日本臨床麻酔学会誌
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32 巻, 2 号
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日本臨床麻酔学会第30回大会 教育講演
  • 三尾 寧
    2012 年 32 巻 2 号 p. 145-150
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      ミトコンドリアは心筋に対する麻酔薬プレ・ポスト両コンディショニングのメカニズムにおいて中心的な役割を担っている.ミトコンドリアはこれら心筋保護効果において,トリガーの一部になるだけでなく,細胞死を防ぐ方向性を持った細胞内シグナリングの最終ターゲットにもなっている.麻酔薬によりミトコンドリア膜透過性遷移孔(mitochondrial permeability transition pore:mPTP)の開口が阻害され,ミトコンドリアのATP産生機能が維持される.その結果ATPを用いた細胞内カルシウム濃度の恒常性を保つ機能が保持され心筋細胞が保護される.
  • 谷藤 泰正, 宮野 和子
    2012 年 32 巻 2 号 p. 151-158
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      吸入麻酔薬の作用機序研究は,従来OvertonとMeyerのリポイド説が発表され支持されてきた.近年,FranksとLiebが,麻酔機序の注目点を,脂肪からタンパク質(receptor/channel)に大きく転換する論文を発表した.その後,受容体,チャネルに関する麻酔研究が注目されている.最近,Egerらは,各種吸入麻酔薬で特徴的なreceptor/channelに異なった強さを持つ吸入麻酔薬11ペアーとN2Oと各吸入麻酔薬の4ペアーについて,麻酔のend-pointであるMACに,これらのペアーの相互作用がsynergy,additivity,あるいはinfra-additivityに作用するか検討した.N2Oとisofluraneがinfra-additivityを示した以外,すべてのペアーはadditivityを示した.この結果から侵害刺激に対する吸入麻酔薬のMACは,吸入麻酔の単一の部位に作用すると考えられる.
日本臨床麻酔学会第30回大会 シンポジウム ─麻酔科医不足に対する日本麻酔科学会の対応─
  • 森田 潔
    2012 年 32 巻 2 号 p. 159
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
  • 古家 仁
    2012 年 32 巻 2 号 p. 160-167
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      欧米諸国では,麻酔薬を投与する症例はすべて麻酔科医が管理することが基本である.しかしわが国では全身麻酔に関してさえも麻酔科医以外の医療従事者が管理している場合が見受けられる.国民にとってそのような麻酔科医療は避けるべきであり,この問題は早急に解決されねばならない.また,わが国では麻酔科医は単独で術中薬剤の調整,投与を行っており,医療安全上避けるべきである.この解決策として欧米において一般的であるanesthesia care team,わが国では周術期管理チームを普及させ,そのチームメンバーを教育,認定し,麻酔科専門医の責任下でチームメンバーを使って,術前術後の麻酔科医療への関与,術中の麻酔の並列管理,薬剤投与のダブルチェックを可能にすることが必要であると考える.
  • 澄川 耕二
    2012 年 32 巻 2 号 p. 168-174
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      麻酔の歴史の始まり以来,全身麻酔は医師のみでなく歯科医師によっても行われてきた.現在のわが国において,年間の全身麻酔件数は約200万件,歯科医師によって行われている件数は約1万5千件と推定される.歯科医師による全身麻酔の法的根拠は歯科医師法に拠っている.歯科医行為の範囲は「歯および口腔の組織臓器の診療」と解釈されるが,歯科医行為を行うための全身麻酔もその範囲と解釈されている.しかし医師が行う医行為に際して歯科医師が全身麻酔を行うと医師法に抵触する.現在のわが国では,歯科医師による医科麻酔は厚生労働省の研修ガイドラインに従う場合にのみ認められている.
