日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
Print ISSN : 1345-2843
ISSN-L : 1345-2843
82 巻, 3 号
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特別寄稿《第82回総会 総会特別企画 総括》
特別寄稿《第82回総会 シンポジウム 総括》
症例
  • 川又 あゆみ, 曳野 肇, 槇野 好成, 村田 陽子, 高橋 卓也, 三浦 弘資
    2021 年82 巻3 号 p. 497-502
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は52歳,女性.12年前に穿刺吸引細胞診で左12時方向に17mm大の乳腺線維腺腫と診断された.今回,左乳房の違和感を自覚し受診した際,精査の結果,右乳癌を認めた.左12時方向の既知の腫瘤は形態的に変化なかったが,超音波検査で流入血流の増加があり,針生検を施行したところ,乳腺線維腺腫内の浸潤性小葉癌と診断された.両側乳癌の診断で右乳房部分切除術+右腋窩リンパ節郭清レベルII,左乳房部分切除術を施行した.術後病理検査で,右乳癌はpT1bN1M0 Stage IA,左乳癌は12mm大の乳腺線維腺腫内に留まる7mm大の浸潤性小葉癌であった.乳腺線維腺腫内に乳癌が合併することは稀であるが,本症例のように浸潤癌が合併することもある.本邦で報告された乳腺線維腺腫内乳癌をもとに細胞診,組織診,切除生検すべき症例について考察する.

  • 津福 達二, 最所 公平, 今村 真大, 田口 順
    2021 年82 巻3 号 p. 503-506
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は88歳,女性.右乳房D領域の痛みとしこりを自覚し来院した.精査の結果,浸潤癌と診断し,乳房温存手術を行った.最終的な病理組織診断で,cancer cellは甲状腺濾胞に類似した小濾胞構造をとるmicrocystic patternが主体で,分泌物を貯留する管腔様構造をなすtubular patternもみられ分泌癌と診断された.分泌癌は,当初若年性乳癌として報告されたが,現在は高齢者の報告例も散見される.組織型に準じた治療法は確立していないが,比較的予後良好とされ,自験例では通常の乳癌診療に準じて治療を行った.

  • 南 盛一, 吉川 大太郎, 河野 透
    2021 年82 巻3 号 p. 507-511
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    乳腺基質産生癌は全乳癌の約0.1%と比較的稀な組織型である.その多くがトリプルネガティブ乳癌であり,術後2年半以内の再発が多く,5年生存率は通常の乳癌に比べて悪いとされる.本邦では,これまで術前化学療法を行った報告はほとんどなかったが,今回,術前化学療法が奏効し手術を施行した1例を経験したので報告する.症例は45歳の女性.右乳房腫瘤を自覚し放置していたが,徐々に増大し痛みも伴うようになり,当科を受診した.右乳房CC'区域に13cm大の腫瘤を認め,針生検で基質産生癌と診断された.PET-CTでは右腋窩リンパ節への集積を認めたが,遠隔転移は認めなかった.術前化学療法としてFEC療法を6回,paclitaxelを12回施行したところ腫瘍は縮小し,右乳房部分切除術および腋窩リンパ節郭清を行うことが可能となった.術後補助療法として温存乳房への放射線照射を施行し,経過観察中である.

  • 藤井 雅和, 野島 真治, 金田 好和, 須藤 隆一郎, 田中 慎介
    2021 年82 巻3 号 p. 512-519
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は75歳の女性で,貧血および右乳房腫瘤の精査目的で当院に紹介となった.右C区に約4cmの乳癌を認めたが,遠隔転移は認めなかった.骨髄穿刺は検体不適正であり,右乳房切除術+腋窩リンパ節郭清を施行した.Invasive lobular carcinoma,triple negativeであった.術後の骨髄生検で乳癌の骨髄転移と診断したため,T2,N1,M1(MAR),stage IVとなり,術後の骨シンチグラフィ検査では広範囲の骨髄転移を示唆する所見であった.治療はエピルビシン+エンドキサン®→毎週パクリタキセルを選択した.骨髄転移はDICを併発して急速な転機をとる予後不良な病態であることが多いとされ,早急な治療介入が必要と思われる.また,乳癌において貧血や血小板減少などを伴う際は,骨髄転移の可能性を考慮しておく必要がある.しかし,骨髄転移に対する化学療法のレジメンについてはまだ明確なものは示されていない.

