日本東洋医学雑誌
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60 巻, 2 号
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学術賞受賞講演
  • 二宮 文乃
    2009 年 60 巻 2 号 p. 135-144
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    慢性皮膚疾患は五臓の気血水バランスの異常により発生することが多い。慢性蕁麻疹もその一つで,西洋医学的標準治療では難治であるので,漢方医学的な体の内側からの治療が必要である。今回,貧血性蕁麻疹の症例には五積散を,ストレス性蕁麻疹の症例には桂枝加竜骨牡蛎湯を,ストレスを伴う寒冷蕁麻疹には茯苓四逆湯を中心処方として用いて著効した症例を報告した。気の巡りを客観的に評価するために手掌足底発汗検査を行い,ストレス負荷による掌蹠発汗を治療前後で比較した。
    慢性疾患における気血水の重要性は,吉益南涯,後藤艮山の著書にあるように,古く江戸時代まで遡ることができる。蕁麻疹は真皮内の血と水の異常であるが,気の異常が根底にある場合が多い。このため,脾,肺,腎の気の巡りをよくする処方を使用することで効果が得られると考える。
原著
  • 関矢 信康, 並木 隆雄, 笠原 裕司, 地野 充時, 平崎 能郎, 小川 恵子, 来村 昌紀, 橋本 すみれ, 大野 賢二, 寺澤 捷年
    2009 年 60 巻 2 号 p. 145-150
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    気鬱,気虚に水滞を兼ねた病態に対して茯苓飲合半夏厚朴湯が著効した3症例を経験した。これを基に気鬱,気虚に水滞を兼ねた30症例(男性6例,女性24例)に茯苓飲合半夏厚朴湯を投与したところ25症例で有効であった。有効例ではのぼせを自覚する者が比較的多くみられた。有効例で心窩部痛あるいは心窩部不快感を訴える場合には必ず動悸,胸焼け,胸部圧迫感,呼吸困難などの胸部症状を伴った。他覚所見では腹部動悸,胃部振水音が有効例に高率に認められた。茯苓飲合半夏厚朴湯を投与する場合に上記の自他覚所見の有無を確かめることでより高い精度で処方決定しうる可能性が示唆された。
臨床報告
  • 箕輪 政博, 形井 秀一
    2009 年 60 巻 2 号 p. 151-153
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    急性のスポーツ外傷で下肢の鍼と患部への実按灸療法を施術した一症例を報告する。患者は15歳の高校1年生男子。バスケットボールのシュート時に背中から墜落して2日後から急性の背部痛が出現し来院した。骨折を疑い医師の診断を仰いだ結果打撲と診断され,鍼灸治療を希望した。鍼灸治療は下肢への置鍼と患部背部への実按灸を患部脊柱起立筋へ6~8カ所施灸,評価は数値的評価スケール(NRS)を用いた。第2診の実按灸施灸後に症状が緩和し,NRS値も改善したので,治療は3回で終了した。本症例の実按灸療法は,患部へ不燃性の防炎シートを4~5重に折ってのせ,その上から棒灸を直接押し当てる方法を用いた。日本鍼灸臨床では透熱灸が中心であり,実按灸の頻度は低いようである。本症例により実按灸療法の打撲やぎっくり腰などの急性症状に対する有用性が示唆された。
  • 桜井 みち代, 石川 由香子, 大塚 吉則, 八重樫 稔, 宮坂 史路, 今井 純生, 本間 行彦
    2009 年 60 巻 2 号 p. 155-159
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    漢方治療をおこなって著効を得た脂漏性皮膚炎の5症例を経験した。うち3例は1ないし2年前から,顔面に皮疹がみられ,ステロイド剤やケトコナゾール外用剤による治療をうけていたが効果なく,十味敗毒湯により数カ月でほぼ完治した。他の2例はそれぞれ10年と25年前から被髪頭部に皮疹が続いていたが,荊芥連翹湯,麻杏よく甘湯,抑肝散加陳皮半夏の合方で,それぞれ2カ月後と8カ月後に著しく改善した。
  • 卯木 希代子, 早崎 知幸, 鈴木 邦彦, 及川 哲郎, 花輪 壽彦
    2009 年 60 巻 2 号 p. 161-166
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    数年来の耳鳴に対して蘇子降気湯を投与した症例を経験したので,著効を得た2症例の症例呈示と合わせて報告する。症例1は70歳女性。主訴はめまい,耳鳴,不眠である。5歳時の両耳中耳炎手術後より耳鳴があったが,3カ月前より回転性めまいが出現,以後耳鳴が強くなり来所した。頭重感,不眠,足先が冷えやすい等の症状があり,蘇子降気湯加紫蘇葉を処方したところ,服用1カ月でめまいは改善し,3カ月後には不眠や耳鳴も改善し,8カ月後には普通の生活ができるようになった。症例2は58歳男性。難聴,耳鳴を主訴に来所した。5年前より回転性めまいと右の聴力低下が出現,進行して聴力を喪失し,さらに1年前より左の聴力低下も出現した。近医にてビタミン剤や漢方薬を処方されたが聴力過敏・耳鳴が出現した。イライラ,不眠,手足が冷える等の症状も認めた。八味丸料加味を投与したが食欲不振となり服用できず,気の上衝を目標に蘇子降気湯加紫蘇葉附子に変方したところ,服用1カ月で自覚症状が改善し,騒音も気にならなくなった。その後の服用継続にて不眠・足冷も改善した。当研究所漢方外来において耳鳴に対する蘇子降気湯の投与を行った13例中,評価可能な10例のうち5例に本方は有効であった。有効例のうち4例は,のぼせまたは足冷を伴っていた。
    蘇子降気湯は『療治経験筆記』において「第一に喘急,第二に耳鳴」との記載がある。数年経過した難治性の耳鳴にも本方が有用であることが示唆された。
  • 小川 恵子, 並木 隆雄, 関矢 信康, 笠原 裕司, 地野 充時, 来村 昌紀, 橋本 すみれ, 大野 賢二, 寺澤 捷年
    2009 年 60 巻 2 号 p. 167-170
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    我々は,腰部脊柱管狭窄症による術後残存症状が漢方治療で軽快した1例を経験した。症例は,69歳,女性。主訴は,下肢のしびれ・冷感・疼痛。67歳時に脊柱管狭窄症と診断され,69歳時に腰椎椎弓除去術および腰椎後側方固定術を受けたが,術後も症状は持続した。また,手術縫合創も完治しなかった。このため,術後26日目に,漢方治療を目的として当科に転科となった。帰耆建中湯加烏頭を投与したところ,下肢冷感は著明に改善した。さらに,縫合創も処方後7日目でほぼ治癒した。帰耆建中湯加烏頭により,脊柱管狭窄症術後の残存症状が改善したばかりでなく,創傷治癒を促進したと推察された。
  • 橋本 すみれ, 地野 充時, 来村 昌紀, 王子 剛, 小川 恵子, 大野 賢二, 平崎 能郎, 林 克美, 笠原 裕司, 関矢 信康, 並 ...
