日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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70 巻, 10 号
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綜説
  • 河野 恵美子, 山崎 芳郎, 別府 曜子, 赤丸 祐介, 板野 秀樹, 森本 芳和, 藤井 眞, 弓場 健義, 大野 喜代志
    2009 年 70 巻 10 号 p. 2929-2934
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    女性外科医を取り巻く環境は厳しく,急性期病院での子育て女性外科医の常勤勤務医はほとんどいない.しかし,新卒医師における女性の割合は年々増加しており,外科においても対策を講じていくことは急務である.大阪厚生年金病院では2004年より子育て支援制度を導入しており,産休・育休制度の確立,時間外勤務時間への配慮,院内保育や病児保育の設置などの整備がなされている.2005年以降はワーク・ライフ・バランスの導入に取り組み,職場全体の環境整備がなされている.筆者は子供が1歳になった2007年7月から子育て外科医として勤務を開始し,現在1年半が経過した.上記経験より,女性外科医の力を活かすためには,男性外科医を含めた外科全体の環境改善が必要であり,ワーク・ライフ・バランスに基づいたチーム医療制度の導入など時代背景に基づいた改革が必要であると考える.
原著
  • 浜部 敦史, 赤松 大樹, 吉留 克英, 大山 司, 鳥 正幸, 上島 成幸, 大森 健, 仲原 正明, 辻本 正彦, 藤田 茂樹
    2009 年 70 巻 10 号 p. 2935-2940
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    大腸癌治療ガイドライン(以下,ガイドライン)では,内視鏡切除後にpSM癌のリンパ節転移のリスクを評価し,外科的追加切除の必要性を判定している.1991年から2008年までに当院で外科切除を施行したpSM大腸癌101例を対象とし,病理組織所見よりリンパ節転移に関与する因子を検討した.組織型,脈管侵襲(ly因子,v因子),sm浸潤距離に関し,リンパ節転移陽性群(以下,陽性群)とリンパ節転移陰性群(以下,陰性群)の間で比較した.陽性群は陰性群より,有意にly因子陽性率が高く,sm浸潤距離が大きかった.組織型およびv因子陽性率に関し,陽性群と陰性群の間で有意差を認めなかった.陽性群11例のうち1例は,リンパ節転移陽性であるにも関わらず,ガイドラインの外科的追加切除条件を満たさなかった.ガイドラインのリンパ節転移予知能は高感度,低特異度という特徴を理解して利用する必要がある.
症例
  • 古賀 裕, 村上 光彦, 高松 祐治, 柏木 孝仁
    2009 年 70 巻 10 号 p. 2941-2944
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    破傷風は,適切な治療を迅速に開始しないと死にいたる感染症である.症例1は82歳,男性で開口障害のため前医を受診し,けいれん発作を発症し当院に紹介受診となった.右下腿に汚染創を認め,破傷風として治療を開始した.人工呼吸管理を2週間行い,入院35日目に軽快退院となった.症例2は78歳,男性で咽頭痛,嚥下困難のため当院受診となった.外傷はなかったが,呼吸困難とけいれん発作を認めたため破傷風として治療を開始した.人工呼吸管理を5週間行い,入院60日目に軽快退院となった.嚥下困難や項部硬直のある患者は破傷風も鑑別診断として考慮すべきである.DPTワクチン接種による基礎免疫獲得は破傷風予防に有効であるが,追加接種をしないと20年で効果は減弱する.基礎免疫のない症例の急性期の予防には,トキソイドとともに免疫グロブリン投与が勧められ,さらに2回のトキソイド追加投与で基礎免疫を獲得することが重要である.
  • 内藤 明広, 服部 浩次, 寺下 幸夫, 原田 幸志朗, 齋藤 慎一郎
    2009 年 70 巻 10 号 p. 2945-2948
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    初回術後,長期を経て再燃した二次性上皮小体機能亢進症症例について,われわれの経験した症例について報告する.症例1は56歳,女性.慢性腎不全による二次性上皮小体機能亢進症のため,上皮小体4腺摘出および自家移植を施行,初回手術後15年8カ月を経て,縦隔内の腫大過剰上皮小体による再燃のため,2回目の手術を施行.縦隔内上皮小体2腺を摘出した.症例2は53歳,男性.慢性腎不全による二次性上皮小体機能亢進症のため,上皮小体4腺摘出および自家移植を施行.初回手術後10年5カ月を経て,縦隔内の腫大上皮小体による再燃のため,2回目の手術を施行,縦隔内上皮小体1腺を摘出した.いずれの症例も2回目の手術後良好な血清上皮小体ホルモン値の改善を得た.
  • 平井 伸幸, 鈴木 豊
    2009 年 70 巻 10 号 p. 2949-2954
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    78歳女.約40年前に左乳癌に対し胸筋合併乳房切除術および術後放射線照射の既往あり.2006年秋に左胸部の術後瘢痕部付近に小皮疹が出現し,徐々に拡大したため2007年8月28日紹介受診.初診時,左胸部術後瘢痕中央部付近に7.5×3.5cmの紫紅褐色の板状硬結を認めた.生検により皮膚血管肉腫と診断した.本人の強い意向により積極的加療は行わず外来にて経過観察のみ行っているが,腫瘍は拡大しほぼ左胸部全体を占めているものの,症状発現より2年半以上の間入院加療等を要さずQOLを保ったまま生存中である.
    皮膚血管肉腫は稀ではあるものの非常に予後不良な腫瘍であり,放射線照射は皮膚血管肉腫発生のリスクとなるため,今後乳癌患者の急激な増加に伴い放射線照射後の皮膚血管肉腫が発生する症例も増加する可能性が高い.そのため,外科医は放射線照射後の皮膚血管肉腫発症の可能性を必ず周知しfollow upを行うべきと考える.
  • 諸橋 聡子, 諸橋 一, 赤坂 治枝, 西村 顕正, 小田桐 弘毅, 袴田 健一
    2009 年 70 巻 10 号 p. 2955-2959
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は子宮体癌の精査中に,右乳房に腫瘤を指摘された57歳の女性.CTで同時性多発肝転移が認められた.当科に紹介となり右乳腺部分切除術が施行された.病理組織所見で腫瘍細胞が大型で核異型が目立ち,また,免疫染色で神経内分泌学的マーカーが陽性であったことからLarge cell neuroendocrine carcinoma(LCNEC)と診断された.当初,肝転移は子宮体癌由来と判断されていたが,子宮体癌に対して子宮全摘・両側付属器切除術施行が施行された後に子宮体癌の術後病期がstageIbと診断されたため,肝転移は子宮体癌からよりも乳腺のLCNECからの転移の可能性が高いと判断された.当科に転科し,化学療法施行が行われたが,乳腺手術から約10カ月後に永眠された.LCNECは,本邦での報告は少ないため,症例を蓄積し,治療成績や予後に関して検討する必要があると考えられた.
