癌に対して乳房温存術と残存乳房照射(50Gy/25fr)後7年2カ月目に,乳房皮膚に色素沈着を伴う慢性皮膚炎様の皮下硬結を触れた.外用ステロイドで2カ月間経過観察したが変化を認めず,皮膚生検で血管肉腫の診断を得た.造影CTでは腫瘍部は比較的限局して濃染され,造影MRIではrapid-washout patternを呈し,PET-CTでは局所のみに高度集積(SUV-max 39.1)を認めた.以上の経過から放射線関連乳房血管肉腫と診断し,乳房部分切除を施行しR0切除を得た.現在,術後10カ月経過し無再発生存中である.乳房温存術後の放射線関連血管肉腫は発生頻度が約0.1%程度と稀であり,診断に難渋することがある.本邦37例の報告例を検討すると局所・遠隔再発率ともに高く,5年生存率は46%と臨床上重要な放射線関連有害事象である.乳房温存術後の放射線治療を施行する際には留意が必要である.

  • 加納 收, 安藤 耕平, 諸星 隆夫, 菅原 海, 山崎 龍人, 鈴木 千穂, 津浦 幸夫
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1229-1233
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    乳癌晩期再発の症例を経験したので報告する.患者は47年前,当時33歳で右乳癌に対し右乳房切除術を受けた80歳の女性で,体動時のめまい,ふらつき,呼吸困難のため当院を受診した.胸部CTにて多発肺転移,腹部CTにて肝臓に多発肝転移を認めた.確定診断のため胸腔鏡下左肺下葉部分切除を施行し,浸潤性乳管癌の肺転移と診断された.乳癌の再発は10年以内に多いとされている.しかし,本症例のように乳房切除を実施後40年以上経過して転移,再発を認める症例の報告も複数ある.晩期再発の可能性が否定できないことは,定期受診を終了させる際に患者に説明する必要があると考える.

  • 三里 卓也, 林 太郎
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1234-1238
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    76歳,男性.2014年,他院にて腹部大動脈瘤破裂に対し人工血管置換術および右大腿動脈-左大腿動脈バイパス術を施行された.2015年から右鼠径部人工血管露頭,2017年になり高熱・腰痛を認め,かかりつけ医を受診,人工血管感染に起因する敗血症および化膿性脊椎炎の診断にて他院に入院した.抗菌薬治療の後,リハビリ転院を経て全身状態悪化のため当院に転送となった.入院後感染人工血管抜去,腸腰筋ドレナージを施行.抗菌薬投与を継続していたが術後2週間目に発熱,CTにて右室前面に最大径55mmの内部に造影剤の流入を認める陰影を指摘され,感染性冠動脈瘤の診断となり緊急手術を施行.右室前面に右冠動脈からの仮性瘤を認めたため感染瘤切除,右冠動脈破綻部縫合閉鎖,大伏在静脈を使用した右冠動脈末梢へのバイパス手術を施行,術後感染再燃無くリハビリ転院に至った.感染性冠動脈瘤は稀な疾患であり,わずかな報告があるのみである.今回,手術加療により良好な結果を得られたため,文献的考察を加え報告する.

  • 中根 茂, 村田 賢, 鈴木 玲, 広田 将司
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1239-1243
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は74歳,男性.肝硬変,肝細胞癌,脊髄損傷,結腸癌,左上葉肺癌の既往がある.呼吸困難にて救急外来を受診し,右大量胸水にて入院し胸腔ドレナージを施行.数回の胸膜癒着術は効果なく手術となった.腹腔鏡を併用し小開胸創から胸腔鏡補助下に手術を進めた.12cmH2Oで気腹したが横隔膜を介した気漏は確認できず.腹腔から確認すると腱中心に欠損を認め,縫縮するも横隔膜は脆弱で針穴から裂けた.縫合閉鎖は断念し,横隔膜全面をポリグリコール酸(以下PGA)シートで被覆しフィブリン糊で固定した.術後9日目に胸腔ドレーンを抜去した.以後,胸水の再貯留は認めなかった.本例では横隔膜は菲薄化しており縫合は困難であったが,PGAシートによる全横隔膜被覆によって肝性胸水がコントロールできた.

