日本東洋医学雑誌
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58 巻, 3 号
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特別講演
  • ―東洋の知に立脚した個の医療の創生―
    寺澤 捷年
    2007 年 58 巻 3 号 p. 391-405
    発行日: 2007/05/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    富山医科薬科大学 (現・富山大学) が採択された, COEプログラムの概要を基盤研究, 臨床研究について呈示した。基盤研究についてはモンゴルおよび中国の現地調査の内容を, また, 各種「大黄」の地域分布とその成分の構成の相違を述べた。また「人参」についてはDNAマイクロ・アレイを用いた同定法を述べた。また, 腸内細菌による生薬成分の構造変換について, 最新の研究成果を報告した。臨床研究については「お血」病態患者の血漿プロテオーム解析について進捗状況を報告し, これら研究の中間評価についての「日本学術振興会」の審査結果を呈示した。
教育講演・基礎漢方講座
  • 浅岡 俊之
    2007 年 58 巻 3 号 p. 407-412
    発行日: 2007/05/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    今から30年ほど前に漢方薬は保険収載され, 徐々に医師により処方される一般的な薬剤のひとつとなった. しかしながら保険収載された当時, あるいは現在も医師の殆どは東洋医学に対する認識が薄く, 全くその内容を知らないことも稀ではない. そのような環境は臨床家に漢方治療の価値を考えるための材料を提供してはいない. 漢方薬は本来, 東洋医学の治療方法のひとつとして成立していたものであり, その使用根拠, 適応, 禁忌などは東洋医学の論理で理解されるべきものであるが, 現状はそれとは異なった状況にあり, 西洋医学にその根拠を求めようとしている. この現状がもたらされた理由を歴史的背景から理解することは非常に重要である. なぜかといえば, それは漢方治療を行うことの意味や価値を教えるからである.
  • 水嶋 丈雄
    2007 年 58 巻 3 号 p. 413-421
    発行日: 2007/05/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    古代中国の「傷寒論」には経絡を意識した記載がある。経絡とは経穴の機能的連絡ルートであるが, 日本の漢方界では目に見えないものとして無視をしてきた。しかし, これを自律神経の作用ルートとして経絡を理解すれば「傷寒論」の条文がよく理解できる。また鍼灸治療の立場からは要穴といわれる経穴は自律神経作用点として重要な意味をもっている。「井」穴はアドレナリン分泌作用, 「栄」穴はIFNγ分泌作用「兪」穴はPGE2分泌作用などのように, 自律神経系への作用を理解することは鍼灸治療の際に重要である。
  • 伊藤 隆
    2007 年 58 巻 3 号 p. 423-426
    発行日: 2007/05/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    寺澤らがお血病態の診断基準を作成したところ, 臍傍抵抗圧痛所見の配点が高かった。お血スコア高値群では正常群に比較して血液粘度上昇が明らかであり, これによりこの診断基準の傍証が得られた。桂枝茯苓丸の4週間の投与により, 脳脊髄血管障害患者14例中7例でしびれの改善が認められた。このとき眼球結膜微小循環測定システムにより測定した血管内赤血球集合現象の改善を確認できた。これらの研究によりお血病態に微小循環障害が伴うこと, お血治療薬がこれを改善することを明らかにした。漢方医学ではお血治療薬を運用する上で重要なポイントは, 虚実, 顔色 (赤ら顔か蒼白か), 便秘の有無をチェックすることにある。虚実を診ることは効く薬を探すよりも, 副作用の予防の意義の方がより大きい点を強調した。
  • 大野 修嗣
    2007 年 58 巻 3 号 p. 427-432
    発行日: 2007/05/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    中医学の診断と治療は, 陰陽五行論とよばれる古代中国の哲学理論を基とした理論によって説明されている。中医学の診断と治療の過程は弁証論治と呼ばれている。弁証とは, 中医学の診断であり, 四診と呼ばれる診断技術によってその情報が収集される。弁証の結果から診断が生まれ, この診断を基に中医学の治療がなされる。この治療を論治と呼ぶ。ここでは, 中医学の診断・治療過程を全体的に概観したい。
学会シンポジウム
原著
  • 星本 和倫
    2007 年 58 巻 3 号 p. 475-479
