日本東洋医学雑誌
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69 巻, 3 号
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臨床報告
  • —身体の動き,心理的気分,自律神経活動への影響—
    元山 宏宇, 磯貝 浩久, 向野 義人
    2018 年 69 巻 3 号 p. 225-238
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/27
    ジャーナル フリー

    仰臥位,椅子座位,騎乗姿勢における鍼治療の効果を身体の動き,心理的評価ならびに自律神経活動の面から検討した。
    左右 SLR と頚部・肩の動きに痛み・つっぱり感を有する大学生29名をランダムに仰臥位,椅子座位,騎乗姿勢に割り付け,両下肢4つの経穴に円皮鍼を貼付した。測定方法として M-Test の評価,二次元気分尺度,そして心拍変動解析を行った。実験前の3群間ベースラインに差はなく,3群姿勢間全ての SLR,股関節屈曲(膝屈曲位),頚部・肩の動きの改善と二次元気分尺度の快適度が治療後有意に増加された。また,3群姿勢間全ての HF(副交感神経活動指標)も治療後有意な増加を得たが,LF/HF ratio は変化がなかった。
    M-Test 方法による円皮鍼刺激によって,3群姿勢の身体の動き,快適度と副交感神経活動の増加が得られたが,3 群姿勢間による鍼治療の効果に違いは見られなかった。

  • 坪 敏仁, 宇仁田 明奈, 古田 大河, 鈴木 雅雄, 上野 孝治, 鈴木 朋子, 秋葉 秀一郎, 佐橋 佳郎, 小宮 ひろみ, 山口 哲生 ...
    2018 年 69 巻 3 号 p. 239-245
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/27
    ジャーナル フリー

    関節痛・倦怠感を主訴とするサルコイドーシス患者に烏頭剤を用い,症状の軽減.を認めたので報告する。症例は48歳男性。X-16年 全身倦怠感,関節痛,発熱が出現。X-15年 サルコイドーシスの確定診断。X-4年 両膝関節痛憎悪しオピオイド療法開始。X 年10月漢方内科受診。X 年11月漢方内科入院となった。
    入院後,証に従い,烏頭剤として烏頭湯,大烏頭煎,赤丸料および烏頭桂枝湯を使用した。烏頭使用量は最大計41g/日と大量を要した。最終処方は赤丸料(烏頭24g)と附子粳米湯(烏頭14g)であった。Visual analog scale (VAS:0-10cm)は入院時7—8から退院時3と改善し,オピオイドの減量が可能であった。疼痛・倦怠感を主訴とするサルコイドーシス患者に烏頭剤投与は症状軽減・オピオイド減量に有効であった。

  • 武原 弘典, 松川 義純, 田中 裕, 山本 修平, 堀谷 亮介, 西森(佐藤) 婦美子
    2018 年 69 巻 3 号 p. 246-251
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/27
    ジャーナル フリー

    発達障害に合併する睡眠障害に対して漢方治療が有効であった2例を報告する。症例1はアスペルガー障害の15歳女子で,主訴は起床困難,入眠困難,易疲労性であった。陰血不足で肝気の昂りが抑えられず,緊張興奮状態に陥り易く上記症状が生じると考えた。抑肝散に甘麦大棗湯を併用し,起床困難は改善し毎日通学できるようになった。症例2は注意欠如多動性障害の17歳男子で,起床困難や倦怠感,易疲労性が主訴でしばしば緊張興奮状態となった。小建中湯内服で症状はやや改善傾向があったが,肝気を巡らす四逆散を併用後は毎日通学できるようになった。漢方医学では睡眠も含め精神の安定には血が重要であり,また幼少期は気血の不足がおこりやすいと捉えており,発達障害における二次障害の治療に際し補陰血に着目することが有用であると考えた。

  • 高橋 浩子, 日笠 久美, 鎌田 周作, 鎌田 ゆかり
    2018 年 69 巻 3 号 p. 252-261
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/27
    ジャーナル フリー

    不妊専門クリニックと患者情報を共有しながら,不妊患者に多い腎虚や瘀血の病態を考慮し,体外受精・顕微授精の採卵までは卵子の成熟を促し瘀血を改善する目的で補腎陰陽の八味地黄丸と駆瘀血作用の桂枝茯苓丸,採卵後移植までは,子宮内膜安定化の目的で温経・補血・駆瘀血の温経湯単独か桂枝茯苓丸を併用,移植後は安胎作用の当帰芍薬散を投与した20例を報告する。なお投与量については個々の状態に応じて調整した。20例中14例が妊娠反応陽性,うち10例が妊娠継続,4例は流産等。アンチミュラー管ホルモン値,子宮内膜厚,予測卵胞数,回収卵子数,受精卵数,初期胚到達数,胚盤胞到達数を,妊娠継続群と非妊娠群で比較したところ,子宮内膜厚以外で漢方併用後の数値の改善がみられ,回収卵子数と受精卵数で有意差を認めた。補助的な治療として,体外受精の段階にあわせた漢方薬は有効である可能性が示唆された。

