日本東洋医学雑誌
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59 巻, 5 号
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会頭講演
  • 荒井 啓行
    2008 年 59 巻 5 号 p. 683-697
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
    1984年から本格的に始まったアルツハイマー病(AD)研究から,ADには正常からAD発症に向って走っている長い無症候期間があることが明らかにされた。つまりADは未病性を有している疾患である。水面下の氷塊が水面上に顔を出さないようにどのような養生が必要なのだろうか?またこの氷塊はアミロイドイメージングという新技術によって可視化することも可能となった。氷塊を溶かすのに漢方薬に大きな期待がされている。抑肝散は認知症に伴なう問題行動や精神症状を有害事象の誘発なく穏やかに改善に導くばかりでなく,神経難病とされているハンチントン病の不随意運動を軽減する効果もある。
    これからの漢方医には,(1)西洋医学の何たるかと西洋医学の欠点をしっかり理解し,西洋医学サイドと協調できる,またWHOなどの海外動向をしっかり収集できるなどの多様な能力が要求されると思われ,これを「多機能型漢方医」と呼びたい。
原著
  • 假野 隆司, 土方 康世, 清水 正彦, 河田 佳代子, 日笠 久美, 後山 尚久
    2008 年 59 巻 5 号 p. 699-705
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
    妊娠12週以内の初期流産を3回以上繰り返した,ANA,抗カルジオリピン抗体(ACA IgG, IgM)陽性習慣流産87例に柴苓湯療法を行い,抗体価(量)の推移を検討した。この結果,妊娠例(49例)の流産阻止率は63.3%,ANA陽性例(32例)の流産阻止率は65.6%,ACA IgG, IgM(fetal calf serum使用ELISA法)陽性(29例)は65.5%,両抗体陽性例(12例)は75.0%であった。ANAに対しては有意な低下作用は認められなかったが,ACA IgMに対しては有意な低下作用が認められた。
    文献的に柴苓湯の有効作用はTh1/Th2サイトカインバランス調整作用による液性免疫の抑制作用によると推察された。しかし,ACAが低下しなかった二生児獲得例が存在する事実から,構成生薬の人参,茯苓による低用量アスピリン療法と同様な血小板凝集抑制作用,さらに茯苓,蒼朮,沢瀉,猪苓による利水作用なども流産を阻止に関与していると推察された。
  • ─多変量解析による検討─
    木村 容子, 清水 悟, 田中 彰, 藤井 亜砂美, 杵渕 彰, 稲木 一元, 佐藤 弘
    2008 年 59 巻 5 号 p. 707-713
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
    釣藤散が有効な頭痛の患者タイプを多変量解析により検討した。51名の頭痛患者に対して随証治療にて釣藤散を投与し,このうち1カ月間服用した46名(男性13人,女性33人,中央値48歳,範囲19-77歳,片頭痛31例,緊張型頭痛14例,混合型頭痛1例)を対象とした。随伴症状,体質傾向,舌所見,腹部所見,年齢,性別,身長,体重,高血圧の有無の計38項目を説明変数とし,頭痛改善の有無を目的変数として,多次元クロス表分析により最適な説明変数とその組み合わせを検討した。この結果,単変量解析では,重要な順に「朝の頭痛」,「めまい・ふらつき感」,「不眠」,「体重」,「耳鳴」,「舌下静脈怒張」となった。これは,「朝の頭痛」という口訣を統計学的に支持する結果となった。多変量解析では,「朝の頭痛」,「舌下静脈怒張」と「頸肩こり」の組み合わせが,釣藤散による頭痛改善を予測する最適なモデルとなった。抑肝散証では「背中の張り」を重視するのに対して,釣藤散では「頸肩こり」が頭痛改善を予測する情報として有用であったことは,両者の鑑別に役立つものと考えられた。