日本臨床麻酔学会第30回大会 シンポジウム ─近未来DAM:2013年困難気道の基礎と臨床─
講座
  • 貝沼 関志
    2012 年 32 巻 2 号 p. 191-199
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      気道緊急時における気道確保に言及した代表的なガイドラインにおいては,外科的気道確保はより低侵襲の気道確保の方法が不可能な場合に行う位置づけにある.医療側の条件として,外傷初期診療(JATEC)においては,ERにおける救急医を想定し,ASA,DASでは手術室における麻酔科医を想定している.輪状甲状靭帯は大きな血管や神経がないため緊急の外科的気道確保に適した場所である.筆者らは藤田保健衛生大学(藤保大)および名古屋大学(名大)で計83名に輪状甲状靭帯穿刺を施行した.藤保大では全例ICU専従医が施行したが名大では専従医の施行は一部にとどまっている.今後は耳鼻科医等の応援も得ながら,ICU専従医が,輪状甲状靭帯穿刺にとどまらず外科的気道確保全般を安全に責任をもって施行できるチーム医療としてのシステムを構築すべく努力中である.
  • 土井 克史
    2012 年 32 巻 2 号 p. 200-206
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      硬膜外血腫の発生例の報告は最近増えてきている.以前考えられていた発生率よりも高く,最近では3,100から40,000例に1例程度と推定されている.硬膜外血腫を防ぐためには,カテーテル留置は避けること,挿入時の長さは5cm以内,硬膜外麻酔の施行に固執しないこと,抗凝固療法を適切に行うこと,などがあげられている.また硬膜外術後鎮痛の施行時には,十分なモニタリングを行い,施設での予防管理手順を作成することが大事である.また周術期の抗凝固薬や抗血小板薬の使用と神経ブロックの施行との関係のガイドラインにも習熟しておく必要がある.硬膜外麻酔の有用性を生かすためにも安全な施行方法を知るべきであろう.
  • 三井 誠司
    2012 年 32 巻 2 号 p. 207-213
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      急性呼吸不全患者を治療する上で人工呼吸は重要であるが,他の治療法と同様に人工呼吸にも副作用があり,不適切な呼吸器設定は人工呼吸器誘発肺障害を引き起こし予後を悪化させる.“Open lung approach” はlow tidal volume ventilationとともに,急性呼吸不全を治療する上で鍵となるものである.Open lung approachとは,虚脱した肺胞を再開通させるrecruitment maneuverと適切なPEEP設定を行うことである.本稿ではopen lung approachの実践を3例の症例報告とともに紹介する.
症例報告
  • 岩瀬 康子, 佐々木 利佳, 堀川 英世, 釈永 清志, 山崎 光章
    2012 年 32 巻 2 号 p. 214-217
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      グルカゴノーマ摘出後に高度の低血糖が原因の覚醒遅延をきたした症例を経験したので報告する.46歳女性.上腹部腫瘤と耐糖能障害を認めたため,確定診断の目的も兼ねて腫瘍摘出術が施行された.術中経過は安定しており,血糖値は103~110mg/dlであった.術後に覚醒遅延を認めたため血糖値を測定したところ,4mg/dlであった.ただちにブドウ糖を投与し,血糖値が回復すると速やかに覚醒した.術後に神経学的異常所見は認めなかった.グルカゴノーマの周術期には血糖値が大きく変動する可能性があるため,頻回に血糖値を測定する必要がある.グルカゴノーマ摘出後に覚醒遅延をきたした場合は低血糖の可能性を考慮する必要がある.
  • 城山 和久, 森脇 克行, 橋本 賢, 田嶋 実, 讃岐 美佳子, 三木 智章
    2012 年 32 巻 2 号 p. 218-222
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      45歳女性に対し,単純子宮全摘術を硬膜外麻酔併用脊髄くも膜下麻酔で行った.硬膜外穿刺カテーテル留置および脊髄くも膜下穿刺時に異常感覚は生じなかった.等比重0.5%ブピバカイン4mlによる脊髄くも膜下麻酔と2%メピバカイン5mlを硬膜外腔に投与して麻酔管理を行った.術後鎮痛目的で0.2%ロピバカインを4ml/hrで持続投与した.手術翌朝には起立可能であったが,同日夜間に突然両下肢の完全麻痺が生じた.硬膜外カテーテル抜去後,麻痺は改善傾向にあったが,下肢近位筋麻痺が遷延した.MRI上異常所見は認められなかった.下肢麻痺はステロイド投与とリハビリにより徐々に改善し,手術2年後に下肢筋力はほぼ正常に回復した.使用した局所麻酔薬のリンパ球幼若化試験はいずれも陰性であった.下肢完全麻痺は脊髄くも膜下麻酔から回復後に生じ,使用局所麻酔薬の遅発性アレルギー反応の可能性も低いことから,0.2%ロピバカインによる神経障害が原因として疑われた.