  • 谷川 富夫, 上村 眞一郎, 阿部 道雄, 蓮尾 友伸, 土井口 幸
    2009 年 70 巻 10 号 p. 2960-2964
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,男性.約1年6カ月前から左乳房の腫瘤を自覚したが,放置し,初診3カ月前から増大し,約6cm大の大きさで,受診した.当初,葉状腫瘍が疑われ,胸筋温存乳房切除術が行われた.病理組織学的検査により粘液癌と診断され,1週後に,右鼠径ヘルニア根治術と共に,左腋窩郭清が行われた.病理組織学的検索でリンパ節に転移を認めなかった.男性乳癌は稀であるが,中でも粘液癌は報告が少なく,急に増殖する病態は主に粘液成分の増加に関係していると思われた.自覚から初診まで約1年6カ月経過していたが,粘液癌は限局性病変であることが多く,周囲組織浸潤や脈管浸潤の頻度が低く,予後は比較的良好と考えられるが,術後の注意深い治療観察と適切な補助療法が必要である.
  • 梶山 明日美, 村松 沙織, 春日 好雄, 上原 剛
    2009 年 70 巻 10 号 p. 2965-2968
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    男性乳癌は比較的稀な疾患であり,全乳癌の0.5~1%と言われている.今回われわれは男性乳腺Pagetoid癌の1例を経験したので報告する.症例は78歳,男性.右乳腺の乳頭部の発赤,びらんを主訴とし精査のため紹介,受診となった.初診時右乳腺EC領域に20×17mmの大きさで,弾性硬の腫瘤を触知したが,圧痛や乳頭異常分泌は認めなかった.超音波検査所見では,不整形,境界やや不明瞭で悪性が否定できず,穿刺吸引細胞診検査で鑑別困難,針組織診検査で浸潤性乳管癌と診断された.男性乳癌として胸筋温存の非定型的乳房切除術が施行された.組織学的所見では充実腺管癌であった.乳頭皮膚直下まで癌浸潤を認め,発赤,びらんの原因と考えられ,Pagetoid癌と診断された.腋窩リンパ節転移,遠隔転移は認めず,また女性ホルモンレセプターが陽性であったため,内分泌療法が選択され,現在経過観察中であるが,再発は認めていない.
  • 溝口 資夫, 喜島 祐子, 梅北 善久, 平田 宗嗣, 夏越 祥次, 吉中 平次
    2009 年 70 巻 10 号 p. 2969-2974
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,女性.右A領域の原発性乳癌に対し,core needle biopsy(CNB)での確定診断の後,2008年3月に乳房温存手術とセンチネルリンパ節生検を行った.補助内分泌療法中の術後6カ月目に手術創近傍の皮膚に29mm大の腫瘤が出現し,穿刺吸引細胞診(FNAC)でpositive.身体所見・画像所見で他に再発の徴候なく,初回手術前のCNB(16G針)のneedle tract seedingが原因の局所再発と判断し,2008年11月に全身麻酔下での局所切除を行った.再発病巣は原発巣と類似の病理組織像を示し,乳管内成分や脈管浸潤を認めず,末梢側近傍にはneedle tractを示唆する異物巨細胞も確認された.
  • 高嶋 成輝, 清藤 佐知子, 高橋 三奈, 高畠 大典, 青儀 健二郎, 大住 省三
    2009 年 70 巻 10 号 p. 2975-2979
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,女性.35歳時当科にて左乳癌に対し,定型的乳房切除術を施行した.皮膚および胸筋に浸潤し,また腋窩リンパ節転移を認めたため,cyclophosphamideならびに5FUによる術後補助化学療法を2年間行った.今回は半年前頃よりの湿性咳を主訴に来院された.胸部CTにて,前縦隔に5cm大の腫瘤を認めた.FDG-PETでは同部位ならびに胸骨柄左側にFDGの集積がみられた.前縦隔腫瘍と胸骨柄より各々CTガイド下生検を施行,ともに乳癌の再発との結果であった.ER(1+),PR(-),HER2(1+).まずは両病変に対し,放射線照射60Gyを行った.照射野に関しては12カ月後においても良好に制御されていたが,新たに左肩甲骨と右肋骨に骨転移の出現を認めたため,化学療法を開始した.再発時期および部位ともに,極めて稀な症例と思われたので,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 小林 零, 森 正一
    2009 年 70 巻 10 号 p. 2980-2983
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は31歳,男性.前縦隔に130×65mmの腫瘤を認め,CTガイド下生検施行し,縦隔精上皮腫と診断した.化学療法を施行後,30×15mmの腫瘤が残存していた.治療方針決定のためFDG-PETを施行したところ,同部位に集積が認められた為,切除術を施行した.摘出標本には,腫瘍細胞の残存は認められなかった.
  • 平木 将紹, 佐藤 清治, 田中 雅之, 古賀 清和, 中房 祐司, 宮崎 耕治
    2009 年 70 巻 10 号 p. 2984-2988
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.胸部中部食道癌に対し化学放射線療法を施行後に完全緩解を得たが,治療開始後7カ月から繰り返す胸水・心嚢液貯留のため繰り返し経皮的心嚢穿刺ドレナージを施行した.再度,心タンポナーデ症状を呈したが,心膜腔の癒着により安全な穿刺によるドレナージ術が困難であったので,開腹下心膜開窓・大網充填術を施行した.術後病理検査では,心膜の繊維化や硝子化がみられ炎症細胞浸潤を認めるものの悪性細胞は認めなかった.また細菌培養検査,抗酸菌検査ではいずれも陰性の結果であった.術後2年6カ月経過し外来経過観察中であるが,胸水の貯留を若干認めるものの,食道癌や心嚢液貯留の再発は認めていない.放射線治療晩期障害による心嚢液および胸水貯留に対し,本術式は有用で,比較的低浸襲なため考慮されるべき治療法と考えられた.
  • 姉川 剛, 斉藤 元吉, 伊藤 修平, 長谷川 博文, 池部 正彦, 北村 昌之
    2009 年 70 巻 10 号 p. 2989-2993
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は41歳,女性.平成14年7月,不整月経精査目的に婦人科でMRI施行され,その際に直腸腫瘍を指摘された.直腸腫瘍は,生検にて直腸癌の診断であった.また,術前の腹部CTにて右胸腔内に右肺下葉,横隔膜に接する境界明瞭な10cm大の腫瘤影を認めた.エコーガイド下針生検にてsolitary fibrous tumor(SFT)の診断であった.まず,2002年7月に右胸腔内のSFTに対して開胸下に腫瘍摘出術,右肺下葉部分切除術,横隔膜合併切除術を施行した.SFTが根治的に切除できた事を確認し,続いて2002年9月に直腸癌に対して低位前方切除術を施行した(Rb,25×20mm,MP,N2,H0,P0,M0,stage IIIb).術後6年7カ月現在,無再発生存中である.間葉組織由来の比較的稀な腫瘍であるSFTに直腸癌を併存した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 稲葉 一樹, 礒垣 淳, 金谷 誠一郎, 櫻井 洋一, 宇山 一朗
    2009 年 70 巻 10 号 p. 2994-2998
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    胃軸捻転を有する食道裂孔ヘルニアに対して,腹腔鏡下にmeshを用いた整復根治した報告は少数であり以下に報告する.