臨床報告
  • 犬塚 央, 貝沼 茂三郎, 山田 徹, 堀江 延和, 中村 佳子, 宮坂 史路, 木村 豪雄, 三潴 忠道
    2008 年 59 巻 5 号 p. 715-719
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
    我々は,大建中湯の「金匱要略」条文中にある「腹中寒」を,他覚的な臍を中心とした冷感として認識できるのではないかと考え,検討を行った。
    2004年12月から2006年11月までの2年間,当科において,臍中心の冷感を認め大建中湯を投与し効果判定できた90例を対象とした。症例は消化器症状を伴う群(消化器症状群)と伴わない群(非消化器症状群)に分け,各群の有効率と臍中心の冷感の変化を調べた。さらに有効例,無効例別に腹力,脈力を比較検討した。
    消化器症状群は64例で,有効率は81.3%(52/64)であった。臍中心の冷感の変化を有効例,無効例別にみると,有効例の92.3%(48/52),無効例の41.7%(5/12)に改善がみられ,有効例で臍中心の冷感が改善した症例が有意に多かった(p<0.001)。
    非消化器症状群は26例で,有効率は38.5%(10/26)であった。臍中心の冷感の変化を有効例,無効例別にみると,有効例の100%(10/10),無効例の43.8%(9/16)に改善がみられ,有効例で臍中心の冷感が改善した症例が有意に多かった(p=0.022)。
    全90例について,有効例,無効例別に腹力,脈力を比較したところ,腹力は,有効例62例中,弱39例(62.9%),中等度以上23例(37.1%),無効例28例中,弱12例(42.9%),中等度以上16例(57.1%)で,腹力と大建中湯の有効性に明らかな関係はみられなかった(p=0.076)。脈力は,有効例62例中,弱34例(54.8%),中等度以上28例(45.2%),無効例28例中,弱11例(40.7%),中等度以上16例(59.3%)で,脈力と大建中湯の有効性に明らかな関係はみられなかった(p=0.221)。また,有効例のうち,腹力,脈力とも中等度以上の症例が13例あった。
    以上より,消化器症状を訴える症例において,臍中心の冷感は大建中湯を使用する有用な目標になり得ると考えた。また,消化器症状がなくても臍中心の冷感のみを目標に大建中湯を投与することにより,消化器症状以外の症状を改善させることも可能と思われた。さらに,臍中心の冷感は,見出し難い大建中湯証を判別する手がかりになり得ると考えられた。
  • 西森(佐藤) 婦美子, 松川 義純, 松田 康平, 木田 正博, 斉藤 輝夫, 藤原 久義
    2008 年 59 巻 5 号 p. 721-726
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
    小半夏加茯苓湯の方意を含む漢方薬治療で症状の著明改善が図れたパニック障害の3例を経験した。症例1:47歳男性,運転士,血圧上昇を伴う一過性脳虚血発作を引き金に発症。身体疾患の発症がストレスを増強させ心下の気水が鬱して痰熱となりパニック発作になったと考えられる。小半夏加茯苓湯に黄連湯の方意をあわせて症状は消失した。症例2:49歳女性,主婦,家庭内のストレスをきっかけに発症。肝血不足,疎泄不良と脾虚が重なり心下の飲を起こしたと考え,小半夏加茯苓湯を含む茯苓飲合半夏厚朴湯エキスに加味逍遙散エキスを合わせて奏効した。症例3:32歳女性,主婦,子育ての疲労をきっかけに発症。疲れによって脾虚から心下の飲がおこるとともに血虚に陥ったと考え,小半夏加茯苓湯と十全大補湯合方を用い奏効した。『金匱要略』の方剤小半夏加茯苓湯は,中焦の飲と気の上逆を引き降ろすことで「心下痞」「眩悸,」を全例で改善し,症例毎に随証治療をあわせおこなうことでパニック発作が消失した。
  • 地野 充時, 関矢 信康, 大野 賢二, 平崎 能郎, 林 克美, 笠原 裕司, 喜多 敏明, 並木 隆雄, 寺澤 捷年
    2008 年 59 巻 5 号 p. 727-731
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
