日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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84 巻, 5 号
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綜説
  • 志田 晴彦
    2023 年 84 巻 5 号 p. 681-694
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    臨床外科医がいつか遭遇するかもしれない故に覚えておきたい希少なヘルニアを概説した.前号の前編では「I.鼠径部およびその周辺のヘルニア」「II.腹部の内ヘルニア」について述べたが,後編では「III.腹壁のヘルニア」「IV.横隔膜のヘルニア」での希少例を取り上げた.多くの症例での共通点として,以下の3点を挙げる.1.診断にはCTが有用で希少疾患ならではの典型的な画像が存在する.各疾患について代表的・教育的な画像を呈示した.2.治療は緊急性の高いものと待機的に可能なものがあり,腹腔鏡・胸腔鏡手術例が増加している.3.ヘルニア門の修復にメッシュ使用の可否判断は重要である.希少な疾患では外科医が初めて経験する手術も多く,疾患の知識と臨床経験から術中臨機応変に対応できる力が求められる.最後に,「V.ヘルニアに関連する希少な合併症」をまとめた.ヘルニアは良性疾患であり,術後の疼痛や再発を可能な限り減らしQOLを維持する治療が望まれる.

症例
  • 中嶋 啓雄, 柴田 信博, 坂井 昇道, 岸 真五
    2023 年 84 巻 5 号 p. 695-699
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    乳房に発生した脂肪腫内の異型脂肪腫様腫瘍/高分化型脂肪肉腫(以下,高分化型脂肪肉腫)の非常にまれな1例を報告する.症例は70歳の女性.乳癌検診マンモグラフィで,左BD領域皮下の5cm大の腫瘤(カテゴリー2)の精査目的で当乳腺外科を受診した.組織生検では,脂肪腫と高分化型脂肪肉腫との鑑別診断ができなかったため,腫瘤を含めた広範囲切除術を施行した.摘出標本の割面では,脂肪腫内に2cm大の赤褐色の境界不整な腫瘍を認め,免疫組織化学染色(IHC)を含む組織学的検査で高分化型脂肪肉腫と診断した.脂肪腫内に発生した高分化型脂肪肉腫の術前診断は,非常に困難である.5cm~10cmまでの脂肪腫では,広範囲切除を行い,摘出標本のIHCを含む組織学的検査を行うことも治療選択肢の一つである.

  • 橋詰 淳司, 角舎 学行, 恵美 純子, 有廣 光司, 岡田 守人
    2023 年 84 巻 5 号 p. 700-706
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    腺筋上皮腫は腺上皮細胞と筋上皮細胞のいずれもが増生する良性腫瘍であるが,まれにどちらか一方または両方が悪性化した悪性腺筋上皮腫としての存在が知られている.われわれは術前化学療法を施行した乳腺悪性腺筋上皮腫の2例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.症例1は32歳,女性.左乳房に5cmを超える腫瘤を主訴に来院.針生検で浸潤性乳管癌を認め,T3N1M0 Stage IIIAの診断にて術前化学療法を施行.乳房切除術と腋窩リンパ節郭清を施行した.術後の病理組織検査で悪性腺筋上皮腫の報告を得た.術後放射線療法とホルモン療法を施行し,6年4カ月経過するが,無再発生存中である.症例2は73歳,女性.検診要精査で左乳房に15mm大の腫瘤を指摘.針生検で浸潤性乳管癌を認め,triple negative typeであったため術前化学療法を施行.乳房切除術とセンチネルリンパ節生検を施行した.術後の病理組織検査では悪性腺筋上皮腫の報告を得た.術後カペシタビン投与とし1年経過するが,無再発生存中である.

  • 酒徳 弥生, 岡田 禎人, 鈴木 和志, 田口 泰郎, 二村 雄介, 竹内 健司
    2023 年 84 巻 5 号 p. 707-713
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    Paget病を除き,乳癌は終末乳管小葉単位より発生するとされ,乳頭部原発の乳癌は稀である.今回,症状出現から診断まで約4年を要した,乳頭部に限局した浸潤性乳管癌の1例を経験したため報告する.症例は70歳,女性.毎年,乳房定期健診のため当院に通院中であった.右乳頭部に腫瘤を自覚したが,マンモグラフィおよび超音波で異常は認めなかったため,1年毎の定期健診を継続した.自覚症状出現から3年後,超音波で右乳頭内に7.8×6.3mmの低エコー腫瘤を認めたが,経過観察となった.翌年,超音波で右乳頭部腫瘤の大きさに著変はなかったが,腫瘤の緊満と疼痛のため,パンチバイオプシーを施行した.組織学的所見で浸潤性乳管癌の診断となり,乳頭乳輪を含めた右円柱状部分切除を施行した.病理組織診は右乳頭部に限局した浸潤性乳管癌であった.術後1年6カ月経過したが,無再発生存中である.