  • 岡野 高久, 藤原 克次, 夜久 均
    2021 年82 巻3 号 p. 520-524
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,男性.鎖骨下静脈経由でペースメーカ植込み術(DDD)を施行した.数年前より易疲労感と労作時息切れが出現し増悪した.心エコーで心室リードの三尖弁後尖への干渉,三尖弁輪拡大,右室拡大,三尖弁逆流IV度を認めた.23年前に留置した心室ペースメーカリードによる重度三尖弁閉鎖不全症と診断した.手術所見では,心室リードが三尖弁後尖と後乳頭筋に高度に癒着し,三尖弁の可動を著しく制限していた.弁変形が強く形成術は困難と判断した.リードを損傷しないように鋭的に剥離し,リードを人工弁縫着輪外で前尖と中隔尖の交連部に移設固定する方法により,リードを切断することなく温存して三尖弁置換術を行った.また,術前肝うっ血や肝機能障害を認めず,かつ左心機能が維持されている症例は良好な予後が期待できるので,定期的心エコーで経過観察し,時期を逸することなく重症化する前に手術を行うことが重要である.

  • 設楽 将之, 森山 悟
    2021 年82 巻3 号 p. 525-528
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は71歳,男性.4年半前に左肺癌にて左上葉切除術を施行.経過観察中,右肺上葉に経時的に増大する陰影が出現,肺癌が疑われた.術前の造影CTにてV1+2+3が上大静脈に流入する部分肺静脈還流異常症(partial anomalous pulmonary venous connection:PAPVC)を認めた.PAPVCは切除予定肺葉に存在し,自覚症状なく,肺体血流比(Qp/Qs)も1.7であり許容範囲と判断,手術による診断治療の方針とした.胸腔鏡下に右上葉切除術を施行.術後,若干の呼吸リハビリテーションを要したが,手術後13日目に退院.術後の心臓超音波検査ではQp/Qsは1.1と低下し,右心系の容量負荷の改善を認めた.今回,左上葉切除後で同一肺葉にPAPVCを伴う右上葉肺癌の切除例を経験した.比較的稀な先天奇形であるが,非切除肺葉に存在する場合,術後に右心不全をきたすことがある.肺切除においてはPAPVCを念頭に置き,術前の画像診断を行う必要があると考えられた.

  • 松田 由美, 原 幹太朗, 永野 晃史
    2021 年82 巻3 号 p. 529-533
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は54歳,肥満(2度)男性.5年前より検診で右横隔膜挙上を指摘されていた.呼吸困難を主訴に受診し,胸腹部造影CTで右胸腔内に小腸,横行結腸,大網の脱出を認め,横隔膜ヘルニアと診断した.造影CT後より,咳発作を認め,呼吸不全となった.入院の上,人工呼吸管理とするも呼吸状態は改善を認めず,手術を施行した.開胸すると,右横隔膜腱中心に約10cm大の欠損を認め,脱出臓器は肝右葉,胆嚢,小腸,横行結腸,大網であった.脱出臓器が大量であり,大網切除と胆嚢摘出にて容積減量後,脱出臓器を還納し,ヘルニア門にメッシュを固定して手術を終了した.術後3年経過した現在も再発を認めていない.呼吸不全に至り,人工呼吸管理を要した成人特発性横隔膜ヘルニアの1手術例を経験したので報告する.