    慢性骨髄性白血病の治療においては,BCR/ABLチロシンキナーゼ阻害剤であるメシル酸イマチニブが第一選択薬として用いられている。同剤の副作用として,血液毒性,肝障害,浮腫・体液貯留,消化器症状,皮膚症状などが知られている。今回,副作用の一つである下痢に対し,半夏瀉心湯が有効であった症例を経験した。症例は61歳女性。2004年4月,慢性骨髄性白血病と診断。メシル酸イマチニブによる治療により同年10月には寛解し,その後,メシル酸イマチニブ400mgを服用していた。治療開始後,1日4-5回の下痢が続いているため,2005年6月当科初診。半夏瀉心湯服用により4週間後には,1日2回の軟便となり,8週間後には普通便となった。メシル酸イマチニブは,慢性骨髄性白血病寛解維持のために継続的に服用することが望ましいとされている薬剤である。漢方薬を併用することで治療が継続可能となったことは,東西医学の融合という観点からも意義深いと考えられる。
  • 星野 綾美, 巽 武司, 佐藤 浩子, 奥 裕子, 伊藤 克彦, 田村 遵一, 小暮 敏明
    2008 年 59 巻 5 号 p. 733-737
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは漿液性膝関節炎と乾性咳嗽に対し越婢加朮湯が奏効した一例を経験したので報告する。症例は37歳,男性。特記すべき既往歴なし。主訴は右膝関節腫張と乾性咳嗽。X年10月頃から特に誘引なく右膝の疼痛と腫張が出現し,同年10月当院整形外科を受診。関節穿刺にて多量の漿液性の関節液が排液された。血清CRP3.4mg/dl,赤沈76mm/hの炎症所見を認めたが,身体所見,検査所見から関節リウマチは否定的で,膝関節造影MRI検査上,色素性絨毛結節性滑膜炎を示唆する所見も認められず確定診断は困難とされた。NSAIDs内服加療にも関わらず膝関節腫張が遷延したことに加えて,同年12月末の感冒罹患を契機に,寒冷刺激で出現する乾性咳嗽を自覚するようになったため,X+1年1月当院総合診療部を受診した。診察所見や胸部レントゲン上明らかな異常を認めず,感冒後の気道過敏が考えられた。膝関節腫張と咳嗽に対し,和漢診療を希望されたため,同日から越婢加朮湯7.5g/日を投与した。内服1カ月後には膝関節腫張は消失,咳嗽はほとんど自覚しない程度に改善し,CRP陰性となり,内服3カ月で投薬中止となった。西洋医学的には原因不明の漿液性関節炎であったが,和漢診療学的には陽実証の水滞と考えられ,越婢加朮湯証が奏効した。
東洋医学の広場
  • ─証の画像表現分析─
    無敵 剛介, 下津浦 康裕
    2008 年 59 巻 5 号 p. 739-744
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/30
    ジャーナル フリー
    <目的>証の客観的評価を目的として,筆者らは正経12経脈の電気抵抗値を正確に測定する新たな方法を開発したので報告する。
    <方法>外来患者259名を対象にして,筆者らによる三点方式電気抵抗値計測装置を用いて経脈電気抵抗値(Rm)を測定した。ついで高Rm値を呈した経脈の検討,Rmと年齢との相関,東洋医学的病態における検討を行った。
    <結果>
    1)Rm値300kΩ以上の高値を呈した経脈は,50歳未満では女の胆経のみであったが,50歳以上の女では胆経,肝経,胃経,脾経,心経,膀胱経,腎経で,さらに男では肺経,女子では小腸経が含まれた。
    2)Rm値と年齢との間に相関を認めた経脈は,男では,50歳未満の肺経,大腸経,小腸経だけであった。女では50歳未満の胃経,脾経,心経,膀胱経,および50歳以上の胃経であった。
    3)東洋医学的病態別に,Rm値と年齢に相関を認めた経脈は気虚症例が男0経,女10経と多く,血虚症例では男4経,女2経と少なかったが,お血症例では男8経,女2経であった。
    <考察および結語>Rm値の東洋医学的意義は「血」より「気」の病態を反映していることが推測された。
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