  • 金田 好和, 林 雅太郎, 川口 雄太, 藤井 美緒, 藤井 雅和, 野島 真治, 中島 好晃, 田中 慎介
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1244-1249
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は78歳,男性.椎間板ヘルニアの術前検査で胸部X線写真上の異常陰影を指摘された.胸部CTで右肺下葉に3cm大の腫瘤を認め,CTガイド下経皮的肺針生検を施行したところ意識レベルの低下を認め,循環動態が不安定となった.CTで空気塞栓症(脳,心臓)と診断され,挿管人工呼吸管理が開始された.心機能は早期に回復し,脳空気塞栓症に対し脳神経内科医により脳梗塞に準じた治療が開始された.第4病日からリハビリテーションが開始され,第11病日に抜管された.嚥下機能障害および左上肢の運動障害を認め,第35病日に経皮内視鏡的胃瘻造設術が施行された.肺生検の結果により,右下葉肺扁平上皮癌(T2aN0M0,Stage IB)と診断され,嚥下食が開始され,杖歩行が可能となった時点で,患者と家族が手術を希望し,第56病日に胸腔鏡下右下葉部分切除術が施行された.術後経過は良好で第88病日に自宅退院となった.

  • 松田 英祐, 佐藤 創
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1250-1255
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    完全内臓逆位は胎生期の発生異常によって生じる解剖学的異常である.全臓器が正常に対して鏡面的に位置するため,肺癌手術を行う際には分離肺換気の確立と解剖構造の把握が重要である.今回,完全内臓逆位に併存した肺癌の手術例を経験した.症例は68歳,女性.胸部異常影を指摘され当科受診となった.胸部X線,CTで完全内臓逆位と左上葉に肺癌を疑う結節影を認めた.3D-CTで肺動静脈分岐と気管支構造を確認した.短い左主気管支に気管支ルーメンや気管支ブロッカーを置かないよう,右用ダブルルーメン気管支内チューブ(DLT)を用い左上葉切除術を行った.3D-CTの通り,肺門で上幹肺動脈が分岐し,葉間部でA2bが分岐する,通常の右肺動脈の分岐の鏡面的構造であった.

    分離肺換気の確立,3D-CTで気管支,血管構造の把握が重要であるが,肺虚脱に伴う立体構造の変化にも注意が必要と思われた.

  • 櫻井 晶子, 豊福 篤志, 伊藤 一馬, 吉田 昂平, 日暮 愛一郎, 四元 真司, 崎田 健一, 永田 直幹
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1256-1265
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は74歳の男性で,食事のつかえ感と体重減少を主訴に近医を受診.上部消化管内視鏡にて食道胸部中部から胸部下部の腫瘤を指摘,精査加療目的で当院へ紹介.術前の画像では,不整潰瘍を有する9cmの腫瘍性病変の診断であったが,生検では悪性所見は認めなかった.また,以前より血小板増多を指摘されており,当院初診時の血小板が高値であった.骨髄生検の所見,血液遺伝子検査の結果,骨髄増殖性腫瘍の一病型である本態性血小板血症の診断となった.食道の腫瘍性病変の術前診断でcytoreductive therapyを開始し,血小板数をコントロールの上,安全に胸腔鏡下食道亜全摘術が可能であった.血栓症や出血などの合併症なく,経過は順調で退院となった.

    術後の病理診断にて食道悪性黒色腫の診断で,食道癌取扱い規約(第11版)でStage II,AJCC/UICC分類(第8版)でStage IIであった.術後補助化学療法としてnivolumabを投与し,本態性血小板血症に関しても治療を継続している.

  • 福井 康裕, 久保 尚士, 櫻井 克宣, 黒田 顕慈, 長谷川 毅, 前田 清
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1266-1272
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例1は70歳,女性.胃体上部前壁の1型進行胃癌にロボット支援下噴門側胃切除術を行った(tub2,pT3,pN2,cM0,pStage IIIA).術後6日目に縫合不全に対し開腹ドレナージ術を行った.経腸栄養開始後にドレーン排液が乳糜様となり,リンパ漏と診断した.保存的加療で改善なく,鼠径部からリピオドールリンパ管造影を行うとリンパ漏は減少した.症例2は40歳,女性.胃体下部大彎の0-IIc病変にロボット支援下幽門側胃切除術を行った(por2,pT1b2,pN0,cM0,pStage IA).術17日目に軽快退院後,外来受診した際,腹部膨満症状があり,腹水ドレナージを行うと乳糜腹水であった.保存的加療および二度のリンパ管造影で改善なく,初回手術後44日目に開腹リンパ管結紮術を行った.術後,乳糜腹水は軽快した.胃切除後の乳糜腹水に対し,確立された治療法はないが,侵襲の少ない治療から段階的に行うことで対応可能と考えられた.