  • 中山 雄二朗, 小寺 厚志, 宮崎 直樹, 上妻 精二, 瀧 賢一郎, 大島 秀男
    2012 年 32 巻 2 号 p. 223-231
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      われわれは,過去5年間にArtzの基準で重度熱傷と分類され,熊本医療センターで手術が施行された46症例を対象として,在院死亡の予測因子を検討した.各因子の予測の精度はReceiver Operating Characteristic曲線下面積(AUC)で検討した.在院死亡は12例で在院死亡率は約26%であった.AUCは熱傷指数で0.88,熱傷予後指数で0.85,総熱傷面積で0.84,受診時の白血球数で0.84と,それぞれ高値を示した.白血球数は一般的かつ簡単に測定される検査値であるが,算出が複雑な熱傷予後指数や総熱傷面積と同程度に,重度熱傷患者の在院死亡の予測に有用な因子である可能性が示唆された.
  • 飯田 裕司, 根本 千秋, 大橋 智, 今泉 剛, 五十洲 剛, 村川 雅洋
    2012 年 32 巻 2 号 p. 232-237
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      食道癌術後に,右膿胸,肺炎を合併した症例に対し,気管切開を施行し,人工呼吸を継続した.その後,左気胸を併発したため,気管切開孔用二腔気管支チューブを使用して,左右の肺を異なった条件で換気して治療することができた.両肺の病態が異なる場合に,不全側肺の酸素化改善を目的とする高圧換気を行うと,健常側が過膨張となり,圧損傷を受ける可能性がある.そのため左右の肺を異なった条件で換気すべきである.しかし,気管切開患者で長期に二腔気管支チューブを使用する際には,チューブ固定が不安定になるなど管理にはより注意が必要となる.
  • 新福 玄二, 柏田 政利, 恒吉 勇男
    2012 年 32 巻 2 号 p. 238-242
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      歯科治療のまれな合併症として,皮下気腫,縦隔気腫がある.今回われわれは,全身麻酔下の歯科治療中に広範な皮下気腫と縦隔気腫を合併した症例を経験した.症例は,78歳男性で歯性嚢胞および埋伏歯に対する抜歯術中にエアタービンによると思われる皮下気腫を認めた.気腫は上気道から縦隔,心臓周囲にも浸潤していた.気腫による気道狭窄が予測されたため,術後も気管挿管を継続して集中治療を行った.患者は,術後2日目に抜管でき,13日目に合併症なく退院した.エアタービンを使用する際には,重篤な気腫を合併する危険性を念頭に置き麻酔管理する必要があると思われた.
  • 中川 元文, 善山 栄俊, 村上 和歌子, 大瀧 礼子, 遠井 健司
    2012 年 32 巻 2 号 p. 243-247
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      経皮的内視鏡下腰椎ヘルニア摘出術(percutaneous endoscopic lumbar discectomy:PELD)は,神経根の損傷を防ぐために意識下で局所麻酔を用いて行われる場合が多い.今回5名(32~50歳)に対しPELD中に鎮静および鎮痛目的でデクスメデトミジン(dexmedetomidine:DEX)を使用し,良好な結果を得た.2例ではpharmacokinetic/pharmacodynamicシミュレーションを用い,DEXの血中濃度が1.0~1.5ng/mlになるように投与量を調節した.今回の症例では適度な鎮痛が得られ,術中の不快な記憶を軽減し,至適な鎮静を得ることができた.
紹介
  • 瀧野 万代, 萩平 哲, 高階 雅紀, 真下 節
    2012 年 32 巻 2 号 p. 248-251
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      ファイバースコープ(FOB)ガイド下挿管ではFOB越しに気管チューブを挿入する際に難渋する場合があり,FOB損傷の危険性もある.この問題点を解決するためにFOBを気管内に誘導した後にガイドワイヤを挿入し,これをガイドとしてチューブエクスチェンジャーを気管内に誘導し,その後に気管チューブを挿入する方法を考案した.チューブエクスチェンジャーはFOBよりも固いため気管チューブの誘導が容易であり,この方法ならFOBを損傷することもない.使用するFOBも気管チューブのサイズに合わせる必要がない.従来の方法に比べやや煩雑であるが,安全で確実な方法であると思われる.この方法に関して紹介する.