    症例は79歳,女性.3-4年前から食道裂孔ヘルニアを指摘されていたが,無症状であった.
    2008年1月に腹痛を主訴に前医入院,上部消化管造影検査で食道裂孔ヘルニアおよび胃軸捻転,全胃,横行結腸嵌頓を診断された.保存的治療では疼痛症状に改善なく,寝たきり状態となり,腹腔鏡手術を目的に当院に転院となった.術中所見では巨大食道裂孔ヘルニアを確認,胃は噴門と幽門とを結ぶ軸(臓器軸性)で捻転し,全胃および,横行結腸が縦隔内に嵌入していた.嵌入していた胃,横行結腸は容易に整復された.食道裂孔はpolytetrafluoroethylene meshを用いて修復,Toupet法に準じて胃噴門形成を行った.術後の上部消化管造影検査では,腹腔内に胃を確認,造影剤の通過は良好で,逆流は認めなかった.食事摂取良好で病状安定し,前医に転院された.術後1年が経過した現在,再発は認めていない.
  • 浅井 英嗣, 中野 敢友, 久須美 貴哉, 西田 靖仙, 細川 正夫, 藤田 昌宏
    2009 年 70 巻 10 号 p. 2999-3004
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    食道原発のGISTは全消化管GISTの2%以下とされ1)稀な疾患である.今回われわれは食道GIST4例を経験したので報告する.症例1は69歳,男性.3年前より指摘されていた食道粘膜下腫瘍が7cmに増大したため中下部食道切除胃管後縦隔再建を施行した.術後3年3カ月で肝転移にて再発したがメシル酸イマチニブの内服を開始し以後無再発生存中である.症例2は76歳,女性.下部食道に5cm径の粘膜下腫瘍と上縦隔リンパ節の腫大があったため胸部食道亜全摘・胸骨後胃管再建を施行した.術後27カ月無再発生存中である.症例3は52歳,男性.検診にて3cm径の食道粘膜下腫瘍を指摘され胸腔鏡補助下核出術を施行した.術後23カ月無再発生存中である.症例4は53歳,男性.下部食道に7cm径の粘膜下腫瘍があり,中下部食道切除胃管後縦隔再建を施行した.術後8カ月無再発生存中である.全4例でCD34(+) c-Kit(+) α-SMA(-) S100(-)で狭義のGISTであり,高リスクに分類された.
  • 坂本 薫, 岡本 春彦, 田中 亮, 牧野 成人, 小野 一之, 田宮 洋一
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3005-3010
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    後天性血友病は,第VII因子に対する自己抗体が出現することにより発症する重篤な出血性疾患である.症例は81歳,男性.当科にて胃癌に対する幽門側胃切除術を受けた.術後,通過障害を認め保存的に治療していたが,術後52病日より全身の関節痛や皮下出血などの出血傾向が出現し,APTTの延長,第VII因子活性の低下と第VII因子インヒビターを認め,後天性血友病と診断した.活性型プロトロンビン複合体濃縮製剤の投与後,プレドニゾロンとシクロホスファミドを用いた免疫抑制療法を開始し出血傾向は改善したが,突然の吐血と誤嚥により突然死をきたした.後天性血友病は極めて稀な疾患であるが,悪性腫瘍に併発することがあり,原因不明の出血傾向を認めた場合,本症も念頭におくべきであると考えられた.
  • 安岡 利恵, 藤木 博, 森田 修司, 満尾 学, 門澤 秀一, 埴岡 啓介, 門谷 洋一
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3011-3017
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,女性.両側乳腺浸潤性小葉癌で手術施行.術前検査時より腹部CT検査で,胃壁の肥厚と軽度の造影効果を認めていたが,上部内視鏡検査では異常所見は指摘されなかった.乳癌術後,腫瘍マーカーは上昇し,さらに腹部CT検査で胃壁肥厚が増強した.3回目の上部内視鏡検査で,乳癌の胃十二指腸転移と診断した.その後,Paclitaxelでの化学療法を行っていたが,幽門狭窄症状が出現したために,胃空腸バイパス術を施行した.バイパス術後11カ月経過したが,腹膜播種や閉塞性黄疸が出現し,全身状態は悪化傾向である.
    今回,上部内視鏡検査で診断に苦慮した乳癌の胃十二指腸転移の1例を経験したので報告をする.
  • 鈴木 一也, 高梨 秀一郎, 斎藤 加奈, 諸原 浩二, 根岸 健, 神坂 幸次
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3018-3022
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    十二指腸乳頭部扁平上皮癌の1例と腺扁平上皮癌の1例を経験した.腺扁平上皮癌症例は完全内臓逆位を伴う非常に稀な症例であった。症例1は51歳,男性.倦怠感,黒色便,体重減少,黄疸を主訴に近医を受診し当院を紹介された.血液検査にて黄疸,腹部画像診断にて胆管拡張,十二指腸乳頭部に腫瘤像を認め,内視鏡検査にて潰瘍腫瘤型病変を認め,生検にて腺癌であった.幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行.切除標本の病理は扁平上皮癌でリンパ節転移を伴いStage IVaであった.術後5カ月で肝転移を認め術後8カ月で死亡した.症例2は68歳,男性.左上腹部痛を主訴に近医を受診.胆管拡張を指摘され当院に紹介された.完全内臓逆位を伴う十二指腸乳頭部癌で病理は腺扁平上皮癌,リンパ節に扁平上皮癌成分の転移を認めた.術後5カ月で肝転移を認め術後10カ月で死亡した.扁平上皮を主成分とする十二指腸乳頭部癌は稀で特に内臓逆位を伴う本例の報告はみられない.