  • 野々垣 彰, 渡邉 卓哉, 田中 健太, 冨永 奈沙, 赤座 賢, 岩田 尚宏
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1273-1276
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は61歳,男性.検診異常で受診となった.上部消化管内視鏡検査を行い,胃下部小彎に0-IIc病変を認め,胃癌と診断された.

    CTで遠隔転移やリンパ節腫大は認めなかったが,総肝動脈が存在せず,腹腔動脈から分岐した左胃動脈から左肝動脈が分岐しており,さらに右肝動脈が上腸間膜動脈から分岐していた.Adachi VI型28群の胃癌cStage Iと診断し,腹腔鏡下幽門側胃切除術,D1+リンパ節郭清を行った.

    術中,左肝動脈の末梢側と左胃動脈の根部を確保した後に,郭清組織を同動脈に沿って観音開きにする形で行った.左肝動脈を温存して左胃動脈を処理した.まれな血管破格を伴う胃癌に対して,腹腔鏡下で手術を行ったので報告する.

  • 本郷 悠太, 北原 弘恵, 吉村 昌記, 唐澤 幸彦, 岩谷 舞, 織井 崇
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1277-1282
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    胃原発の胎児消化管類似癌(adenocarcinoma with enteroblastic differentiation)は,胃癌取扱い規約では悪性上皮性腫瘍の特殊型に分類され,稀な疾患である.症例は80歳,男性.胃穹窿部後壁に2型病変および幽門前庭部小彎側に0-II a病変を認め,生検にて2型病変はtub2 > tub1,0-IIa病変はtub1と診断されたため,胃全摘術を施行した.病理組織検査で,2型病変には淡明な胞体を有し免疫染色でSALL4,AFP共に一部陽性となる腺癌細胞が確認され,胎児消化管類似癌:pT3(SS),INFb,Ly1b,V1c,pN1,M0,Stage IIBと診断された.0-IIa病変はtub1,pT1a(M),Ly0,V0であった.S-1による補助化学療法を導入したが,術後4カ月で肝転移が出現し,capecitabine + oxaliplatin療法へ変更した.一旦縮小した肝転移は術後7カ月で再増大し,nab-paclitaxel + ramucirumabへ変更したが,術後14カ月で再増大を認めたためnivolumabへ変更,現在治療継続中である.本疾患は,予後は極めて不良であるが,症例数が少ないため治療方針が定まっておらず,今後の検討が待たれる.

  • 中村 剛, 小路 毅, 菅藤 禎三, 林 良郎, 石松 久人, 丸尾 啓敏
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1283-1289
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は88歳,女性.前医にて2013年に盲腸癌,下行結腸癌術後のフォローアップ中,2020年に心窩部痛を自覚し,上部消化管内視鏡検査で胃癌の診断となり当科へ紹介となった.2016年より増大する腸間膜嚢胞を認め,腫瘍性病変を疑い,幽門側胃切除術と腸間膜嚢胞切除術を同時に施行した.病理学的所見にて胃癌(pT3N2M0,Ly1c,V1b,pStage IIIA)と腸間膜脂肪肉腫(S100陽性,SMA少数陽性,高分化型ないし脱分化型)と診断した.

    脂肪肉腫は四肢や後腹膜に発生することが多く,腸間膜原発は稀である.また,胃癌との同時性重複症例は過去に報告がない.今回,約4年の経過を観察した胃癌と同時性重複腸間膜脂肪肉腫の1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

