日本東洋医学雑誌
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58 巻, 6 号
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特別講演
招待講演
  • 田邉 敏憲
    2007 年 58 巻 6 号 p. 1085-1098
    発行日: 2007/11/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    米国などでは1990年代央から普及が始まったIT (情報通信技術) で可能となった伝統医療・食品の有効性やその定量化 (“見える化”) を踏まえ, 漢方薬草のコード化 (約7,000種類) ・DB化を進め, 伝統医療分野での特許取得も活発となっている。
    米国の伝統医療に対するプロパテント姿勢に象徴されるように, 知財・特許戦略など各国の科学技術政策にも大きく影響するだけに, 世界の大きな潮流に沿って, 今こそ日本も, 統合医療実現のための国をあげての取組みが必要である。
    日本がまずなすべきことは, 医療政策と科学技術政策の統合, 厚生労働省・農水産省・文部科学省・経済産業省政策の統合など, 各省の“縦割り蛸壺”型政策の統合である。
    “政策頼み”で思考停止となってしまいがちの日本であるが, 肝心のプレーヤーという視点で考えると, 中国, 韓国と比べても, 日本の方が統合医療を確立しやすい環境にある。すなわち, 中韓では, 西洋医学と東洋医学の並存を国是としてきたため, 両者間には“水と油”のような激しい対立があり, その統合はきわめて難しいとされる。しかし幸いにも日本では, 西洋医学医師が科学的な, すなわち客観的データに基づく医療 (EBM‹Evidence Based Medicine›) として東洋医学を再構成し, 両者の融合に努めている。
    加えて日本でも, 従来から各地域に存在する農水産業を安全・安心かつ免疫力を高める産業として捉え始めている。農水産業の「食料産業」から「健康産業」化である。どの地域においても, “医・食・農・環”産業が統合され, 子々孫々の代までもその地での生活が見通せる場作りが求められている。食が極めて重要な要素を占める東洋医学の科学化, すなわち「統合医療の科学技術戦略」は, 世界に先駆けて少子高齢化社会に突入, 過疎化が急速に進み, 雇用の場 (産業) の創出を求めている日本の各地域再生にも貢献することになる。
原著
  • 小田口 浩, 若杉 安希乃, 伊東 秀憲, 正田 久和, 五野 由佳理, 金 成俊, 遠藤 真理, 及川 哲郎, 坂井 文彦, 花輪 壽彦
    2007 年 58 巻 6 号 p. 1099-1105
    発行日: 2007/11/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    長年にわたる先人の経験に基づいて形成されてきた呉茱萸湯証を再考した。84名の慢性頭痛患者に対してツムラ呉茱萸湯エキス (TJ-31) 7.5g/日を4週間投与した。投与後に患者がレスポンダーか否か判定を行った。投与前に43項目からなる漢方医学的所見をとり, レスポンダーか否かを目的変数にした判別分析 (厳密に言えば数量化II類) を施行した。最終判定を行った80名のうち57名がレスポンダー, 23名がノンレスポンダーであった。ステップワイズ変数選択により「 (他覚的) 足冷」, 「胃内停水」, 「胸脇苦満」, 「臍傍圧痛」, 「腹部動悸」の5項目が有用な項目として抽出された。これらを使用した判別分析の誤判別率は35%であった。特に23名のノンレスポンダーのうち20名を正確に判別することができ, この5項目は呉茱萸湯証でない者を除外するのに役立つと考えられた。経験的に形成された呉茱萸湯証に, 「臍傍圧痛」や「腹部動悸」といった徴候も加えることでさらに診断の正確度が増す可能性が示唆された。
  • ―冷え症の病態についての検討―
    石田 和之, 佐藤 弘
    2007 年 58 巻 6 号 p. 1107-1112
    発行日: 2007/11/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    目的 : 冷えは頻繁に認められる訴えである。しかし, 冷えを自覚しているにもかかわらず, 他覚的には皮膚の冷感がない症例も存在する。我々は体表温度を測定し, 自覚症状と他覚所見の解離, 及び表面温度に対する気血水の影響について検討した。
    方法 : 当院初診の女性患者を対象に, 非接触型赤外線温度計を用いて身体各部の表面温度を測定した。標本を季節 (7~9月, 10月~12月, 1月~3月) と, 気虚, お血, 水滞の有無に層別化し比較検討した。
    結果 : 冷えのない群と較べて冷えのある群が有意に低温であることはなく, むしろ特定の条件下では冷えのある群の表面温度は冷えのない群より高かった。また, 気虚, 水滞があると表面温度が低く, お血があると逆に高くなる傾向があった。
    考察 : 特定の状況下 (足底・7~9月・気虚なし, 足底・10月~12月・お血あり) とはいえ自覚的冷えと表面温度の解離している例が実在したことから, 自覚的冷えは表面温度によってのみ規定されているのではなく, 気血水など他の要因の影響を受けて変化しうることが判明した。
    結論 : 冷えの治療に際しては患者の冷えの状態をよく観察し, 気血水の異常を把握して治療する必要がある。その際, 赤外線温度計は素早く簡便に温度測定ができ, 臨床的に有用と考えられた。
  • 並木 隆雄, 関矢 信康, 笠原 裕司, 地野 充時, 林 克美, 平崎 能郎, 大野 賢二, 檜山 幸孝, 喜多 敏明, 林 秀樹, 寺澤 ...