    2009 年 60 巻 2 号 p. 171-175
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    線維筋痛症による全身の疼痛に対し,白虎湯加味方が有効であった症例を経験した。症例は65歳女性。自覚症状として,夏場に,あるいは入浴などで身体が温まると増悪する全身の疼痛および口渇,多飲があり,身熱の甚だしい状態と考えて,白虎湯加味方を使用したところ全身の疼痛が消失した。線維筋痛症に対する漢方治療は,附子剤や柴胡剤が処方される症例が多いが,温熱刺激により全身の疼痛が悪化する症例には白虎湯類が有効である可能性が示唆された。
東洋医学の広場
  • —第2回エビデンスレポート・タスクフォース・ワークショップ報告—
    鶴岡 浩樹, 岡部 哲郎, 津谷 喜一郎
    2009 年 60 巻 2 号 p. 177-184
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    日本東洋医学会EBM特別委員会では2005年から第2期活動として,第1期の『漢方治療におけるエビデンスレポート』を発展させる作業を evidence report task force(ER-TF)が実施している。その作業は収集する臨床試験をランダム化比較試験に限定し,世界的な標準に基づく構造化抄録集を作成することである。国際的なEBM情報誌に倣い作成者のコメントを追記することとしたが,その書き方が問題となった。批判的なコメントが著者との闘争を招き,EBMが受け入れられないことが示唆された。著者を傷つけず,伝えるべきことは伝え,EBMを推進させることを目標に,2007年6月17日,第2回ER-TFワークショップ「適切なコメント作成のために」が開催された。医学教育の分野で知られるPNP(positive‐negative‐positive)など紹介され,EBM推進に有意義であったため報告する。
  • —薬剤師及び病棟看護師に対するアンケート調査からの検討—
    並木 隆雄, 笠原 裕司, 関矢 信康, 地野 充時, 林 克美, 平崎 能郎, 大野 賢二, 来村 昌紀, 小川 恵子, 橋本 すみれ, ...
    2009 年 60 巻 2 号 p. 185-193
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    【目的】和漢診療による病院での入院加療開始時の煎じ薬を含む漢方薬処方の問題点を明らかにするため,当院の薬剤師と和漢診療科病棟担当看護師にアンケート調査を行った。【方法】薬剤師に対しては漢方薬の取扱,調剤時リスクおよび服薬指導に関して,看護師には西洋薬と比較し,配薬時の取扱リスクについて質問した。【結果】アンケートは漢方薬担当薬剤師7名全員,病棟看護師16名中14名が回答した。薬剤師は調剤に手間がかかる点を指摘したが,西洋薬に比較して調剤リスクはないと回答した。服薬指導経験者は1名のみであった。看護師は煎じ薬のみ,やや扱いにくいと考えていたがリスクは同じと考えていた。【総括】薬剤師と看護師ともに煎じ薬について,やや取り扱いにくいがリスク・管理での問題は少ないと考えていた。入院治療の開始までの医師,薬剤師,看護師,事務部門との十分な打ち合わせと教育が重要と考えられた。
  • —日本東洋医学雑誌編集委員会の議論より—
    伊藤 隆, 渡辺 賢治, 池内 隆夫, 石毛 敦, 小曽戸 洋, 崎山 武志, 田原 英一, 三浦 於菟, 関矢 信康, 及川 哲郎, 木村 ...
    2009 年 60 巻 2 号 p. 195-201
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/05
    ジャーナル フリー
    東洋医学論文には東洋医学を西洋医学のルールで論じることに起因した特異性がある。西洋医学に比較すると,人文科学的要素の多い東洋医学では記述が主観的になる傾向がある。目的,方法,結果,考察は,論文内容を客観化させ,査読者と読者の理解を容易ならしめるために必要な形式と考えられる。より客観的な記述のためには,指定された用語を用いることが理想であるが,現実的には多義性のある用語もあり,論文中での定義を明確にする必要がある。伝統医学では症状と所見と診断の区別が不明瞭な傾向があるが,科学論文では明確に区別して記述しなくてはいけない。新知見を主張するためには,問題の解決がどこまでなされているかをできるだけ明らかにする必要がある。投稿規定の改訂点である,漢方製剤名の記述方法,要旨の文字数,メール投稿について解説した。編集作業の手順について紹介し,再査読と却下の内容に関する最近の議論を述べた。
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