  • 櫻井 徹, 河北 英明, 杉山 祐之, 加藤 文昭, 逢坂 由昭, 土田 明彦
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1290-1295
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は51歳,女性.以前から時折腹痛があり,上下部内視鏡やCTを含めた精査を行ってきたが確定診断には至らなかった.1カ月前に腹部不快感と膨満感を主訴に近医を受診し,感染性腸炎の診断で加療したが軽快せず,MDCTにてMeckel憩室を指摘された.MDCTで右下腹部に存在する小腸壁に11×7cm大の嚢状腫瘤を認め,症状を伴うMeckel憩室の診断で単孔式腹腔鏡下手術を施行した.術中,左上腹部に巨大な嚢状の小腸憩室を認めた.嚢状の憩室が腸間膜対側に拡大し,他に病変を疑う部分を認めず同部を把持し体外で切除・縫合した.病理所見は腸間膜対側に憩室を認め,同基部で固有筋層が断裂し粘膜下層の脂肪織が漿膜下層へ増生していた.同部から憩室の大部分を占める固有筋層を欠いた仮性憩室領域に連続していたため,二次性に巨大化したMeckel憩室と診断した.二次性に仮性憩室が生じたMeckel憩室の報告は稀である.今回,二次性に仮性憩室が生じたMeckel憩室という稀な症例を経験したので報告する.

  • 岩田 亜弓, 深井 智司, 菅家 康之, 藤田 正太郎, 門馬 智之, 河野 浩二
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1296-1300
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は57歳,男性.主訴は下痢・嘔吐で,腹部X線写真,CTにて小腸腫瘍による腸管狭窄が疑われた.小腸内視鏡にて空腸に全周性狭窄を認め,小腸部分切除術を施行した.腫瘍は全周性で,一部漿膜面に露出し粘膜面は粗造であった.病理診断では,形質細胞腫の性質を持った腫瘍細胞を認めた.骨髄生検では形質細胞の増殖を認めず,血清・尿中からもM蛋白を認めなかった.多発性骨髄腫は否定的であり,髄外性形質細胞腫の診断となった.髄外性形質細胞腫の好発部位は鼻腔,副鼻腔,消化管,肺,甲状腺,眼窩,リンパ節などであり,その80%以上は上気道,口腔に発生し,小腸原発はまれである.われわれの検索では,小腸原発の本邦報告例は8例で,本症例は9例目の報告となる.小腸原発の髄外性形質細胞腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

  • 田原 俊哉, 河毛 利顕, 佐々木 秀, 香山 茂平, 高橋 信也, 中光 篤志
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1301-1305
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は84歳,男性.5時間続く腹痛と嘔吐を主訴に,当院へ救急搬送された.腹部造影CTでclosed loopを認め,絞扼性腸閉塞と診断し緊急手術を施行した.開腹すると小腸とS状結腸が結節を形成するileosigmoid knotを呈し,特に小腸は広範囲に渡ってS状結腸に巻絡し壊死していた.小腸一括切除は短腸症候群が懸念されたため,絞扼を解除し,壊死範囲を確認して速やかに小腸とS状結腸をそれぞれ切除吻合した.残存小腸は130cmと短くなったが,短腸症候群をきたすことなく,術後13日目に軽快退院した.壊死を伴うileosigmoid knotは広範な小腸切除を要することが多く,絞扼を解除しない小腸一括切除は過剰切除によって短腸症候群をきたし,術後のQOLを著しく損なうリスクがある.残存小腸が短くなることが予想される症例では,全身状態が許容されるなら絞扼を解除し,切除範囲を最小限に留めることも治療戦略として有用である.

  • 舘野 航平, 榎田 泰明, 田中 成岳, 平井 圭太郎, 坂元 一郎, 小川 哲史
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1306-1311
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は46歳,女性.2カ月前にDouglas窩膿瘍に対して産婦人科に入院歴を有する.経過から,虫垂炎に伴う腹腔内膿瘍の疑いで,精査加療目的に当科へ紹介された.造影CTでは虫垂根部に造影効果のある2.0×1.5cmの結節と,盲腸周囲のリンパ節腫大を認めた.下部消化管内視鏡検査では虫垂開口部周囲は発赤調で腫大しており,白色膿汁の付着を認めた.FDG-PET検査ではCTでみられた結節に一致してFDGの集積を認めた.生検で悪性所見は得られなかったが,虫垂癌を否定できず腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.病理検査では黄色肉芽腫性虫垂炎の診断であった.黄色肉芽腫性虫垂炎は稀な疾患であり,虫垂癌との鑑別は困難である.術式については一定の見解を得られておらず,患者の全身状態,意向などを考慮し慎重に選択する必要がある.