  • 田中 秀治, 今井 寿, 東 敏弥, 村瀬 勝俊, 酒々井 夏子, 吉田 和弘
    2021 年82 巻3 号 p. 534-541
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は53歳,女性.心窩部痛の精査で施行した上部消化管内視鏡で,幽門から十二指腸球部に全周性3型腫瘍を認め,生検でneuroendocrine carcinoma (NEC),small cell typeと診断された.腹部CTでは幽門周囲と肝門部に多発リンパ節転移を認め,術前化学療法irinotecan + cisplatin (IP)療法を開始したが,1コース後に幽門狭窄をきたしたため,内視鏡的ステント留置を行った.2コース後の評価でリンパ節は49%縮小し,幽門側胃切除術,D2+17リンパ節郭清,Roux-en Y再建を施行した.病理組織学的診断はNEC,small cell type,ypT3 (SS),ypN2,ypM0,ypStage IIIA,化学療法の効果判定はGrade 1bであった.術後補助化学療法としてIP療法を5コース追加し,術後20カ月無再発生存中である.

  • 高田 厚, 河原 正樹, 小河 晃士, 叶多 寿史, 河合 宏美, 井上 泰
    2021 年82 巻3 号 p. 542-546
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    70歳,男性の3型進行胃癌に対し幽門側胃切除を施行.術中に認めた肝左葉被膜表面の1mm大の小結節を切除,組織学的には胃癌腹膜転移であった.術後11年目のCTで複数の結節性病変を右横隔膜上に認め,胸腔鏡下の生検により胃癌の再発による胸膜転移と診断した.胃癌腹膜転移切除後の晩期再発部位として,胸膜転移単独での再発は極めて稀である.再発経路も含め,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 古田 隆一郎, 石橋 雄次, 柳橋 進, 吉村 俊太郎, 森田 泰弘, 今村 和広
    2021 年82 巻3 号 p. 547-551
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は54歳,男性.IgA血管炎に対してステロイド投与中に右下腹部痛が出現した.腹部CTで腹腔内遊離ガスを認め消化管穿孔の診断となり,緊急手術の方針とした.術中所見で終末回腸に多発する憩室を認めた.そのうちの一つに穿孔所見を認めたため,回盲部切除術,回腸人工肛門造設術を施行した.病理組織学的所見では終末回腸に多発する真性憩室を認め,いずれも粘膜筋板,固有筋層を伴う真性憩室であった.今回,穿孔性腹膜炎により緊急手術を要した小腸多発真性憩室症の1例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 松田 直樹, 矢野 匡亮, コルビン ヒュー俊佑, 髙橋 優太, 橋田 真輔, 大谷 弘樹
    2021 年82 巻3 号 p. 552-556
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,男性.腹痛,嘔吐を主訴に救急搬送された.腹部CTで腹腔内膿瘍とそれに伴う腸閉塞を認め,CTガイド下膿瘍ドレナージにより軽快した.後日施行した腹部CT所見で魚骨穿孔による腹腔内膿瘍が疑われた.4カ月後に腹痛,発熱を主訴に当科外来を受診し,遺残する魚骨を原因とする膿瘍の再燃と診断した.魚骨摘出と穿孔部を含む腸管の部分切除術を目的に,腹腔鏡下手術を施行した.膿瘍内の魚骨を摘出し,穿孔部を含む腸管の部分切除術を施行した.その後再燃なく経過している.

    魚骨穿孔例において魚骨を摘出せずに保存的加療で軽快した場合,遺残する魚骨に再度感染する可能性があり,原則的には魚骨の除去が必要と考えらえた.本症例では腹腔鏡下手術の拡大視効果により小さな魚骨も発見しやすく,かつ強い炎症を伴った術野でも精緻な手術操作が可能であったと考えられた.

  • 村瀬 佑介, 小森 充嗣, 田中 千弘, 長尾 成敏, 河合 雅彦, 國枝 克行
    2021 年82 巻3 号 p. 557-562
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    64歳,男性.過去に右腎摘出術,肝部分・結腸右半切除術,左腎摘出術,虫垂炎の手術歴を認めた.腹痛と便秘を主訴に当院を受診し,術後癒着性イレウスの診断で緊急入院となった.入院後イレウス管を挿入され保存的に加療されるが,腸管の減圧効果は乏しく,イレウス管による小腸造影にて造影剤の通過障害も確認され,入院後13日目に手術加療となった.開腹すると,癒着により形成された索状物で絞扼され瘢痕狭窄をきたした回腸と,その肛門側に完全に離断された回腸を認め,これが閉塞起点と判断した.離断部に粘膜の露出は認めず,腹腔内は消化液による汚染は認めなかった.狭窄部から離断部を部分切除後,回腸-回腸の機能的端々吻合で再建した.術後経過は良好であった.絞扼腸管が壊死・穿孔することなく,閉塞・離断をきたしイレウスを発症することは極めてまれで,文献的考察を加え報告する.