  • 鵜瀞 条, 野中 英臣, 瀧田 尚仁, 鈴木 義真
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3023-3026
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,男性.手術歴なし.2006年10月,20時ころ急に下腹部痛が出現し24時前に当院救急外来を徒歩で受診.体温35.4℃.腹痛は間欠的であり圧痛は弱かったが,下腹部に限局した反跳痛を認め入院.同日18時頃に2歳の孫を腹の上で「飛び跳ねて遊ばせていた」とのことであった.翌朝に体温38.7℃,腹部全体の反跳痛を認めた.腹部CT検査では腹腔内遊離ガスは認めずダグラス窩に腹水を中等量認めた.腹部鈍的損傷による汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.混濁腹水を中等量認め,回腸終末から約85cmの小腸に,挫滅によると思われる辺縁不整な径3mmの穿孔を認めた.この部を楔状切除し洗浄ドレナージを施行した.術後経過は良好で術後12病日に退院した.2歳児と戯れていて外傷性小腸穿孔を起こしたと考えられ,このような報告は極めて稀であり若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 吉竹 修一, 二瓶 義博, 大西 啓祐, 丸山 祥太, 五十嵐 幸夫, 片桐 茂
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3027-3030
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    特発性腸重積症は小児領域でよくみられるが,成人では大変稀である.われわれは15歳男性の特発性腸重積症を経験した.症例は右下腹部痛を主訴に救急搬送された.既往歴に特記すべきことなし.腹部CTで上行結腸に壁肥厚を認め,肝彎曲部では腸重積の所見を呈していた.腸重積症と診断し,腹腔鏡下に緊急手術を施行した.術中所見では回結腸型の腸重積を認めた.腹腔鏡下で重積は解除された.重積解除後,重積の原因となるような所見は認められなかったが,回盲弁の対側の腸管壁に変形が認められたため,小開腹をおき直視下に盲腸で虫垂を切除し,切除断端から上行結腸までの粘膜面を観察したが異常所見はなかった.術後経過は良好で第6病日に退院した.また,術後3カ月の大腸内視鏡検査も特に異常所見は認められなかった.15歳の特発性腸重積症の腹腔鏡下整復成功例は非常に稀であり文献的考察を加えて報告する.
  • 松田 佳子, 森末 正博, 飯島 崇史
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3031-3035
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は54歳,男性.腹痛と嘔吐で来院.腹部単純レントゲンにて大部分の大腸ガス像が右腹部に存在し,腹部CTでは上腸間膜静脈は上腸間膜動脈の左側に存在し,whirl sign像も認めた.緊急手術を施行したところ小腸の基部が時計方向に540°回転していたため,捻転を解除した.さらにTreitz靱帯を形成し,上行結腸を後腹膜に固定した.腹痛や嘔吐を繰り返すようであれば腸回転異常症も疑い精査を行う必要があると思われた.
  • 黄 泰平, 濱中 雄幸, 宮田 俊男, 田中 恒行, 安政 啓吾, 藤川 正博
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3036-3040
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    難治性小腸皮膚瘻に対して皮弁形成瘻孔閉鎖術を施行し治癒した2例を経験した.術式の概要:全身麻酔下に瘻孔周囲に全周性の皮膚切開をおいて周囲の瘢痕組織を切除.一部残した周囲皮膚組織を含めて吸収糸で瘻孔を縫合閉鎖.その上を血行の良い皮弁で覆う.症例1は10年前に精巣腫瘍にて精巣摘除術,後腹膜リンパ節郭清術,化学療法および放射線療法40Gyの既往.今回,腹部正中創に瘻孔出現.放射線治療に起因する小腸皮膚瘻と診断し,本術式を施行した.術後3週にて食事開始,治癒した.症例2は激症型アメーバ大腸炎にて大腸亜全摘術,回腸瘻造設術々後に小腸穿孔,腹膜炎を合併し,難治性小腸皮膚瘻を形成した.術後11カ月の保存療法にて改善せず,本術式を施行した.術後,腸液漏の再燃を一旦認めたが術後約3カ月で治癒した.難治性小腸皮膚瘻に対して本術式は試みられるべき術式と考えられた.
  • 武田 雄一郎, 杉村 好彦, 小川 雅彰, 馬場 祐康, 畠山 元, 若林 剛
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3041-3045
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,男性.右下腹部痛を主訴に当院受診.腹部multidetector-row computed tomography(MDCT)検査で,虫垂に多発する憩室を認め,虫垂末端部は腫大し,周囲の脂肪濃度の上昇を認めた.虫垂末端の憩室周囲の腫大および濃度上昇を認めることから虫垂憩室炎と診断した.腹腔鏡下虫垂切除術を施行.病理組織学的にも虫垂憩室炎が確認された.虫垂憩室炎は,高い穿孔率が報告されているが,術前に診断するのは極めて困難である.今回われわれはMDCT検査で術前に診断し,腹腔鏡下に手術することができた虫垂憩室炎の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
  • 大石 一行, 上月 章史, 星川 竜彦, 小林 健二, 篠崎 浩治, 尾形 佳郎
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3046-3052
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例1は54歳,女性.下腹部痛を主訴に当院を受診した.急性虫垂炎および腹腔内膿瘍と診断し緊急手術とした.虫垂は骨盤内正中寄りに存在し,上行結腸は正中から左上腹部へ向かい,腸回転異常症を合併しており,虫垂切除術を施行した.症例2は24歳,男性.右上腹部痛を主訴に当院を受診した.腹部造影CT検査と小腸造影検査で腸回転異常症を併存した急性虫垂炎と診断し,腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.腸回転異常症は,新生児期等に消化管閉塞で発症し,手術されることが多く,成人発症の報告は少ない.そのほとんどは他の疾患の開腹時に偶然発見され,術前に診断されることは少ない.腸回転異常症に急性虫垂炎を併存した場合,虫垂の位置異常があるために虫垂炎の診断に難渋し,さらに下腹部正中切開や術中に切開創を拡大するなど侵襲が大きくなる症例が多い.今回われわれは腸回転異常症を併存した急性虫垂炎を2例経験したので文献的考察を加えて報告する.
  • 吉田 真一, 木藤 正樹
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3053-3055
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    胃切除歴のある高齢者で魚骨により肛門周囲膿瘍をきたした症例を経験した.症例は84歳,男性.約1カ月前より肛門部痛があり増強するため初診.腹部CTにて肛門管周囲左側に線状の陰影を認めたため,魚骨迷入・膿瘍と診断し,炎症を局所にとどめ異物除去を検討する目的に入院.肛門周囲の発赤部皮膚を切開したが骨は摘出できず,ドレナージと抗生剤投与を開始した.その後魚骨が後方へ移動し,20日目にようやく魚骨を摘出し治癒した.胃酸度の低下も魚骨による消化管穿孔のおきやすい条件のひとつに挙げられており,特に胃切除後患者では日常生活においても注意を促す必要があると思われた.
