日本東洋医学雑誌
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61 巻, 2 号
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原著
  • —酒洗大黄と酒浸大黄の主成分含量の比較—
    堂井 美里, 垣内 信子, 江原 利彰, 御影 雅幸
    2010 年 61 巻 2 号 p. 133-137
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    中国医学では古来,生薬を特定の目的で修治してきた。漢方生薬「大黄」には黄酒を用いて酒洗及び酒浸の修治が施されてきた。しかし,これら酒製の意義の科学的解明は不十分である。そこで,本研究ではエタノール溶液を用いて修治大黄を調製し,主成分含量(sennoside A, sennoside B, aloe-emodin, rhein, emodin, chrysophanol, physcion, lindleyin, isolindleyin, tannin類)の変化を調査した。16%エタノール溶液に30秒間浸した酒洗大黄では,sennoside含量は生大黄とほぼ同様であった。すなわち,瀉下作用は保持されていると考えられる。一方,エタノール溶液に12~24時間浸した酒浸大黄では,生大黄に比してsennoside及びtannin類が減少し,anthraquinone類が増加した。すなわち,酒浸大黄はanthraquinone類の抗菌・抗炎症作用を増加し,これは駆瘀血作用に繋がると考えられる。これらの結果は前報の金元代以降の本草書及び医方書の記載内容と一致した。
  • 張 琦
    2010 年 61 巻 2 号 p. 138-146
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    背景:柴苓湯は小柴胡湯と五苓散の合方で,12種類の生薬で構成された漢方薬であり,免疫関連の疾病の治療で頻用される。方法:組織適合抗原完全不一致マウスの心臓移植モデルを使って,柴苓湯の移植免疫についての効果を検討した。結果:無処置および蒸留水を投与したCBAレシピエントは,C57BL/6マウスの心臓を生存中間値(MST)7日と8日で拒絶した。柴苓湯エキスを2g/kg/day投与した群では,MSTは100日以上であった。柴苓湯エキスを0.2,0.02,0.002 g/kg/dayで投与した群では,MSTはそれぞれ41日,7日,7日。小柴胡湯エキス群と五苓散エキス群と12種類の単味生薬エキス単独ではいずれも柴苓湯と同じ効果は認められなかった。混合リンパ球培養試験で,柴苓湯投与群は細胞の増殖を抑えて,IFN-γの産生も抑えた。免疫制御細胞の分析で,柴苓湯投与群のCD4陽性細胞中のCD4陽性CD25陽性FOXP3陽性細胞の比率が増加した。結論:柴苓湯は組織適合抗原完全不一致マウス移植心の生着を延長した。この結果は用量依存性であり,12種類の生薬の併用作用の可能性が高いことが示唆された。
  • 木村 容子, 清水 悟, 杵渕 彰, 稲木 一元, 佐藤 弘
    2010 年 61 巻 2 号 p. 147-153
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    緒言:大柴胡湯が有効な全身倦怠感や易疲労感の患者タイプを多変量解析により検討した。
    対象と方法:全身倦怠感や易疲労感を訴え,随証治療にて大柴胡湯を投与した患者53名を対象とした。随伴症状,体質傾向,舌所見,腹部所見,年齢,性別,身長,体重,高血圧・高脂血症・糖尿病の有無,さらに,1カ月後の胸脇苦満の改善の有無を加えた計46項目を説明変数とし,全身倦怠感や易疲労感の改善の有無を目的変数として,多次元クロス表分析により最適な説明変数とその組み合わせを検討した。
    結果:大柴胡湯によって全身倦怠感や易疲労感を改善できる患者タイプは,「発汗」,「のぼせ」,「喉のつまり感」,「胸の圧迫感」などの自覚症状を伴う人であった。特に,発汗の症状があって治療後に胸脇苦満が軽減する場合に,大柴胡湯による全身倦怠感や易疲労感の改善が最も関連する結果となった。
    考察:「喉のつまり感」や「胸の圧迫感」などの気うつが背景にあると推測された。発汗は頭を含めた上半身に多い傾向があり,また,大柴胡湯による全身倦怠感や易疲労感の改善は,初診時の胸脇苦満の部位(右,左,両方)よりもむしろ治療後に胸脇苦満の軽減を認める人に認められやすいと考えられた。
  • 新井 信, 岡部 竜吾, 大木島 さや香, 小島原 典子, 池田 郁雄, 棚田 里江, 佐藤 弘, 田代 眞一, 安井 敏之, 石井 康智
    2010 年 61 巻 2 号 p. 154-168
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は疫学調査を通して漢方医学の基礎概念を検証し,治療の客観的根拠を明示することである。方法として長野県長谷村に住む20歳以上の1,486人を対象に漢方医学に基づいた自覚症状に関する調査を行い,結果を解析した。有効回答者数は1,199人,回収率は80.7%だった。結果は性差に関しては女性で血の失調,男性で脾虚や気虚の症状が多く,年齢差を考慮すると,若年者は女性で血虚や水毒,男性で気虚,男女とも肝の失調が強く現れ,高齢者は男女とも腎虚が優勢だった。健康感に関しては,高齢者ほど健康だと感じても西洋医学的に病気を認める傾向が強かった。息切れなどの胸部症状は健康でないという自覚と強く相関し,健康感を損なう要因と考えられた。東洋医学の適応に関しては,実際に治療中の人と潜在的な適応者はいずれも約12人に1人の割合だった。今回の結果は漢方治療の臨床における客観的根拠として有用だと思われた。
  • 白土 裕之
    2010 年 61 巻 2 号 p. 169-179