  • 松本 圭太, 今井 健晴, 棚橋 利行, 八幡 和憲, 佐々木 義之, 山田 誠
    2023 年 84 巻 5 号 p. 714-718
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は82歳,男性.大動脈弁置換術,冠動脈バイパス術後の縦隔炎のため6カ月間の保存的治療後に,大網・大胸筋弁充填を施行されていた.術後30日目に腹痛が出現し,単純CTで胸骨前皮下に小腸の脱出を認め,当院を受診した.剣状突起下瘢痕ヘルニアによる腸閉塞が疑われ,緊急手術を施行した.開腹下に小腸を牽引してヘルニアを解除し,小腸の血流は保たれており温存した.ヘルニア門は,胸骨前の皮下組織を胸骨によせることによる単純結紮縫合で閉鎖した.術後5日目に食事を開始し,術後12日目に転院となったが術後33日目に再度腹痛が出現し,ヘルニア再発を認め当院を受診した.絞扼は否定的であり,メッシュを準備した上で翌日に準緊急で手術を施行した.腹腔鏡下に小腸を腹腔内へ牽引して整復し,メッシュを用いてkeyhole法で修復した.術後4日目に食事を開始し,術後12日目に転院となった.術後5カ月で他病死したが,ヘルニア再発は認めなかった.

  • 丸山 岳人, 松本 理奈, 荒川 敬一, 青木 茂雄, 三島 英行, 酒向 晃弘
    2023 年 84 巻 5 号 p. 719-725
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,女性.腹部膨満,経口摂取不良を主訴に当院受診となった.腹部CTで胃の著明な拡張と小腸の脱出を伴った複合型食道裂孔ヘルニアを認めたが,脱出小腸に拡張は認めなかった.上部消化管造影検査では,小腸が幽門部を腹側から乗り越えて縦隔内に脱出していた.小腸が脱出した複合型食道裂孔ヘルニア,脱出小腸の圧迫による幽門狭窄と診断し,腹腔鏡手術を施行した.術中所見では,横行結腸間膜の異常裂孔より小腸が頭側に脱出しており,結腸間膜に包まれた小腸が食道裂孔に嵌入していた.横行結腸間膜裂孔ヘルニアを合併した複合型食道裂孔ヘルニアと診断し,脱出小腸を還納してから,食道裂孔ヘルニアと横行結腸間膜裂孔ヘルニアをそれぞれ修復した.今回われわれは,食道裂孔ヘルニアに横行結腸間膜裂孔ヘルニアを合併した稀な症例を経験したので報告する.

  • 木村 美咲, 貝羽 義浩, 川嶋 和樹, 鈴木 翔輝, 吉田 茉実, 皆瀨 翼
    2023 年 84 巻 5 号 p. 726-732
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は73歳,女性.2017年2月の冠動脈バイパス術・大動脈弁置換術後,抗血栓薬を内服していた.同年10月に貧血がみられ,内視鏡で胃前庭部毛細血管拡張症(gastric antral vascular ectasia:GAVE)からの出血を認めた.アルゴンプラズマ凝固法(argon plasma coagulation:APC)で止血したが,2020年までに出血を繰り返しAPCを20回施行した.同年6月に冠動脈バイパス血流低下により,経皮的冠動脈インターベンションと抗血小板薬2剤併用を要した.腎機能低下のため透析導入も検討されており,GAVEからの再出血リスク増大のため手術適応とした.同年8月に腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行し,術後経過は良好で術後11日目に退院した.退院後は出血なく経過している.腹腔鏡下幽門側胃切除術は安全に施行可能となってきており,GAVEに対して早期の手術治療を検討すべきと考えられた.