  • 宮倉 安幸, 堀江 久永, 冨樫 一智, 安田 是和
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3056-3060
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    粘膜下層浸潤癌3病変と粘膜内癌6病変を含む多発した大腸側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor;LST)に対して腹腔鏡補助下大腸亜全摘術を施行した1例を経験したので報告する.症例は54歳,女性.大腸多発ポリープを指摘され当院紹介となる.大腸内視鏡検査では上行結腸からS状結腸に10~40mmのLST granular type(LST-G)7病変,LST-Gの表面構造に類似した隆起型8病変を認めた.内視鏡治療の結果,sm高度浸潤癌2病変を認め,残存するLST病変も考慮し腹腔鏡補助下大腸亜全摘術を施行した.病理所見では,粘膜下層高度浸潤癌2病変,粘膜下層軽度浸潤癌1病変,粘膜内癌6病変を有していたが,明らかなリンパ節転移を認めなかった.術後2年経過中で,残存直腸に新たなポリープを認めず,排便状態も良好である.
  • 佐藤 洋, 矢島 和人, 冨田 広, 松澤 岳晃, 小海 秀央
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3061-3065
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    腸重積を併発した腸管原発脂肪腫2例に対して鏡視下切除を行ったので報告する.症例1;87歳,女性.急性腹症で発症し,右側腹部に手拳大の腫瘤を触知した.腹部骨盤部CTでは内部にfat densityを伴う腫瘍を認め,周囲がリング状に造影されるいわゆるtarget signを認めた.大腸内視鏡では上行結腸に黄色調の粘膜下腫瘍を認めた.腸重積を併発した上行結腸脂肪腫と診断し,腹腔鏡補助下回盲部切除術を行った.症例2;58歳,女性.乳癌術後の経過観察CTで,上行結腸にtarget signを伴う腹腔内腫瘤を認めた.大腸内視鏡では終末回腸に可動性良好,鶏卵大の粘膜下腫瘍を認めた.無症候性の腸重積を伴う回腸脂肪腫の診断で,腹腔鏡補助下回盲部切除術を行った.両症例とも術後経過順調で,術後10日および8日目に退院した.鏡視下手術の持つ低侵襲性や美容面の利点は,悪性疾患のみならず良性疾患にこそその真価が発揮されるものと考えた.
  • 板谷 喜朗, 河本 和幸, 金城 昌克, 伊藤 雅, 小笠原 敬三
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3066-3069
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,男性.2カ月前から間欠的な腹痛を認め,前日より腹痛が持続性になったため当院を受診した.腹部CTで横行結腸に全周性の壁肥厚を認め,その口側の結腸が拡張していた.また盲腸は下腹部正中に存在した.腸回転異常症に横行結腸癌,腫瘍性イレウスを併存したものと診断し,手術を行った.開腹すると盲腸は正中に存在し,Ladd靱帯を認めた.Treitz靱帯は正常に形成され,malrotation typeの腸回転異常症であった.腫瘍は横行結腸中ほどに存在し,拡張した口側結腸を含めた結腸右半切除術,D3郭清を施行した.腸回転異常症に大腸癌を併存した症例は本邦では51例報告されており,これらの症例を検討し報告する.
  • 川口 康夫, 岡島 正純, 檜井 孝夫, 池田 聡, 吉満 政義, 大段 秀樹
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3070-3073
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    多発大腸癌手術症例における腹腔鏡下手術手技の工夫について報告する.症例は60代の男性.横行結腸(T1N0M0,c-stageI)と直腸(T2N0M0,c-stageII)の同時性多発大腸癌と診断した.臍部を小切開し,直視下にD2郭清を伴う横行結腸切除を行い,続いて左結腸動脈を温存して直腸癌のD3郭清を行った.次にHand Assisted Laparoscopic Surgery(HALS)で直腸を授動・切除し,良好な視野で吻合を行った.1つの切開創から横行結腸と直腸の2病変に対してリンパ節郭清を行い,小切開創を生かしてHALSで直腸癌を切除することができた.同時性多発大腸癌において直視下操作と腹腔鏡下手術を併用することは術野展開や体位変換回数が少なく,有用であると考えた.
  • 片山 知也, 菊地 健, 植村 一仁, 伊藤 美夫, 宇根 良衛
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3074-3079
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    肝膿瘍を契機に発見された直腸癌の1例を経験したので報告する.症例は66歳,男性.発熱,嘔吐を主訴に当院受診.血液検査にて高度の炎症所見,肝胆道系酵素の上昇とともに貧血症状がみられたため,腹部超音波および腹部CT検査を施行したところ肝外側区を中心とした多発性の低吸収域が認められた.多発性肝膿瘍と診断し,抗生剤投与および経皮経肝膿瘍ドレナージを施行.原因検索として下部消化管精査を行ったところ,直腸に1型腫瘍を認め,生検の結果は中分化型腺癌であった.これらに対し低位前方切除術および肝外側区切除術を施行.病理診断から,原発巣はtub2,ss,ly1,v0,n0,stageIIであった.また肝に転移所見はなく,肝膿瘍の原因として大腸癌からの経門脈的感染が推測された.以上より肝膿瘍の診断,治療においては,原因疾患として大腸癌の可能性も念頭においた下部消化管精査が必要であると考える.
  • 鹿股 宏之, 小林 健二, 星川 竜彦, 加瀬 建一, 篠崎 浩治, 尾形 佳郎
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3080-3085
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,女性.皮膚掻痒感,全身倦怠感を主訴に当院初診となった.T. Bil 15.1と高度の黄疸があり,腹部CT検査で肝内胆管の拡張と肝S4に8cm大の嚢胞を認めた.ERCP,PTCD造影では左右肝管から総胆管にかけてなだらかな圧排,狭窄像があり,血清CA19-9は20,600U/mlと著明な上昇を示したが,画像所見から良性の単純性肝嚢胞と診断した。嚢胞を穿刺しドレナージ後に,塩酸ミノサイクリンの注入療法を行ったところ,嚢胞は縮小し,黄疸も改善した.特に合併症や副作用はなく退院し,現在外来で経過観察中である.
    良性非寄生虫性巨大肝嚢胞が原因で閉塞性黄疸を呈することは極めて稀であり,今回われわれは,巨大肝嚢胞による閉塞性黄疸に対して,塩酸ミノサイクリンを注入し良好な結果を得た1例を経験したので報告する.
  • 河合 雅彦, 國枝 克行, 長尾 成敏, 田中 千弘, 松橋 延壽, 佐々木 義之
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3086-3090
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    稀な副交通胆管枝を伴った胆嚢ポリープ+胆石症の症例を経験したので報告する.症例は59歳,女性.胆嚢ポリープと胆石症を数年前より指摘されており,近医フォローアップ中,ポリープの増大傾向あり.手術目的にて当科へ紹介となった.術前の3D-DIC-CT検査では左右の肝管は低位で合流し,さらに左右の肝管は肝門付近で1本の胆管で交通し,circuitを形成していた.胆嚢管は右肝管に合流していた.腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し,術中胆道造影でもこの胆管走行異常は確認でき,安全に手術を完遂できた.術後経過は良好で術後第5病日に退院した.本症例はGoorらのいう副交通胆管枝(communicating accessory bile duct)に相当すると考えられた.術前に3D-DIC-CTで胆管の走行を十分に把握することは,胆道損傷を避け,安全に腹腔鏡下胆嚢摘出術を行うために大変有用であると考える.