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    組織適合抗原完全不一致マウスの心臓移植モデルを用いて,当帰芍薬散の同種異系臓器移植免疫に関する効果を検討した。C57BL/6マウスの心臓を無処置のCBAレシピエントの腹部に移植すると,移植片は生存中間値(MST)7日で拒絶された。当帰芍薬散を2g/kg/dayで移植後8日間連日投与すると,MSTは60日に延長した。混合白血球培養試験でアロ増殖反応性の低下と,その上清のインターフェロン‐γの産生低下がみられた。さらに,心臓移植後当帰芍薬散を投与したCBAレシピエントの脾細胞を,第二のCBAレシピエントに静脈投与し心臓移植するとMSTは100日に延長した。このことから,免疫制御細胞が誘導されたことが判明した。そして,当帰芍薬散投与により,CD4陽性細胞中のCD25陽性,FOXP3陽性細胞と,CD25陽性細胞中のFOXP3細胞が増加した。当帰芍薬散は,心臓移植片の拒絶反応を抑制し,かつ免疫制御細胞を誘導した。
臨床報告
  • 村井 政史, 田原 英一, 大田 静香, 畑野 浩幸, 岩永 淳, 矢野 博美, 中村 佳子, 犬塚 央, 三潴 忠道
    2010 年 61 巻 2 号 p. 180-184
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    大建中湯が奏効した難治性下痢症の一例を報告した。症例は60歳の女性。水様下痢が持続し,真武湯,甘草瀉心湯,四逆湯などを投与したが改善しなかった。腹痛や腹部の冷え,蠕動不穏等の典型的な大建中湯証の症候が備わっていないにもかかわらず,大建中湯に転方したところ下痢は改善した。大建中湯は便秘あるいは下痢にかかわらず,陰証虚証で,腸内に水とガスが停滞した病態に適応となる可能性がある。
  • 萬谷 直樹, 八巻 百合子, 藤井 泰志, 金子 明代, 手塚 健太郎, 喜多 敏明
    2010 年 61 巻 2 号 p. 185-188
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    2004年10月から2008年9月までに,我々の漢方クリニックを訪れた患者を連続して登録し,牛乳飲用で腹部膨満感や腹痛,下痢が生じるかどうかを調査した。全登録数3175例のうち35例(1.1%)が牛乳不耐症の症状を訴えた。その35例中20例で乳糖コーティング製剤が試みられたが,試みられた20例中13例はとくに症状が出現せず,実際に乳糖コーティング製剤で乳糖不耐症の症状が引き起こされる頻度は1%を下回るものと推測された。
  • 後藤 博三, 藤本 誠, 渡辺 哲郎, 引網 宏彰, 小尾 龍右, 野上 達也, 永田 豊, 柴原 直利, 嶋田 豊
    2010 年 61 巻 2 号 p. 189-197
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    視床痛は視床出血や視床梗塞後に伴う難治性中枢性疼痛として知られている。しかし,薬物療法や外科的治療法が試みられているが確実な治療法がない。我々は難治性の視床痛6例に漢方治療を試み,症状の軽減した4例を経験した。症例は年齢27才から70才の男性4例,女性2例であった。診断は右視床出血3例,左視床出血1例,右視床梗塞2例で,発症後から漢方治療までの期間は6カ月から12年と幅があった。改善した4例では症状がほぼ消失から4割程度減弱した。改善例は全例,烏頭・附子含有方剤が用いられていた。抑肝散加陳皮半夏が精神症状の強い2例で有効であった。また,駆瘀血剤のみで十分改善を認めた症例もあった。症状が長期にわたる症例では,有効例でも症状は残存した。さらに難治例は症状が固定しており,強い麻痺等を伴う症例であった。
  • 林 克美, 林 万里子, 津田 昌樹, 土佐 寛順
    2010 年 61 巻 2 号 p. 198-202
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    古来,鍼灸治療は,急症に対して広く応用されてきた。また近年わが国では,現代医学と漢方医学の調和が図られてきた。このような背景の中でわれわれは,結石疝痛発作に対し小野文恵の創案による鍼灸療法(接触鍼法)が奏効した2症例を経験した。
    第1例は尿管結石疝痛であった。一回の施療により疼痛は緩解し,その後漢方薬の併用にて排石に至った。第2例は総胆管結石の疝痛で食欲不振を伴っていた。同様に一回の施療により疼痛は緩解し食欲も回復したが,血液検査で胆管炎の合併を指摘され,手術となった。
    今回の症例を通して結石疝痛発作に対する接触鍼療法の有用性とともに,現代医学的評価を並行して施行することの重要性を認識した。現代医学と漢方医学の調和が重要と考えられた。
特別講演
  • 大江 和彦
    2010 年 61 巻 2 号 p. 203-212
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    国のIT戦略のひとつとして医療情報における標準化が推進されてきた。医療において病名情報は重要であり,病名情報をITにより正確に取り扱うためには,同じ病名にはただひとつの用語を割り当てるという標準化とともに,コンピュータで確実に処理できるように一つのユニークなコードを割り当て流通させる必要がある。標準病名マスターはこの目的で開発されたものである。用語の標準化は日本医学会の用語管理委員会で行われており,コードの割り当ては著者らの委員会が作業を行い,社会保険診療報酬支払基金と医療情報システム開発センターとからマスターコード表として2002年6月からリリースされている。メインテナンスは年に4回実施され,要望にもとづき追加,修正が行われており,用語総数は約22,000語,修飾語が約2,000語となっている。臨床で必要とされる病名情報には,医薬品適応症のようなレセプト請求時に必要となるものもあり,これらを網羅したマスターを作成することは技術的にも困難である。今後は,専門領域の概念の関係データベースであるオントロジーを構築し,それを活用した新しい枠組みが必要になるであろう。
教育講演
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