  • 星野 夏希, 田中 優作, 山本 淳, 薮野 太一, 望月 康久
    2023 年 84 巻 5 号 p. 733-737
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,男性.5年前に胃軸捻の入院歴があり,保存的加療で軽快していた.今回,嘔吐と上腹部痛で前医に救急搬送され,胃軸捻と診断された.胃管留置による減圧で症状改善なく,2時間後の腹部骨盤造影CTの再検では上腹部にfree airが出現し,軸捻は解除されていた.胃軸捻に続発した胃穿孔の診断で,当院へ転院搬送された.腹部は板状硬で,上腹部に圧痛を認めた.緊急手術所見では,腹腔内に混濁した血性腹水を認め,胃体中部後壁に径10mmの穿孔を認めた.胃穹窿部の固定は不良で胃脾間膜が伸長し,胃穹窿部が尾側へ移動することで容易に胃前庭部が穹窿部の頭側へ軸捻した.軸捻による屈曲部に一致した穿孔部位を縫合閉鎖し,再発予防目的に胃穹窿部を左横隔膜に縫合固定した.術後経過は良好で,第10病日に軽快退院した.胃穿孔をきたした成人の特発性胃軸捻は稀で,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 東原 朋諒, 田中 則光, 髙橋 優太, 橋田 真輔, 大橋 龍一郎, 小野田 裕士
    2023 年 84 巻 5 号 p. 738-744
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は77歳,女性.7年前に早期胃癌に対して内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施行した.定期フォロー中,CA19-9の上昇を認めた.腹部造影CTで胃幽門前庭部大彎側に25mm大の腫瘤を認め,PET-CTでは同部位にFDG集積を認めた.上部消化管内視鏡検査では明らかな粘膜病変は認めず,超音波内視鏡で腫瘤は胃壁外に存在し,針生検で腺癌と診断された.既往の胃癌組織像とは形態が異なっていたが,病歴より胃癌ESD後リンパ節再発の可能性を考慮し,外科的切除の方針とした.術中所見では,胃幽門輪近傍に腫瘤を認め,幽門側胃切除術,D2リンパ節郭清を行った.病理組織学的検査では,病変は粘膜下層から漿膜下層に存在し,粘膜面への露出はなく,腫瘍の周囲には異所性膵が認められ,腫瘍辺縁の膵管内に上皮内癌を認めた.以上より,異所性膵由来の腺癌と診断した.胃異所性膵癌の報告例は比較的稀であり,若干の文献的考察を含めて報告する.

  • 杉山 宏和, 木許 健生
    2023 年 84 巻 5 号 p. 745-751
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,男性.下血を主訴に救急搬送され,高度の貧血を認めた.腹部造影CTで,小腸に出血を伴う構造物を指摘され,緊急に腹腔鏡手術を実施した.明らかな器質的病変を特定できず,その後の血管造影検査でも出血点は特定困難であった.3日後に再度下血がみられ,貧血が進行した.小腸内視鏡の実施が困難であったので,経鼻イレウス管留置による,出血部位の特定方法を試行した.イレウス管の先進により,排液が血性に変化したことが確認できた後に緊急手術を施行した.イレウス管先端から小切開し,消化管内視鏡で観察し出血源を特定できた.

    出血源を特定できない消化管出血は,OGIB (obscure gastrointestinal bleeding)と定義され,小腸出血が多い.病状に応じた検査が必要となるが,小腸内視鏡を実施できないケースでは,出血源の特定は困難となる.本症例では日常的に使いやすい,イレウス管を用いることで,小腸出血の部位を特定することができた.イレウス管を用いた出血源の特定方法は,報告例が少なく有用性の高い方法と考え,今回報告する.

  • 桒原 尚太, 青木 佑磨, 市村 龍之助, 真名瀬 博人, 平野 聡
    2023 年 84 巻 5 号 p. 752-757
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    妊娠中の急性虫垂炎に対する腹腔鏡下虫垂切除術の報告が散見されてきたが,妊娠後期の症例に対するものは少ない.患者は妊娠30週の妊婦で,急性虫垂炎の診断で当科に紹介された.術中体位とポート配置を工夫し,子宮に影響を及ぼすことなく安全に手術を完遂できた.自験例では妊娠後期の症例に対しても腹腔鏡下手術が有用である可能性が示唆されたが,穿孔性虫垂炎や膿瘍形成をきたすような高度炎症例においては,増大した子宮によって術野の確保が困難となり,腹腔内洗浄による感染コントロールが不十分となることが危惧される.症例によっては危険回避のため開腹手術へ移行することを念頭に置き,腹腔鏡下手術を遂行することが望ましいと考える.