  • 代田 智樹, 小林 聡, 清水 明, 藤永 康成, 三輪 史郎, 宮川 眞一
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3091-3094
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,女性.腹痛を放置したためショック状態となり,緊急転送された.右上腹部に圧痛,筋性防御を認めた.血液検査所見では白血球数13,480/μl,CRP 11.9mg/dlと高度の炎症所見を認めたが,肝・胆道系酵素の上昇は軽度であった.multi-detector row CT(MDCT)では胆嚢壁の造影効果は不良,水平断像および冠状断像にて,それぞれwhirl sign,胆嚢頸部の捻転様構造を認めた.以上の所見より胆嚢捻転症を強く疑い,緊急胆嚢摘出術を施行した.胆嚢は肝床部を中心に時計方向に360度捻転しており,完全型胆嚢捻転症であった.病理組織所見では,胆嚢壁は全層性に壊死に陥っていた.術後第36病日に退院となった.MDCTの所見から,術前診断可能であった胆嚢捻転症の1例を経験した.
  • 高原 善博, 吉富 秀幸, 吉留 博之, 清水 宏明, 高野 重紹, 宮崎 勝
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3095-3099
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    抗菌薬の長期投与によってビタミンK欠乏の凝固能異常が引き起こされることはよく知られている.今回われわれは左下顎肉癌術後,開口障害のための長期経管栄養中に急性胆嚢炎を発症した症例に対し経管栄養中止,および抗生剤投与を行ったところ著明な凝固能異常を引き起こした1例を経験した.症例は59歳,男性.左下顎肉癌にて集学的治療施行中に腹痛を主訴に発症.保存的治療にて炎症改善後,手術目的に当科入院となった.入院後再び胆嚢炎を起こしたため経管栄養の中止および7日間の抗菌薬投与施行したところPT-INRが3.89に著明に延長したが,ビタミンK製剤の投与により半日で改善したため手術施行.術後は凝固能異常認めず退院となった.ビタミンKを含む経管栄養中止に抗菌薬使用が必要な場合,凝固能異常に十分注意を払う必要があると思われた.
  • 石川 博人, 松本 亮一, 広津 順, 末吉 晋, 島松 一秀, 木下 壽文, 白水 和雄
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3100-3104
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    黄色肉芽腫性胆嚢炎(以下XGC)は亜急性胆嚢炎の範疇に属する特徴的な肉眼像と病理組織像を呈する胆嚢炎の一つである.本症は臨床的に病変の進展様式,特徴的な組織像から悪性腫瘍,特に浸潤型胆嚢癌との鑑別が困難な疾患とされている.われわれは胆嚢癌との鑑別が困難であったXGCの1例を経験したので報告する.症例は71歳,男性.右季肋部痛と黄疸を主訴に来院.術前の腹部US,CT検査にて胆嚢壁の肥厚および胆嚢床部への浸潤像が認められ,浸潤性胆嚢癌が疑われた.鑑別診断としてXGCが考えられたが,腫瘍マーカーの上昇,胆汁細胞診でClassIV~Vの診断および18F-FDG-PET検査にて胆嚢に腫瘍性集積が指摘されたため,胆嚢癌の可能性が高いと判断した.手術は肝中央二区域切除,肝外胆管切除,D2リンパ節郭清,肝管空腸吻合術を施行した.術後病理組織診断ではXGCであり,悪性所見は認められなかった.
  • 佐々木 路佳, 櫛田 隆久, 池田 雄祐, 近藤 正道, 熊谷 文昭, 圓谷 敏彦
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3105-3109
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,男性.慢性腎不全にて52歳時(1994年)から血液透析治療を受けていた.59歳時(2002年10月)に8×4mmの胆嚢ポリープを指摘される.1年後急速に増大を認めたため,胆嚢癌の疑いにて2003年11月(60歳時)腹腔鏡下胆嚢摘除術を施行.術後,胆嚢癌の病理診断を得た.翌2004年2月,肝S4aに30×22mmの転移を認めたため肝部分切除施行.その後5年間を経過するも,無再発にて現在も当院の外来血液透析に通院中の症例を経験したので報告する.
  • 福田 三郎, 向井 正一朗, 藤崎 成至, 先本 秀人, 江藤 高陽, 高橋 信
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3110-3114
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,女性.血液検査でCEA,CA19-9の上昇を認め,精査目的に当院紹介.CTで肝左葉に肝内胆管の拡張と淡く染まる4.5×3.0cm大の腫瘍を認めた.門脈臍部は通常の位置に存在せず,胆嚢底部は外側区域に存在した.血管造影CTでは,門脈本幹を尾側から追うと,門脈本幹からまず後区域枝が出た後,門脈本幹は外側区域枝を出し,門脈臍部を形成して前区域枝を出していた.CT during drip infusion cholangiography(DIC-CT)では,左肝管は腫瘍により根部で閉塞し,右肝管は胆嚢頸部の腹側を横切り,後区域と前区域に分岐していた.以上から右側肝円索を伴った中枢型の肝内胆管癌の診断で,拡大左葉切除および胆道再建を施行.術後経過は良好で術後38日目退院し,術後1年3カ月の現在再発を認めていない.右側肝円索は稀であるが,門脈分岐異常を伴うことが多く肝切除を行う際は注意が必要である.術中,術後合併症を回避するために,multidetector-row CT(MDCT),血管造影CTなどによる十分な術前の評価と術中エコーによる確認が重要と考えられる.
  • 岡田 克也, 宮澤 光男, 合川 公康, 利光 靖子, 岡本 光順, 山口 浩, 小山 勇
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3115-3120
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.自覚症状なし.人間ドックの腹部エコーで肝S5に腫瘤性病変を指摘された.AFP;2305.2ng/ml,PIVKA-II;99mAU/mlと高値,HBV Ag(-),HCV Ab(-).腹部造影CTで肝S5に約6cm大の早期相で辺縁が不均一に造影され,遅延相においても造影効果が遷延する腫瘤を認めた.画像診断上,肝内胆管癌も鑑別として挙げられたが,AFP,PIVKA-II高値であることから術前診断を肝細胞癌として肝S5亜区域切除術を施行した.術後病理組織所見で細胆管細胞癌(cholangiolocellular carcinoma;CoCC)と診断され,免疫染色では一部AFP,Hep-Par1陽性部分も認められた.細胆管細胞癌は極めて稀な疾患であり,術前AFPが高値を示した報告例はわずかである.また本症例の病理組織学的特徴は過去に報告例がないため,文献的考察を加えて報告した.