  • 岩井 周作, 中澤 幸久, 榊原 巧, 加藤 哲也, 池田 耕介, 田邉 綾, 西川 恵理
    2021 年82 巻3 号 p. 563-570
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は28歳,男性.10年ほど前から臍周囲の腹痛を繰り返していた.持続する腹痛のため救急外来を受診,小腸閉塞の診断で入院となった.CTで拡張した小腸と臍右下に長径60mm大の嚢胞状構造物を認めた.卵黄腸管の遺残を強く疑い,待機的に開腹手術を施行した.下腹部正中創の直下に嚢胞を認め,臍部の壁側腹膜と強固に固着していた.さらに,嚢胞と回盲部から口側95cmの回腸を連続する索状物が小腸閉塞の原因となっていた.上腸間膜動脈に沿って腸間膜と嚢胞に連続する索状物も認めた.遺残のないよう嚢胞,索状物を切除した.Meckel憩室は認めなかった.嚢胞の病理組織学的所見では粘膜を含む消化管全層構造,異所性胃粘膜と異所性十二指腸粘膜を認めた.

    卵黄腸管遺残ではMeckel憩室が良く知られているが,それ以外の形態での遺残は稀である.今回,卵黄腸管嚢胞とそれに連続する索状物による腸閉塞症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

  • 山下 真司, 川村 幹雄, 橋本 清, 尾嶋 英紀, 伊藤 秀樹, 毛利 靖彦
    2021 年82 巻3 号 p. 571-576
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,男性.約1年前に他院で左前胸部脂肪肉腫に対して広範囲切除術を施行され,外来経過観察中であった.食思不振,間欠的な心窩部痛を主訴に当院を受診した.腹部単純CTでは,上行結腸肝弯曲部近傍に至る回腸の重積像を指摘された.先進部には腫瘍性病変の存在が疑われ,腹痛も高度であったため緊急手術の方針となり,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.摘出標本では,Bauhin弁より20cm口側に3cm大の隆起性病変を認め,同部位を先進部とした腸重積であった.術後経過は良好で,術後10日目に退院となった.病理学的には左前胸部脂肪肉腫と同様の組織像を呈し,同部位からの転移性病変と診断された.脂肪肉腫の小腸転移は少なく,さらに腸重積を生じる症例は稀であるため文献的考察を加え報告する.

  • 白川 賢司, 坂下 吉弘, 平原 慧, 久原 佑太, 久保田 晴菜, 豊田 和宏
    2021 年82 巻3 号 p. 577-585
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は45歳,男性.主訴は左下腹部痛,発熱であった.近医での血液検査,腹部超音波検査でS状結腸癌の穿通,多発肝転移が疑われ受診した.造影CT,大腸内視鏡検査,小腸造影検査で,小腸腫瘍,多発肝転移と診断した.空腸部分切除術を施行したところ,病理組織学的検査では小腸GISTと診断された.イマチニブの投与を開始したが,投与開始1カ月後のCTで多発肝転移は増大しており,ラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation:RFA)を追加した.RFAを計3回,14病変に施行した.初回RFA施行から2年6カ月の間,再発や新規肝転移は認めず,病勢制御が可能であった.初回術後2年,5年,7年,10年目に肝転移再発に対し肝切除術を施行した.その後,両側肺転移,右副腎転移,前縦隔再発,後腹膜再発,膵転移,後縦隔再発に対して,外科切除を施行した.初回術後13年6カ月経過しているが,無再発生存中で,イマチニブ投与を継続中である.小腸GIST同時性多発転移に対してRFAを含む集学的治療の有効性が示唆された.