  • 郷津 陽平, 宮本 剛士, 西田 保則, 関 宣哉, 小田切 範晃, 小豆畑 康児, 田内 克典
    2023 年 84 巻 5 号 p. 758-763
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    術前診断した虫垂捻転の1例を経験したので報告する.症例は55歳,男性.心窩部の違和感を主訴に当院救急外来を受診した.来院時,腹部に圧痛は認めなかった.血液検査で炎症反応の上昇は認めなかったが,腹部造影CTで虫垂根部に著明な口径変化を伴う嚢胞性病変を認めたため,虫垂捻転と診断し緊急手術を行った.開腹すると根部で180度捻転し黒色調となった虫垂を認め,捻転解除後に虫垂切除術を施行した.術後経過は良好であった.

    虫垂捻転は稀な疾患であり術前診断も困難であるが,早期から穿孔をきたしうる疾患であり,虫垂炎の除外診断として常に念頭に置き,捻転を示唆する特徴的な所見を見逃さないことが必要である.

  • 久野 真史, 横井 亮磨, 田島 ジェシー雄, 木山 茂, 高橋 孝夫, 松橋 延壽
    2023 年 84 巻 5 号 p. 764-768
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は44歳の女性で,1年前から臍部の皮下腫瘤を自覚しており近医にて低エコー腫瘤像を指摘され,精査加療目的に当科へ紹介となった.当初,尿膜管嚢胞と考え精査目的に腹部CTを施行したところ,虫垂に多房性嚢胞性腫瘤を認めた.臍部粉瘤および低異型度虫垂粘液性腫瘍(low-grade appendiceal mucinous neoplasm;以下,LAMNと略記)の術前診断で腹腔鏡手術を行った.虫垂腫瘍は一部破裂しており,回盲部周囲に限局したゼリー様腹水の貯留を認めた.腹水の散布を防ぐ目的に周囲腹膜で覆うような形で回盲部切除を行った.病理所見ではLAMNおよび臍部嚢胞を含め腹膜偽粘液腫(pseudomyxoma peritonei;以下,PMPと略記)の診断であった.術後補助化学療法を施行し,現在術後1年4カ月無再発経過中である.極めて稀な同時臍転移を伴うPMPの1例を経験したので,文献的考察を含め報告する.

  • 吉田 茉実, 手島 仁, 千場 良司, 神谷 蔵人, 臼田 昌広, 宮田 剛
    2023 年 84 巻 5 号 p. 769-772
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は54歳,女性.10歳台で腟欠損症に対しS状結腸間置による造腟術を施行されていた.潰瘍性大腸炎の加療中,大量出血をきたし緊急手術の方針とし,大腸全摘術,子宮・右卵巣・腟(間置結腸を含む)合併切除術,永久回腸人工肛門造設術を施行した.間置結腸については出血を認めていたこと,また,S状結腸動脈枝の温存が緊急大腸全摘の際に困難であったことから,合併切除を行った.造腟症術後の潰瘍性大腸炎に対する大腸全摘術・間置腸管合併切除の報告は本邦ではまだなく,文献的考察を報告する.

  • 菅谷 慎祐, 中田 岳成, 中村 健也, 渡邉 隆之, 沖田 浩一, 春日 好雄, 上原 剛
    2023 年 84 巻 5 号 p. 773-778
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は78歳の女性で,肝彎曲部の横行結腸癌に対して結腸右半切除術を施行した.組織学的に低分化型腺癌,RAS変異陰性,BRAF変異陽性,MSI-Hであった.剥離断端陽性であったため,術後4週からmFOLFOX6を施行した.3コース終了後,造影CTで膵頭部腹側に50mm,右大腰筋腹側に尿管を巻き込む42mm大の再発を指摘された.既往歴にBasedow病があるため,pembrolizumabによる免疫関連有害事象としての甲状腺中毒症の危険性を考慮した結果,二次治療としてencorafenib+binimetinib+cetuximab療法を開始した.9コース終了後に腫瘍は軟部陰影を残すのみで消失し,画像上完全奏効が得られた.一方,infusion reactionのため同レジメンの継続が困難となった.治癒切除可能と判断し膵頭十二指腸切除術および右尿管合併切除再建を施行したところ,病理組織学的に腫瘍細胞は認めなかった.BRAF変異大腸癌に対する化学療法では,病理学的に完全奏効と判断された報告は本邦初と思われるため報告する.