  • 伊波 寛, 渡慶次 さやか, 林 美鈴, 真玉橋 由衣子, 奥野 栄太, 中原 巌
    2012 年 32 巻 2 号 p. 252-258
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      Cannot intubate, cannot ventilate(CICV)症例の緊急気道確保は気道確保までの酸素化の優劣で患者の予後が左右される.口腔内や頚部の腫脹による上気道閉塞は,ラリンジアルマスクやエアウェイスコープ®は使用できず,輪状甲状膜穿刺・切開(CTT)や気管支ファイバー挿管(BF)も困難となる.このような患者の気道確保までの酸素化に,吹き出し口を咽頭に留置した高頻度ジェット換気(咽頭内HFJV)が有用であった症例を経験した.BFやCTTによる気道確保までの間,経鼻,経口的に咽頭まで挿入した吸引チューブを通してHFJVを行うことにより有効な酸素化が得られた.合併症として腹部膨満や気胸等の圧損傷が考えられ,吸引チューブの位置やHFJVの設定に注意する必要がある.また,日頃から緊急時に備えHFJVを準備し,操作に習熟することが重要である.
〔エピドラスコピー研究会〕第11回エピドラスコピー研究会 巻頭言
〔エピドラスコピー研究会〕第11回エピドラスコピー研究会 シンポジウム ─腰下肢痛治療におけるエピドラスコピーの位置づけ─
  • 森本 忠嗣, 園畑 素樹, 馬渡 正明
    2012 年 32 巻 2 号 p. 261-265
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      エピドラスコピーの適応である腰部椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症の治療方針について記述する.両疾患とも治療の第一選択は,内服治療,理学療法,ブロック治療などの保存的治療であるが,1~3ヵ月の保存的治療が無効な場合,患者の希望やQOLに応じて手術を選択する.保存的治療に抵抗があるのは,腰部椎間板ヘルニアでは若年者の隅角解離例,中高年者では軟骨終板を多く含むヘルニア症例,腰部脊柱管狭窄症では馬尾型の神経障害例である.絶対的手術適応は,急性馬尾障害,急激に進行する運動麻痺例などである.エピドラスコピーは保存的治療と手術の間に位置する低侵襲な診断・治療手技であり,今後の知見の集積が期待される.
  • 大谷 晃司
    2012 年 32 巻 2 号 p. 266-270
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      FBSSの診療の難しさは,主として3つに集約される.一つは,患者が訴えている症状は,必ずしも術前と同様と限らず,手術前の責任高位や病態が変化している可能性があること,二つめは,術後の場合,画像診断の精度が著しく劣ること,そして三つめは,術後成績不良との判断は医療側ではなく,患者自身に委ねられているところにある点である.これらの点について,概説した.また,腰仙椎部退行性疾患において,ペインクリニックでのエピドラスコピー施行患者と整形外科での術前後の患者について,自覚症状の程度と機能障害の観点から両者の差異について検討した.両者では,訴えの質の差異がある可能性が示唆された.
  • 五十嵐 孝, 村井 邦彦, 茂木 康一, 島田 宣弘, 玉井 謙次, 竹内 護
    2012 年 32 巻 2 号 p. 271-276
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      エピドラスコピーの腰椎変性疾患に対する治療効果と,脊髄腫瘍や硬膜外膿瘍に対する応用について述べた.エピドラスコピーは,腰椎椎間板ヘルニア,腰部脊柱管狭窄症,腰椎手術後症候群における腰下肢痛に有効な治療法である.その治療成績は疾患によって異なると考えられるが,腰椎椎間板ヘルニア,神経根症状を示す腰部脊柱管狭窄症に対する長期的な治療成績は特に良好である.馬尾症状を示す腰部脊柱管狭窄症や腰椎手術後症候群に対する有効性は,症例によって異なると考えられる.また,脊髄腫瘍や硬膜外膿瘍の診断治療では,エピドラスコピーを併用することによって,脊髄腫瘍摘出術や脊椎掻爬洗浄ドレナージ手術の侵襲を低減できる可能性があると考えられる.