    発行日: 2007/05/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    体外受精-胚移植は難治性不妊に対して広く行われている治療である。しかし, 胚移植時の子宮収縮が治療効果に悪影響を与えるという報告がある。そこで今回われわれは, 平滑筋収縮抑制効果が期待できる芍薬甘草湯を胚移植時に併用し, 体外受精-胚移植の成績が向上するかどうかを検討した。
    体外受精を行った186症例のうち, 体外受精を行った順に1番目~94番目に対し芍薬甘草湯を胚移植後4日間投与し, 95番目~186番目に対しては何も投与しなかった。また二つの群において年齢や移植胚数および胚質, 黄体機能など臨床的背景に有意な差はなかった。
    芍薬甘草湯を投与した群と非投与群とで胚移植あたりの妊娠率を比較したところ投与群は33.0%だったのに対し非投与群は20.7%となり, 両群間に有意な差が認められた。しかし, 本研究結果を説明する正確なメカニズムは不明である。したがって, さらに症例数を増やし, 胚移植時の芍薬甘草湯の効果を検討していく必要がある。
臨床報告
  • ―肩甲間部痛・違和感について―
    関矢 信康, 林 克美, 地野 充時, 笠原 裕司, 並木 隆雄, 巽 武司, 小暮 敏明, 柴原 直利, 平崎 能郎, 寺澤 捷年
    2007 年 58 巻 3 号 p. 481-485
    発行日: 2007/05/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    半夏厚朴湯は『金匱要略』を原典とする処方で咽中炙臠を主要な目標として胃症状, 神経症状, 咽喉付近の症状あるいは浮腫を表すものに応用されてきた。今回, 我々は肩甲間部の疼痛・凝りなどの違和感を訴える2症例に半夏厚朴湯エキスを投与し奏効した。この経験を基に気鬱・水毒の症候, 肩甲間部違和感を有し, 咽中炙臠を伴わない15症例に半夏厚朴湯を投与し検討を行った。その結果, 全ての症例において愁訴の軽減とともに肩甲間部の違和感も軽減あるいは消失を認めた。このことから咽中炙臠を伴わない症例であっても胃部の停滞感, 腹部膨満感, 胃内停水, ガスの滞留といった従来用いられている目標に加えて肩甲間部, 特に第4~7胸椎棘突起両傍の違和感や圧痛の有無を証明することで, さらに本方の応用範囲が広がりうるものと考えられる。
  • 有島 武志, 若杉 安希乃, 及川 哲郎, 伊藤 剛, 深尾 篤嗣, 大澤 仲昭, 花房 俊昭, 石野 尚吾, 花輪 壽彦
    2007 年 58 巻 3 号 p. 487-493
    発行日: 2007/05/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    難治性パニック障害に対して, 竜骨湯が著効した一例を経験した。症例は55歳女性。2003年3月頃から気力低下, 集中力低下, 突然の不安感に伴う動悸や血圧上昇 (収縮期血圧190mmHg以上) が出現。症状が激しい時は救急搬送される程であった。しかし精密検査では特記異常は認められず, 自律神経失調症と診断され, SSRIを含めた抗うつ薬, 抗不安薬が処方されたが, 改善を認めなかった。また, 数種類の医療用漢方製剤も順次処方されたが無効であったため, 更なる加療を求め2005年7月22日当院紹介受診。初診時, DSM-IVの基準に基づきパニック障害と診断。臨床所見から奔豚気病を疑い苓桂甘棗湯を煎じ薬で処方した。しかし1週間後も全く効果を認めず, 希望のなさや, 物忘れ, 悲傷感が強く感じられた。そこで, 初診時のSDS, POMS, 自律神経機能検査などの結果も踏まえ, 抑うつを背景とし, 極度の緊張を伴ったパニック障害と判断し, 竜骨湯に変方した。その結果自覚症状はほとんど消失し, 西洋薬もすべて中止できた。また, 心理テスト, 自律神経機能検査, 気血水スコアにおいても改善を認めた。竜骨湯は, 抑うつを伴ったパニック障害に有効である可能性が示唆された。
  • 引網 宏彰, 八木 清貴, 中田 真司, 岡 洋志, 後藤 博三, 柴原 直利, 嶋田 豊
    2007 年 58 巻 3 号 p. 495-501
    発行日: 2007/05/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    ANCA (抗好中球細胞質抗体) 関連血管炎によるneuropathyに伴うしびれ・疼痛の2症例に黄耆桂枝五物湯が奏効した。1例目は高熱, 下肢に疼痛を伴う皮疹, 蛋白尿で発症した57歳の女性。ステロイド剤の投与により激しい疼痛は軽減したが, neuropathyによるしびれと疼痛が下肢に広範囲に残存した。そこで黄耆桂枝五物湯を投与したところ, 2週間で疼痛はほぼ消失し, しびれも半減し, ステロイド剤の減量も順調に行えた。2例目は発熱と筋痛で発症した82歳の女性。ステロイド剤の投与により上腕の筋痛は消失したが, 下腿から足底にかけてしびれが出現し歩行に支障をきたした。黄耆桂枝五物湯を処方したところ, 足が温まり, しびれの範囲が減少し歩行が可能となった。これらの症例から, ANCA関連血管炎のneuropathyによるしびれ・疼痛に対して, 黄耆桂枝五物湯が有効である可能性が示唆された。
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