  • 富田 祐輔, 吉川 祐輔, 鈴木 慶一, 橋本 健夫, 尾曲 健司, 田村 明彦
    2023 年 84 巻 5 号 p. 779-783
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は49歳,男性.腹痛を主訴に当院を受診し,造影CTでS状結腸に複数の憩室と周囲脂肪織濃度上昇を伴う不整な壁肥厚を認め,近傍に膿瘍形成を伴っていた.また,左尿管は病変部で途絶しており,左水腎症を認めた.S状結腸憩室穿通による腹腔内膿瘍の診断に至り,緊急で人工肛門造設術を施行し,待機的腹腔鏡下手術を施行する方針とした.手術は,左尿管に蛍光尿管カテーテルを留置し,腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した.後腹膜側は高度な線維化を伴っていたため,尿管を視認することは困難であったが,近赤外光観察を併用することで尿管の走行が明瞭に描出され,確実に尿管を温存することが可能であった.尿管損傷が危惧される症例では,予防的に尿管カテーテルが留置されてきたが,視認性に乏しいことが課題であった.近年,視認性をより向上させるデバイスとして蛍光尿管カテーテルが注目されている.自験例の手術所見に文献的考察を加えて報告する.

  • 青山 紘希, 松本 寛, 山内 麻央, 甲田 祐介, 飯田 拓, 岡部 寛
    2023 年 84 巻 5 号 p. 784-790
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は79歳,女性.心窩部痛と嘔吐を主訴に当院を受診し,十二指腸浸潤を伴う閉塞性上行結腸癌cT4b(十二指腸)N1bM0,Stage IIIcと診断した.浸潤範囲が広く根治のためには膵頭十二指腸切除の併施を要すると考え,大腸ステント留置による減圧加療を行い一度自宅退院としたうえで,待機的に亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を併施した結腸右半切除術を施行した.手術時間は317分,出血量は170mlであった.術後19日目に退院となり,術後3カ月現在,明らかな再発転移所見は認めていない.十二指腸浸潤を伴う閉塞性大腸癌に対する術前ステント留置は,侵襲度の高い根治術に耐えうるADLおよび栄養状態を確保するうえで有用である可能性が示唆された.

  • 原田 宗一郎, 太田 博文, 宗方 幸二, 池嶋 遼
    2023 年 84 巻 5 号 p. 791-794
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    S状結腸憩室炎は稀に結腸膀胱瘻をきたし,治療に難渋する.今回,S状結腸憩室炎が子宮広間膜を介してS状結腸膀胱瘻をきたした症例を経験した.症例は49歳,女性.8カ月前から繰り返す排尿時痛のため,近医を受診した.CTで膀胱内にガス像を認め,結腸膀胱瘻が疑われ,当科に紹介された.大腸内視鏡検査での造影検査後の単純CTで膀胱から両側腎盂まで造影され,瘻孔の存在が示唆されたため結腸膀胱瘻の診断で腹腔鏡下手術を行うこととした.術中所見ではS状結腸が炎症性に子宮広間膜の左側の背側に膿瘍を形成し,これを介して膀胱にも高度に癒着していた.これらの癒着剥離後の膀胱からのリークテストでは陰性であったため膀胱の修復は行わず,S状結腸部分切除術のみを施行した.術後経過は良好で11日目に退院した.術後2年再燃は認めていない.S状結腸憩室炎が子宮広間膜を介して結腸膀胱瘻をきたした症例は,極めて稀と考えられた.

  • 吉田 祐, 吉村 昴平, 中右 雅之
    2023 年 84 巻 5 号 p. 795-800
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は66歳,男性.閉塞性大腸炎を伴う局所進行S状結腸癌に対し,横行結腸で双孔式人工肛門を造設し,術前補助化学療法(FOLFOXIRI+bevacizumab療法)を施行した.腹腔鏡下S状結腸切除術を施行したが,人工肛門は閉鎖しなかった.術後補助化学療法(mFOLFOX6療法)を施行し,S状結腸切除より5カ月後,人工肛門閉鎖前に施行した注腸検査で吻合部の完全閉塞が確認された.手術による吻合部切除や内視鏡レーザーによる高周波切開法が治療選択肢に挙がったが,最も低侵襲と思われる磁石圧迫吻合部狭窄解除術(第2山内法)を施行した.肛門からの磁石の逸脱,吻合部の良好な開存を内視鏡下に確認後,5日目に人工肛門閉鎖術を施行した.術後の排便状況は良好であり,術後1年が経過しているが,追加の拡張術は必要とせず,吻合部の開通は保たれている.