  • 水戸 正人, 福成 博幸, 渡邊 明美, 林 哲二
    2021 年82 巻3 号 p. 586-590
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    非穿孔性急性虫垂炎に敗血症や播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation: 以下,DIC)を合併した報告は少ない.今回,われわれは急速な経過でDICに進展した非穿孔性急性虫垂炎の1例を経験した.症例は82歳,男性.午前3時より上腹部の違和感と悪心が出現し,同日夕方に近医を受診した.急性虫垂炎を疑われ,当院に紹介となった.腹部CTでは非穿孔性急性虫垂炎と診断したが,当院受診時に38℃台の発熱と数時間前の前医採血結果と比較して,白血球数と血小板数の低下,FDPの上昇を認めたため,DIC(急性期DIC基準 5点)と判断して同日緊急手術を施行した.術中所見および病理組織学的検査では穿孔を認めなかった.術後は敗血症性ショックを併発したが,集学的治療を行い軽快した.保存治療が選択されることもある非穿孔性急性虫垂炎だが,DIC,敗血症の原因疾患となり得ることを認識すべきであり,特に高齢者は急速な経過をたどることがあることに留意する必要がある.

  • 吉田 有佑, 加藤 貴光, 吉近 諒, 鳴坂 徹, 宮宗 秀明, 稲垣 優
    2021 年82 巻3 号 p. 591-594
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    結腸巨大憩室症は稀な疾患であり,その中でも真性憩室の割合は少ない.今回,腹腔鏡下に切除した結腸巨大真性憩室症の1例を経験したので報告する.

    症例は62歳,男性.右腹部痛を主訴に近医を受診し,腹部腫瘤を指摘された.精査加療目的に当院に紹介となり,腹部CTで上行結腸腹側に接する5cm大の腫瘤を認めた.腸管との連続性が疑われ,内部には糞便と思われる石灰化を伴っていた.下部消化管内視鏡所見では上行結腸に巨大憩室を認めた他に,小憩室を多数認めた.以上より,上行結腸巨大憩室症と診断し,待機的に腹腔鏡補助下結腸右半切除術を施行した.巨大憩室周囲は癒着が高度で炎症によるものと思われた.病理組織学的検査では筋層を有する憩室壁が確認され,真性憩室と診断された.細菌感染を伴っていたが,悪性所見は認めなかった.

  • 豊福 篤志, 伊波 悠吾, 是枝 侑希, 吉田 昂平, 日暮 愛一郎, 笹栗 毅和, 永田 直幹
    2021 年82 巻3 号 p. 595-603
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は85歳,女性.2019年10月,左顎下のリンパ節腫大を主訴とし,精査目的で当院形成外科に紹介受診.切除生検による病理診断の結果,悪性リンパ腫の診断となった.また,入院時に貧血を指摘され,精査の結果,同時性下行結腸癌の疑いの診断となり,後者の手術目的で総合外科へ紹介.11月,腹腔鏡下左半結腸切除術+D3リンパ節郭清術を施行した.切除標本の病理診断の結果,病変は中分化型管状腺癌(深達度T3)と漿膜下層の悪性リンパ腫の衝突腫瘍を形成しており,非常に稀なことに悪性リンパ腫の一部は腺癌を取り囲むような伸展形式を呈していた.郭清した所属リンパ節には腺癌の転移は認められなかったが,悪性リンパ腫細胞の増生を伴っていた.術後,悪性リンパ腫に対して全身化学療法を施行し,完全寛解となったが,5月に中枢病変が出現.緩和的放射線治療を施行し,2020年8月の時点で中枢神経症状も安定している.