    2007 年 58 巻 6 号 p. 1113-1119
    発行日: 2007/11/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    目的 : 皮膚の湿潤の程度 (肌水分) を客観的に評価するため, 肌水分計を用いて数値化した。その測定値の再現性および測定部位別の差異の検討を行った。方法 : 〔検討1〕 健常男性6名の合計66カ所を約1-2週間おいて2回測定し, 測定値の再現性を検討。 〔検討2〕 皮膚疾患以外で通院中の患者81名について, 男女, 年齢別に身体各部位の肌水分を測定。測定部位は顔面, 胸部, 背部, 腹部, 前腕 (左右の尺側と橈骨側の中央部), 手掌および下肢の10カ所とした。結果 : 〔検討1〕 測定値の相関係数はr=0.716 (p<0.0001) と良好な相関関係を認めた。 〔検討2〕 部位別では [顔面, 胸部, 背部] はいずれも [腹部, 前腕4ヵ所, 下肢] と比較して有意に湿潤し, 手掌は前腕4ヵ所と比較して湿潤傾向にあった。性別では背部, 腹部で男性が有意に湿潤していた。年齢別で有意差は認めなかった。臨床上簡便な肌水分の基準値としては前腕のどの場所の測定でも利用可能と考えられた。また肌水分率を四逆散使用の決定および経過観察に用いた症例を紹介した。結論 : 肌水分計による肌水分の測定は漢方診療での客観的指標として臨床での応用が今後期待される。
臨床報告
  • 星野 綾美, 巽 武司, 奥 裕子, 佐藤 浩子, 伊藤 克彦, 田村 遵一, 小暮 敏明
    2007 年 58 巻 6 号 p. 1121-1126
    発行日: 2007/11/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    乾燥症状を伴う咽喉頭部の違和感や乾性咳嗽に蘇子降気湯が奏効した一例を経験したので報告する。症例は62歳の男性, X年10月頃から喉の乾燥感と咳嗽, 息苦しさを自覚し, 近医耳鼻科を受診した。咽喉頭に異常はなく投薬を受けたが症状は不変で, さらに食欲低下も出現したため, 和漢診療を希望して当科を受診した。当院でも耳鼻科と併診としたが, ガムテストで軽度の唾液分泌量の低下を認める以外に明らかな異常を認めず, 眼の乾燥症状もみられなかった。口腔乾燥症による咽頭の違和感と息苦しさと考えられ, 受診時から1カ月間, 麦門冬湯合半夏厚朴湯を投与したが不変であった。茯苓飲合半夏厚朴湯に転方後, 食欲は改善傾向となったが, 強い咽喉頭乾燥感は続いていた。そこで, 気逆が主病態と考え蘇子降気湯に転方した。投与1カ月後から乾燥感が軽減し, その後漸次息苦しさや咳嗽も消失, 投与11カ月で廃薬となった。乾燥症状の存在する咳嗽や息苦しさに対して, 本方の有用性が示唆された。
  • 中永 士師明, 松永 直子
    2007 年 58 巻 6 号 p. 1127-1131
    発行日: 2007/11/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    重症熱傷が長期化した場合は創部へのMRSAの感染はもとより肺炎, 尿路感染, カテーテル感染などを合併し治療に難渋することがある。補剤には免疫機構の活性化が期待されるが, 重症熱傷に合併したMRSA感染症に対して補剤を使用した報告はほとんどない。今回, 2例のMRSA感染症に対して十全大補湯を使用し良好な結果を得たので報告する。[症例1] 34歳, 男性。自殺企図にて灯油を頭からかぶり火をつけて85%の火炎熱傷を受傷した。吸引痰よりMRSAが検出され, アルベカシン投与を行うも改善せず, 貧血もみられたため, 十全大補湯の内服を開始した。その後は経過良好で, 受傷後84日目に独歩退院となった。[症例2] 64歳, 男性。自殺企図にて灯油を頭からかぶり火をつけて40%の火炎熱傷を受傷した。受傷12日目, 肺炎および創部敗血症の全身管理目的に当院へ紹介となった。来院時創部より緑膿菌, プロテウス, 大腸菌が, 吸引痰より緑膿菌, クレブシエラ, カンジダが検出された。14病日には吸引痰からMRSAが検出されたため, 十全大補湯の内服を開始した。その後は経過良好で, 125病日目に退院となった。重症熱傷において過大侵襲, 自殺企図, 貧血, MRSA感染症など血・気虚が併発する場合には十全大補湯は全身状態改善に寄与できると思われた。
  • 八木 清貴, 岡 洋志, 野上 達也, 井上 博喜, 中田 真司, 野崎 和也, 引網 宏彰, 後藤 博三, 柴原 直利, 嶋田 豊
    2007 年 58 巻 6 号 p. 1133-1137
    発行日: 2007/11/20
    公開日: 2008/09/12
    ジャーナル フリー
    反復する癒着性イレウスに小承気湯 (煎薬) を投与し, イレウス管を挿入することなく早期に改善した症例を経験した。症例は75歳の男性で, 開腹術後の腹部症状のため当科外来に通院していた。腹痛, 腹満を主訴に当科を受診した際, 腹部レントゲン写真上niveauを認めたため, イレウスと診断され入院となった。舌に厚い黄苔を認めたことから, 陽証かつ実証と診断し小承気湯を投与した。一服後40分で転失気があり, 2時間後に排便を認めた。さらに一服後大量の下痢便を認め, 翌日にはniveauは消失した。イレウスは寒によって起こることが多いとされ大建中湯が頻用されるが, 舌に黄苔を被った陽証のイレウスには承気湯類などの寒下剤で下すことで改善する症例もあると考えられた。
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