症例は82歳,女性.両側大腿内側から膝関節部の疼痛,痙攣を主訴に他院救急外来を受診.腹部CT検査で両側閉鎖孔ヘルニアと診断されたが,その後症状が消失し経過観察された.その数日後に当科外来を受診したが,腹部CT検査では異常を指摘出来なかった.患者からの問診により主訴の原因が閉鎖孔ヘルニアに伴うHowship-Romberg徴候であったと考え,待機的手術を施行した.前方アプローチにて両側鼡径管を解放し,腹膜外腔を展開した後,開大した閉鎖孔の全面にprosthesis(Bard
®Direct Kugel patch,S size)を貼付した.術後に下肢の症状が再発することは無かった.一般に閉鎖孔ヘルニア症例はイレウス症状や下肢の疼痛など,何らかの症状を契機に発見され緊急手術が施行される場合が多いが,当症例のように待機的手術が行われる場合も散見される.本症例は両側性の閉鎖孔ヘルニアが自然還納していたという点で,過去の報告例と比べて特殊な例であった.高齢者の原因不明の腹痛や下肢痛の原因として,閉鎖孔ヘルニアが関与しているケースが少なからず存在する可能性が示唆された.また,Direct Kugel patchを用いた術式は低侵襲で確実に閉鎖孔を処理可能な術式であると思われた.
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