  • 石毛 孔明, 里見 大介, 山本 海介, 福冨 聡, 野村 悟, 森嶋 友一
    2021 年82 巻3 号 p. 604-608
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は40歳,男性.早期S状結腸癌に対し内視鏡的粘膜切除を施行後,病理組織的診断結果から追加切除の適応で手術目的に当科へ紹介となった.術前画像検査で,盲腸および虫垂が右上前腸骨棘の高さに位置し,盲腸の盲端側が頭側に向いている腸回転異常の亜型を伴っており,右側結腸の大半はそのまま骨盤腔に下降しているのが確認できた.この形態をinverted cecumと表現している成書もある.腹部造影CTでは腹腔内遠隔転移やリンパ節腫大,SMV rotation signも認めず,型の如く腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した.腸回転異常症の亜型で,このような形姿をなす報告例は認めていないが,腹腔鏡下でもS状結腸より肛門側の手術であれば解剖学的に大きな問題はなく,安全に手術を施行しえた1例を経験したので報告する.

  • 柴 修吾, 飯野 弥, 須藤 誠, 原 倫生, 岡本 廣挙, 市川 大輔
    2021 年82 巻3 号 p. 609-615
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は81歳,男性.肛門の違和感を主訴に近医を受診し,肛門周囲Paget病の診断で当院に紹介となった.肛門管,直腸内に明らかな腫瘤や潰瘍形成を認めなかったが,生検の免疫染色の結果はCK20陽性,GCPFD15陰性であり,直腸肛門管癌のpagetoid spreadと診断し腹会陰式直腸切断術を施行した.病理組織検査では肛門腺内に腫瘍細胞を認め,さらに肛門管上皮から周囲皮膚へ印環細胞癌の進展を認めたことより,肛門腺より発生した肛門管癌のpagetoid spreadと診断した.自験例は肛門管内に明らかな腫瘤を形成しない肛門腺原発の肛門管上皮内癌がpagetoid spreadを呈した非常に稀な症例であり,若干の文献的考察を含め報告する.

  • 坂本 明優, 渡邊 常太, 大谷 広美, 河崎 秀樹, 佐川 庸, 前田 智治
    2021 年82 巻3 号 p. 616-622
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    肝孤立性壊死性結節はまれな肝内占居性病変であり,多発する可能性がある.今回,腹腔鏡下肝切除術を行い,肝多発性壊死性結節と診断した1例を経験したので報告する.症例は71歳の女性で,12年前に乳癌に対して乳房部分切除を施行され,無再発であった.経過観察目的のCTで肝両葉に最大径10mmの腫瘤を5個指摘された.腫瘤は超音波で境界明瞭な低エコー領域として描出され,PET-CTでFDG集積亢進を認めず,それぞれ同様の形態であった.経皮的肝生検では凝固壊死を認めるのみであり,確定診断には至らなかった.転移性肝癌との鑑別のため,腹腔鏡下肝部分切除・生検を施行し,肝孤立性壊死性結節と診断した.肝内多発病変はいずれも同様の形態であり,肝多発性壊死性結節と診断した.術後4カ月経過観察し,病変の増大は認めていない.肝孤立性壊死性結節の多発例は非常にまれであり,文献的考察を加えて報告する.

  • 久野 貴広, 中沼 伸一, 岡崎 充善, 大畠 慶直, 牧野 勇, 田島 秀浩
    2021 年82 巻3 号 p. 623-628
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,女性.肝左葉および腹側前区域に径24cmの肝血管腫を指摘された.血液検査で凝固異常を認め,Kasabach-Merritt症候群(以下KMS)の合併も指摘され,肝切除目的に紹介された.出血時間の延長,トロンビン-アンチトロンビン複合体(以下TAT)およびプラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体(以下PIC)の上昇を認めたことより線溶亢進型優位な播種性血管内凝固症候群(以下DIC)と判断し,周術期に抗線溶療法としてメシル酸ナファモスタットの持続点滴を行った.過去に報告されたKMS合併肝血管腫例と比較し,良好な出血コントロール下に拡大肝左葉切除術を施行した.術後に出血および血栓性合併症を認めず,経過良好で退院した.KMS合併肝血管腫に対して推奨されるDIC治療は定まっていない.線溶病態よりDICを病型分類して治療選択することは,KMS合併肝血管腫の肝切除において出血リスクを軽減する新たな取り組みとして貢献できる可能性がある.