  • 片方 雅紀, 藤田 正太郎, 青砥 慶太, 伊藤 泰輔, 石井 芳正, 河野 浩二
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1312-1317
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    腸管原発のBurkittリンパ腫は非常に稀な疾患である.今回われわれは,虫垂原発のBurkittリンパ腫の成人発症例を経験したので報告する.症例は27歳,男性.主訴は右下腹部痛である.虫垂炎の診断で保存的加療が行われたが,退院後に症状が再燃し虫垂切除術を施行した.病理組織学的検査にて虫垂壁粘膜から筋層にかけての異型リンパ球様細胞の増殖を認め,免疫染色の結果,CD10弱陽性,CD20陽性,MIB-1多数陽性であり,FISH法によるc-mycの転座を認め,Burkittリンパ腫の診断となった.術後は血液内科にてR-hyper-CVAD/MA療法を施行した.腸管原発Burkittリンパ腫は回盲部に発生することが多い.本疾患は急性腹症により手術が必要な状態で発見されることも多く,可能な限り早期の確定診断と化学療法を含む集学的治療を行うことが重要である.

  • 河越 環, 星川 真有美, 鈴木 貴道, 根本 卓, 日吉 雅也, 山本 順司
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1318-1324
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    リンパ漏はリンパ節郭清等に伴って生じ,しばしば治療に難渋する.今回われわれは,大腸癌鼠径リンパ節転移術後の難治性鼠径部リンパ漏に対して陰圧閉鎖療法が奏効した2症例を経験した.

    症例①:76歳,男性.直腸癌局所切除後,左鼠径リンパ節転移に対して鼠径リンパ節郭清を施行した.術直後よりリンパ漏を生じ,リンパ管造影や漏出部リンパ節切除を行ったが軽快しなかった.その後,漏出部リンパ管縫合,陰圧閉鎖療法を試み,開始後9日でリンパ漏は軽快した.

    症例②:87歳,男性.盲腸および上行結腸の多発大腸癌術後に左鼠径リンパ節転移に対し鼠径リンパ節郭清を施行した.術直後よりリンパ漏を生じ,リンパ管造影と塞栓を試みたが改善しなかった.陰圧閉鎖療法を行ったところ,開始後23日で軽快した.

    陰圧閉鎖療法の難治性鼠径部リンパ漏に対する有用性に関して,文献的考察を加えて報告する.

  • 原田 拓弥, 吉田 雅, 本間 重紀, 市川 伸樹, 大塚 拓也, 三橋 智子, 武冨 紹信
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1325-1330
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は54歳,男性.腹痛を主訴に近医を受診し,門脈気腫症の診断.α-グルコシダーゼ阻害薬が原因と考えられ,またバイタルは保たれており臨床症状も軽度であったため,同薬剤の中止と抗菌薬投与による保存的加療が選択された.門脈気腫症は速やかに改善したが,Clostridioides difficile腸炎(以下CD腸炎)を発症.その後,巨大結腸症を発症し手術も考慮されたため当科に転院した.転院後,炎症や潰瘍は改善が見られたが,進行性の横行結腸狭窄を認め,完全閉塞も危惧されたため,結腸亜全摘を施行した.術後経過は問題なく,術後18日目に退院となり,現在,術後3年3カ月経過したが,狭窄の再発なく経過している.病理組織学的検査から感染性腸炎による狭窄と診断し,その原因としてCD腸炎が強く疑われた.CD腸炎の経過中には腸管狭窄も生じ得ることを念頭に置く必要がある.

  • 見原 遥佑, 神谷 欣志, 島村 隆浩, 東 正樹, 前間 篤, 安田 和世, 中村 利夫
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1331-1336
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は52歳,女性.胃癌(L-post,0-IIc,sig,pT1aN0M0,Stage Ia)に対して腹腔鏡下幽門側胃切除術(D1+郭清)を施行した.術後11カ月の造影CTで肝S4に造影効果に乏しい境界明瞭な16mmの腫瘤性病変を認めた.MRIでは肝転移が疑われたが,PET-CTでは同部位に集積は認められなかった.術後肝転移を疑い,肝部分切除の方針となった.術中に腫瘤の横行結腸浸潤を認め,肝部分切除術,胆嚢摘出術に加えて横行結腸部分切除術を行った.病理組織学的検査で胃癌由来の印環細胞癌を認めず,免疫染色と遺伝子解析の結果,腸間膜由来のデスモイド腫瘍と診断された.術後7日で退院となり,術後24カ月の現在も再発なく生存中である.デスモイド腫瘍はMRIやPET-CTなどの画像による診断が難しい.また,遺伝子解析が他の悪性腫瘍との鑑別に有用である.