  • 又木 雄弘, 新地 洋之, 蔵原 弘, 福島 浩平, 夏越 祥次, 高尾 尊身
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3121-3126
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は54歳,女性.腹部CTで偶然発見された膵体部の内分泌腫瘍の診断で当科紹介.入院後精査にて,転移性肝腫瘍を伴っていたが,膵体部の腫瘍より尾側の膵に実質組織や主膵管を認めず,膵体尾部欠損合併膵内分泌腫瘍の診断.治療方針として,膵腫瘍は切除を行い,転移性肝腫瘍は肝動注療法を中心とした化学療法を行う方針とした.手術所見では,膵体部に腫瘍を認め,それより尾側は分厚い脂肪組織に置換し,膵実質・主膵管を認めなかった.膵中央切除術を行い,膵の消化管再建は行わなかった.組織学的には,高分化型神経内分泌癌であり,膵腫瘍の尾側は,ほぼ脂肪置換しており,ラ島を散在性に認めたが,膵外分泌細胞は認めなかった.術後の膵内分泌機能は良好で,耐糖能異常を認めなかった.膵体尾部脂肪置換を合併した膵内分泌腫瘍に対して膵中央切除術を行い,尾側膵の消化管への再建を行わなかった極めて稀な症例を経験したので報告する.
  • 篠原 永光, 河崎 秀樹, 大谷 広美
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3127-3130
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    腎細胞癌術後14年目に発症した多発膵転移に対し膵全摘術を施行した1例を報告する.症例は59歳,女性.1994年腎細胞癌に対して右腎摘出術を施行した.以後無再発であったが,2008年2月の腹部CTで造影効果を伴う多発膵腫瘍を指摘された.精査の結果多発膵転移と診断され,手術加療目的で当科紹介となった.2008年4月膵全摘術,リンパ節郭清,脾合併切除を施行した.病理診断では腎細胞癌の多発膵転移と診断された.術後はインスリンによる血糖コントロールを要したが,合併症なく術後45日目に軽快退院した.当科では本症例を含み腎細胞癌膵転移症例を4例経験している.孤立性転移病変であれば積極的な外科切除により予後の改善が期待できると考えられた.
  • 伊藤 忠雄, 野口 明則, 齊藤 朋人, 清水 健, 岡野 晋治, 川端 健二
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3131-3135
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,女性.腹痛および発熱を主訴に近医より紹介され,CT・MRIで膵頭部に厚い被膜を有する直径11cmの多房性嚢胞性腫瘍を認めた.多数の比較的大きな壁在結節も認められたことより膵粘液性嚢胞腺癌(MCC)と診断し亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.摘出標本の病理組織学的検索でも卵巣様間質を伴う腺癌を認めMCCと診断されたが嚢胞壁外への浸潤所見はなく非浸潤癌(Tis)と診断された.MCCに関する本邦および海外の報告では圧倒的に中年女性の膵体尾部原発が多く,高齢女性の膵頭部原発のMCCは稀であった.MCCでは術前の良悪性の鑑別は困難であるとされており,非浸潤癌であれば病巣の完全切除が達成されればリンパ節郭清は必ずしも必要ではないと思われるが,至適リンパ節郭清範囲に関しては再発形式も含めた症例の蓄積による検討が必要であると思われた.
  • 大城 直人, 川上 浩司, 砂川 宏樹, 當山 鉄男, 稲嶺 進, 座波 久光
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3136-3140
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は54歳,男性.胸部違和感にて近医受診し,膵尾部癌の診断にて手術を予定されていたが当院を希望し受診した.同様の診断にて手術を勧められたが拒否,1カ月後,腹痛出現したため手術を希望し再受診,手術を施行したが,肝転移,腹膜播種あり試験開腹に終わった.退院後,外来にて塩酸ゲムシタビンによる化学療法を1クール終了したところ,悪寒戦慄を伴う上腹部痛を認めた.腹部CT上,腫瘍はほぼ壊死に陥り,空洞化していた.腹腔内free airも認められ,腫瘍浸潤部位の横行結腸が化学療法の効果で腫瘍壊死に陥り,穿孔をおこしたものと診断した.経過中,消化管出血もきたし,横行結腸切除,人工肛門造設術を施行した.塩酸ゲムシタビン単剤による化学療法中の大腸穿孔の報告は自験例を含め2例と極めて稀であり,文献的考察を加え報告する.
  • 竹元 伸之, 山本 宏, 佐藤 敏昭
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3141-3145
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は34歳,女性.左側腹部痛を主訴に来院,同部位に圧痛を伴う10cm大の腫瘤を触知した.腹部CT,超音波検査にて左上腹部に境界明瞭な充実性腫瘤を認め,腫瘤はMRIではT1強調像で淡い高信号,T2強調像で強い低信号を示す部分を内部に認め出血が疑われた.造影CTでは腫瘤内部は造影効果を示さず嚢胞状の所見を呈したが,脾動脈から分岐する動脈が途絶しており,捻転による支配血管の狭窄の可能性が指摘されたが術前診断は困難であった.開腹すると脾動脈から分岐する血管茎を持つ大きな副脾が時計方向に360度捻転しており,副脾の茎捻転と診断された.副脾摘出術を施行し病理組織学的にも脾うっ血と診断された.本疾患は術前診断が難しいが,造影CTにて造影血管と周囲臓器との関係を三次元的に検討することが術前診断の助けとなる可能性が示された.また本疾患は若年者の急性腹症の鑑別疾患の一つとして念頭におくべき疾患であると考えられた.
  • 新名 一郎, 長沼 志興, 千々岩 一男, 内山 周一郎, 中島 真也, 永野 元章
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3146-3150
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,鼠径ヘルニアによる続発性大網捻転症の1例を経験したので報告する.症例は53歳,男性.右鼠径部痛を主訴に当院を受診した.右鼠径ヘルニア嵌頓を認め,整復は不可能であった.また右側腹部に自発痛,圧痛を認めた.腹部CTで右側横行結腸尾側に渦巻状の層構造を認め,その遠位側の大網は浮腫状の変化を示し,拡張した右鼠径管に連続した.右鼠径ヘルニア嵌頓および続発性大網捻転症疑いの診断で緊急手術を行った.外鼠径ヘルニアの嵌頓で,大網が索状となりヘルニア嚢に癒着していた.癒着部は時計回りに4回捻転しており,末梢側の一部に壊死を認めた.中枢側の大網に壊死を認めなかった.癒着し捻転していた壊死部大網の切除を行い,メッシュプラグ法で鼠径ヘルニアは修復した.術後8日目で退院,大網の浮腫によると思われる右側腹部痛は術後3週ほど続いたが自然に軽快した.