    本法は下部消化管術後の吻合部完全閉塞において,極めて侵襲が少なく,有効な手段であると考えられた.

  • 川口 雄太, 永川 寛徳, 入江 準二, 千綿 雅彦, 谷口 堅
    2023 年 84 巻 5 号 p. 801-805
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    腸管アミロイドーシスは,血管壁や腸管壁へのアミロイド蛋白の沈着により組織の脆弱性をきたす稀な病態である.症例は66歳,男性.突然の下腹部痛と下血を主訴に当院へ救急搬送され,直腸間膜内出血の診断で緊急手術とした.術中所見では,直腸間膜内血腫と直腸Rb後壁に約3cmの裂創を認め,裂創部と血腫を含めたHartmann手術を施行した.摘出標本は肉眼的に正常粘膜を呈し,病理組織学的所見では腸管全層の血管壁にアミロイド沈着を認め,腸管アミロイドーシスと診断した.本症例では,脆弱性をきたした間膜内血管が破綻して血腫形成・直腸穿孔に至ったと考えられた.腸管アミロイドーシスは腸間膜出血のリスクになるとされるが,海外の文献も含めて過去の報告は小腸間膜出血の2例のみだった.原因不明の腸間膜内出血や穿孔では,腸管アミロイドーシスも鑑別に含み診療にあたるべきである.

  • 内藤 慶, 亀高 尚, 清家 和裕, 牧野 裕庸, 深田 忠臣, 秋山 貴洋
    2023 年 84 巻 5 号 p. 806-811
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は86歳の女性で,急性胆嚢炎および急性胆管炎の診断で前医に入院後,胆道出血を繰り返し加療目的に当科を紹介受診し,造影CTおよび血管造影検査で門脈血栓症を伴う肝内仮性動脈瘤破裂の診断となった.再出血予防のため肝動脈瘤に対する血管内治療が考慮されたが,門脈および肝動脈血流不全による肝虚血の危険性が危惧されたため施行せず,十分なinformed consentを得たうえで左肝切除の方針とした.術後は切離面に膿瘍形成を認めたが,抗菌薬投与およびドレナージにより軽快し,術後第49病日に退院した.肝動脈瘤は発生頻度が低く,破裂した症例は致死的な経過をたどるため,適切な治療方針の選択が求められる.近年は血管内治療が広く施行されているものの,門脈血栓症を合併している肝動脈瘤については肝動脈閉塞に伴う肝虚血のリスクがあり,明確な治療方針は定まっていない.左肝切除を行った門脈血栓症を伴う肝内仮性動脈瘤破裂の1例を経験したので報告する.

  • 山田 永徳, 千代田 武大, 阿部 学, 二宮 理貴, 牧 章, 別宮 好文
    2023 年 84 巻 5 号 p. 812-819
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は74歳,男性.左尿管癌に対して化学療法中,心窩部痛を主訴に来院した.来院時,炎症反応高値,胆道系酵素上昇・ビリルビン高値を認め,単純CTで臍静脈索の拡張,肝円索の全長にわたる腫大と内部膿瘍形成を認め,肝円索膿瘍と診断した.当初保存的加療を選択したが,炎症反応が遷延し,CT上膿瘍の拡大を認めたため,手術を行った.手術では,炎症性に肥厚した肝円索を切除し,臍静脈索断端を縫合閉鎖し,腹腔内にドレーンを留置した.膿瘍の細菌検査でKlebsiella pneumoniaeを検出した.病理組織検査では臍静脈壁の肥厚と内腔の閉塞,周囲脂肪組織への炎症細胞の浸潤を認めた.術後麻痺性イレウスを生じたが,膿瘍の再燃はなく,術後31日目に退院した.肝円索膿瘍は急性腹症の原因となる非常に稀な疾患であり,化学療法中に起きた例は過去に報告例がなく,自験例は貴重な症例であったため報告した.

