一、原料の利用率に於て十水よりも十一水、十一水よりも十二水が有利とされてゐるが本試驗に於ても九水仕込のものが窒素の利用率は高い、而して八水仕込の如き硬仕込の場合にも番水まで採れば窒素は五八%強まで醤油に利用される、尤も本實驗では生塗、火入塗を考慮に入れてゐないがその反面搾汁器も小型で垂歩合も尠く十六時以上の水壓で壓搾すればその利用率は尚向上すると思ふ、さすれば十二水仕込の場合の窒素の利用率五六乃至六〇% (河盛氏食糧問題として醤油釀造法の檢討。釀造學雜誌第二一巻三九三頁) に比し遜色なし。
二、母氏一八度の食鹽水を以て倍量に稀釋すれば純エキス分を除き略一等級醤油の成分を具へ風味も溜に似た僻があるが辛抱出來る、尚この僻は大量仕込に於いては相當矯正出來ると思ふ。家庭で母氏一八度の鹽水を造るのは面倒であるが鹽水調製には水五合に内地鹽六五匁内外を溶解するといふ様にすれば母水云々の難しさもあるまい。
三、大豆多用仕込 (本試驗では醤麥は大豆の半量以下) の缺點とされる純エキス分の不足は速釀する事により或程度補ひ得られる且又速釀により原料から製品への行程は早くなるが缺點としては速釀設備の新設が困難であらう
四、濃厚醤油であるため番水の使用に困るがこれは再び仕込水に利用するかアミノ酸との加工によつて下級品として利用の途がある。
五、緒論にも述べた通り斯る濃厚醤油の製造販賣が許るされるなら釀造に要する設備燃料人手容器運送に相當の餘裕が出來てしかも醤油の品質優良なため長期の保存に堪え貯藏醤油としては適格品であらう。
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