  • 緒方 諒仁, 久留宮 康浩, 水野 敬輔, 世古口 英, 菅原 元, 井上 昌也, 平賀 潤二
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1337-1341
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は51歳,男性.先天性血友病Aに対し,第VIII因子製剤を週2回自己注射していた.車同士の交通事故により当院に救急搬送された.造影CTでS状結腸間膜周囲に造影剤の血管外漏出と大量の腹水を認め,外傷性S状結腸間膜損傷による腹腔内出血を疑い,緊急開腹手術を施行した.動脈性出血を伴うS状結腸間膜損傷を縫合止血し,S状結腸の非全層性損傷を3箇所修復して下行結腸に人工肛門を造設した.術中は院内に第VIII因子製剤が無く,凝固因子補充のために新鮮凍結血漿製剤を16単位,フィブリノゲン製剤を2g投与した.術後はガイドラインに従い,第VIII因子製剤を投与した.術後第10病日に人工呼吸器を離脱し,術後第30病日に転院となった.血友病Aを合併した外傷性S状結腸間膜損傷に対し,第VIII因子製剤が院内に無く,新鮮凍結血漿製剤とフィブリノゲン製剤を投与して緊急開腹手術を施行し救命しえた1症例を経験したので報告する.

  • 藤井 友夏里, 野谷 啓之, 山下 大和, 大司 俊郎, 安野 正道, 菅野 純, 中嶋 昭
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1342-1346
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例はアルコール摂取歴のない34歳の男性.心窩部~左背部痛で受診.膵酵素上昇は認めず,1週間で疼痛は自然軽快した.超音波検査・MRCPで著明な膵管拡張,多数の膵石を認め,手術加療目的に紹介.膵体部に小切開をおき,可及的に膵石を除去し,膵空腸側側吻合とR-Y再建を施行した.また,胆嚢ポリープの疑いに対して,胆嚢摘出術を施行した.病理組織学的検査にて,慢性膵炎と診断された.

    若年性の特発性慢性膵炎は比較的稀である.本邦ではあまり知られていないが,tropical calcifying pancreatitisという概念があり,文献的考察を踏まえて報告する.

  • 日髙 敬文, 福田 皓佑, 川崎 洋太, 蔵原 弘, 又木 雄弘, 大塚 隆生
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1347-1351
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    患者は77歳,女性.ERCP施行翌日に重症膵炎を発症し,その治療経過で膵周囲からDouglas窩,鼠経管を経て右大腿部まで及ぶwalled-off necrosis(以下,WON)を指摘され,治療目的で当院へ紹介となった.外科的step-up approachの治療方針となり,経皮的ドレナージでWONを縮小させた後,video-assisted retroperitoneal debridement(以下,VARD)を施行した.VARDの手術時間は1時間32分で,出血量は480mlであった.術後CTでWONの消失が確認され,炎症反応の正常化と全身状態の改善を得た.解剖学的に内視鏡的アプローチができない部位や広範囲にWONを認める場合には,外科的step-up approachが有用な治療手段になると考えられた.

  • 皆木 仁志, 青木 秀樹, 木村 裕司, 谷口 文崇, 渡邉 めぐみ, 田中屋 宏爾
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1352-1357
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は75歳,男性.二度目の冠動脈バイパス術(coronary artery bypass graft;以下,CABG)で右胃大網動脈(right gastroepiploic artery;以下,RGEA)が用いられた.70歳時に膵管内乳頭粘液性腺癌(IPMC)で膵体尾部切除術を施行した.今回,繰り返す胆管炎に対する精査で遠位胆管癌と診断された.膵頭十二指腸切除術の予定としたが,冠動脈造影検査でグラフトの開存が確認され,グラフトの切除再建の可能性も視野に手術を行い,RGEAを損傷せぬよう温存しえた.膵体尾部切除後のため結果的に膵全摘となった.病理組織学的所見は浸潤性膵管癌,pT3N1b,stage IIBでR0切除が可能であった.RGEAグラフトによるCABG後の上腹部手術では,RGEAの損傷により心合併症を引き起こす可能性があり,慎重な手技を要する.さらに,グラフト損傷や郭清上グラフトを合併切除する必要のある場合,グラフト再建を要する可能性が生じる.術中のグラフトに対する愛護的な操作に加え,癒着や血行再建に備えた十分な準備·対策が肝要であると考えられる.

