一、コッセル及びグロス兩氏の「ナフトール」黄を用ふる「アルギニン」の定量的分離法に食鹽鹽析法を創案加味し其有機鹽基沈澱能を幾分敷衍せり、特に「プトレツシン」,「カダベリン」兩「ヂアミン」に對する分離能頗る適確なるを以て該法を「ヂアミン」分離の一薪法とせり
二、新法の有機鹽基類に對する沈澱能を試驗したる結果、目下の所なほ「アルギニン」並びに前記「ヂアミン」以外に對し其收量至つて不結果にして云ふべき物無しと雖も色素が有機鹽基類と結晶性沈澱を造る事コッセル氏等によりて明かなるが故に、なほ此等分離の望無きに非す
三、新法に於ては、鹽基性醋酸鉛等を用ひて蛋白質等を除去する煩を必要とせず、色素の脱色容易なる事, 色素を囘收せば數度の使用に堪ふる事等の利點を有す
四、新法を實際に醸造物に應用し、醤油及溜醤油に於て「プトレッシン」を (爾者に於ける存在は既に證明せられてあり) 醤油、溜、田舍味噌, 仙臺味噌、入丁味噌, 納豆、清酒、腐敗酒より、「カダベリン」を分離檢出する事を得たり、(但し腐敗酒に於ける該鹽基の存在に關しては黒野博士の研究により既知の事實なり) 擱筆するに當り本問題を賜り屡ゝ有益なる御助言を辱ふしたる黒野博士、「ナフトール」黄の製造等に終始御助力ありし石田彰氏、冩眞作製に盡力せられたる掛川幾三郎氏の御厚志に對し深謝す
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