  • 伊達 久, 滝口 規子, 千葉 知史, 渡邊 秀和, 新城 健太郎
    2012 年 32 巻 2 号 p. 277-282
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      当院におけるエピドラスコピーの適応は,神経ブロックなどに抵抗性であること,神経根ブロックで一時的に軽快すること,仙骨硬膜外造影で癒着がみられることである.術中に十分に剥離が行われたエピドラスコピー23例に対し,術後2病日から14病日までにランダムに仙骨硬膜外造影を行った.早い症例では術後3日目から再癒着が始まり,術後2週間で約3割の患者が再癒着を起こしていた.しかし,再癒着した症例と再癒着がみられなかった症例では術後鎮痛効果にあまり差がみられなかった.エピドラスコピーの作用機序は硬膜外腔の癒着の物理的剥離効果だけではなく,生理食塩水による洗浄効果や局所における薬物効果なども関与していると思われる.
〔エピドラスコピー研究会〕第11回エピドラスコピー研究会 特別企画 ─エピドラスコピーに関する全国調査─
  • 村井 邦彦, 五十嵐 孝, 松野 由以, 玉井 謙次, 茂木 康一, 竹内 護
    2012 年 32 巻 2 号 p. 283-289
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      エピドラスコピーを計画した難治性腰下肢痛患者を対象に多施設共同研究を行い,6ヵ月後までの有効性と合併症を調査した.その結果,腰痛,下肢痛,下肢しびれ,ADL障害,旧JOAスコア,日本語版Roland-Morris Disability Questionnaireのいずれも術前と比較して6ヵ月後まで有意に改善した.エピドラスコピーは,腰椎の手術歴の有無にかかわらず難治性腰下肢痛に有効である.特に,手術歴がない群は手術歴がある群と比較して有効性が高かった.術中合併症は頭痛・頚部痛37%,次いで腰下肢痛7%であった.術後合併症は創部痛4%,そのほか一過性の下肢運動障害や膀胱直腸障害,頭痛,高血圧,嘔気の訴えが1~2%に記録されたが,重大な合併症は観察されなかった.
  • 有田 英子, 長瀬 真幸, 小川 節郎, 花岡 一雄
    2012 年 32 巻 2 号 p. 290-295
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      腰下肢痛を訴えてペインクリニックを訪れる患者は増加しており,報道から情報を得て,エピドラスコピ-を希望する高齢者も多い.今回,85歳以上の2症例に本手術を施行した.いずれも,主訴は両側腰痛,両足のしびれが主であり,腰椎MRIで腰部脊柱管狭窄症が認められた.手術所見では,両者とも癒着が強く,強力な癒着剥離が必要であった.術後,1症例は痛みとしびれのため,他の1症例は下肢脱力のため,回復に時間を要したが,腰痛は改善し,両者とも満足度は高かった.85歳以上の高齢者にエピドラスコピーを施行する際には,十分な説明のもと,病態,患者の置かれた環境などを鑑みて適応を決めること,また手術を丁寧に施行することが重要である.
  • 石川 亜佐子, 笹栗 智子, 平川 奈緒美
    2012 年 32 巻 2 号 p. 296-300
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/04/25
    ジャーナル フリー
      硬膜外内視鏡による難治性腰下肢痛の治療(以下,エピドラスコピー)は,2004年に高度先進医療として認められた.現在10施設でのみ先進医療として行われており,保険診療の対象とはなっていない.今回われわれは,エピドラスコピー治療の現状に関して,エピドラスコピーを施行している26施設にアンケートにて調査を行った.先進医療施設においては先進医療を申請していない施設と比較して症例数が多かった.また,先進医療を申請していない施設では診療請求額に差が認められたが,平均して約16万円であった.麻酔法は局所麻酔下に鎮静を行う方法が多かった.エピドラスコピーの効果についての多施設研究などでエビデンスを求めて保険診療となることが今後の発展につながると考える.
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