  • 池添 慧梨香, 大橋 龍一郎, 岡田 尚大, 市原 周治, 安藤 翠
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1358-1362
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は81歳,女性.6年前から腹部CTで遊走脾と脾腫を指摘され,血液検査では汎血球減少を認めていたが自覚症状は見られなかったため,経過観察されていた.転倒を機に倦怠感,食欲不振が出現した.腹部造影CTでは,脾動静脈はwhirl signを形成しており,脾臓内部に造影不良域を認めた.遊走脾の捻転と脾梗塞が疑われたため,当院へ紹介となった.紹介時は状態が安定していたため,待機的に開腹脾摘出術が施行された.術前の腹部造影CTでは脾腫は軽度改善し,脾臓梗塞部は被膜のみが造影されcapsular rim signを呈していた.術後は経過良好で,術後8日目に退院した.脾捻転の手術例は稀であり,文献的考察を加えて報告する.

  • 田根 雄一郎, 植村 則久, 伊藤 貴明, 塚原 哲夫, 新井 利幸, 雨宮 剛
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1363-1368
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    露出腸管を伴う術後創部離開に対して陰圧閉鎖療法を導入する場合,腸管穿孔などの合併症が発症しないよう工夫する必要がある.今回,腸管穿孔を伴う術後創部離開に対して筋膜にアイソレーションバッグ®のビニールシートを縫い付け,その上から陰圧閉鎖療法を施行することで合併症なく治癒しえた症例を経験したので報告する.症例は71歳の男性.腸管壊死による腹膜炎手術後に正中創の創感染から筋膜離開となり,小腸が露出し穿孔した.穿孔部を閉鎖し創の閉鎖を試みたが,筋膜閉鎖が困難であったため腸管保護目的にビニールシートを筋膜に縫合し,その上から陰圧閉鎖療法を導入した.ビニールは術後24日目に除去し,陰圧閉鎖療法は術後40日目まで継続し,その後軟膏治療を継続し創傷の治癒が得られた.本方法は,露出腸管を伴う創部離開に対して有効な処置であると考えられる.

  • 貝羽 義浩, 米田 海
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1369-1373
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は71歳,男性.2年前にS状結腸癌で腹腔鏡下S状結腸切除を施行したが,合併症のため正中切開で右側腹部に回腸ストーマを造設した.ストーマトラブルのため,このストーマを閉鎖し左側腹部へ再度回腸ストーマを造設したが,正中創感染による筋膜哆開になり分層植皮を施行した.ストーマ閉鎖後,ヘルニア門が20×16cmとなり手術を行った.手術は正中で開腹後,腸管を穿孔させないよう剥離し,分層植皮と癒着して剥離困難な小腸を切除し機能的端々吻合で再建した.その後,両側transabdominis muscle release(TAR)を施行し,heavy weight meshをretromuscularに留置した.術後12日目に退院し術後6カ月を経過したが,再発は認めていない.2箇所のストーマ閉鎖部筋膜瘢痕を合併し,分層植皮後の腹壁瘢痕ヘルニアを小腸切除後にメッシュを用いてTARで修復した症例を報告する.

  • 宮木 祐一郎, 高橋 俊明, 戸松 真琴, 鈴木 一史
    2022 年 83 巻 7 号 p. 1374-1379
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/31
    ジャーナル フリー

    巨大な鼠径ヘルニアの修復において,脱出した多量の臓器を腹腔内へ還納することによる腹部コンパートメント症候群発症の危険性が知られている.腹壁の減張を目的としたendoscopic component separation(以下ECS)を併施することで,巨大鼠径ヘルニアに対して安全に腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術を施行可能であった.ECS施行前後で腹腔内許容量(気腹圧8mmHgCO2下)を約600mL増すことが可能であったことから,腹腔内圧の上昇を緩和し腹部コンパートメント症候群予防に有用な手技であったと考える.ECSは片側につき2portsで施行可能であり,前方切開法によるcomponent separationに比べて整容性に優れている.また,所要時間も片側につき20分程度と短時間で施行が可能である.気腹による腹壁伸展とともに,ECSによる腹壁減張が腹部コンパートメント症候群予防に有用であったと考える1例を経験した.

編集後記
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