  • 山中 直樹, 的場 直行, 横畑 和紀, 野口 浩司, 亀岡 宣久
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3151-3155
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例1は61歳,女性.繰り返す腸閉塞のため当院受診.腹部単純X線,造影CT検査で右側結腸壁に沿った石灰化を認め,注腸検査では上行結腸はび慢性に狭小化しており,盲腸から横行結腸右側まで拇指圧痕像を認めた.画像所見より特発性腸間膜静脈硬化症と診断され,症状の改善目的で2008年3月,腹腔鏡補助下結腸右半切除術を施行した.症例2は72歳,男性.便潜血陽性のため下部消化管内視鏡を施行され,盲腸から横行結腸にかけて暗紫色調の浮腫状粘膜と趨壁の腫大,小潰瘍を認めた.生検では粘膜内の血管壁と間質に硝子様物質の沈着が見られた.腹部造影CTでは盲腸から横行結腸の壁肥厚が見られ,その還流静脈の石灰化が認められた.以上より特発性腸間膜静脈硬化症と診断し,無症状のため保存的に経過観察とした.
  • 岡田 貴幸, 青野 高志, 鈴木 晋, 長谷川 正樹, 武藤 一朗, 佐藤 友威
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3156-3161
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    Interventional radiologyが奏効した上腸間膜静脈血栓症の1例を経験した.症例は79歳,男性.平成13年8月昼食後腹痛,嘔吐が出現し,当院救急外来受診.腹部CTにて上腸間膜静脈血栓症と診断された.腹膜刺激症状を認めず,CT上も明らかな腸管虚血所見を認めないことから,保存的治療を行う方針とした.腹部血管造影検査を行った後,上腸間膜動脈内にカテーテルを留置しウロキナーゼ,ヘパリン,プロスタグランディンの持続動注療法を行った.腹部所見は著明に改善し,12時間後に施行した血管造影検査で門脈および上腸間膜静脈の著明な血流改善を認めた.腹部CTでも血栓の消失を確認した.経過は良好で入院18日目に退院した.明らかな原因疾患を認めないため,特発性上腸間膜静脈血栓症と診断した.退院後も抗凝固療法を行い,8年再発なく外来通院中である.本邦の保存的治療報告例を集計し,文献的考察を行った.
  • 田中 伸佳, 服部 昌和, 道傳 研司, 宮永 太門, 海崎 泰治, 吉川 淳
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3162-3165
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は50歳,男性.食欲低下,腹部膨満感を主訴に当科受診した.既往歴に糖尿病があり,47歳時に十二指腸潰瘍穿孔で広範囲胃切除・Roux-Y再建術を施行されている.腹部CT検査および腹部MRI検査では肝・横行結腸間膜を中心に境界不明瞭な腫瘤形成を認め,胆嚢周囲,脾前面および腹壁にも浸潤様の変化を呈していた.腹壁から生検を行ったところ放線菌塊を認め腹部放線菌と診断した.合成ペニシリンの点滴投与の後,同剤の経口投与を長期間継続し症状は軽快した.腹部放線菌症の画像所見では境界を越えて浸潤発育する慢性化膿性肉芽腫の像を呈し,しばしば悪性腫瘍の浸潤と鑑別が問題となる.また生検による確定診断が得られる確率も低く,術前診断は困難とされている.腹腔内臓器の間隙に浸潤性病変の像を呈する腫瘤については放線菌症を念頭に,積極的な生検を行うことで診断率の向上につながる可能性がある.
  • 戸口 景介, 河島 秀昭, 高梨 節二, 吉田 信, 樫山 基矢, 石後岡 正弘
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3166-3170
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    今回われわれは術前に診断し腹腔鏡手術が有用であった子宮広間膜裂孔ヘルニアの1例を経験したので報告する.症例は46歳,女性.突然の左下腹部痛を主訴に来院した.腹部multi-detector CTにて拡張した腸管を骨盤底に認め,子宮がやや右側に圧排され,左子宮広間膜に回腸の嵌頓が疑われる所見を認め,左子宮広間膜裂孔ヘルニアを疑った.腹腔鏡下に手術を施行したところ,約15cmの長さの回腸が左子宮広間膜に生じた異常裂孔に嵌頓しており,嵌頓腸管を愛護的に引き出し,異常裂孔は鏡視下に縫合閉鎖した.嵌頓腸管に血流障害はなく腸管切除を施行することなく手術を終了した.術後経過は良好にて術後5日目に退院となり,術後約7カ月経過しているが再発を認めていない.子宮広間膜裂孔ヘルニアは典型的な画像により術前診断が可能な疾患であり,原因不明の女性のイレウスの場合は子宮広間膜裂孔ヘルニアも念頭に置くべきである.
  • 猪狩 公宏, 落合 高徳, 熊谷 洋一, 山崎 繁
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3171-3175
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は69歳,女性.2008年7月に交通事故で横行結腸損傷,横行結腸間膜損傷,膵損傷,肋骨骨折,肺挫傷を受傷.横行結腸部分切除術,洗浄ドレナージ術にて救命しえた.受傷半年が経過したところで,左側腹部膨隆を自覚し当科を受診.腹部CT検査にて側腹筋の断裂と皮下への腸管脱出を認めたことより,外傷性腹壁ヘルニアと診断した.外傷性腹壁ヘルニアは,腹壁に加わった直達力あるいは介達力による,筋損傷の結果生じるヘルニアである.受傷直後に起こる場合が多いとされているが,本症例および本邦報告例を検討すると遅発性発症例が多いことがわかった.外傷の既往がある場合の腹部膨隆に対しては本症の鑑別を念頭に置く必要があると考えた.
  • 佐藤 雄, 大木 進司, 鈴木 聡, 遠藤 良幸, 竹之下 誠一, 関川 浩司
    2009 年 70 巻 10 号 p. 3176-3179
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,女性.既往歴:半年前にEhlers-Danlos症候群と診断されている.現病歴:嘔吐を主訴に受診され,精査により上腹正中切開創の下端に5×7cm大のヘルニア門を認め,小腸をヘルニア内容とする腹壁瘢痕ヘルニアと診断した.手術ではEhlers-Danlos症候群による組織の脆弱性を考慮して,直接的な縫合閉鎖ではなくComposix Mesh®を用いることとし,これを腹壁に貼付しヘルニア修復を行い良好な結果を得ることができた.Ehlers-Danlos症候群は非常に稀な疾患で,結合織の脆弱性により腹壁瘢痕ヘルニアを併発することがあるが,外科的治療については原疾患の特性により難治性であることが多い.巨大腹壁瘢痕ヘルニア手術で多く用いられるComposix Mesh®は本症候群における腹壁瘢痕ヘルニア修復術においても有効であると考えられた.
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