  • 竹村 信行, 伊藤 橋司, 三原 史規, 清松 知充, 山田 和彦, 國土 典宏
    2021 年82 巻3 号 p. 629-634
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,女性.検診発見の肝細胞癌にて精査加療目的に当院紹介.腹部dynamic CTにおいて,下大静脈靱帯付着部近傍の肝S1 Spiegel葉に存在し下大静脈を背側より圧排する最大径60mmの肝細胞癌を認めた.肝予備能良好であり,径肝アプローチによる左肝切除を伴うSpiegel葉切除を行った.病理組織学的には単純結節型の中分化肝細胞癌であり,脈管侵襲無し,切除断端距離0mm,露出無し.現在,術後2年1カ月経過し無再発生存中である.下大静脈の背側に存在する肝細胞癌の報告は稀であり,下大静脈靱帯の考察とともに若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 水谷 哲之, 橋本 瑞生, 臼井 弘明, 小林 智輝, 西村 元伸, 坂口 憲史
    2021 年82 巻3 号 p. 635-641
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は56歳,男性.右季肋部痛を主訴に受診し,ダイナミックCTにて肝右葉に動脈相での早期濃染される直径84mmの腫瘍,および門脈右枝まで進展する門脈腫瘍栓を認めた.AFP・PIVKA-IIも高値であり肝細胞癌と診断,Vp3の門脈腫瘍栓を伴うため,ソラフェニブの投与が開始された.ソラフェニブ投与5カ月後のCTでは,肝右葉の腫瘍は直径50mmに縮小し,動脈相での早期濃染を認めなくなっていた.また,門脈右枝の腫瘍栓も縮小していた.しかし,重度の下痢のためソラフェニブの継続が困難となり切除を検討,病勢コントロールは得られており根治切除可能と判断し,肝右葉切除,門脈腫瘍栓摘出術を予定した.術中所見では門脈右枝内に腫瘍栓は認めず,肝右葉切除のみ施行した.病理結果では,主腫瘍および末梢の門脈内の腫瘍細胞はすべて壊死しており,病理学的完全奏効の状態であった.現在,術後2年3カ月を経過し,無再発生存中である.

  • 岩瀬 友哉, 神藤 修, 深澤 貴子, 松本 圭五, 坂口 孝宣, 鈴木 昌八
    2021 年82 巻3 号 p. 642-645
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は91歳,女性.体動不良を認めて救急搬送された.自発的な腹部症状の訴えはなく,血液検査で炎症反応と乳酸値の上昇を認めた.腹部造影CTでは,腫大した胆嚢がMorgagni孔に嵌入しており,胆嚢壁の造影効果は低下していた.Morgagni孔ヘルニア嵌頓に伴った壊疽性胆嚢炎の術前診断で緊急開腹胆嚢摘出術を施行した.

    上腹部正中切開で開腹すると,Morgagni孔に嵌頓した胆嚢を認めた.胆嚢は頸部で捻転し,漿膜面は黒色調に変化していた.嵌頓を解除して胆嚢を摘出し,Morgagni孔の開口部を縫縮してヘルニア門を閉鎖した.術後経過は良好で第21病日に転院となった.

    Morgagni孔ヘルニアは横隔膜ヘルニアの内の3%と比較的稀な疾患であり,Morgagni孔に胆嚢が嵌頓した症例の報告は稀である.高齢女性に発症リスクの高いMorgagni孔ヘルニアと胆嚢捻転が合併した症例を経験したため報告する.