  • 寺澤 捷年, 小林 亨, 八木 明男, 隅越 誠, 地野 充時
    2018 年 69 巻 3 号 p. 262-265
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/27
    ジャーナル フリー

    筆者らは脳下垂体腫瘍摘出後に通常の十分なホルモン補充療法が行われていたにも拘わらず,強い倦怠感を訴えた一症例を経験した。ここで用いた茯苓四逆湯の薬理学的効果は未解明であるが,この方剤は感染症末期の極度の疲弊状態に用いられて来た方剤である。古典の記述はこの方剤が生体の核温を維持する代謝賦活効果を示唆している。著者らは,脳下垂体腫瘍術後の病態に漢方による解決法がもう一つの選択肢として有望であることを提案した。

  • 石毛 達也, 及川 哲郎, 若杉 安希乃, 関根 麻理子, 小田口 浩, 花輪 壽彦
    2018 年 69 巻 3 号 p. 266-274
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/27
    ジャーナル フリー

    今回われわれは,西洋薬による治療で難治の高齢者メニエール病に対し,漢方治療が有用であった3症例を経験したので報告する。症例1は75歳女性で4度目のメニエール病の発作の際に,イソソルビドなどで加療したが難聴とめまいは改善せず,八味地黄丸エキスを投与したところ,聴力は改善し23ヵ月間発作は抑制された。症例2は78 歳男性で,両側メニエール病として,イソソルビドなど西洋薬で加療をしていた。X 年10月に左耳難聴が増悪したため,八味地黄丸エキスを投与すると聴力と眼振所見は改善し,9ヵ月間にわたり発作が抑制された。症例3は70歳男性で,左メニエール病の診断にてイソソルビドなどで加療したが,めまい発作を反復した。真武湯エキスを投与するとめまいや眼振は消失し,8ヵ月間,発作が抑制された。3症例の経験から,西洋薬で難治の高齢者メニエール病に漢方治療が有用なことがあり,治療選択肢の一つとして考慮すべきと考える。

  • 玉野 雅裕, 加藤 士郎, 岡村 麻子, 星野 朝文, 高橋 晶
    2018 年 69 巻 3 号 p. 275-280
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/27
    ジャーナル フリー

    高齢の慢性心不全患者は増加しており,感染の合併などで高率に急性増悪を来し,フロセミド静脈注射,トルバプタン内服治療が行われている。しかし,一定の頻度で難治性患者(フロセミドやトルバプタンに対するノンレスポンダー)が存在し,臨床上問題になっている。今回我々は,難治性の心不全に五苓散が著効した2症例を経験した。五苓散投与により2症例とも尿量が増加し,症状,理学所見,各種の検査所見は著明に改善した。さらに退院後,これらの薬剤は継続投与され,心不全の増悪による再入院は約1年間にわたって回避された。この結果は,五苓散の臓器,組織の水の偏在を正常化する作用,および腎集合管におけるトルバプタンの作用を再活性化させた可能性が考えられ,今後,慢性のうっ血性心不全に対する五苓散併用の有用性が示唆された。

  • 小池 宙, 堀場 裕子, 渡辺 賢治
    2018 年 69 巻 3 号 p. 281-286
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/27
    ジャーナル フリー

    [緒言]芎帰調血飲は『万病回春』に記載された産後一切の諸病に対して有効とされる方剤である。今回,流産後に出現し3年間持続していた全般性不安障害に対して芎帰調血飲が有効だった症例を経験したので報告する。[症例]39歳女性。生来明るい性格だったが36歳流産後より全般性不安障害を発症し人混みに留まることができなくなった。その後も不安が持続していたため漢方外来を受診した。[経過]抑肝散加陳皮半夏を約半年間内服するも症状持続したため芎帰調血飲に変更した後,精神状態が安定し日常生活の苦痛が大幅に軽減した。[考察]芎帰調血飲は『万病回春』に産後の治療薬の第一の方剤として挙げられ様々な加減での使用方法が記載されている。今回は流産以降3年間持続していた精神症状であったが芎帰調血飲に良好な反応を示した。産後に出現した症状の治療には芎帰調血飲も選択肢の一つとして検討するべきと考えられた。