  • 杉生 久実, 村田 年弘, 川真田 修, 今田 孝子, 眞壁 幹夫, 相島 慎一
    2023 年 84 巻 5 号 p. 820-824
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は71歳,男性.以前より胆石の指摘があり,術前の腹部MRIで胆石症と胆囊腺筋症の術前診断となり,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行.切除標本で25mm大の粘膜下腫瘤様の隆起を認め,割面で多房性の囊胞性病変と判明.病理組織学的検査で,胆囊腺筋症と胆囊壁内に限局した粘液性上皮による多房性の囊胞性病変を認めた.囊胞上皮はMUC5ACとMCU6が部分的に陽性で胃型粘液の特徴を示し,一部でlow gradeの異型上皮を認めた.自験例は胆囊壁内に限局した壁内発育型の囊胞性病変であり,形態的にintramural multicystic mucinous neoplasm with low-grade intraepithelial neoplasiaと表現した.まれな病理像であったため報告する.

  • 坂下 勝哉, 高山 祐一, 高橋 崇真, 金岡 祐次, 前田 敦行
    2023 年 84 巻 5 号 p. 825-830
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は62歳,男性.主訴は便潜血陽性.2年前に他院でメッシュプラグ法による左鼠径ヘルニアの手術歴あり.下部消化管内視鏡検査でS状結腸内腔にプラグと思われる腫瘤を認め,腹部CTでは腹壁と連続してS状結腸に壁肥厚を伴う軟部陰影を認めた.プラグのS状結腸穿通の診断で腹腔鏡下手術を施行した.術中所見ではプラグがS状結腸に穿通しており,プラグを含め腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した.オンレイメッシュは切除せず,後壁補強は行わなかった.術後12日で軽快退院し,術後1年現在,ヘルニア再発を認めていない.比較的稀なメッシュプラグのS状結腸穿通に対し,腹腔鏡下に切除しえた1例を経験した.感染を伴わない症例においては,腹腔鏡下にプラグと穿通腸管の切除が可能であり,後壁の補強は不要と考えられた.

  • 秋本 修志, 尾上 隆司, 鈴木 崇久, 首藤 毅, 清水 洋祐, 田代 裕尊
    2023 年 84 巻 5 号 p. 831-835
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    腎移植後の鼠径ヘルニア根治術では,腹膜前腔を走行し膀胱と吻合している移植腎尿管の損傷リスクを避けるために腹膜前腔の剥離操作が加わらない方法が有用であるとされている.今回,われわれは生体腎移植後2年でグラフト側に鼠径ヘルニアを生じLichtenstein法にて修復を行った1例を経験した.症例は63歳,男性.2年前に末期腎不全にて生体腎移植術を施行.定期受診にて右鼠径ヘルニアを認め,Lichtenstein法にてポリプロピレンメッシュを挿入し修復した.術後4日目に経過良好にて退院.以後,外来フォロー中であるが腎機能悪化はなく,ヘルニアの再発もなく経過している.腎移植患者の4.9%にグラフト側の鼠径ヘルニアを発症したとの報告もあり,腎移植後の鼠径ヘルニア手術に関する報告は直近12年間で29例あり,これらの文献的考察を加え報告する.

  • 岩田 力, 渡邊 真哉, 古田 美保, 會津 恵司, 小林 真一郎, 佐藤 文哉
    2023 年 84 巻 5 号 p. 836-840
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/30
    ジャーナル フリー

    今回われわれは,超高齢者に生じた横行結腸が嵌頓した大腿ヘルニアの1例を経験したので報告する.症例は92歳の女性で,2022年8月に食思不振を主訴に他院を受診し,大腿ヘルニア嵌頓と診断され当院へ紹介となった.腹部単純CTで横行結腸が右鼠径部に嵌頓し,同部より口側腸管が拡張していた.用手還納を試みたが不可能で,同日に緊急手術を施行した.全身麻酔下に大腿法によるアプローチで膨隆部の周囲を剥離すると,鼠径靱帯より尾側にヘルニア囊が存在したために大腿ヘルニアと診断した.ヘルニア囊を開放すると,内容物は横行結腸および大網であった.壊死は認めなかったため腹腔内に還納しようとしたが不可能で,下腹部正中切開も追加した.ヘルニア囊は高位結紮を行い,正中切開創から腹膜前腔にフラットメッシュを留置してCooper靱帯に固定した.術後に漿液腫を認めたが,術後第21病日に自宅へ退院となった.

編集後記
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