振子型衝撃試験器を用いて酢酸繊維素繊維の衝撃破壊挙動に及ぼす衝撃速度 (20~130cm/sec) 及び温度 (15℃~160℃) の影響について実験し次の諸結果を得た。(1) 破壊エネルギーは比較的低速範囲では速度増加にほぼ比例して増加し, ある速度において極大に達し, より高速側では減少する。(2) 低速域における破壊エネルギー~速度関係の傾斜は15℃~70℃範囲では温度増加と共に衣第に緩やかになり, 90℃で逆に急となり, 以後昇温に伴って再び緩やかになる。(3) 極大破壊エネルギーの速度位置は昇温に伴って次第に高速側に移行する傾向を示す。(4) 90℃では測定範囲に2つの極大があらわれる。
破壊エネルギー~速度間の直線的な関係域に対し既報のごとく, Maxwell要素 (ヤング率
E0, 内部粘性係数η) と彈性バネ (ヤング率
E∽) の並列系からなる粘彈性模型を考え, かつその
E0>>
E∽なる場合への近似 (Voigt要素模型) として得られる次式からηを算出し, その温度依存性について次の結果を得た。
破壊エネルギー
W=η
v0x1+
1/
2E∽x12(
v0は衝撃初速度,
x1は破壊伸長)
15℃~160℃において, η~
1/T関係は傾きのやや異る不連続な2つの直線で示され, これにAndrade式η=
AeE/RTを適用し,
A及び流動の活性化ェネルギーEとして,
A1=3.04×10
4,
E1=3.6 Kcal/mol (15℃~70℃) 及び
A2=1.74×10
4,
E2=5.0 Kcal/mol (90℃~160℃) を得, これは80℃附近に流動単位の変化するある種の転移点が存在するものであり, 流動単位の温度依存性を示すものと考察した。
さらに極大破壊エネルギーに対応する速度位置を脆弱破壊の限界速度と考え, これからその見掛けの破壊所要時間
x1/
v0を算出し, それとηとの関係は15℃~160℃の全範囲に亘って温度に殆んど無関係に次式であらわされることを認めた。
η=
k (
t-α)
(
t=
x1/
v0,
k及びαは恒数)
上式をMaxwell関係式η=
Gλに対応せしめて, 剛性率
Gに対応する
k値として0.34×10
10 dyne/cm
2, 緩和時間λに対応する (
t-α) として10
-3 sec程度の値を得た。
また90℃にあらわれる脆弱破壊の2つの限界速度はλあるいはη分布の1部を示すものであり, 流動単位の速度依存性を示すものと考察した。
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