  • 青木 ゆかり, 及川 哲郎, 小田口 浩, 花輪 壽彦
    2018 年 69 巻 3 号 p. 287-290
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/27
    ジャーナル フリー

    提肛散は補中益気湯の加減方であり,補中益気湯から大棗,生姜を除き,川芎,黄芩,黄連,白芷,赤石脂を加えたものである。本方は,補中益気湯より痛みの強い脱肛に用いるとされるが,これまでに臨床報告は少ない。今回我々は肛門痛を伴う内痔核脱肛に対して提肛散が有効であった1例を経験した。症例は47歳女性で主訴は内痔核の痛みを伴う脱肛である。補中益気湯も考慮されたが肛門痛が強かったため,特に鎮痛消炎作用を強めるために白芷,黄芩,黄連を含む提肛散料を処方したところ,肛門痛や痔核,脱肛などの症状改善が認められた。提肛散は,脱肛の中でも肛門痛あるいは炎症が強い場合,検討されるべき処方の一つと考えられる。

  • 田中 秀則
    2018 年 69 巻 3 号 p. 291-294
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/27
    ジャーナル フリー

    (目的)
    妊婦は,インフルエンザ患者と濃厚接触した場合には,抗インフルエンザ薬の予防投与が勧められているが,服用を避けたい妊婦も存在する。本研究では,妊婦が,インフルエンザに罹患した家族に,濃厚接触した場合,葛根湯内服で,発症を予防できるか否かについて,調べることを目的とした。
    (方法)
    対象は,家族がインフルエンザに罹患した5症例である。投与時,妊娠週数は,A:妊娠5週,B:7週,C:8週,D:11週,および,E:31週であった。患者の同意を得て,葛根湯エキス7.5g,5日間を投与した。
    (結果)
    B,C,D,E 症例では,発熱症状などは,認められなかった。A 症例は,投与後3週間後に発熱を認めたが,インフルエンザ検査では,陰性であった。すべての症例で,妊娠経過,および,新生児に異常は認められなかった。
    (結論)
    葛根湯の内服によりインフルエンザの発症抑制が示唆された。

  • 河尻 澄宏, 木村 容子, 伊藤 隆
    2018 年 69 巻 3 号 p. 295-299
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/27
    ジャーナル フリー

    <緒言>胃食道逆流症(GERD)は胃食道症状に加え,咽喉頭違和感などの食道外症状を起こすことがある。今回,GERD による咽喉頭違和感に対し,清熱補血湯が有効であった症例について報告する。<症例>72歳女性。X年2月に咽喉頭のヒリヒリ感が出現し,耳鼻咽喉科では異常を指摘されず,上部消化管内視鏡検査で逆流性食道炎を認め,ラベプラゾールで症状の改善を認めた。同年9月に再燃し,11月に当院受診。皮膚・目の乾燥症状,浅い眠り,足の冷え等の血虚に伴う症状を多く認めたため,清熱補血湯を処方した。ヒリヒリ感は速やかに改善し,2ヵ月で消失した。また,皮膚や目の乾燥症状および不眠も改善した。<考察>清熱補血湯は血虚,燥熱による口舌の潰瘍・びらんなど口腔局所の炎症を治す方剤として理解されてきた。しかし,今回の症例を通じて,本方剤の作用が口腔局所だけでなく GERD による咽喉頭症状にも及んでいる可能性が示唆された。

  • 糸賀 知子, 千葉 浩輝, 高橋 浩子, 奈良 和彦, 田中 耕一郎
    2018 年 69 巻 3 号 p. 300-304
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/02/27
    ジャーナル フリー

    ART(Assisted Reproductive Technology)が日々進歩しているも,残念ながら妊娠に至らない症例も散見される。不妊症患者は多くのストレスを抱えており,ストレスケアの重要性が報告されている。そこで漢方方剤とタイミング指導で妊娠に至った7症例について診療録から,職業,月経歴,妊娠歴,月経前症状,東洋医学的診察所見を抽出して検討を行った。臨床背景は年齢36歳[29-39],妊娠までの期間は6ヵ月[2-9]であり,転帰は正常経腟分娩3例,帝王切開術2例,流産1例,転院1例であった。東洋医学的病態は肝気鬱結のみ2例,腎虚併存3例,瘀血併存1例,瘀血と気血両虚併存が1例であった。使用方剤は,女神散加方2例,加味逍遥散加方2例,通導散1例,四逆散1例,芎帰調血飲1例であった。今回の検討から,不妊症の病態に肝気鬱結の関与は高く,処方選択において重要な因子であると考えた。

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