  • 新木 健一郎, 五十嵐 隆通, 渡辺 亮, 久保 憲生, 播本 憲史, 調 憲
    2021 年82 巻3 号 p. 646-651
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は74歳,男性.遠位胆管癌に対して亜全胃膵頭十二指腸切除(SSPPD)を施行.術後より嘔吐を認め,胃排出遅延と診断し経鼻胃管を挿入した.その後,CT・上部消化管内視鏡・胃管からのチューブ造影によりBraun吻合の輸出脚側の狭窄に伴う閉塞性イレウスと診断し,保存的治療で改善が得られずSSPPD術後37病日に再手術を行った.手術所見は,胃空腸吻合とBraun吻合の腸間膜間隙の背側から輸出脚(肛門側)腸管が入り込み内ヘルニアを起こしていた.用手的に還納し,腸間膜間隙を縫合閉鎖し手術を終えた.術後合併症なく,術後16病日(SSPPD術後53病日)で退院.術後6カ月で腹部症状を認めない.今回われわれは,SSPPD術後の比較的早期に胃空腸吻合・Braun吻合に伴う内ヘルニアを経験した.SSPPD術後の胃空腸吻合とBraun吻合の腸間膜間隙に関連する内ヘルニアの文献的報告はなく,稀な病態と考え文献的考察を加えて報告する.

  • 中山 啓, 庄司 泰弘, 竹下 雅樹, 佐々木 省三, 吉川 朱実, 藤村 隆
    2021 年82 巻3 号 p. 652-657
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は73歳の女性で,4年4カ月前に直腸癌に対して腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術を施行し,外来で定期的に経過観察を行っていた.術後数カ月経過してから会陰部の膨隆に気が付いたが,様子をみていた.徐々に症状が増悪したため手術加療を希望した.会陰部は手術創を中心に柔らかく膨隆していた.CTで会陰部より皮下に突出する大量の小腸を認め,続発性会陰ヘルニアと診断した.全身麻酔下に腹腔鏡下会陰ヘルニア修復術を施行した.小腸を挙上すると,骨盤底筋群の高さに8×5cmのヘルニア門を認めた.癒着防止シート付きのポリプロピレンメッシュを用いてヘルニア門を閉鎖し,非吸収糸と非吸収性のタッカーを用いて骨盤底に固定した.さらに,会陰部の手術創を切開し,経会陰的にメッシュを追加で縫合固定した.術後1年10カ月経過したが,ヘルニアの再発は認めていない.

  • 貝羽 義浩, 米田 海, 皆瀬 翼, 福田 かおり, 関口 悟
    2021 年82 巻3 号 p. 658-662
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    症例は55歳,女性.約2年前にメルセデス切開で開腹手術を受けた.半年後正中に径5cmの腹壁瘢痕ヘルニアを認め,無症状のため経過観察していたが,その後半年で径7cmと拡大を認め,腹部膨満感と排便困難が出現したため手術を施行した.正中切開で開腹し,transversus abdominis muscle release を伴うposterior (後方) component separation法とheavyweightメッシュのsublay留置による腹壁瘢痕ヘルニア修復術を施行した.術後経過は良好で第7病日に退院した.Posterior component separation法は,筋膜切開が交差しており,複雑な腹壁瘢痕ヘルニアであるメルセデス切開後の腹壁瘢痕ヘルニアに対して有用な術式と考えられた.

  • 長谷川 雅彦, 中田 俊介, 小西 康信
    2021 年82 巻3 号 p. 663-667
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    膝窩静脈性血管瘤は,肺血栓塞栓症を発症した際に指摘されることが多い稀な疾患である.症例は77歳の男性.胸部に違和感が出現したため当院を受診した.心臓超音波検査で右心負荷所見を認めたため造影CTを行い,肺血栓塞栓症と診断した.塞栓源の検索を行うと,右膝窩静脈に血栓を有した径30mmの嚢状瘤を認めた.回収可能型下大静脈フィルターを留置した後手術を行った.手術は瘤を接線方向に切除し静脈を連続縫合にて閉鎖した.しかし,術後1日目に縫合部から出血したため対側下腿の大伏在静脈を用いてパッチ形成術を行った.術後1年が経過しているが,肺血栓塞栓症・静脈性血管瘤の再発は認めていない.本疾患は嚢状瘤が多く,手術では切除縫縮術が行われることが多い.しかし,病変の完全な切除が困難な場合や静脈の狭小化が避けがたい場合には,自家静脈を用いたパッチ形成術も柔軟に用いるべき再建術式であると考えている.

国内外科研修報告
編集後記
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